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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第二章 魔王の国
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第三十二話【テレシー:旅に出る】


 ガタガタと、馬車が揺れます。

 オーリー先生の幌馬車です。


『おい、この魔法陣の賢者たる私が手ほどきしてやっているというのに何をぼーっとしている。愚か者め』

「ぼーっとなんかしていません。考え事です」

『我が妻に想いを馳せる気持ちはわかる。私とてすぐにでも取り戻したい。だが、今のままでは万全ではないのだ。あのオンタルダ帝国が相手となれば尚更』

「わかっています! と言うか、タケユキさんを妻と呼ぶのはやめてください‼」


 床に置かれた紙切れに向かって叫んでしまいました。

 紙に描かれた魔法陣は呆れたように『はぁ』と息をつきます。呼吸もしてない魔法陣のくせに。


「テレシー……」

「あ、すみませんミリネラ様、大声を上げてしまって」

「いいのよ。でも、今のうちに少しでも魔法陣を習っておくのは、あなた自身のためにもなるわ」

「そうだな。魔法陣がここまで有用だとは思わなかった。水の生成が楽になれば水場に不自由しないし荷物も減らせる。魔石神石も少なくていいし」

「わしも、この歳で新たに師事をあおげるとは思わなんだ。ありがたい事じゃ」


 馬車の中で、魔法陣の紙を囲んで座る私たち。

 ミリネラ様とトルグ様、そしてオーリー先生。

 私たちは今、再び滅びの都に向かって旅をしています。



 ことの起こり。

 私の前世と言い張るこの奇妙な声の主。自称魔法陣の賢者、今は亡きテルセゼウラ王国のシュザージ王子は、私が目覚めた途端また魔法陣を描いてこう言い放ちました。


『我が知恵と知識と、術道具を回収しに城へ向かう』


 オーリー先生がそれに同意し、旅の手助けをする代わりに魔法陣について教えを乞いたいと願い出ました。自称魔法陣の賢者は『我の手足となり力を貸すなら、その知恵の一端を授けてやろう』などと偉そうにのたまい……今に至るのです。

 つまり、滅びの都に向かいながら勉強会をしているところです。


「トルグ、ちょっといいか?」

「はい、なんでしょう兄上」


 幌馬車の後方から馬上越しに声をかけてきたのはトルグ様のお兄様です。なんと、トルグ様のお兄様は神属騎士で今回の旅に護衛として同行してくださっています。当然、至極まともな騎士様です。


「次の休憩地点がもうすぐなので様子を見てこようと思う。馬で先行するが、あいつも連れて行く」


 そう言って、苦々しく振り替えられたそこには同じく騎乗した騎士が一人。鉛色をした鎧を着た魔属騎士様です。


「守りが自由兵士だけになるから用心しろよ。まったく、よく馬車の中で勉強なんかできるな」


 ははは、と快活に笑い声を上げるお兄様に同感します。私、ちょっと酔い気味です。頭の中に『情けないっ』という声が響きます。うるさいです。


「わかりました。オーリー先生、私は御者台に行きます」

「うむ」

「私も行っていいかしら。ちょっと風に当たりたいわ」


 ミリネラ様も酔い気味のようです。オーリー先生はお元気ですね。

 魔法陣は黙っています。

 やはり、他の人に知られるのはまだ良くないとオーリー先生が判断し、あいつも『その方が良かろう』と言って、私たち以外の前では口をつぐみます。

 頭の中でもつぐんで欲しい。


「じゃあ、後でな」


 軽く手をあげで、騎士様二人は馬を走らせ先へ行きます。

 今回の旅には、国から派遣された騎士が二人付きました。

 タケユキさんが持ってきたあいつの手記と、そこにあった簡単な魔法陣を再現して国王に見せ、魔法陣の有用性を示した上で再度の滅びの都探索を申請したようです。

 結果、見ての通り。派遣された護衛騎士はたった二人。

 やはり国は魔法陣にはあまり興味を示さなかったようです。

 王様に見せた魔法陣は火を灯し続ける魔法陣で、小さい低位魔石でも長時間術者なしに燈し続けるというものでした。けれど、そんなものは蝋燭があれば事足りる。クズ石とはいえそんなことに魔石を使う意味などないと思われたようです。


「この魔法陣を応用したら、いくらでも使い道があると思うんじゃがな」

『まったく、その通りだ』


 とは、出発前に溢したオーリー先生とあいつの言葉です。

 でも下手にそれを認められて、いつぞやのタチの悪い騎士がいっぱい派遣されても迷惑でしたし。今はこれでよかったとも言ってましたね。

 ちなみに、はじめは派遣される騎士は一人とされていたのですが、トルグ様がご自身のお兄様を指名して、同行者が神属騎士とわかった魔属騎士団が王様に願い出てもう一人派遣してよこしたらしいです。

