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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第八章 君の世界
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第百八十四話


 身支度して起き出して、廊下で待機している部屋付きの侍従さんに言って朝食をいただいた。

 病み上がりだからと、今日もコメのおかゆだ。わーい。


 食事をしながら、迷惑な詫びを入れにきた常世の泉の話も聞いた。

 あいつめ。

 詫び入れさせようとは思ったけど、そのせいでシュザージが大変なことになってたらしい。忙しくて。


「面倒だったが……神術の上限越えで起こる塵化に対応できる魔法陣がいくつかできた。あいつらを完全に人に戻すことはできないが、魔法陣内での人型の定着と神術による意思疎通ができるようにはした。これ以上は術道具がなければ無理だ」


 術道具があればもっと色々できたってこと?

 やっぱりすごいなシュザージは。

 テレシーも笑ってる。


「ナルディエの官司さんの中に身内の人がいたそうで、泣いて喜んでくれましたよ。メイリンク商国に伝手があって魔法陣維持に必要な魔石を取り寄せたり、その伝手をラスタルにも紹介してくれたり」


 そうなんだ。

 ナルディエの人達ってうるさいばかりかと思ってたけど、よく考えたら仕事が早いんだっけね。いの一番に黒の神使を派遣したり、人質にラスタル神王捕まえてたり、他国内で化物を発生させたり。悪い方に有能だった。

 神王国なのに魔石入手の伝手もあるなんて。やっぱり紫神石がらみの伝手かな? 複雑だね。


「ラスタルの術道具技師と協力して魔法陣に使える術道具の開発をしたいそうです。ラスタルの技師さんは嫌がってましたけど」


 魔落ちさせられた人もいたしね。

 魔石の確保ができるなら、と、渋々協力しているらしい。

 

「術道具研究も、やり始めたら楽しくて夢中になってしまうものだ。憎い相手でも使えるものは使えば良い」

「なるほど。好きなもののために頑張っているうちに打ち解けて、百年来の友人のような家族になるんですね」


 なんて言いながら、テレシーはシュザージを見てリドルカさんを見てうんうんとうなずいてた。


「……そんな都合のいいことは滅多なことでは起こりえん」


 ぷいとそっぽを向いたシュザージ。

 

 そんな感じで、寝込んでいる間にあったことをいろいろ聞いた。

 話を逸らすように、シュザージが塵人間の様子を見に行くと言うので俺も行くことにした。



 部屋を出て外へ出るためにお城の廊下をみんなで歩く。

 塵人間さんたちは神殿にいるそうだ。

 魔落ちから回復した人たちは、ナルディエの官司たちと一緒にナルディエのあちこちの都市の状態を調べたり、これからのことを話し合ったりしてるらしい。

 廊下を歩きつつ、そんな話を聞いていたら向こうからウィラくんとスタングさんが駆けて来た。

 どうやら朝食を摂ったという知らせを受けたみたい。


「目が覚めたのだな、タケユキ殿」

「おはようウィラくん、スタングさん。心配かけちゃった?」

「心配は心配だが、其方には特殊な……コホッ、素晴らしい伴侶が三人もいるからな」


 あはは、と笑うウィラくん。

 でも、その隣に立つスタングさんはキュッと口をひき結んだままシュザージを見てた。

 そういえば、スタングさんにも何かあるんだっけ。

 悲しげなスタングさんの姿に、ウィラくんはムッとする。


「そんな顔をするなら、諦めねば良いものを」

「いいえ。やはり、私はラスタルに残ってウィラネルドの補佐をします」


 ウィラくんを睨み返す勢いで、そんなことを言うスタングさん。


「え? スタングさん、シュザージの弟子を辞めるの?」


 思わず聞いたら、スタングさんはきつく眉を寄せた。


「ラスタル神王国がこれほど大変な時に、ウィラネルドだけに国を背負わせるなどできません。もし、私の父が神王になっていたら、それは私の役目だったはずなのに……それを放り出して、好きな勉強だけにかまけるなど、できません」

「スタング! 前に言った事は忘れろ! それに、お前が魔法陣技術を学んできてくれれば、後のラスタルがどれだけ助かるかしれないんだぞ!?」

「今のラスタルを見捨てて後があると思うのですか? 泣きべそかくのはウィラなんですよ」

「泣きべそなんかかくか!」


 ウィラくん。強がっている心と喜んでる心がまぜまぜだ。

 そりゃ、スタングさんが残ってくれれば、口ではどう言っていても本音の部分は嬉しいだろう。でも一番弟子に辞められるのはシュザージも寂しそうだし、リドルカさんも弟の相棒候補を辞退されるのは辛そうだ。

