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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第八章 君の世界
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第百八十八話


「ナルディエ神王国、次代神王候補ティーム殿。並びにその……御一行。ご入場」


 ちょっと口籠っちゃった呼び出し係の官司さん。

 その視線の方から、一人の少年がナルディエ代表の官司と一緒に入って来た。

 少し灰色がかった白い髪と、紫と言うには青味が強い目。十三歳にしては背が高いかな。ひょろっとしていて、視線を彷徨わせないようにしてるけど周りが気になって仕方ない、みたいな顔になってる。つまり無茶苦茶緊張しているようだ。

 その後ろから、ぞろぞろ入ってきたのは下位貴族二人とおっちゃんあんちゃんの集団が十五人。多いね。こっちは遠慮なくキョロキョロしてるよ、緊張はしてるみたいだけど、気合でごまかしている感じ。

 そんな集団の一番後ろに、不自然なく紛れている人がちらっとこっちを見て笑ったよ。クレオさんてば、当たり前のようにそっちに混じって帰ってきたよ。

 シュザージもテレシーも吹き出さないように小さく笑う。

 謁見の間にいる貴族や次代たちは無礼な集団にドン引きで、クレオさんには気がついてないね。


 ナルディエ代表官司が手振りで全員をひざまづかせて、自身もひざまづいた。

 庶子王子は正式にはナルディエの王子ですらないんだからね。

 こんな場では跪かなきゃならない。

 本人は理解してるけど、おっちゃんたちはぶちぶち言ってる。


「なんで俺らの大将がひざまづくんだよ」「あいつらと同じ王子様だろ?」「真ん中の小さいの、大将よりちびじゃねえ?」「色っぽい姉ちゃんもいるな」だって。口の中だけで呟くような小声だけど、ここにいる神術士たちはみんな聞き取っているよ。きっと心の中もダダ漏れだ。

 そんな中でも、庶子王子は特に心の声が大きかった。

 聞きたいことがあって、それをずっと訴えている。

 周りが神術士だらけと知っての行動かもしれないけどね。


「ラスタル在中官司代表とナルディエから来た者の代表者の起立を認める」


 ウィラくんたちの台座のすぐそばにいるスタングさんが声をかけた。爺やさんじゃないんだね。爺やさんはラスタル神王のところにいるみたいだ。

 

 起立を認められた庶子王子は、ゆっくり顔を上げて立ち上がった。「あの」と声を上げようとして、官司代表に「まだです」と咎められた。

 それを見て、ウィラくんが小さく深呼吸して声を上げた。


「話を聞こう、そのためにこの場を設けた。私はラスタル神王国次代神王ウィラネルド。其方は次代ナルディエ神王になるためにここへ参ったのだな?」

「違います!」


 いきなり否定されてウィラくんちょっとびっくり。何を要求したいかは心の声を聞いてすでに知ってるだろうけど、剣幕に驚いてるよ。

 庶子王子は気にもとめずにに大きな声で続けて話す。


「ナルディエ神王国の第二王子の行方を知りませんか!? あいつ、あ、いえ、あの方は化物がラスタル神王国を襲うと考え、道々の村や町の者を逃しながらここへ向かったのです!」


 やっぱりそうなのか。

 この子は色々と知ってるね。この子の心を深く読んだら、第二王子とのやりとりが何度もリピートされていた。

 自分たちがあの子を神王にしようとして、そのせいで逃げ場をなくして化物の対応を押し付ける形になったことを、ものすごく悔いている。

 ウィラくん、ルーシラさん、モーリス王子辺りは、なんとなくでもその辺りまで読んでいると思う。

 でも、今は感情的な話は抜きだ。


「ラスタルには来ていない」


 庶子王子が真っ青になり、後はにわかにざわついた。


「ほらみろ、やっぱり逃げたんだ」「前神王のガキなんかそんなもんさ」と、またモゴモゴ言って代表官司に睨まれてる。いや、その子も前神王のお子さんでしょ? なんてツッコミは置いておこう。

