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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第一章 運命の人
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第二十三話


 目が覚めたらまた知らない天井だった。


 なんだかこの世界に来てから度々、ぶっ倒れてはこんな目覚め方してる気がする。

 ただ、そばに人の気配がするのでそっと目を閉じて耳を澄ますことにした。


「……私の船が近くにあってよかったわ。まさか術を放たれるなんて思わなかったもの。あれって神術よね? 中位くらいの」

「魔力の波動も感じた。複合術か」

「そう言えば、この子を保護してた学者先生がそんな研究してたわね。いろいろ調べはしたけど、あそこまで完成された複合術があるなんて聞いてないわ。それにあの女の子はただの小間使いでしょ?」


 小間使い……テレシー?

 そうだ、テレシーは無事なのか!?


「起きたのか」


 低い声がこっちに向かって発せられたのが分かった。

 テレシーの話を聞いて身動ぎしてしまった。

 仕方がないから目を開ける。

 そして、目の前のかっこいい魔王さんを睨んだ。

 半身起き上がれば、ここが窓もない薄暗い部屋だとわかる。扉がひとつ、左右の壁には青白い光を放つランプ。大きめのベッドとシンプルな家具が少し。そして、床に敷かれた寝床とその周りにひと抱えありそうな大きな白い石と、大小様々な黒い石がぐるりと円を描いて置かれている。


 大きい神石が四つとたくさんの魔石?


 ざっと周りを確認したらまた魔王さんを睨んだ。ついでに、その隣に立っている女の子も。着替えたのか、フードはなくてお嬢様みたいな白い服を着ていた。魔王さんに似た黒い髪をポニーテールにした勝気な感じの子。

 そんな女の子が、にまっと笑う。


「あなたが何者か知らないけど、逃げられると思わないでね。あるだけの石を使って封印結界を張ってあるのよ。街じゃてこずっちゃったけど、もう失敗しないわ」


 彼女がそう言った時、くらりと体が揺れた。

 なんだか気持ち悪い。まるで部屋全体が揺れているみたいにクラクラする。これが封印結界?


「おとなしくしていてね。これ以上無体を敷いて弱らせたくないの。こころよく私たちの願いを聞いて欲しいしね」


 よくもそんなこと言える。

 無理やり攫って来ておいて。

 絶対逃げる。

 テレシーが心配だし、心配してくれていると思う。じーさん先生もミリネラさんもトルグさんも──……

 けど、目眩が治らないと本当に力がでない。

 どうしたらいいかと頭を巡らせていたら、女の子がくすりと笑って話を続けた。


「私たちに力を貸してほしいのよ。この世界すべての魔属のために!」


 ……え?


 魔族? いや魔属性か。もしかして本当に世界征服でもするつもりなの!? 魔王さん!

 

 魔王さんを見たら、相変わらずこっちを睨んでいた。睨み返して心を探ってみたけど……読めない?

 なんで? 精神防御してる? ばーちゃんの心読もうとしたらだいたい阻害されたから、魔王さんもそれをしてるのか?

 女の子の方はどうだろう。試しにそっちに意識を向けた。


『うふふん、カッコよく見えたかな。いけないいけない、あんまり勝手なこと言ったらお姉様たちに怒られる』


 読めた。

 この子は普通の子かな。この世界基準でどうかわからないけど。術士みたいだし。


「じゃあ、私は上に行って船長たちと今後のことを話してくるわ。お兄様はここにいてね」

『カトリーネお姉様とリドルカお兄様を迎えに来たという体裁で私が来たのに、このままこの子を連れて帰ったらまた船を出さなくちゃならなくなるもの。偽装船は沈められちゃったし』


 大きくため息をついて、女の子は兄の返事も聞かずに出て行った。

 あれ? 魔王様自らこんなところで見張り番?


 って、今、船って言った!?


 ここってもしかして船の中!?

 そう言えば「私の船があって」とか言ってたっけ。船か、初めて乗った。せっかく初めて乗った船がこんなのってひどいと思う。いつか乗ってみたいって楽しみにしてたのに残念すぎる。

 と、言うことは……揺れを感じているのは俺の能力が封印されて弱っているから、じゃなくて部屋そのものが揺れてるから? 使えないって思ったのは気のせいだったのか。普通にテレパシーはできてたし。


 もしかして、逃げようと思えば逃げられる?


 目を閉じて、いつものように心を鎮めて遠見する。おおっ、海が見えた。四方八方海だ。陸はどっちかわからないけど遠見で見える範囲に跳んでから陸が見えるまで上昇すればいいか。

 うーん、そうなるとせっかく魔王さんと接触できたんだからもうちょっと情報を持って帰る方がいいかもな。前はすぐに逃げちゃって何もわからないままだったからじーさん先生を悩ませただけになっちゃったし。

 よし、何か聞き出そう。

 けど……世界征服はどうやってするんですかとか、兵力とかどこまで勢力伸ばしてますかとか、ずばり聞いても答えてくれないよね。

 別の話から誘導して情報を引き出す?

 できるかな、俺にそんな芸当。

 魔王さん、さっきからじっとこっちを見て立ってるだけで何にもしないし言わないし。

 話しかけてみる? とりあえず当たり障りのない話で。

 こうゆう時は共通の話題をふって会話を引き出すんだっけ? 中学に入る前にじーちゃんが言ってたような気がする。あの時はうまくいかなかったけど……

 共通の話題、か。


「あの、さっきの子は妹さんなんですね。俺にも妹がいます。強がって張り切ろうとするところは似てます」

「………………」


 あれ? 失敗かな?


