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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第二章 魔王の国
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第三十九話


「オーレリアお姉様!? いつお戻りに!?」


 皇城に入った途端、駆け寄ってきたのはパレアーナさん。

 今いるのは魔術エレベータのある部屋で、パレアーナさんは臣下と何か話しているようだった。部屋の中は慌ただしく、兵士や官司が走り回っている。そして、エレベータの周りには六人の魔石の杖を持った上位魔術士がいた。


「私たちの使った馬車がこちらへ向かっています。襲撃者を捕らえてあるので、兵士を迎えにやらせなさい」

「わ、わかりました。ですが、城の守りが手薄になりますよ?」

「リドルカがいます。それより、状況が分かりますか?」


 パレアーナさんは、後ろから来た俺たちにも気がついてひとつうなづいた。


「はい、上でトマシウスお兄様とカトリーネお姉様が采配を──」


 話を続けるパレアーナさんの後ろで、踵を返す貴族っぽい男が見えた。


『なぜ魔王がここにいる!? 奴ら失敗したのか!?』


 ……内通者発見。逃げようとしたので足を絡ませてすっ転ばせた。


「ブヘッ!?」


 緊迫する部屋の中で、男が変な声を上げて転がったのでみんなの視線がそっちに向く。俺はオーレリアさんに呼びかける。テレパシーで。


『足止めの件を知ってそうな人が逃げようとしたのですっ転ばせました。捕まえておく方がいいと思います』

「タケ……」

『心で呼びかけています。聞き取りますので心の中で話してください』

『わかりました』


 速攻で理解してくれた。視線を俺にやることもなく表情も変えない。さすが皇帝一族のお姉さん。


『あやしい動きの人に気がついたら、とりあえずすっ転ばせます』


「パレアーナ、あなたの配下に命じなさい。この状況下です、心労で転ぶ者がいたら危険なので休憩のための部屋を用意して休ませなさい。もしものために看護人も置くのですよ」

「えっ、あっ、はい」


『私の直属を動かすなら秘密裏に、転んだあいつを監視しろってことよね?』


 そういえば、ベルートラスで忍者みたいな人たちに追いかけまわされたけど、パレアーナさんって配下に忍者部隊を抱えているの? なんか予想外。

 パレアーナさんが命令を下す前に、背後にいた初老の侍従が一礼してすっ転んだ男の方へ向かう。その後ろにはわらわらと官司にしか見えない人たちが集まってきた。あれ、みんな忍者かな。わずかな言葉で意図を察して動くのがすごい。

 あと、ここにいるほとんどの人が、遠方の鉱山に行っているはずのオーレリアさんが突然帰ってきたのはリドルカさんと飛んで帰ったからだと思っている。

 魔王様の信頼度が高い。ゆえに、発見されずに帰って来たのであの内通者は驚いたのか。他にもいそうだ、内通者。


「皇帝陛下のもとへ参ります」


 オーレリアさんが魔術エレベーターへ向かうと魔術士たちは杖を掲げた。俺たちも続いて乗り込めば、すぐに足元の舞台が上昇する。

 前回昇ったのより、少し低い位置で止まる。

 すぐに官司が駆けて来て、皇帝のいる部屋に案内された。

 通されたのは広い会議用の部屋みたいだ。

 真ん中に大きい長テーブルがあり、資料や報告書、地図なんかが広げられている。出入りする人の数も多い。さっきのエレベーみたいなのはたくさんあるように見えないから、階段がどこかにあって上がり下りしている人がいるんだろう。ああ、もしかしたら小物専用の昇降機とかがあるのかな? そんなことまで確かめている時間はないので、ざっと見える人の心中を確認して俺も皇帝とカトリーネさんがいる方へ向かった。


「おお、オーレリアにリドルカ、それにタケユキ殿もよく戻ってくれた」


 なにげに初めて名前を呼ばれたんじゃないかな、出迎えで。皇帝陛下自らにだけど。


「状況は?」

「市街地各所で火の手が上がったのは四時間前です。即時、騎士と術士を向かわせたところ、街の自警団が自称革命軍と戦闘を行なっておりました。今は自警団には消火にあたらせていますが、敵にも術士がいるようで手を焼いています」


