第二十七話
皇帝との謁見。
その日の着替えには、侍従長さんをはじめ召使いらしい男女が数人やってきて手伝ってもらった。俺まであつらえたような綺麗な服を着せられたよ。色が緑なのはもともと着ていた服がそうだったからかな。好きな色だからいいけど。
リドルカさんは青い刺繍の入った白い服に青いマントだ。皇族の正装だろうか。攫われた時に着てた服っぽいね。
黒も似合うけど白も似合うな。かっこいい。
準備が整ったら、四階の渡り廊下から皇城へ。
その通路を二人で並んで歩きながら、この後のことを考えて色々と不安になってきた。
国の一番偉い人と会えと言われても、どうすればいいかわからない。
思いがけず会うことになったからなぁ……
「あの、何かやっちゃいけないこととか言っちゃいけないこととかありますか?」
問えば、リドルカさんは眉を寄せた。
「こういうちゃんとした所での礼儀って知らないんです」
何か粗相をしたら怒られるどころじゃないんじゃないだろうか。じーちゃんと見た時代劇での殿様とのやり取りは参考になるだろうか。
「尋ねられたことに答えればよい」
「答えが気に入らないと、怒られた時はどうしたらいいですか?」
「兄上は狭量ではない。が……パレアーナもいる。何かあれば頼れ」
「え? リドルカさんを頼っちゃダメですか?」
そう聞いたら、なぜかリドルカさんはものすごく驚いた顔をした。ダメなのか。残念。
それにしても、聞かれたら答えるか……
聞きたいことも山ほどあるけど、聞きたい時はどうすればいいんだろう。まあ、その時の状況を見て考えよう。
そんなやりとりをしながら、いざ皇城へ。
渡り廊下を渡りきれば、その先は黒い鎧の騎士たちが通路の脇に整列していた。リドルカさんが皇城に足を踏み入れると、全員が踵を鳴らして右腕を胸に当て敬礼。おお、皇弟殿下のお出迎えだ。
そんな広い通路を通って少し進めば天井の高い広間に出た。ドーム状になっているその部屋は壁も床も黒い。一瞬魔石でできている部屋かな、なんて思ったけど黒いだけで、少しだけ床に埋め込んであるだけのようだ。
天井と壁に等間隔に青く光るランプがたくさんあるから明るいね。光は青いのに薄暗くないのはなんでかな。
部屋の中央に進めば、円状の舞台のような場所があった。その上の天井には丸く筒状に穴が空いてる。黒くてわかりづらいけど。
で、その舞台の前には見知った顔と見覚えのある顔。
「遅いわ! リドルカお兄様っ」
「あなたが早く来すぎているのよパレアーナ」
クスリと笑ってパレアーナさんを嗜めたのは、神属騎士の騎士舎で助けてくれたあの人だ。確か名前はカトリーネさん。
ベルートラス王国の隣の国まで親善大使として行ってたんだっけ。本当ならリドルカさんも行く予定だったってじーさん先生に聞いたけど。
リドルカさんは俺を捕まえるためにベルートラスに居残って、パレアーナさんはそれに協力するために呼ばれたそうだ。船の中でちまちま心を読んで確認した。
パレアーナさんは詳しい理由は知らないみたいだし、リドルカさんの心は読めないからそれ以上はわからなかったけど。
カトリーネさんをじっと見ていたら、それに気がついたのか俺を見てにっこり笑った。
「お久しぶりね。あの時の怪我はもうよろしいようね、元気になられたなら何よりだわ」
「……その節は、ありがとうございます」
あの時、助けてもらったことには違いない。
思うところは多いけど。
「もうっ、早く上へ行きましょう! トマシウスお兄様とオーレリアお姉さまが待っているわ!」
「あなたが早くお会いしたいだけでしょう、パレアーナ。オーレリアお姉様はゆっくりおいでなさいとおっしゃっていたわ」
「むうっ」
なんか微笑ましいな、皇帝の兄弟姉妹。
「それに上位術士がまだ集まっていないでしょ」
「怠慢だわ!」
「今は人手が足りないのよ。わがままは言わないで」
「……俺が上げよう」
「リドルカ」
「なんてことはない」
何の会話をしているのかな、と思ったら、リドルカさんに背中を押された。みんなで舞台に上がるみたいだ。
舞台は三段になっていて、一番下の段に握り拳大の魔石が、これも等間隔に並んでいた。リドルカさんがそれに手をかざすと魔石は青く光り、舞台が上昇した。
魔術エレベーターかな。
舞台はいくつもの階を通り越して上へ上へ。
こんなすごい高層ビルみたいなお城、登るのが大変だなって思ってたけどなるほど。高層ビルどころかエレベーターそのものに乗ったことない俺が、異世界で初エレベーターって、おもしろいね。
『さすがリドルカお兄様。お一人でこれだけの人数乗った魔術昇降機を上げられるんですもの』
うふふん、と嬉しそうなパレアーナさんの心の声。
本当は何人もの上位術士が上げるのかな? うっかり失敗とか怖くない? 帝国のベテラン術士さんならそんなこともないのかな。
ベルートラスではそれほど大した術というのは見なかったから、色々見せてもらえると勉強になるな。
いくつかの階を越えて、魔術エレベーターが止まった。
その階の壁はリドルカさんの部屋と同じく、白を基調としていて青の装飾がされていた。
「よくお越しくださいました、カトリーネ殿下、リドルカ殿下、パレアーナ殿下」
お辞儀をして出迎えてくれたのは、足首まで隠れる丈の白い衣装に藍鼠色の帯のようなものを肩にかけた年配の人。まさに侍従長って感じの人がいた。リドルカさんのところの侍従長さんはどっちかっていうと執事って感じだしね。皇帝一家に仕える侍従の長、総侍従長ってとこかな。
そして、その後ろには何人か似たような服の男女と黒い鎧に青のマントの騎士が並ぶ。
さらっと心を読んだら皇帝付きの侍従と近衛騎士らしい。
「今しばらくこちらでお待ちください。先ほど、報せを向かわせました」
「少し早く来たのはわかっているわ。待ちましょう」
カトリーネさんがほほえんで、パレアーナさんをチラリと見た。パレアーナさんはちょっと目をそらす。
そんなやりとりを見る侍従の何人かが、ホッとしているのが分かった。仲のいい皇帝兄弟を見ているのが微笑ましいらしい。
気持ちはわかるよ。
それはさておき。
この先の部屋に皇帝さんと上の妹さんがいるのか。
そっと呼吸をして気を沈め、耳をすませてみると話し声が聞こえる。
『もう来たのか!? パレアーナが急かせたかな』
『お兄様が甘やかすからですよ。あの子はもう』
『いやそれを言うならお前たちも……。まあいい、このさいだ息抜きしてから話の続きをしよう、オーレリア』
『カトリーネとリドルカが見つけた例の少年との面会ですよ。威厳のある態度でお願いします。弟妹が友人を連れてきた感覚では困ります、皇帝陛下』
『う、うむ』
『問題は山積みなんですから、それほどゆっくりはできませんよ。はぁ、あの少年が役に立ってくれれば良いのだけれど……』
俺のこと話してる?
なんだろうね。嫌な予感がするけど……腹を括るか。




