表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第二章 魔王の国
24/192

第二十四話【テレシー:目覚める】


 ──目覚メヨ……


 んん? もう朝? なんだか眠いの。起きられない。


 ──目覚メヨ……イヤ、起キヨ! 愚カ者‼



「ふえっ!?」

「テレシー!?」


 ここは、私の部屋?

 えっと、朝?

 どうしてミリネラ様がいて……泣いてるの?


「よかった。もう二日も眠っていたのよ、わかる?」


 わかる? 二日? ──あ


「タ、タケユキさんは!? タケユキさんが攫われたんです‼ 船に乗せられて、たっ、助けに行かなきゃ──」

「落ち着いて、テレシー。その話は、トルグと先生と一緒にするわ。ね?」


 ミリネラ様はまた涙を浮かべます。

 私は早く話を聞きたくて、すぐに起き出しました。こういう時、いつもなら「もう少し寝ていなさい」と言うミリネラ様が止めません。


 着替えが終わると、すぐにマリータ家の居間に案内されました。トルグ様がいて、オーリー先生もいました。そしてテーブルの上にはあの日、タケユキさんが買った飴細工の瓶詰めが置いてあります。

 タケユキさんは、いません。


「席にお座り。食事は……」


 トルグ様が勧めてくれましたが、食事なんて喉を通りません。首をふれば、ミリネラ様が優しく背を押して席へ座らせてくれました。


「あの、タケユキさんは……」


 お三人は顔を見合わせます。オーリー先生が口を開けかけましたが、トルグ様が手を上げそれを止めました。


「私が話します。テレシー、君は港に倒れているところを保護されたんだ。何があったか覚えているか?」

「はい! 謎の集団に襲われて、タケユキさんが攫われました‼」

「攫われた? うむ……詳しい話をしてくれないか」


 私はうなづいて話を続けます。


「タケユキさんとお茶屋さんのある通りを歩いていたら、トーセル島国から来たという女の子に声をかけられたんです。迎えに来たって言ってましたがなんだか怪しくて、タケユキさんは私を担いで逃げ出したんです! そうしたら女の子は突然「捕らえて!」って叫んでフードの男の人たちに追いかけ回されたんですっ。タケユキさんすごかったんですよ! 女の子の頭を飛び越えたり、すごい速さで走ったり」


 あの日の出来事を思い出すと、タケユキさんは実はものすごく強い人なんじゃないかと思いました。かっこよかったんです、すごく!

 ああ、つい興奮して捲し立ててしまいました。トルグ様が目を丸くしています。


「そ、そうして路地を抜けて港へ出た時、誰かにバケツで臭い水をかけられたんです。確か……眠くなる魔草を浸したとかなんとか? 言っていた気がします」

「それで、テレシーはずっと眠っていたのね。随分深い眠りだったものそれならわかるわ」


 ミリネラ様がなるほどとうなづきます。もしかしたら魔草に心当たりがあるのかもしれません。


「それでもタケユキさんは私を守りながら必死に逃げようとされていました。けれど、港には他にも人攫いの仲間がいたようで……タケユキさんは──」

「トーセル島国の船に乗せられたんだな?」

「どこの船かは、分かりません」

「木造の古い作りの帆船だ。トーセル島国の船は無事の帰島を祈って緑色の葉の絵が描かれた旗を掲げていると聞いた」


 思い返せば、あったような。

 私がうなずけば、トルグ様は手で目元を覆うようにして息をつきました。


「あの……」

「倒れていたテレシーを港の保安所に運んでくれた親切な人が、連れの少年は喜んで船に乗り込んでいったのを見たそうだ」

「そんなわけありません!」

「そうじゃろうな。タケユキが倒れているテレシーを放って何処かへ行くはずがないじゃろう。まして、それがトーセル島国など……」


 オーリー先生までため息を。あれ? でもなんだか先生だけ雰囲気が違う?

