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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第二章 魔王の国
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第二十八話

 

 魔術エレベーターから降りた広間から伸びる廊下。

 その広い廊下を歩いてしばらくすると背の高い真っ青な扉があった。装飾がきれいだ。その少し手前で総侍従長が足を止める。


「カトリーネ殿下、パレアーナ殿下、お先にお入りください。リドルカ殿下は暫しお待ちを」


 俺もいるけどリドルカさんの持ち物扱いだね。もちろん、リドルカさんが止まれば俺も足を止めるけど。要は見張りごと俺を待たせるのが目的みたい。リドルカさんが仲間外れにされたわけじゃないよ。


 侍従の一人がドアを開け、カトリーネさんとパレアーナさんは入っていった。

 中で何かしているみたいだ。いいけどね。

 ほんの少し待って、リドルカさんが呼ばれる。

 さっきと同じように侍従の一人がドアを開けた。

 またリドルカさんに背を押されたので先を歩く。後ろから付かず離れずリドルカさんも入って来ると、侍従はおろか近衛騎士まで部屋を出て扉を閉めてしまった。

 え? いいの?

 皇帝一家と得体の知れない異国人を一緒にしといて。

 

「タケユキさん、こちらへ」


 名前を呼ばれてびっくりして、改めて前を見ればカトリーネさんが手招きしている。その隣に、豪華な椅子に座った三十半ばの男性がいた。


 この人が、オンタルダ帝国の皇帝……


 心の中で『威厳、威厳、威厳……』と呟きながら気を張っているこの人が?

 見た目はリドルカさんに比べるとすごく細く、ちょっと頬がこけて疲れが見える。リドルカさんとはあまり似てないかな。

 皇帝を中心に、右隣にカトリーネさん。その隣にパレアーナさん。左隣に立っているのが皇帝の妹の中で一番上のオーレリアさんか。

 みんな揃って青みのある黒髪に青い瞳をしている。


 またトンっと背を押された。

 振り向いたらリドルカさんが睨んでる。

 前に進むんですね。

 進んだ先に、魔石と神石を組み合わせた結界があるんですが。

 たぶん、それは幻術で隠されているんだと思う。俺の感覚では見えるけど。

 パレアーナさんがハラハラしている様子を見れば、幻術をかけているのがパレアーナさんってことかな。あの時、路地裏で転んだ女の子を見せたのもパレアーナさんか。

 結界の石は俺の正面だけ開いている。

 気づかないふりをしてそこに進むと「止まりなさい」と命じられた。背後にリドルカさんが立って結界完成か。リドルカさん、魔石がわり?


「よく参られた、異国の客人」


 オーレリアさんがそう言う。

 攫われてきたのですが? なんて、今は言わない。

 それより、周囲を確認。

 謁見って言ってたから、てっきりテレビとか弟が見せてくれたゲームとかに出てきた荘厳で華麗な謁見の間、みたいなところかと思ったらここは違った。

 なんだか談話室とか応接室みたいだ。じーちゃん先生の屋敷にもあった。こっちの方がもっと豪華で広いけどね。やはり白と青が基調だけど、皇帝の背後には天井まである細工入りのガラス扉があって外の光が明るい。大きな花瓶があり花が生けられ、落ち着いた雰囲気がする。

 なんとなく、家族が集う居間みたいにも見えるのは、この兄弟が仲がいいことがわかっているからだろうか。

 それにしても。側近を全部外して、謁見の間じゃない場所で兄弟だけで話し合いをしたい理由ってなんだろう。

 扉の向こうには騎士が立っている。大きな声で呼べばすぐに入って来るだろうけど無用心じゃないかな。

 俺が返事もしないで考え込んでいると、オーレリアさんが笑った。


「なるほど。肝は座っているようね」


 そうですか?

 と、思ったらちょっと首を傾げていたようだ。それに応えるようにオーレリアさんは続けた。


「皇帝の兄弟がそろって出迎えているというのに、畏怖も敬意もあるように見えません」


 そろって?

 あれ? 弟さんが後八人いるのでは?

 ああ、パレアーナさんより下ならまだ子供だから呼んでいないのかな。小さい子がいないのは……今は助かる。


「さて、此度は少々手荒な手段で来てもらうことになりましたが、それについては謝罪します」


 お偉いさんだからね。頭を下げなくても帰してくれなくても、謝罪と言えば謝罪したことになるのかな。

 みんなそろって俺を見ているけど、謝ってもらってる気は全然しない。

 心の中はどうなんだろう。

 聞いてみよう。


『うむ。リドルカと空で鉢合わせた上、その手を逃れたことからよほどの神術士。あるいは千年前降臨した神族の生き残りか、真実その流れを組む末裔ではないかという話だったが……』


 とは、皇帝さん。

 眉目秀麗じゃないのですからね、俺。


『ベルートラスの騎士舎で騎士を全てなぎ払い建物を破損させたのはやはりこの子でしょうね。あの老術学者の元で術資質の気配を隠す術でも会得したのかしら。そこまでは調べきれなかったけれど──』


 やっぱり知ってたんですね、カトリーネさん。

 術資質を隠すなんて、やろうと思えばできることなのかな。ああ、リドルカさんがそうなのか?

