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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第一章 運命の人
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第二十話

 それは、皇帝の弟妹殿下たちが旅立って数日したある日のこと。 


「市場へ、行く?」

「はい、今日は街の市場に飴屋さんが出てる日なんです。よければ、その、一緒に行きませんか?」


 テレシーが、なぜか挙動不審に視線をふらふらさせながら言ってきた。

 飴屋さんとは? まんま飴ちゃんを売ってる店かな?

 甘いものが食べたくて夢にまで見たとか言ってたし、飴ちゃん一個じゃ足りなかったのか。それが恥ずかしくてもじもじしてるのかな。


「危なくない? また変な騎士とかに絡まれないかな」

「ふふっ大丈夫よ。こないだの神属騎士は謹慎処分で騎士舎に閉じ込められてるそうだし、一応テレシーには魔石と神石を両方持たせておくから」


 そう言ったのはミリネラさん。

 おかしいな。テレシーはどちらも術は使えないんじゃなかったっけ?

 ミリネラさんはクスクス笑う。

 理由を教えてくれたのはトルグさんだ。


「懲罰を喰らった騎士の話は広まっているから、騎士や兵士で君たちにちょっかいをかけて来る者はいまい。いたとしたら町のゴロツキくらいだろうが──」

「危険じゃないですか」

「その程度の者なら、魔石か神石を見せつければ引く」


 そうなのかな。むしろ取り上げようと襲ってこないかな。

 魔石は小さいものなら森とか川とかで取れると聞いたけど、神石は取れるところが限られていて小さくても高いはず。


「そこまで心配せんで良いよ、タケユキ。術石を持っていれば術者の関係者だとわかる。手を出せば術者から報復があることも知っておる。まあ、よほどの馬鹿者か上位の術関係者でなければな」


 よほどの馬鹿がいたらどうするんだろう。

 上位者というのはこないだの騎士みたいなものだろうし、騎士でなくても術者はいっぱいいるはずだし。


「タケユキは心配性じゃのう」

『今なら、危惧していた帝国の弟妹たちもおらんし。市民の市場に上位の術士がうろうろすることなどまずない。ほとんどが貴族じゃからのう』


 テレパシーでまで補完された。

 目配せされたから聞いたけど、聞いてなかったらちょっと恥ずかしいよじーさん先生。

 

「タケユキ。テレシーと一緒に飴屋さんに行ってあげてちょうだい」

「昼時の市場は人通りも多いし、家からそう遠くもない。ついて行ってやってくれないか」

「ついでにわしにも細工飴を買って来てくれんかのう」


 お使いを頼まれてお金まで渡されてしまった。

 ここまで言われたら仕方ない。


「わかりました」


 なぜか微笑ましく笑っているじーさん先生とミリネラさんとトルグさん。テレシーは満面の笑みだ。そんなにおいしい飴屋さんなのか。



 そんな感じで今日はお出かけすることになった。


 よくよく考えたらちゃんと街へ出るのは初めてだ。

 旅の道中立ち寄った町はあったけどほとんど宿にしかいなかったし、お屋敷に来てからもゆっくり外を見て回る余裕はなかった。空を飛んだら失敗したし、連行された件は論外だろう。


 テレシーが一緒だし、みんなが大丈夫って言うなら……

 うん、行ってみたいな。街。

 

 門前で見送られて街へ向かう。

 なんだかみんな楽しそうだ。テレシーも楽しそうだ。

 テレシーはいつもと違う華やかな服を着ている。

 高価な神石を持っていてもおかしくない装いにしたのかな。ああ、それともおしゃれってやつかな。街へ行くから。

 どっちか聞いてみたいけど、昔一度似たようなこと聞いて母さんと妹に呆れられたことがあった気がする。止めておこう。


「あの、すみませんタケユキさん。なんだか無理に付き合わせてしまいました?」


 考え事をしていたら、テレシーが申し訳なさそうに聞いてきた。

 せっかく楽しみにしていた飴屋さんなのに、そんな顔させたらこっちが申し訳ない。


「街は初めて行くから、楽しみです」


 笑ったらテレシーも笑った。


「あの、タケユキさん。もうちょっと砕けた話し方でもいいですよ。私は小間使いですし」

「砕けた?」

「ヤッホー街だぜー、遊び倒すぞー、とか」

「……砕けた言葉、覚え直すのが大変そうです」

「そう、ですね」


 言葉はどこでも奥が深い。

 それはともかく、街までの道行きはまったりとした話をなれた言葉で話すことになった。

 テレシーのいつもの仕事のこととか、俺が先生たちに習いながら研究の手伝いができるようになったとか。まあ、魔石の管理とか書類の整理とかがほとんどだからテレシーの方がベテランだけど。

