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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第二章 魔王の国
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第四十三話


 山の絶壁沿いに町へ向かえば、何人かの町の人が魔物に追われながら走ってきた。道なりに子供を抱えた家族、町から野原を近道して来た老人を背負った男。

 

「群れていなければ、私でも倒せます」


 地上に降りた途端、アスノンさんは飛ぶように走り子連れを追ってきた真っ黒な牛の魔物に斬りかかった。袖の下に隠していたクナイのようなナイフを取り出し、両手に持って牛の首を二重に切り裂く。そして即座に飛び退きサイドから蹴りを入れた。

 倒れた牛は泡を吹いて生きたえ、どろりと溶け始める。

 なるほど、魔落ちしてても普通に殺せば死ぬのか。

 老人と男を追ってきた数十匹の大きいネズミ。それを高く高く浮かせ、高速で地面に落として潰した。数があって広範囲にいる敵は圧をかけるよりこの方が楽だ。

 潰れた魔物もまたすぐに溶けてデロデロの液状になる。


「タケユキ殿は……過激ですな」

「そうですか? 狩の獲物じゃないので簡単に済ませただけです。アスノンさんはカッコ良かったですよ」


 ほぉ、とひと息をついた途端。空に青い稲光が無数に走り、即座に地響きがするほどの雷轟が響く。


「ひゃあっ」

「わぁぁ」


 頭を抱えてうずくまる町の人。

 俺とアスノンさんは空を見上げた。

 山の向こうからじわじわ真っ黒な雲が空を這うように迫ってきた。続け様に雷がバチバチ光っている。


「リドルカさん……」


 遠見で山の向こうを見る。

 空中で化物を見下ろし、肩で息をするリドルカさんの背が見えた。目線の先には穴だらけになった黒い塊。雷を落として崩したのかな? 黒い塊の中心に紫色の特大の石が見えた。


「紫? 紫の石って、あるんですか?」

「なんと?」


 突然そんなこと聞いたので、アスノンさんが戸惑ってる。


「化物の真ん中に大人三人分くらいの大きな石があるんです。魔石なら黒だし、神石なら白いし……」

「まさか、山の向こうが見えているのですか!?」


 問いの答えではなく別の問いで返された。

 とりあえず見たままを伝える。


「リドルカさんが化物の腹に穴を開けました。さっきの雷轟がそうでしょう」

「おお!」

「でもまだまだっぽいです。あの塊は魔物を集めて固めたようなものみたいで、ドロドロになった魔物がうじゃうじゃ集まってきて紫の石を隠そうとしています」


 リドルカさんがそうはさせまいと青い雷を纏わせた剣を振るった。けれど、飛びかかってきた形の崩れかけた動物が次々体当たりしてきて邪魔をする。やっぱりあれが弱点なのか?


 リドルカさん! 頑張って‼


 そう祈った瞬間、リドルカさんが目だけでこっちを見た気がした。


「タケユキ殿!」

 

 名を呼ばれて、意識を戻せば近くまで魔物が来ているのが見えた。


「お前たちは離宮へ急げ! 白の離宮なら魔力の影響を防げる! 早くしろ‼」

「ひっ、はっ、はい!」


 アスノンさんの怒号にひゃっとなった町人たちは、慌てて離宮に向かって走りはじめた。アスノンさんが特攻してくる単独の魔物を屠り、俺は群れになって来る魔物を潰す。町にはまだまだいるようだ。


「町へ急ぎましょう」

「はい」


 リドルカさんもきっと町が気になるんだろうね。

 神属関係者が仕掛けて来たロクでもない企みを防ぐには、民に出来る限り死傷者を出しちゃいけないんだ。


 俺は、リドルカさんが魔王と呼ばれないために戦おう。


 道々、魔物を見つけては屠り、逃げて来る人々を白の離宮へ誘導する。

 

「なんでもっと早く、魔物が出た時点で逃げなかったんだ!」


 逃げ遅れた人が多くて、苛立ち焦る。

 暗雲はまだ山の上に漂っていて雷轟は響き続ける。


「鉱山内で魔物化することは想定していても、外からの襲来など想定していません。それに、採掘に従事している者は坑道にいて外の様子に気がつくのが遅れますし、その家族は父や夫を案じてその帰りを待つでしょう」


 そうなのか。

 そういえば緊急時に落ち着いて動くのは難しいからと、村でもたまに避難訓練や講習会をやってたっけ。なんの準備もなしじゃ戸惑って初動が遅れても仕方ないのか。


「けど、それじゃあまだまだ町に残っている人がいるんでしょうか」

「まずは鉱山事務所へ行ってみましょう」


 離宮から道なりにまっすぐ行けば、鉱山へ向かう分かれ道に出る。

 鉱山側に向かうと、そこにも大きな石造りの塀があった。けれど、塀を駆け上がれるネズミや猫の魔物はそれを登って中へ入っていくし、鳥の魔物もいる。塀の中からはいくつもの叫び声が聞こえた。ほとんどが悲鳴だ。