 どっちにしても、あれをテレシーがやったと思われてなくてよかった。攫われたのがテレシーだったら俺はどうしてただろうね。


『神属関係者に感づかれる前に確保できたのはよかった。本当に辺境に隠れ住んでいた本物の神族なら神王国や神殿に対する手札に使える』


 ……オーレリアさん。


『ふふっ、気がついてないわね、よかった。あの時幻術を見破られたのはたまたまだったのね。お兄様もお姉様も褒めてくださるかしら』


 なんだろう。パレアーナさんは安心して聞いてられるな。


 やっぱりリドルカさんだけは心が読めないけど、ここにいる人たちは普通に聞こえて助かった。


 それにしても、じーさん先生が懸念した通りになっちゃってたのか。


 特殊な力となるとまず魔王か神族って疑うのは、この世界にある魔法的な術の最高峰がその二つだからだろうね。特に、神王とか言う神族の末裔は自称らしくて空も飛べないって話だし。

 ガッツリ空で魔王様と鉢合わせる特殊能力者を、本物の神族と思ってしまっても仕方ないのかも。魔王様がつきっきりで見張ってたのもそのせいか。

 チラッとリドルカさんを振り返ってみた時、正面から声をかけられた。


「其方には聞きたいことがいくつもあります。まずは其方が何者か、答えてもらいましょう」


 オーレリアさんが俺を値踏みするように見据える。

 本当に神族だったらどう利用するつもりなんだろうね。攫われては来たけど、その後の扱いは丁寧で親切だった。寝床はあったかかったし、食事もちゃんといただいた。リドルカさんのお城でも虜囚というより客人扱いだったし。

 兄弟仲も良いし、心を読んで大体の人柄も見た。

 おかげで印象はそれほど悪くはないんだよな。


 でも…………


 なんて考えていたら、またまたトンと背中を押された。

 聞かれたのだから答えなさい、ってことですね。リドルカさん。


 いいですよ。ここはちゃんと答えてあげよう。

 けど、その前に。


「お答えする前に……俺もひとつ、お聞きしたいことがあるんです」

「ほう?」


 オーレリアさんが鼻で笑った。みなさん、俺が尋ね返したことにムッとしている。リドルカさんもね。


「テレシーは、無事ですか?」


 カトリーネさんに視線を向ける。

 カトリーネさんはほっとしたように胸元に手を置いて笑って見せた。


「ええ、もちろん無事よ。ベルートラスを出る前に確認しましたもの」


 嘘は、ないな。

 港に残ったパレアーナさんの配下から報告を受けたそうだ。


「よかった。パレアーナさんが、置き去りにするはずのテレシーのこと気遣っていましたし。捕まった後は俺も良くしてもらいましたから、たぶん大丈夫だろうとは思ってましたけど」

「彼女は主人の元に戻り、元気に小間使いとして働いているそうよ」


 それなら良かった。

 けど、この人たちはテレシーの、オーリー先生の家を知っていて見張っているってことなんだよな。


 俺は、一度目を閉じて息をつく。

 そして念じる。盗賊にしたように。


 ──浮け


「うっ」

「なっ!?」

「何っ!?」

「きゃっ」


 目の前の、人攫いたちを宙に浮かす。


「何をし──っ!?」


 後ろのリドルカさんも浮かす。

 ものすごく驚いているのがわかる。自分で飛ぶことはあっても、他人に浮かされたことはないのかな。あ、そういえばここには魔術エレベーターがあったか。驚きはしてもパニックにはなってない。

 よかった。


 おかげさまで体調は万全。惜しむことなく力を使わせてもらうとしよう。


「近衛騎士!」

「この部屋の空間は閉じました。外に声は届きません」

「なっ!?」


 一瞬、息を詰めたオーレリアさんだったけど、袖口から何かを取り出して手に握る。カトリーネさんもだ。こんな状況でも動けているのがすごい。取り出したのは神石だな。この二人も神術士なのか。

 何をする気か知らないけど、その手を開かせて神石を落とさせる。


「何がっ!?」

「ひっ」


 コトンコトンと石が落ちる。

 これも前に盗賊相手にやったな。

 ついでとばかりに俺を囲んでいた魔石、神石も浮かび上がらせる。驚くパレアーナさん。もちろんリドルカさんもびっくり。

 幻術が解けたので、浮かび上がった魔石も神石も目に見える。

 部屋の中にはふわふわ浮かんだ皇帝一家と二色の石。


「俺には魔術も神術も基本的に効きません。力の根本が違うんです。俺に術の資質がないのも術が効かないのも知っているんじゃないんですか?」


 カトリーネさんが「くっ」と声を漏らした。

 あの神属騎士の騎士舎で、カトリーネさんは俺を神術で癒してくれようとしたんだと思う。その時、不思議そうな顔をしたのは俺に術が効かなかったからじゃないのかな。トルグさんもそんなこと言ってたし。

 それに、神属騎士達を吹っ飛ばした件もそうだ。俺の正体を周りに知られないよううやむやにしたのも、この人だ。


「騎士舎では力を押さえていました。今は全力で抵抗するつもりですから、そうなったら何が起こるかわかりませんのでやめてください。リドルカさんも」


 カトリーネさんが何かしようとした手を止めた。もしかしてまだ神石を持っているのかな。けど、それ以上に背後から感じるすごい威圧の方が気になる。振り返ったら真っ黒のモヤモヤでいっぱいになってるんじゃないだろうか。


「リドルカ、押さえなさい。皆も彼に手を出すな」


 すっ、と手を上げてそう言ったのは皇帝だった。

 背中の圧が少しだけ和らぐ。少しだけ。

 皇帝の心は『冷静沈着、冷静沈着……』と繰り返している。そして、一つ息を吐いてから俺に向き直った。


「なぜ、このようなことをする?」

「何者かと聞かれたのでわかりやすく実践したまでです。これが俺の力です」

「神属性ではないのだな?」


 皇帝が妹たちを見る。オーレリアさんとカトリーネさんが首を縦に振る。パレアーナさんはブンブン振る。


「魔属性でも……ないか。ますます何者かわからんな、これでは答えになっておらんぞ?」


 皇帝は冷静に答える。自己暗示が効いているんですね。さすが皇帝だ。


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