 今日はいい天気。

 じーさん先生のお屋敷は高台の住宅地にあるので、商店のある街まで行くには少しある。けど、ぽかぽかした散歩日和なので何気に歩くだけでなかなか楽しい。


「あれが市場です!」


 街に入ってしばらくしたら広場のような所に出た。木枠を立て日除けの布を貼っただけの店がいくつも並び、人々が行き交い、賑やかな声があっちこっちから聞こえる。

 お店を見渡し、あれやこれやと話をしながら俺たちは歩く。野菜やお肉や食べ物関係から、装飾品や雑貨など、いろいろあって面白い。

 そうしてしばらく行くと、石組みに囲われた泉のあるひらけた場所に出た。

 子供や女の人が中心に人だかりができていて、手に手に可愛い飴細工を持っているのが見えた。


「あれが飴屋さんです!」


 目を輝かせるテレシー。

 ちょっと笑ってしまった。


 列ができていたのでそれに並ぶ。飴屋さんは人の良さそうなおじさんで、手押し車に乗せた道具を使って飴細工を作っている。その横に置いた小さなテーブルで瓶詰めの飴を売っているのは奥さんだろうか。ニコニコ笑ってお客さんに対応している。


「ほい、次のじょーちゃんは何にする?」


 テレシーの番が来た。

 荷台には見本が刺してあって、鳥や動物、花の形や魚もある。すぐそこに港もあるからか船の形なんかもある。色はみんなべっこう飴みたいだけど。


「どれにしようか、うーん、小鳥の形で!」

「あいよ」


 手際良く飴を練って形を作っていく飴屋さん。出来上がったかわいい小鳥の飴を手渡され、嬉しそうなテレシー。勘定は奥さんの方でするみたいだ。


「にーちゃんはどうする?」

「そっちの、瓶入った方ください」

「え!? タケユキさんは作ってもらわないんですか!?」

「持って帰るの大変そうだから。先生のお使いの飴は瓶入りの方がいいと思う」


 瓶入りの方には、可愛らしい形の飴がいくつか入ったものがある。なんとなくテレシーが作ってもらった小鳥に似た、小さい飴が入っている瓶を選んだ。


「タケユキさんは食べないんですか?」

「俺はお使いに来たわけだし」


 瓶詰めの細工飴を買ったらじーさん先生に渡されたお金ギリギリだ。安いシンプルな丸い飴もあったけど、じーさん先生は細工飴が欲しいと言ってたし。


「じゃ、じゃあ私がおごります! 前にもらったお礼ですから、遠慮しないでください!」


 その姿になんとなく弟を思い出した。お土産のケーキを弟が食べたそうにしてたから全部あげようとしたら「一緒に食べなきゃ意味ないだろ!」と叱られた。


「じゃあ、お願いします」

「はい!」


 なんか飴細工のおじさんもおばさんもニコニコしてる。並んでいるお客さんもまだいるんだし、俺もテレシーと同じものを頼んでささっと作ってもらった。


「えへへ」


 飴屋から離れて、泉の淵に腰掛けて飴をいただく。テレシーは念願叶ったせいかそれはもう嬉しそうだ。飴はこの世界でも甘くて美味しかった。

 ポケットには取っておきの飴ちゃんがまだ二つあるけど、あれはそのまま取っておこう。他で甘味が取れるなら、個包装の日持ちのする飴ちゃんはこのまま非常食でいいだろう。


「美味しいですね」

「うん。飴細工の飴は久しぶり」

「タケユキさんの故郷にもあったんですか?」

「うん、作った」

「作った!?」


 ばーちゃんに教わって作ったことがある。二人で気合の入ったすごい鳳凰を作ったらじーちゃんが「食えんだろうが!」と頭を抱えていた。


「タケユキさんは……お菓子まで作れるんですね」

「少しなら」


 はったい粉や片栗粉を練ったものはお菓子に入るかな。ばーちゃんは凝りだすとすごいケーキとか作ってたけど。俺は基本通りのものを少し作れるだけだ。

 近所にお店もなかったし、お菓子は基本作るものだったからなぁ。

 ちなみに、市販の飴ちゃんは母さんが送ってくる服とかの荷物にたいてい一緒に入ってた。

 

「私は、お茶を淹れるくらいしかできません……」

「テレシーの淹れてくれたお茶、美味しくて好きだよ」


 本当にそうなので褒めたらテレシーはボッと火がついたように赤くなった。


「あ、すっ、はわわわわわ」


 どうしたんだろう。褒められて照れているにしてはおかしくないか? 熱でも出たのか?


「大丈夫?」

「へっ? は、はははは、はい」

「帰った方がいい?」

「いえ! 本当に大丈夫ですから!」


 ビシッ、とテレシーが手を上げた時。

 市場の方からざわめきと叫び声が聞こえた。


「泥棒だーーっ‼」



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