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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第二章 魔王の国
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第四十四話


 町に入れば、思った以上の惨状になっていた。


 大型の魔物化した動物が激突して壊れた建物、あちこちで火の手まで上がっている。何より、魔落ちした人間が方々にいてまるでゾンビのように徘徊していた。


「……魔落ちした人は、助けられませんか?」

「浅ければ。ですが、あれはもう無理でしょう。土に返してやるのが救いです」


 真っ黒に染まり黒いモヤを吐き半分溶けたような、かろうじて人の形をしたものがこちらに気がついて向かってきた。


「アレらは私に任せて、タケユキ殿は生存者の救出を」

「……はい」


 情けない。覚悟を決めていたのに、人の形をしているだけで尻込みしてしまった。ここは適材適所でアスノンさんに任せよう。俺は生存者の気配を探る。

 幸いと言ってはなんだけど、完全に魔に落ちた者は人の気配がせず、魔力の塊にしか感じられなかった。

 町を移動しつつ、魔物を屠り、生存者を探す。


「いました!」


 ある家の閉ざされた扉を指差す。扉の前には動物の魔物が体当たりをしていたので、放り投げるように浮かせて落として潰した。

 そして扉を叩く。


「誰かいますね!? 助けに来ました!」

「たっ、助け!?」


 慌てたように誰かがドアに飛びついた。開けたのは小学生くらいの女の子だった。奥に座り込んで咳き込んでいる女性がいる。あの坑夫の家族かな? けど、聞いた話ではもう少し先だったような気がする。それに、家の中には数人の人がいた。


「アスノンさん、こっちへ!」


 魔落ちした人間だったものを屠ってくれていたアスノンさんが、タッと大股でこちらへ来た。そのまま二人で押し入るように家に入り扉を閉める。


「これは……」

「たっ、助けって、あんたたちだけか!? 軍隊が来たんじゃないのか!?」


 アスノンさんと中の人数を見回していたら、男が一人声を上げた。あちこちケガをしていていて痛々しい。他は坑夫の家族を含めて女性二人、子供が三人。この人がここにいる人たちを守っていたのかな。


「アスノンさん、とりあえず子供から向こうへ送ります」

「え、ああ──」


 喚いた男を無視して、まずは坑夫の娘らしい子供の肩に手をやり、転移。


「キャーーーっ ケイト‼」


 子供が目の前で消えて、半狂乱になった奥さんが詰め寄ってきた。


「うるさいです。面倒なので先に送ります」


 掴みかかった手を掴み返し、転移。

 残った人たちが絶叫しながら壁際に逃げる。


「心配しなくてもご亭主のところへ送っただけです。次はあなたたちの番です」

「タケユキ殿、それでは死者の常世へ送ったようにしか聞こえません」


 死者の常世ってなんだろう。なんか聞いたことあるような気がするけど、まあいいや。

 遠見で確認したら、向こうでちゃんと旦那さんと会えたようだ。


「あー、この方はカトリーネ殿下の依頼でこの町の住人を助けに参られた。最上位の神術士で転移した者たちは皆、白の離宮に避難させている」


 あれ? なんで神術士?

 そういえば異世界の超能力者っていうのは皇帝兄弟にしか言ってなかったっけ。面倒だし、今はそれでいいや。


「忙しいのでさっさと送ります」


 ずかずかと壁に向かい、子供を掴んでは跳ばし掴んでは跳ばし。


「や、やめ──」


 ケガしたおっさんを跳ばして、最後におばさんも跳ばした。息が切れた。


「少し手荒では……タケユキ殿!?」

「だいじょうぶです」


 ちょっと目眩がしてしまった。

 単独テレポートはあまりやったことなかったけど、立て続けだとかなりきついかも。泣き言言ってもいられないけど。


「次へ行きましょう。少し向こうに気配があります」

「……承知」


 外へ出るとまた魔物。小さく数が纏まっているものは俺が、単独の大物や人の形をしているものはアスノンさんが、それぞれ倒しつつ次に着いた家でも似たような感じだったので似たような感じで白の離宮へ跳ばした。

 残っているのはほとんど老人と小さい子供を抱えた母親、病人ケガ人。目の前で人が消えると襲ってきたり逃げようとするのでなかなか手間取る。


「はあ、はあ……」

「タケユキ殿、少し休まれては?」

「そんな暇、ありますか?」

「リドルカ殿下の方はどうなっておりますか?」

「リドルカさん……」


 たった今、家主を跳ばして無人になった家の中。ひとつ息をついて遠見をする。


「化物が、小さくなってます。半分ぐらい……」

「おお!」


 リドルカさんは戦法を変えていた。

 化物のどてっぱらを狙うのではなく、端から確実に潰してるみたいだ。端をつぶせばまだ取り込まれ切っていない魔物が逃げ出す。それが散らばらないうちに、山を越えていかないうちに確実に潰している。

 そうやって、巨大な姿を維持できなくして隠されている紫の石をさらけ出そうとしているのか。

 すごいよリドルカさん。パレアーナさんが大雑把とか言ってたけど、そんなことないよ。

 