 そんな中、ウィラくんはシュザージに視線を向けた。シュザージはうなずいて話を引き継ぐ。


「第二王子は、神降地山脈手前の荒野の近くで我々が保護した。今はある場所に預けてある」

「生きてるのか!?」


 ぶんっと首を振ってシュザージを見た庶子王子。

 後ろの連中はまた騒ぐけどね。荒野に逃げたと思ってるよ。

 シュザージはちゃんと教えてあげるよ。


「彼は少ない手勢とともに、自らが餌となって化物を荒野に誘導していた。我々が助けた時には意識がなく満身創痍で危うかった」


 その言葉に頷きながら、官司代表が続けた。


「すでに確認は取れています。ナルディエ北東、ラスタルまでの間にある村々のうち、神都に近い村や町のいくつかは化物に襲われ壊滅していますが、住人の半数は逃げ延びておりました。そのほとんどが、第二王子ガウロ殿下の指示で南を目指して避難したと証言しています」


 庶子王子の後ろでは「そんなばかな」とざわついてるけど、庶子王子は泣いていた。ほろほろほろほろ、涙をこぼして唇を噛んでいる。


「そ、そう、ですか。やっぱりガウロはすごいや。やっぱり、次のナルディエ神王はガウロしかいない!」

「そりゃないぜ大将!」

「それじゃあまた非道な神王に支配された国になっちまうよ!」

「そうだ! ナルディエは神王国をやめて俺たちの国にするんだろ!?」

「民のための民の国に!」


 神王の役目って、国の人は知らないものなんだろうか。

 一度火がついたおっさんどもは大声をあげ、謁見の間に配置されている騎士が身構えた。

 そこに響いたさらなる怒声。


「愚か者! 神王国は神より神石をいただく神の子の住う国だ! 貴様らはそこに住まわせてもらっているに過ぎんのに、なんという暴言! 神王の元で生きるのが嫌なら勝手に出て行け!」


 立ち上がって叫んだのは、なんとウィラくん。

 そういえば、ウィラくんはキレる時はキレる子だった。

 その勢いに気圧されるおっさん集団。

 そこに今度は大きなため息。


「ナルディエ神王国は民の教育もなっていないわね。ウェルペティでは神王のおかげで神石がもたらされ、国が潤っていることを皆が知っているわ」


 追い討ちをかけるのはルーシラさん。


「やはり、今のナルディエには教育を受けた神王が必要だ。野育ちの庶子や民に恨まれ嫌われている者より、其方の従兄弟殿を遣わせた方がよほど良い国になるだろう」


 さらなる追撃、モーリス王子。

 そういえばラスタル従兄弟は神の子ミックスでナルディエ神王一族の血も引いてたっけ。

 庶子王子の心にもそれがよぎった。

 ナルディエの王妃様たちはそれを知ってて、今後のナルディエを他の神王国の判断に託したようだ。この子と同じく、第二王子に責任を負わせたことを後悔して。

 だからと言って、他所の人に面倒ごとを押し付けちゃダメだよ。

 台座の下に控えているスタングさんの顔には、頑として『行かない』と書いてある。そんなとこに行くくらいならテルセゼウラに来て欲しいし、ウィラくんだって『あげない』と顔をしかめる。

 心の中でシュザージが「これは演技だ」と教えてくれた。シュザージだって同意見だったよ。当然か。


 さて、これに庶子王子はどう答えるか。


 その答えを引き出すための演技らしい。

 困難を押し付けたと悔いていながら、悪評が立ったまま第二王子を神王にするのか。

 ラスタル神王国の介入が深くなるのを承知で、ラスタルの者に王位を譲るのか。

 それとも、自身が神王となり国を率いるか。


 ウィラくんとスタングさん、俺たち以外はどれでもいいと思っている。早く方針を決めて、ナルディエの意思で国の立て直しを進めて欲しいのが本音だ。


 謁見の間は静まり返った。

 みんな庶子王子の答えを待っている。

 