 どうしよう。

 スタングさんの決意はゆるがなさそうだし。学びたい気持ちは捨てきれないと思っていても……あ。


「ねえ、通信教育で勉強とかできない?」

「は?」

「タケユキ、なんだそれは?」


 みんながポカンとしちゃったよ。

 通信手段が命がけが基本だった世界じゃびっくりするのは当たり前か。

 俺が高校行かないって決めた時、父さんがしきりに通信でもいいから勉強して高校卒業の資格をとれって言ってたのを思い出したんだよ。俺は人の世で生きるつもりもなかったし、勉強も嫌いだったからしなかったけど。


「通信の魔法陣使って定期的に勉強を見てあげるの。画像がないと難しいかな?」


 俺が考えていると、シュザージも何か考え始めたようだ。

 スタングさんの目がキラキラしている。

 なんとなく、シュザージならできそうだ。リドルカさんもウィラくんも少しホッとしたみたい。


「あら、こんなところで何のお話かしら?」


 声の方を見れば、ルーシラさんが護衛と従者を数人連れて歩いてきた。


「アデレイ、何かあったのか?」

「今起こっていること以上の厄介ごとは起こってないわ。ウィラネルドこそ忘れていない? 予定通り、午後にはモーリスも含めて会議よ」


 何か含む言い方をしつつ、こっちを見て笑うルーシラさん。


「アデレイ、これは神王国の問題だ。あの件は我々だけで対処する」


 あの件、なんて気になる言い方。

 ウィラくんは本気で自分たちだけでと思っているけど、ルーシラさんは俺たちに頼りたいみたい。俺が気にしたことに気がついてまた笑った。

 どうやらルーシラさんも、俺が起きたことを聞きつけて会議への参加を頼みに来たようだ。

 ……いや、これ以上は心は読まないでおこう。

 やっと帰れるって言う時に、気にしちゃダメだ。

 同じ考えなのかシュザージが心の中でテレシーにそっと指示を出し、テレシーもにっこり笑い、言った。

 

「私たちはこれから神殿へ行って、塵治療魔法陣の様子を見に行きます。これで最後となるでしょうから、術道具技師たちとも念入りに話をしておきたいのです」


 つまり、「もう直ぐ帰ります」「神王国の会議には参加しません」と言っている。

 ウィラくんは「そうか……」と、残念そうに肩を落とした。でもスタングさんは目を輝かせ技師たちとの話し合いを見たくて仕方がない顔になり、おそらくその心を読んだルーシラさんがチラリとスタングさんを見た後、ニッと笑う。


「技師たちの話し合いは塵治療の術道具だけではないでしょう? 先ほどお話しされていた通信の術道具についての話なら、ウェルペティの技師にも参加させてほしいわ」


 そんなことを言うルーシラさんの後ろで、従者の方々が「技師以外もどうか……」と念を送っている。ルーシラさんはそっちは無視してシュザージに目をやった。


「それはラスタル神王国に残る弟子のために作る術道具だ。おいそれと、他の国の者にまで教えてやるつもりはない」

「あら、タダでとはもうしていませんわ。ウェルペティ神王国はいずれ神王一族の一人をテルセゼウラに留学させたいと思っております。その時、身の回りの世話をする者だけでなく、衣食住に携わる者も連れて行くこともできましょう。例えば……南方でも耕作可能なコメなどの研究をする農業技師とか」


 コメ技師!?

 思わずその言葉に頬が緩んだ。それをバッチリ見たルーシラさんの笑みが深まる。シュザージにもテレシーにもリドルカさんにも、俺のわくわく感が伝わっちゃってる。


「……よかろう。農業技師は確約しろよ」

「ええ、もちろんよ。ウェルペティは神王国の中では農業が盛んなの。よりすぐりの技師を連れて行くわ」


 ルーシラさん、俺がコメ好きなことを調べてたんだ。そして、俺のためにシュザージがその提案を飲むことも、それを効果的に使う場所も計算済み。

 すごいね。

 シュザージのこと手玉にとっちゃった。

 そんなルーシラさんを感心して見ていたテレシーが次の標的にされた。


「このようなやりとりは王族としては当たり前よ。そんな教育を受けてきた次代神王の話し合いを間近で見学できる機会など他になくてよ。テレシー女王陛下」


 そんな教育を受けているはずの次代ラスタル神王ウィラくんは、口をアングリ開けて「しまった」という顔をしている。コメの種をタダでくれることにはなっていたけど、育て方を取引材料に使おうなどとは思ってもみなかったようだ。

 小間使いから女王に転身するテレシーもまた、ルーシラさんの話術に無茶苦茶興味を惹かれてる。


 そうして、シュザージはため息をつきつつ午後の会議に付き合うことを承諾した。



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