 答えたのはカトリーネさん。


「暴徒の中に術士ですか」

「確認されているのは魔術士だけですが、民間の術士がこれだけの付け火ができるほどの魔石を手にしていることが不審です」

「ローレンド領かレムド領、魔石鉱山を抱えた領地が関与しいてるならそのあたりでしょう」

「先帝派の急先鋒ですものね。神降教関連国の干渉も考えられます。監視はしていましたが……」

「城内に内通者もいるようです」

「なっ!?」

「お前たち、今はまず市街地をなんとかするのが先ではないか?」


 妹たちの議論を止めたのは皇帝だ。

 それを聞いて、一歩足を踏み出したリドルカさんをオーレリアさんが即座に止めた。


「あなたが動くことはなりません」

「今確認されている敵ならば、騎士団と術士団、自警団で対処できます」


 カトリーネさんも立ち塞がった。

 そうかもしれない。

 リドルカさんを戦闘に出すことの危険性もわかる。

 でも、できることはあるよね。


「あの、雨を降らせて火を消すことはできませんか?」


 なぜかみんなが驚いて俺を見る。

 そんなに変なこと言ったかな。


「魔術で水を集める事ができるんですよね。リドルカさんが雨雲を呼んで雨を降らせることができれば、評判をあげることにも繋がりませんか?」


 魔術のそういう使い方ってしないのかな。

 オーレリアさんが少し考える。


「リドルカ、カトリーネ、雨を降らせることは可能ですか?」

「……雨」


 やったことないのか、リドルカさん。


「なるほど、水を呼ぶ要領でできると思います。リドルカ、来なさい」


 歩き出したカトリーネさんについて、リドルカさんも行く。チラッとリドルカさんが俺を見た。


「一緒に行ってもらえませんか? タケユキ殿」


 オーレリアさんがそう言うので、ついて行くことにした。

 会議室を出て、向かったのは同じ階の広いテラスだった。空と街が見渡せる。まだあちこちで煙が上がり、ところによっては火の手が見える。


「私がやってみましょう、出来そうならあなたも続きなさい」


 カトリーネさんが神石を握り込み、空を見上げる。

 この世界の術って呪文とか唱えないんだよね。それぞれの石にこもった力を引き出し操るというのはどんな感じがするんだろう。

 もうちょっとじーさん先生のところで勉強したかったな。

 力の流れのようなものは少し感じるけど、やっぱり俺の力とは違うな。

 カトリーネさんが大きく息をついた。

 薄曇りだった空は少し雲が厚くなっただけで、雨が降り出す感じはない。

 

「リドルカ、どう?」


 今度はリドルカさんが空を見上げる。その途端、風が舞い上がる。いや、リドルカさんの魔力をそう感じただけか。

 見る見る暗雲が立ち込め出した。稲光まで見える。

 ホッとするまもなく、カトリーナさんが注意する。


「やりすぎてはいけませんよ。雨を降らせるだけです。雷は落としてはなりません」

「くっ」


 落としたかったのかな。いや、もしかして調整が難しいのかな。


「落としてもいいですよ。俺が誘導して人のいないところに落としますから」

「タケユキさん、あなた……」


 リドルカさんの隣に並んで空を見上げる。驚いた顔で俺を見ていたリドルカさんも空を見上げた。風のような魔力が舞い上がる。これ、ちょっと気持ちいいな。

 怒りを伴わない魔力は黒いモヤモヤが出ないみたいだ。純粋な力はこんなに心地いいものなのか。これなら怖くないよ、魔王様。


 立ち込めた雲からポツポツと雨が落ちて来る。雲に稲光が見えると、帝都の外にある大きな木に誘導して落とす。ごめんね大きな木。

 元の世界でも、雷を避雷針に誘導して村や山に落ちないようにしてたからこれくらいはそれほど難しくない。

 雨は激しさを増し、火を消していく。火の手が強かったところに重点的に強い雨が降っているのはリドルカさんが雨をあやつるコツを掴んだからかな。次第に雷も減っていく。もう大丈夫そうだ。

 だったら俺は内通者探しの方をしておこうか。

 リドルカさんの隣に立ったまま、なるべく下の階層の人たちを探ってみた。上階の、皇帝に近いところにいる人たちは完全に新皇帝派のようだから。そのあたりはさすがに用心して人を配置してるんだな。

 何人か見つけてすっ転ばせた。後はパレアーナさんの忍者達がなんとかしてくれるはず。


「っくしゅん‼」


 くしゃみが出て、初めて自分がずぶ濡れになっていることに気がついた。

 雨ざらしのテラスにずっと立っていたらそうなるよね。

 まだ雨は降っている。少し小降りになっているのは、すっかり煙も見えなくなったからか。よかった。


「タケユキさん!? あなた、熱があるわ!」

「熱?」

「すみません、体が冷えて……」


 頭がくらっとした。

 しまった、体が冷えるとすぐ調子を崩すのにうっかりしてた。

 雨除けもするべきだったな。でも忙しすぎてそこまで手が回らなかったし、仕方ないよ。

 俺はすぐに、リドルカさんに抱え上げられて城内に連れ込まれた。


 明日帰るのは、無理そうだ。


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