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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第八章 君の世界
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第百八十六話


 翌日の朝。


 いつもより早く朝食をいただいた後、何やら荷物を持たせた侍女を何人も連れてルーシラさんがやって来た。


「私、兄弟や従兄弟の衣装の着付けをして、いつも褒められていましたのよ。ぜひ手伝わせてくださらない?」


 にっこり笑ってそんなことを言う。

 前の謁見の時から、もっとこうすればいいのにと衣装の案を考えていたそうだ。それはいいよ。そういうの好きなことは別に悪くない。でも……


「ル……アデレイさん。どうしてこんなにドレスを持ってこられたのですか? 私のドレスはありますけど」


 テレシーが困ったように問えば、ルーシラさんはにっこり笑って俺を見た。

 まさか、俺の?


「ラステル神王一族の衣装倉庫には、素敵なドレスがいっぱいありましたの。ちゃんと男性用ですのよ。その中でタケユキさんに似合いそうなものを見繕ってきたのですが、いかがかしら?」

「いらない」


 と、即答したのに、シュザージもリドルカさんもテレシーまでもがものすごく残念そうな顔になる。ええ……


 結局、俺は三人の期待に押し負けて、ファッションショーをする羽目に。


「ほら、こんな組み合わせもいいでしょ?」

「素敵です! さっきのドレスもかわいらしかったけど、こっちもいいです!」

「うむ、私は最初のが良いな。今のも愛らしいが」

「どれも良かった」

「リドルカさん、ずるいです」

「そうだぞ。どれかひとつと言われたらどれだった?」


 ああ、リドルカさんが本気で悩みはじめちゃったよ……

 今着ているのはシンブルだけど繊細な飾りとリボンのドレス。さっきのがふわふわっとした八重咲きの花のようなドレス。最初のが前に着たスカートのアレンジ。

 こんなのでみんなが喜ぶならいいよ。我慢するよ。

 ルーシラさんもニコニコだ。

 そんなルーシラさんを見据えてシュザージが問う。


「それで、わざわざ朝からやってきてタケユキにこんな格好させる理由はなんだ?」

「あら、この謁見が終われば私もすぐにウェルペティに戻りますのよ。最後に楽しい思い出のひとつくらい作りたいじゃない」


 ふふふ、とそんなことを言うルーシラさんの目は俺を見て胸元を軽く叩いた。心を読めと?

 今はリドルカさんのおかげで疲れにくいからまあいいか。

 仕方なく、俺は二段階くらい深い心の奥を読む。


『タケユキさんを狙っている者がおりますの。モーリスからの伝言です』


 びっくりした。

 リドルカさんたちにも今の言葉は伝わってるから目つきが一瞬鋭くなった。

 この部屋は魔法陣で守られてるし、ルーシラさんの連れて来た侍女さんは厳選されて連れてこられたウェルペティの人だから大丈夫。それでも警戒して心で伝えてくるとは。


『相手はバロウでモーリスと次代争いをしている弟よ。化物退治の時にあなたを攫いに潜り込んでいたのだけど。アレを吹っ飛ばしたのもあなたではなくて?』


 はて。そんなのいたっけ?

 と、頭を捻って思い出した。黒の神使っぽいのがウィラくんたちとテレシーに襲い掛かろうとしてたっけ。あれってテレシーじゃなくて俺が狙いだったの? ウィラくんたちの方に行ったのはモーリス王子狙いか。大変な時だったからテレパシーも雑だったしちゃんと確かめてる暇もなかったから、とりあえずぶっ飛ばしたんだけど。悪意だけは感じたからね。


『あの時の者たちは吹っ飛ばされて気を失い、最後まで倒れていたのでモーリスが捕らえていたの。けれどそれが昨夜、何者かに消されていたのよ』

『消された?』

『牢屋には、衣服だけが落ちていたのよ』


 消されたって、そのままの意味なのか。

 宿場町でやったという、あれと同じ?