「魔物が、これ以上山を超えてくることはなさそうです」

「では、今町に入り込むものを片付ければ良いだけですな」

「……まだ、いっぱいいそうですが」

「増えないのでしたらやりようはあります。住民も閉じこもっている者はそのまま隠れていた方が良いのでは」

「じゃあ、待ってるだけで死にそうな人から助けましょう」


 ケガ人とか病人とか、子供とか老人とか……


「それでは変わらない──」

「行きますよ」


 立ち上がり、外へ出る。

 高く飛ぶと落ちたとき困るので低空飛行。走るよりは楽だけど、それすらキツくなってきた。


 ばーちゃんが言っていた。

 うちの血筋に伝わってい力は、使ったところで枯渇することはないらしい。生まれ持った一定量の力は常に満たされているけれど、扱うにはそれなりに体力がいる。俺は子供の頃から体調を崩しやすかったからとにかく体力をつけろと鍛えられた。けど、なかなかうまく育てなかった。

 そろそろその体力の方が尽きてしまいそうになっている。

 昨日はちゃんと寝たのにな。

 その前に雨に濡れてぶっ倒れたのが不味かったか。

 力を使うのも立て続けだし。

 遠見も気配感知も念動力も、ずーっと小走りに走り回っているのと同じ感じに疲れていく。他人を単独でテレポートさせるのは短距離全力疾走な感じかも。少しずつなら、体調が万全なら、もう少しマシだったかな。

 

 まあいいや。全部終わったら休ませてもらおう。

 家や物陰に隠れていた人たちを見つけ出しては白の離宮へ放り込んだ。後になるほど手間のかかる人になってくるのはなんでだろう。


「助けがあんたらだけだと!? 国は何をしている‼」


 来ただけでもありがたがってよ。とりあえず跳ばす。


「いやいやいやっ! 怖い! 助けてー!」


 助けに来てるんですよ。錯乱してても暴れないで。はい跳んで。


「わしらはこの町で死ぬよ」


 死なないで。ぽいっ、ぽいっ


「これも魔王の仕業だろ! 皇帝なんか変わったところで俺たちは──」


 ぽいっぽいっぽいっぽいっ

 家族ごと送ってやったのにまだ文句あるならパレアーナさんに殴られろ。


 はあ……俺はもう、殴る元気すらないよ。


「タケユキ殿!? タケユキ殿! しっかりなされい‼」


 とうとう倒れた。

 意識があるだけマシかもしれない。

 アスノンさんが助け起こしてくれた。アスノンさんが来てくれていてよかった。ありがとうパレアーナさん。


「外の魔物もずいぶん減りましたぞ。リドルカ殿下は──いえ、あなたはもう休まれよ」


 リドルカさん。

 あと一度、遠見をするくらいならできるかな。


「あ、すごい……リドルカさん、化物を倒しました」

「なっ!? おお、殿下……」


 アスノンさんがギュッと俺の手を握って打ち震えている。

 

 リドルカさんも満身創痍だ。傷だらけで、髪留めが取れて長い髪がバサバサになってる。ふふ……それでもかっこいいよ。リドルカさん。

 あたり一面、真っ黒な泥だまり。その真ん中に紫の大きな石だけがあった。雲が徐々に晴れて青い空が現れる。日の下で、片膝をついて息を整えようとするように手を胸に当てて休息するリドルカさん。

 あの石はどうするんだろう。後で調べるのかな?

 そう思って紫の石を見ていたら──石の真ん中がキラリと光った。


「危ない! リドルカさん‼」

「タケ──!?」


 跳ぶのは一瞬。


 何かが胸に当たった気がした。

 目の前にある紫の石から出た何かの力がリドルカさんを貫こうとしたけど、間に入った俺には無害だった。紫色の光の残滓がキラキラと散っていく。

 その時、声が聞こえた。


『なんだこいつは!? あと少しで魔王石を手にできたものを──』


 魔王石?

 声は紫の石から発せられた気がしたが、確かめる前にリドルカさんが紫の石を粉々にしていた。

 俺はいつの間にかリドルカさんに抱えらている。


「なぜ、いる!?」


 端的過ぎる問いかけに、答えようとしたら喉が引きつるように痛んだ。


「うっ……カハッ」


 苦しい。

 じわじわ全身が痺れ出し、びきりびきりと痛みはじめる。限界を超えてまったのか、動けない。痛い、苦しい──


「タケユキ‼」


 わぁ、リドルカさんが初めて名前を呼んでくれたよ。最後に聞こえた音がそれならいいな。

 耳鳴りが酷くてそれ以上は聞こえなくなってしまったよ。


 ばーちゃん、苦しいよ。


 でもね……初めて好きになった人を……守れたよ


 ばーちゃんもこんな気持ち、知ってた?


 うれし……ね…………



 体中痛いのに、抱きしめられた暖かさだけは感じられて、幸せだった。


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