 神属騎士と魔属騎士の確執やいかに、です。

 後は前回と同じ自由兵士に護衛に来てもらっています。それとスルフさん。

 スルフさんは御者をしていて、兵士さんたちはゆっくり進む馬車の周りを歩いて警備しています。

 隊長のベルグルフさんは騎士がついてきてくれたことに安心しています。

 レノンとローグさんはタケユキさんがいないことを不思議がっていましたが……体調を崩してお留守番していると説明してあります。


「では、私はここを片付けて昼食の準備を──」

「テレシー、すまないが賢者殿と少し話したいんじゃが」


 オーリー先生はあいつを賢者と呼びます。白骨バカ王子でいいのに。


「お話ですか?」

『何かな? 老学者殿』


 私が片付けようとした魔法陣の紙から返事をした白骨バカ王子。


『おい、いい加減それはよせ。我が妻の愛らしい声で呼ばれたなら微笑ましいが、おまえが言うと腹が立つ』

「白骨バカ王子以外なんて呼べばいいのかわかりません」

『老学者殿のように賢者殿、いや賢者様と呼べ』

「人の心の中の言葉を勝手に読んで声に出して返事するような人を賢者だなんて思えません」

『何を!? この愚か者め!』

「まあまあ、賢者殿もテレシーもそこまでじゃ」

「すっ、すみませんオーリー先生っ」


 先生の前でみっともない喧嘩をするところでした。

 ほら、さっさとオーリー先生とお話しなさいバカ王子。


『この愚か者はまったく。で、話とは?』

「ふむ……。賢者殿は、タケユキをどこから召喚されたかご存知ですかな?」

『む? トーセル島国ではないのか?』


 オーリー先生の質問がわかりません。

 タケユキさんは船から落ちて気がついたらこの大陸にいたと言ってました。海に出たのも船から落ちたのも、それでも無事に滅びの都に向かったのも、全て魔法陣に呼ばれたからでは?


『うむ、そうして導かれるままにテルセゼウラの王都に、私を求めて彷徨い込んだのだろうな』


 またあなたは。心の声の続きをそのまま話してもオーリー先生が困っているでしょっ。

 私はつい今し方、思ったことを補足して話しました。

 

「……そうですか。賢者殿はどのような願いを魔法陣に込めたのですかな? それと、タケユキの能力についてはご存知か?」

『無論だ。願ったのは私にふさわしい可憐で優しく、そして賢い花嫁』

「嘘ですね。帝国から申し込まれた老齢の結婚相手から、助け守ってくれるような強くてかっこいい花嫁と手帳に書いていたじゃないですか」

『やかましいっ! 可愛い嫁だ! コホンっ、あー……能力もわかっておるぞ。神の影響を免れた島には不思議な術があるのであろうな。あの島は私が健在の頃でもよくわからんかった。多少は交流があったそうだが私は知らん』

「魔術研究で引きこもってたくらいですものね」

『いちいちやかましいぞ! 愚か者め‼ 他にも、あの魅惑的な微笑みも怒った時のゾクゾクするような瞳も得難い能力といえよう。あれを見れば誰であっても魅了される』

 

 ……変態


『ふん、あの魅力がわからんとは、まだまだお子様だな。普段は大人しく穏やかな容貌をしているが、たまに見せるそこはかとない色香がまたなんとも──……』

「あー、賢者どの。つまるところ、テレシーが見聞きして得た情報を共有されて、同じ考えであるということですかな?」

『こんな愚か者と一緒にするな‼』

「それはこっちのセリフです‼」


 むーっ、と魔法陣を睨んでいたら、オーリー先生のため息が聞こえました。


「すみません! つい釣られてみっともない対応をしてしまいました」

『ふん、おまえはな』

「あなたもです‼」

「ははっ、良い良い」


 オーリー先生は少し笑うとまたため息をつきました。なんだか悲しそうに見えます。

 先生は、何か私の知らないタケユキさんを知っているんでしょうか?


『老学者殿、何か我が妻について知っておられるのかな?』


 ずばり聞きますね。

 あと、妻もやめて欲しいものです。


「そうじゃな。少しじゃが……お前さん方にはぜひ、もう一度タケユキと会って話を聞いてやってほしいのう」


 オーリー先生?


『当然だ! 百年越しに逢えた花嫁に、盛大にして最大の求婚の言葉を贈るつもりだ!』

「ちょっと待ってください! それって私の体でするつもりですか!?」

『仕方なかろう、今の私はお前なのだから。私は決めていたのだ、我が願いを込めた魔法陣が厳選に厳選を重ねて選び呼び寄せた者なら、どんな相手でも愛し抜き、守ろうと!』

「タケユキさんは男性ですよ!?」

『どんな相手でもと言っておろうが。まあ、そういう意味では、女に生まれ変わって出逢えたのは運命かもしれんな』


 ……運命


『ふふん』

「なぜ笑うんですか! 白骨バカ王子‼」

『なにをっ!?』


 と、魔法陣相手にまた我を忘れていた時。御者台の方からクスクス笑う声が聞こえてきました。


「ミ、ミリネラ様、聞いていたんですか?」

「ふふふ、それだけ大きな声で話せばね。馬車の外には聞こえていないみたいだから安心なさい」


 馬車の幌には遮音の魔法陣が描かれています。外に向かって意識的に話さなければ声は漏れないとのことです。

 でも、御者台なら聞こえたのですね。


「もうすぐ休憩地だ。食事の準備を頼むよ、テレシー」

「はいっ!」


 トルグ様に言われて、慌てて馬車の中を片付けたり食材の確認をしたりします。

 タケユキさんがいたら、また飛ぶ鳥でも落としてお肉のスープが作れたのでしょうね……

 逢いたいです。タケユキさん。


 この気持ちは、私のものです。




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