 俺は目に見える魔物たちを浮かしては潰し、浮かしては潰す。

 そうして、アスノンさんと一緒に塀を飛び越え中に入った。

 一瞬悲鳴が上がったが、黒い鎧の騎士がそれを制した。


「あなたは、パレアーナ殿下の侍従長!?」


 おお、アスノンさんを知ってる人がいた。


「状況を報告せよ!」

「はっ!」


 騎士は即座に敬礼し、アスノンさんに報告を始める。

 ここにいるのは坑夫と迎えに来た、あるいは逃げ込んで来たその家族。腕に自信のある者は魔物と戦い、戦えない者は事務所内にいるそうだ。けれど、魔物の魔力に当てられ負傷した者もそちらで鉱山専属の神術士の治療を受けているらしい。戦力はどんどん減って、とても厳しい状態になっていたそうだ。


「ここは安全じゃないんですね」

「やはり、白の離宮へ行く方がいいだろう」

「そうですね。塀の向こうの魔物を一掃します。次が来る前にここを出て白の離宮に向かってもらいましょう」


 騎士もいるし、強そうな坑夫もまだ何人もいる。ここでジリ貧になる前に向かってもらう方がまだ生き残れるだろう。そう思った時、坑夫の一人が叫んだ。


「待ってくれ! 俺の家族がまだ町にいるんだ‼」


 俺も私もと、他にも数人手を上げる。


「すでに白の離宮に向かった者も多い、そちらで合流できるだろう」

「家内は病気で寝込んでるんだ! 娘だけじゃ一緒に逃げられん‼」

「あなたの家はどのあたりですか?」

「タケユキ殿!?」

「俺が行きます。その前に、あなたなら元気そうなので跳ばします。パレアーナさんに伝言を伝えてください。他の人は走って下さい」

「は?」


 ここにいる人たちは、少なくともここま逃げて来ているし、怪我をした人も治療されているなら頑張って走れるだろう。走ってくれ。家族の安否がわからない人から、ざっと家の位置を聞いてから最初の坑夫に向き直る。


「少し高い位置に跳ばしますからうまく着地してください。町で見つけた動けない人も同じように飛ばしますので、広い場所を開けておいてくれるよう伝えてください。行きますよ」


 そう言って、坑夫の肩に手を当て──単独テレポート!

 すぐさま遠見で確認。

 離宮の門の内側、人に当たらないよう3メートルくらいの高さに転移させた坑夫は、びっくり顔のまま落ちた。着地は失敗していたが元気そうだ。下に何人かいたけど避けてくれた。パレアーナさんが駆け寄ってくる。


「……これなら、行けそうかな」

「タ、タケユキ殿、何をされた?」

「離宮に送りました。俺が一緒に飛ばない単独転移は集中力がいって疲れるんですが一緒に行って戻るより手間がかからないんです」


 アスノンさんは自身もテレポートでここまで来たので「ああ」と納得してくれたけど、他の人は突然目の前にいた男が消えたことに青ざめている。

 離宮で合流したらわかるんだから放っておこう。いちいち説明している暇はない。

 外の様子に意識をやる。

 

「アスノンさんが命じてください。扉を開けたら離宮目指して走るように」

「……承知」


 アスノンさんがうなづいてくれたので、俺は飛び上がって塀の外へ出る。

 着地した時、少し体が揺らいだ。

 まだまだ頑張らなきゃいけないのに、ふらついてる場合じゃない。足を踏ん張って周囲を見る。近場の魔物はみんな潰したけど、町の方からまだまだ溢れ出てくる魔物がいる。

 俺は大きく息をつくと、見える範囲の魔物をまとめて浮かした。ああ、間違って石とか低木も持ち上げてしまっているけどまあいいか。全部落として潰してやると、すぐに門をバンっと開けた。もちろん超能力で。


「走れ‼」


 アスノンさんの命令に、騎士が武器を構えたまま走り出て坑夫とその家族がそれについて走り出す。事務所の役員や神術士達が続き、しんがりを残りの騎士が固める。俺が魔物を潰すのを見計らって、アスノンさんが撤退の体制を整えてくれていた。できる忍者だ。


「タケユキ殿、顔色が悪いようですが……」

「まだまだ頑張れます」


 リドルカさんも頑張ってるんだ。まだへこたれるわけにしはかない。


「私は飛ばずとも足に自信があります。追って走るのでお気遣いなく」


 アスノンさんが気遣ってくれた。

 一人で飛ぶ方が楽は楽だ。ちょっとくたびれがではじめたので、お言葉に甘えよう。俺はもう走るのはキツそうだし。

 了承して飛び上がるとアスノンさんは走り出す。おお、早い。



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