 リドルカさんもシュザージもテレシーも、思い出したみたい。

 心の中で会話する。


『口封じか? バロウの弟の手下と、既に知られているのに? わざわざ別の者が来て始末したのか?』

『タケユキに女装させるのは変装も兼ねているわけか。だが、フレンディスで女装姿を見てタケユキを女だと思っているなら、むしろ元のままの方が良いのでは?』

『なんだかややこしいことになっていますね。かわいらしいタケユキさんを見せてもらえたのはうしれしかったのですが』


 三人三様に心の中で首を傾げている。

 敵を混乱させる作戦かな?

 いや、どっちにしても──


「俺、こんな格好で人前になんか出ないよ」


 声に出して言いつつ、ドレスの端をぴっと持ち上げた。

 リドルカさんとシュザージとテレシーが喜んでくれるからやってるだけで、他の人に見せる気はない。


「それに、今日はどうせ暴れるんでしょう? 襲ってくるならやっつければいいんじゃないの?」


 シュザージに向かって言えば、シュザージも笑う。


「そうだな。ようは今日の謁見に来る平民どもの中に、其奴らが紛れていることを警戒しているのであろう? ならば、むしろ問題ない」


 今日、庶子王子と一緒にやってくる者たちは、ほとんどが平民なんだって。

 それ自体は別にいいんだけど、その人たちはフレンディス国もラスタル神王国のことも下に見ていて、保護を願ってフレンディスに来たはずなのにものすごく居丈高に振る舞ってたんだって。

 クレオさんの情報だよ。

 フレンディスの王様、よくブチ切れなかったね。

 と思ったら


『ナルディエ神王国の終焉の足掻きを見ることができて楽しかったと、せせら笑っておられたよ』


 だってさ。クレオさん談。

 で、今日の謁見でその人たちが何かやらかしたら、思い切り脅して反抗できなくしてやるつもりだってシュザージが言ってた。

 変なのが混じってても、一緒に脅せばいいってことだよね。

 シュザージが「くくっ」と笑う。


「クレオの話では、タチが悪いのは庶子王子ではなく周りだという話だが、配下を諫められないでは同じ話だ。ナルディエ神王国には、これ以上面倒ごとを起こさせんようにしっかり立場を思い知らさねばならん」


 そのために、次のトップになる王子とその取り巻きを脅しておくんだって。

 ばーちゃん式だね。

 でも、とテレシーが頬に手をやり困った顔。


「そうは言いますが、庶子王子はまだ十三歳なのでしょう?」

「ナルディエの王妃や実母、親戚縁者も一緒らしいが放置しているようだ。子供一人だと言うならともかく、保護者が同伴していてそのていたらくはどうかと思うぞ」


 保護者がいるのか。

 ウィラくんより小さい子が責任負わされているならほっとけないかもって思ったけど。いや、ウィラくんにもお父さんはいたね。保護者が重荷になっていたらどうしよう。


「まあ、私は十三の頃には、臣下に敬われて手足のように使っていたがな」

「シュザージの言う方々は、同じ趣向の魔法陣大好き臣下でしょう? 昨日の技師さんたちやクレオさんみたいなものです。庶子王子と状況がまるで違います」


 そうなのか。

 リドルカさんも十三歳くらいのことを思い出しているのか暗くなってた。辛いことを思い出す必要はないよ、とリドルカさんに肩を寄せてくっついたら少しだけ笑ってくれた。


「謁見に刺客が紛れ込んでいたとしても何の問題もない。安心されよ、アデレイ姫」

「……はあ、ならばお任せしますわ」


 シュザージにずばり言われ、せっかく言葉を隠して伝えたのに、と不満げだけどうなずくルーシラさん。優秀な侍女さんたちは、職分から外れることには口を挟むこともなく着替えた衣装の片付けを始めていた。

