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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第二章 魔王の国
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第三十五話

 明日はオンタルダ帝国の深淵とやらを見に行くそうだ。

 別れ際にもカトリーネさんに言われた。


「明日はオーレリアお姉様が、黒の離宮に案内されるそうですよ」


 黒の離宮。

 名前からしてなんか黒い。

 本当はお断りしたい。

 今日カトリーネさんに連れて行かれた所以上の帝国の暗部なんて正直言えば見たくない。


「心配しなくても、その後はいつでもベルートラスへ帰れるように手配してあるわ。明日だけはお姉様に付き合ってあげて。その後は自由よ」


 ……本当かな。


 結局、カトリーネさんの心は読めなかった。

 心が凪いでいて、それでいて張り詰めているような。そんな静寂を保っていた。術で心を読まれないよう防御しているというより、精神的に思考を抑えているように感じた。しかも、手慣れているみたいだった。

 もしかしたら、オーレリアさんもできるのかな。

 パレアーナさんがいたら色々わかりやすいだろうに、たぶん来ないだろうな。

 なんだかもう面倒だな。

 逃げようか。


 いやいや。


 三食いただいて理想の人と過ごす時間をもらえたんだ。

 争い事や陰謀なんかの手伝いはしないし、できないし。そう脅したけど、できることくらいはしてみよう。

 知っておいて欲しいというのなら、知っておくぐらいしておこう。

 帰った時、じーさん先生たちに報告するくらいしかできないんだけどね。

 帰った時に……

 帰してもらえるのかな、本当に。

 帝国の深淵なんか見せておいて、見たからには帰せないなんて言い出さないよね?

 皇帝さんが約束をやぶった時は……どうしよう。

 強行突破して帰れるか。それともいっそ──……


「どうした?」


 声をかけられてびっくりした。

 リドルカさんから声をかけられるなんて、滅多にないことだったから。

 今はもうすぐ今日が終わる時間。

 リドルカさんの寝室の、俺の寝床に座ったまま明日のことを考え込んでいたらベッドに腰掛けたリドルカさんが珍しく声をかけてきた。

 二人とも、お風呂上がりでほかほかだ。

 この五階のフロアには広くて立派なお風呂もあって、さっき二人で入ってきたところだ。

 見張られていた時はともかく、なんで今でも一緒に入ってるんだろうね。

 それはさておき。

 問われたので答えなきゃ。


「ちょっと、考え事です」

「何を考えていた?」


 突っ込んで聞き直された。どうしよう。どこまで答えていいものやら。


「えっと、明日行く場所がどんなところかな、とか」

「黒の離宮は、俺が育ったところで、弟たちがいる」

「え? そうなんですか?」


 リドルカさんが魔王と呼ばれるような力を持つよう育てられた、邪悪と言われた帝国の深淵の離宮か…………怖すぎるね。


「恐ろしいか?」


 ずばり聞かれた。

 まさか、リドルカさん俺の心読めますか?

 それはないだろうとは思いつつ、そのままうなずいていいものか。


「恐ろしくて当然だ」


 そうなんですか。


「………………」

「…………?」


 あれ? そこで話は終わりですか? どう怖いとかは教えてくれないんですか?


「心配せずとも、襲っては来ない」


 誰がですか!? 何がですか!?


 リドルカさんはそれだけ言うと、ベッドに横になってしまった。その途端、部屋に灯っていた青いランプが消える。どういう仕組みなんだろう。魔術なんだろうけど。

 真っ暗になったので俺も横になる。

 目を閉じて、なんとなしにじーちゃんを思い出した。


 リドルカさんて、ちょっとじーちゃんに似てる。

 見た目じゃなくて、ぶっきらぼうで口数が少ないところとか家族思いなところとか。

 でもリドルカさんが、ばーちゃんと寄り添って一生を共にしてくれたじーちゃんのように、俺といてくれるとは思えない。

 だって、皇帝の弟って事は国の重鎮だし、あんなに仲のいい兄弟や国を捨てて俺を選ぶなんて考えられない。

 それに、たぶんリドルカさんはこの国の戦力の要なんだと思う。皇帝さんも妹さんたちも、リドルカさんに絶大な信頼を寄せているからね。

 リドルカさんの手に負えなかったからこそ、俺を脅威と信じてくれたんだろうし。

 俺の拙い脅しだけじゃ、あんなにあっさり屈してくれるわけがない。

 

 小さく、小さくため息をつく。リドルカさんに聞こえないように。


 俺の夢は、俺が何者でも、どんな力を持っているとしても、ずっと一緒にいてくれる人と静かに穏やかに暮らすこと。じーちゃんを見つけられたばーちゃんのように。そして最後は……なにも残さず滅ぶこと。

 苦労しかしないこんな力は俺の代で終わりにしたい。


 まあ、ほとんど諦めてはいたけどね。

 運命の人は。


 俺はばーちゃんや母さんと違って男だし、事情があって女の子をお嫁さんにできない。男の人でも運命の相手なら希望も叶うんじゃないかなって思っていたけど。無理だろうな。

 一族の末として、何も残さず一緒に滅んでくれる人なんていやしないよ。


 運命の人を、流れ星に祈るしかやりようがなかった。こんな世界に来てでさえ。


 じーさん先生の家で、家族のようにみんなで暮らすのも嬉しかったけど。それだっていつかは終わると知っていたし。

 じーちゃんもばーちゃんもいなくなっちゃったしね……


 いけないいけない。

 泣きそうになってる場合じゃないよ。きれいな布団が濡れてしまう。


 そうだな。もしもの時は、海に出よう。

 今はそのつもりはないけど、ことと次第によってはどうなるかわからない。

 帝国に敵対してしまったらじーさん先生のところになんか戻れないし、この大陸にいて神属性関係者に狙われるのも嫌だ。

 遠くの人のいない島でも見つけて、自給自足で生きていこう。幸い、狩りもできるし畑も作れる。温泉も掘り当てられればいいけどね。


 目を閉じて、やっと眠りについた途端に涙が溢れていたことに、俺は気がつかなかった。


 それを見られていたことにも……





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