第二話
女の子が駆けて来た方向に、女の子を背負って歩く。
小高い丘を一つ越えたところで、遠目に人が見えた。立っているのが四人と倒れているのが五人。倒れているのはさっきの盗賊っぽい男の仲間かな。立っているのは小綺麗な格好をした男女、それと皮と鉄でできたちょっとした鎧を身につけた男がふたり。武装をしている奴らは剣を手にしている。
剣かぁ……やっぱりファンタジーな異世界か。
いや、大昔の西洋ってこともなきにしろあらず?
どんな世界か確定できないので、できるだけ超能力は使わずにおこう。言葉がわからないのは困るからテレパシーは使うけど、バレないようにしなきゃね。
うーん。一対一なら心を読みつつ心で話し、口パクすることもできるけど。複数人がいるとちょっと無理。
さて、どうしたものか。
考えながら近づいて行けば、剣を持った二人がこっちに気がついて身構えた。俺はあえて陽気に手を振って見せた。そして、体を少し斜めにして背負った女の子を見せる。
『テレシー!?』
小綺麗な女性が叫んだ。
走り出そうとするのを武装した男の一人が止め、一人が剣を構えたままこっちに来る。
『お前は何者だ!? 彼女はどうした!』
と、言われたが。
実際に喋ってる言葉は知らない言葉なので、とりあえず何を言われているかわからないと首を傾げて丘の向こうを指差した。剣を構えた男は、俺を警戒したまま丘の上まで来て向こうを見る。
『盗賊どもが……』
これは声に出した言葉じゃない。けど、俺が何かしてこの娘を助けて連れてきた事は察してくれたかな。
俺はそのままゆっくり歩いて、さっきこの娘の名前を呼んだっぽい女性の近くまで来た。そこで女の子を下ろして、少し下がる。
『テレシー! 大丈夫!? しっかりして!』
駆け寄って小綺麗な女性が彼女を抱えおこし叫ぶ。その後ろには小綺麗な男性。
剣を持った男は俺の背後を警戒したままついて来て、正面の武装した方も用心したそぶりをしている。
小綺麗な男性が武装した男たちに声をかけた。
『そいつは、奴らの仲間じゃないのか?』
『いや、さっき襲ってきた盗賊どもの中には居なかった。それに丘の向こうに彼女を追って行った奴らが倒れているのが見えた』
『彼が助けてくれたのか?』
『……いやぁ』
背後に立つ男がうろんな目で俺を見ている。『こんな弱っちそうなのがあの盗賊を? いやぁ、それはないだろう』と心の中で呟いてる。悪かったね。
けど、そんな悪態は表に出さずにっこりと笑っておく。
『それより、隊長達と合流しなくては!』
『ああそうだ!』
『はっ! 先生は無事なのか!?』
そう言うと、小綺麗な男性がテレシーと呼ばれた女の子を抱き抱え歩き出す。小綺麗な女性はそれに寄り添うようについて行き、武装した二人は武器を手にしたまま辺りを警戒しながら一緒に進む。
とりあえず、俺はちょっと距離をとってついて行った。
程なく、平地の中に池があるのが見えてきた。そのそばには数本の木があり、幌馬車が止まっている。
更に近づけば、食器が散乱し鍋がひっくり返っているのがわかった。
ここで休憩し食事をしていた所を襲われたのかな。
『おーい、おまえら無事かー!』
来た方向と反対の丘に大柄な男が手を振っていた。その後ろに、年配の男性を背負った武装してない大柄な男。さらにその後ろに剣を構えた男が一人。
『隊長! こっちは無事です』
『オーリー先生! ご無事ですか!?』
『おお、トルグ、ミリネラ、お前たちも無事か。小間使いの嬢ちゃんは?』
『テレシーも無事ですっ』
武装してない人達が、合流して手に手を合わせて喜び合う。 武装してる人たちも警戒は解かないまま合流して話を始めた。
『盗賊は?』
『マリータ夫妻を追いかけて来きた奴らは斬り伏せました。すぐに小間使いのお嬢ちゃんの方へ向かおうとしたら──』
武装集団が揃ってこっちを見た。
『誰だ?』
『わかりません。ただ、小間使いの嬢ちゃんを助けて盗賊を仕留めてくれたようです』
仕留めてないよ。石で殴ったけど死んではいない。
言った方が良いのか? でも言葉わからないことにするって決めたし。とりあえず首を傾げておこう。
『そうか。盗賊の大将には逃げられちまった。用心深いのか、奴だけは馬に乗ってたからな……』
はあ、と隊長と呼ばれた男が息をつく。そして小綺麗集団に向き直った。
『皆さん、ここはすぐに町に戻る方がいいでしょう』
『なっ、なぜじゃ!? 滅びの都はすぐ目の前なんじゃぞ!』
……滅びの都。
すごい名前が出た。
まず間違いなく、あの城のある町のことだよな。
『他にも盗賊がいるかもしれません。この先は森もあるし、囲まれたら厄介です。一度戻って体制を立て直し、護衛を増やしてから再度挑戦していただきたい』
『うぬぬぅぅ』
しょうがないよな。って、このじーさんもわかってはいるみたいだ。けど諦め切れない念もモヤモヤと漂っている。
『魔王について何かわかるやもしれんのに。できれば伝承にある魔法陣が、本当にあるかだけでも確認したかったのじゃが──』
……え? 魔王、ですか?