 外にも聞こえていないだろうし、近くに潜んで聞き耳立てている人も今のところいないから安心して欲しい。

 と、心の中で伝えたら、肩の力を抜いてまたまた「はぁ」と息をついたルーシラさん。


「なら次は、先日の謁見で着ていらっしゃった衣装の着付けを手直しさせていただけないかしら。もっとかっこよく……かわいらしくしてあげますわよ」


 女装はしなくていいらしい。

 小さな声でかわいらしくと付け足すように言ったけどね。

 かわいいはいらないけどかっこよくなら嬉しいな。

 仕事の速いテレシーは、いつの間にか衣装を持ってきて準備していた。

 テレシーってば。

 ルーシラさんの指示でまた、髪型や小物の付け方つける位置、色々といじられて出来上がった姿にテレシーもリドルカさんもシュザージも感心してくれたみたい。


「はう、素敵です。タケユキさん」

「うむ、これは良い」

「…………」


 リドルカさんも無言でうなずいてる。

 姿見で見せてもらったけど、なるほど。なんかかっこいい気がする。

 ルーシラさんも満足げだ。

 そんなルーシラさんは、キラリと目を光らせテレシーを見る。


「では次はテレシーさんね。タケユキさんと並んでもっと互いに引き立てる魅せ方を教えて差し上げますわ」


 テレシーがかわいく着飾るのは歓迎だ。テレシーも嬉しいらしく、いそいそと自分の衣装を持ってきたよ。

 そしてまた、ルーシラさんが侍女たちに指示してあれやこれやと言いながら、髪や化粧を整えていく。そうか、俺もあんな風にされてたのか。

 椅子に座って一息つきながらしばらく。


 仕上がったテレシーは美人さんだった。


 ふわふわしていた髪を上げて花の飾りでまとめた姿は、かわいい中にも大人っぽさも見える感じ。首元や腕飾りの装飾品が神王国風の白い単色だけど華やかで清楚な透かし彫り風になっていておしゃれだ。

 ただ、ちょっと不思議なのは首飾りとお揃いの腕飾りの手首付近。右手には神石がはまっているけど左手には石がない。入れるための枠があるだけ。たぶん、いつもつけてる魔石付き手袋の魔石を付け替えるだけでいい感じになってるのかな。

 ルーシラさんは「ふふふ」と笑う。


「それは、もともとお別れの際に渡そうと用意していたものなの。魔石を手に入れられなかったので、半端になってしまったけど」


 テルセゼウラ女王との友好の証に、とルーシラさんが微笑んだ。留学に向けての縁づくりの一環らしい。


「公式な場所に、庶民の身に付けるような手袋ではおかしいでしょう? 私の美的感覚で一番許せなかったのはここですもの。どうぞ、お納めくださいな」


 悪戯っぽく笑うルーシラさんに、テレシーも嬉しそうに笑った。そして両手の腕飾りを撫でた。


「ありがとうございます」

「うむ。確かに必要だな。今は手袋の石を付け替えるが、そのうち新しい石を用意しよう」


 シュザージも喜んでるよ。


「よかったね、テレシー。とても似合ってるよ」

「はい、ありがとうございます」


 そう言って、俺を見て笑うテレシーにドキっとした。

 髪を上げてるせいかな。いつもと同じ笑顔がなんだか違って見えた。

 ちょっとドキドキしてほっぺが熱くなる。

 

「えっ!? ええっ!? 私、この髪型の方がタケユキさんをドキドキさせられるのですか!?」


 ひゃーって、テレシーまで真っ赤になった。


「うん、なんかドキドキした。でも、いつものふわふわした髪が風になびいてるのを見るのもすごく好きだから、普段はそっちがいいな」

「はい!」


 テレシーの心が「妹から昇格!」と言って、なんだか音楽がかかってるみたいに賑やかだ。


「よかったな、テレシー。だが、恋愛幼児は手強そうだぞ」

「はい、シュザージ。ここから恋につながるよう努力します!」


 んん?

 どういう意味だろう。

 テレシーは俺のお嫁さんだよ?


 とりあえず、俺とテレシーの衣装は整った。

 シュザージの衣装は他の人にはいじれないし、リドルカさんはいじられるのが嫌だと断った。二人ともそのままでもかっこ良すぎるからこれ以上はいいと思う。テレシーだけでもいっぱいいっぱいなのにドキドキが大変なことになりそうだ。


「今回は私だけでいいと思います」


 と、テレシーも賛同してくれた。


 そうしている間に時間が経って、謁見の間に向かうことになった。



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