「妹の名前は小菊です。あの子の名前はなんですか?」

「………………」

「あなたの名前はリドルカさんですね? 俺は竹雪です。えっと、お姉さんの名前はカトリーネさんで、みなさんオンタルダ帝国の皇帝さんのご兄弟なんですよね?」

「………………」


 答えてくれないよ。

 相変わらず心の声もないし。

 身内の話から入り込むのは失礼だったかな。

 空を飛んだ話とかなら楽しい話かな。いや、あの時は怖がって逃げちゃったから印象悪いかも。

 悩んでたら床が揺れた。

 船の……中か。


「ちぇ……せっかく船に乗れたのに。楽しくない」


 なんかするっと愚痴が出た。

 もう、面倒だから逃げようか。


「船など、楽しいものではない」


 返事!? 共通の話題だけど違う意見の返事が来た。どうしよう、肯定した方がいい? でもさ──


「俺は、船に乗ったことないから楽しみにしてたんです。甲板で、風を浴びると気持ちいいよって、弟が言ってたし」

「……弟も、いるのか」

「はい。修学旅行で船に乗ったって自慢されて、俺も乗ってみたいなってずっと思ってたんです」

「…………弟」


 あれ? もしかして皇帝兄弟は他にもいるのかな?


「弟さんが、いるのですか?」

「生きているのは八人」


 そんなに!? しかも生きているのって!? ああ、医療技術が悪かった頃は子供は育ちにくかったって聞いた気がする。お父さんが皇帝さんだったわけだし、側室さんとかいっぱいいて子沢山だったのかな。


「俺は弟一人に妹一人です。元気で、会えばいつもいろんな所へ行った話をしてくれました。俺は故郷の家からほとんど出られなかったから、話を聞くのはうれしかったです。羨ましくも、あったけど」

「…………」


 ああ、また黙り込んじゃった。

 やっぱり身内の話ばかりじゃダメなのか。でも、俺は他の話題あんまり思いつかないし。じーさん先生ん家のことはまだ話せるほど知らないし。話しちゃまずいかもしれないし。


「……逃げるな」

「え?」


 唐突に釘を刺された。俺の能力、封じられてないことバレてる?

 立ちっぱなしだった魔王さんが、突然手を伸ばしてきたので封じられてるフリをしてじっとしてたら抱き上げられた。

 封印の石の輪から出ちゃったけど、いいの?


「逃げれば追って、殺す。あの時は下に街があったから攻撃は控えざるを得なかったが、今は違う」


 大海原ですもんね。

 すごく本気な目で睨まれて身がすくんだ。

 本当に逃げられそうにない。まさに今、その腕に捕まっている状態だ。

 魔王さんは俺を抱き抱えたまま部屋を出た。揺れる通路を歩くとすれ違った船員さん? が、何人かびっくりして飛び退いた。そして、階段を上がる。


「わあ……」


 広い甲板の上。水平線が見えた。空は青くて薄い雲がちらほら流れていく。

 風が気持ちいい。

 自然と顔が緩んでしまう。


「ありがとう、ございます」


 嬉しかったので礼を言ったら、相変わらずの顔で睨まれた。いや、これがこの人の素の表情なのか?

 

「お兄様ぁぁぁぁ‼」


 高い声が響いて、妹さんが駆けて来た。


「どうして船室から出てきたのですか!? その子まで連れ出して‼」

「船室は息苦しい」

「そう言って、馬車に嫌気がさしてふらふら飛んで面倒な子に会っちゃったんでしょ!? そのせいでこんなことになってるんですよ! 自重してよ!」

「飛びはせん。こいつが逃げなければな」


 もしかして飛びたいのかな。

 飛ぶの好きなのかな。

 気持ちはわかるけど、今は飛びません。飛んだら追撃されて殺される。まさかそれを狙って連れ出された?


「もう……」


 と、ため息をついた妹さんは突然ハッとして周りを見た。

 船長っぽい人がいて、仕事中の船員さんたちがいる。それがみんな青ざめている。


「皆の者、お兄様は平常です。恐れる事はありません、気を取られることなく自分の仕事に励むように」


 キリッと皇妹の顔でそう指示を出すと、船員たちはホッとして動き出した。まだ顔は強張っているけど。

 魔王さん、何したの?

 こっちを向き直った妹さんは「ふう」とまた息をついて妹の顔になった。


「ちょっとだけですよお兄様。私じゃカトリーネお姉様みたいにできないんですから」


 肩を竦めて困った顔をし、それだけ言うと船長の方へ戻っていく。

 魔王さん……リドルカさんは、少しだけ甲板でたたずむとすぐに俺を抱えたまま船室に戻った。


 その後も、結局逃げ出す隙は見いだせなかった。

 はじめの考えで逃げ出していたら、嬉々として追ってきたリドルカさんに殺されてたんだろうなと思うと、他に手立てが思いつかなかったんだ。

 ごめんなさい、じーさん先生、ミリネラさん、トルグさん……テレシー



 そうして、船に揺られること数日。

 オンタルダ帝国に着いてしまった。



第一章はここまでです。

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