 庶子王子の荒くれ配下は、それ次第で暴れてやると思っている者もいる。


 そして、ひっそりそれらが暴れるのを待っている者もいる。


 みーつけた。バロウの刺客。五人いた。


 もちろんリドルカさんとシュザージ、テレシーにも伝えたよ。でも、あいつらを含めて、脅すのは俺の役目だよ。


「お、俺は──」


 と、庶子王子が口を開いた時。背後の下位貴族の一人がそっと服の端に手を当てた。その瞬間、俺はその手を引っ張り上げてそいつを浮かせた。そいつは「ヒイッ!?」と声を上げたし、おっさんたちは尻餅ついて驚いた。

 手を当てたあたりに隠しポケットがあるね。面倒だから服ごとその辺りを裂けば、コロリと落ちた神石。それは次第に紫に変わっていく。

 それを即座に結界で閉じ込めて、みんなに見えるように空中へ。


「紫神石!?」


 真っ青になって叫んだのはナルディエの代表官司だ。武器も神石も取り上げて武装解除したはずがまだ隠し持っていたことに驚き、さらに責任を追及されたり黒幕と疑われたりしないかとすごい速さで考えてるけどそれはいい。

 紫神石に動揺した瞬間を見逃すまいと、動いたバロウの刺客も宙に浮かせた。


「きゃあっ」

「うわっ」

「なんですかこれは!?」


 廊下の警護をしていた騎士がふたりと、室内で控えていた侍女二人、それと末端の大臣が一人。みんなナルディエの庶民じゃなくてラスタルの人間になりすましていたよ。

 

「助けてくださいウィラネルド殿下!」


 悲壮な声を上げた侍女のスカートを裂いたら暗器がゴトっと下に落ちた。ちなみにこの人女装男子だ。ついでだから他の暗殺者の武器も引っ張り出して落としてやった。

 

 みんな、何が起こっているか分からなくて驚いてる。おっさんの何人かは庶子王子を守る形になってて感心したよ。次代三人の視線はおっちゃんたちの勇姿じゃなく俺に向いてるけどね。

 さて、とどめに一番怖い脅しをかけよう。


 この世界の人が一番怖がるやつ。


 俺は浮かせた連中を紫神石の周りに寄せた。化物がどうやってできたか知っているのだろう、大臣に扮していた奴が悲鳴をあげた時。紫神石の結界を解いて、ヒビをいれた。同時にウィラくんたちにだけに結界を貼る。

 たぶん、それでいけると思う。

 奴はもう俺たちには手出ししないだろうからね。


 混乱し、宙を見上げた人たちの耳に響く水音。


 ピチャン、といつの間にかできた水たまりは、宙に浮く人たちの真下にあった。そこからにゅっと出て来た水の手に、この世界の人々は震え上がる。幾分慣れたウィラくんたちもだ。

 俺の伴侶たちはもう平気だけど。


 水の手は、空中の紫神石に手を伸ばそうとして、俺に気付いて手の平をこっちに向けてお辞儀した。だから俺は言ってやる。


「常世の泉。紫神石を使う人は、中に閉じ込められた魂ごと持ってってもいいよ。俺は止めない」


 泉の手は、パーっと指を開いて喜んだ。そしてそのまま巨大化する。

 むくむくむくと、あの世の水でできた水の手が、ぐるりと辺りを見渡した。ポタリと落ちた滴が、獲物を探す獣のよだれを彷彿させる。

 一斉に響き渡る叫声。


「ぎゃああああっ」

「助けて助けて助けてーーっ!」

「うわあああっ!」


 パニックになって走り出す人、床に伏して泣き出す人、泡食って気絶する人。阿鼻叫喚、さまざまだ。でも部屋から飛び出そうとした人はクレオさんが止めてくれたよ。クレオさんも内心ドキドキで心のお姫様もドキドキだったけど頑張ってくれた。

 逃げ道がないと知った人が暴れそうなら、俺がちょっと転ばしたけど。

 紫神石は持ってなくても、後ろ暗いことを考えてなくても、やっぱり常世の泉は怖いらしい。

 

「タケユキ殿! やりすぎだ、止めてくれ!」


 とうとうウィラくんまで叫び出したので、空中に上げた奴らを落とした。奴らはみんな水の手をすり抜けて床に落ちた。どたどたどたと。

 俺が指定したように、紫神石を使おうとした者以外は取らなかったらしい。

 て、あれ? じゃあ紫神石を持ってた人は?