 私が首を傾げる間もなく、トルグ様は真剣な目で私に向き直りました。


「いいか、ここからは心して聞いてほしい」

「は、はい」

「タケユキの乗ったその船は、出向して間もなく……謎の出火で海に沈んでしまったらしい」


 ヒュッ、と音が鳴りました。私の吸った息です。


「救助された船員の話では、彼が海に沈んでいくのを見たと……」

「そ、そんなっ」

「大丈夫よテレシー、沿岸兵士が探してくれているわ。きっと、きっと無事で見つかるはずよっ」

「ミリネラ」

「でも、トルグ……」


 私を慰めようとしてくれたミリネラ様に、トルグ様が首を振ります。まるで絶望的とでも言うように……


「そんな、こと……タケユキさんは……」


 ──生キテオルワ。愚カ者。


 頭の奥で聞こえる声。聞き覚えがある、大人の男の人の声。

 バッ、と自分の両手を見ます。

 あの日見た光景が、目の中にまざまざと蘇ります。あれは、あの船に火を放ったのは──


「あ、あなた、あなたのせいで、タケユキさんがっ‼」

「テレシー?」


 ミリネラ様が心配そうに肩に手を置きました。

 でも、今はその気遣いに応えていられません。


「あなたが船に火をつけたんでしょ!? どうして!?」


 自分の手に向かって叫べば、トルグ様が席を立ちました。


「どうしたんだ? テレシー」


 ──マッタク、愚カナモノダ──生キテオルト言ッテオルノニ


「い、生きて?」


 ──話ニクイ。神石ト魔石ヲモテ。サスレバ全テヲ話セル


「テレシー? どうしたの? どこか苦しいの?」

「あの、ミリネラ様、トルグ様、神石と魔石を貸してください」

「そんなもの、どうするんだ?」

「頭の中で変な声がするんです。石を持って来いって」

「むっ!? それはタケユキの声か!?」


 オーリー先生まで立ち上がりました。私はブンブンと首を振ります。


「あんな綺麗な声ではありません。軽薄で頭の悪そうな、とても耳触りな声です」


 ──シツレイナッ‼


 と、声はまた叫びます。うるさいです。


「でもその声は、タケユキさんの安否がわかると言っています」

「うむ、よくわからんが。トルグ、ミリネラ、神石と魔石を用意してやりなさい」

「先生、ですが……」

「物は試しじゃ。テレシーの言う通りにしてみなさい」


 ──頭ノ柔軟ナ老学者ダ。タワケ者ノ我ガ父トハ違ウナ、褒メテヤロウ。


 何様ですか。

 嫌な声にイライラしながら待っていれば、ミリネラ様たちが石を持って来てくれました。それを目にした途端、両手が勝手に動いて右手に神石、左手に魔石を取りました。


 ──我ニ意識ヲ寄セロ


 意識を寄せるとは、なんですか?


 ──トリアエズ無心ニ、イヤ、我ガ妻タケユキニ思イヲ馳セロ。


 それなら出来ます。というか、妻って何ですか!? 訳がわかりません。まあ、今はいいです。私はひとつ深呼吸をして、願います。


 タケユキさん、どうかご無事で──……


 祈った瞬間、石を持った両手が勝手に持ち上がり人差し指がくるりと絵を描きます。そして、あの時と同じように唇が勝手に動き声を発しました。


「神属性魔法陣、魂への干渉。魔属性魔法陣、音を成せ」


 魔法陣が現れ、重なります。そして──


『はははっ、やっと自分の声で話せるな。耳障り耳障りと煩く言っておるが、それはお前が我が声に耳を傾けんからだ。愚か者め』


「魔法陣!?」

「魔法陣から声が!?」


 ミリネラ様もトルグ様も、そしてオーリー先生も驚いています。当然、私もビックリです。


『ふむ。まずは自己紹介が必要かな? 我こそが偉大なる魔法陣の賢者、テルセゼウラ王国第三王子シュザージだ』

「なんじゃと!? タケユキが言っていた、白骨バカ王子か!?」


 タケユキさん、ぴったりな呼び名じゃないかと思います。


『辛辣な。だが、それもまたいい。そんな突き放した言葉も愛しく思う』

「何を言ってるんですか? そもそもあなたはなんなんですか? なんで私の頭に話しかけたんですか? ハッ、それより何より、タケユキさんは本当に無事なんですね!? どこにいるんですか!? 場所がわかれば助けに行きます‼」

『まとめて尋ねるな、愚か者』


 何をのんきに呆れているんですか!?

 こっちは必死なのに‼


『名は名乗ったであろう。我は偉大なる魔法陣の賢者、テルセゼウラ王国第三王子シュザージ。タケユキは我が召喚せし花嫁だ、召喚主である我にはその生死も居所もわかる。今は……西南の方向に向かっているな』

「西南?」

「トーセル島国はほぼ真南のはずじゃ、西南といえば……」

「まさか、オンタルダ帝国!?」


 先生とトルグ様の推察は正しかったようで、魔法陣からは『うむ』と返事が帰ります。


『チッ、帝国はまだ健在なのか。忌々しい、害しかなさん愚帝が好き勝手している国などさっさとくたばっていれば良いものを』


 随分な言いようですが、そんなことより──


「本当に、タケユキさんは生きているのですね?」

『ああ。間違いなく健在だ』


 やっと、ホッとして息がつけました。

 なんだか涙が溢れそうです。


「それで、その、王子様はなぜテレシーに声をかけたのですか? この魔法陣を描かせたのも貴方なのですよね?」


 ミリネラ様が私の肩に手を置いて、守るようにして魔法陣に話しかけました。


『それを話せば長くなるが──……花嫁召喚の際、魔法陣の発動に必要な力が予想を遥かに超えてしまってな。まずいと思って即座に魂に己の記憶を植え付ける魔法陣を描いたのだ。そして今に至る』

「……意味がわかりません」

「まっ、まさか、それはつまりテレシーはシュザージ王子の生まれ変わり、じゃと?」

『そう言っておる』


 オーリー先生がとんでもないことを言いました。魔法陣の声はそれを肯定します。


『私は何度目かの転生を得てこの娘に生まれ変わり、我が花嫁との邂逅により完全に目覚めた。詰まるところ、この娘と我は一体の存在だ』


 それって、つまり、タケユキさんを妻と呼び、訳もわからず火を放ったり悪態ついたりするヘンテコな男がずっと、ずっとずっと私の中にいてこれからもいると……?


「イっ、イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっっ‼」

『まっ、待て! 卒倒するな‼ 魔法陣が解け──……』

「テレシーっ!?」

「テレシー! しっかりして‼」


 全身全霊で拒否した私は、そのまま倒れてしまいました。

 ついさっきまで二日も寝込んでいたというのに、その後また丸一日寝込んでしまったのです。


 タケユキさん、ごめんなさい。無事でいてください。


 必ず、必ず助けに行きますから!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