 と思ったら、水の手はその人をつんつんとつついている。どうやらグレーゾーンで取っていいか迷ってるみたい。どんなつもりで使おうとしたのか心を読もうとしたけど、気絶しててできなかったよ。

 詳しいことは後で誰かが尋問するから、今はいいや。


 水の手は残念そうに、こっちを見た。


「ごめん、そいつは置いといて。でもね、この先、紫神石を作ったり使う人がいたら持ってっちゃっていいからね」


 それを聞いた水の手は、嬉しそうに手首を振った後。紫神石から魂を抜き出して、それだけ持って水たまりの中に帰っていった。


 またまた静まり返る、謁見の間。


 いや、あっちこっちからすすり泣きが聞こえる。あ、バロウの刺客たちは気絶せずにこっちを見てガクガクだ。


 俺は隣のテレシーを見て、その横のシュザージを見て、俺の横のリドルカさんを見た。


「どうかな? こんな感じで脅してみたけど」

「やりすぎだぁ! バカァ!」

 

 大声で答えたのはウィラくんだった。

 ルーシラさんもモーリス王子もぐったりしてヘロヘロになってた。


 でも、俺の伴侶たちは無言のまま頭を撫でてくれたよ。

 よかった。

 


 その後、謁見は中止になって翌日改めてやることになったらしい。


 おっちゃんたちは「神王一族、舐めてた。怖えよ」と言って大人しくなった。

 紫神石を持っていた下位貴族の低位神術士は、誰でも使える新しい神石だと、上司にお試しでもらったらしい。もらった時は白い上位神石に見えたとか。偽装された紫神石だったんだね。

 彼は、せっかくもらった高価な石だからいざという時使おうと隠し持っていて、無茶を言う次代たちの心を読んでみようとその石に手を触れたらしい。

 恐ろしい石だとは知らなかったらしいけど、その上司は何を考えて彼にそれを渡したのか。

 ナルディエ神王の側近だったらしいので、もういない人だから聞けないけどね。


 バロウの暗殺者たちはモーリス王子に寝返って恭順を申し出た。あんな怖いものが後ろ盾にあるなら弟王子が敵うわけないと。ついでに、弟王子にも諦めるよう報告してくれるんだって。

 ちなみに、投獄されていたバロウの黒の神使は死んでなかった。ナルディエの神使を真似て服を脱いで逃げたらしい。謁見に紛れ込んでいたうちの二人はそれらしいよ。後は神都に隠れてたので捕縛したって。

 ウィラくんを魔法陣の勇者と勘違いしてた時から思ってたけど、バロウの黒の神使はかなり抜けてるね。敵ならともかく、味方になるならもうちょっとなんとかして欲しい気もするよ。


 そして、ナルディエの庶子王子は神王の地位につくことを決めた。

 

「あれより怖いものなんか、他にあるか?」


 一日休む間に何かが突き抜けちゃったらしい。ついでに、ナルディエの官司から化物を倒したのが俺たちだと聞いてカラ笑いしてたって。

 

 ニーレおばちゃん見てたかな?

 あの子が元気になったなら、庶子王子には会わせてあげてもいいんじゃないかな。心底会いたがってたよ。



 こうして、一日伸びちゃった謁見も済ませた。

 でももうこれで、神王国の憂いはなくなったかな?

 細かく言えばまだまだだろうけど、それは神王国でなんとかするはずだ。俺も最後にばーちゃん式の脅しができてすっきりしたし。

 よかったよかった。



 そんなわけで、俺たちは明日、ラスタル神王国を立つことにした。



明日で最終回。


朝の九時・夕方の四時(最終回)・夜の六時(余談①)七時(余談②)

で、更新予定です。

最後までよろしくお願いします。

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