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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第八章 君の世界
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第百八十二話【ウィラネルド:直後の事】


 気がついた時、目の前の空が虹色に光っていて驚いた。


 虹の光は空を指し、渦巻く雲を晴らしていく。しばらくしたら、地上にも光の筋が降りて行き小さな光が飛び散りはじめた。

 真っ白な神降地の山々に反射して、辺り一面眩しいくらいだ。世界中にその光が届いているのではないかと思うほどに。


 しかし、その光はゆっくりと勢いを落とし、夜が明けるころには小さくなって消えてしまった。


「あれは……なんだったのだ?」

「見てなかったのかウィラネルド! 素晴らしい! 伝説に聞く神の降臨とはまさにあれではないのだろうか! あの方々は死者の常世に勝った!」


 興奮してそんなことを言い出したのはモーリスだ。私が気がつくより早く意識が戻り、遠方視の神術を駆使して見ていたらしい。

 なんと羨ましい!

 

「気持ちはわかるけど……あまり多くは語らない方がいいわよ、モーリス。世界の根幹、いえ、神王国の存亡にも関わるわ」


 ひたいに手を置き首を振って、アデレイはそんなことを言った。モーリスはハッとする。

 確かに、新たな神などと言えばあっちもこっちも混乱しそうで面倒だ。神王国はまだしばらく大変だというのに、野心家を焚きつけるわけにはいかない。

 ついでに、変にもてはやされてはあの方々にも迷惑かける。

 あの方々は、その気になればいくらでも自分たちで『神』を主張できるのに、おそらくそれを望まない。面倒ごとは誰だって嫌だろう。普通はな。

 ちなみに、アデレイも私より早く意識が戻っていたらしい。騎士や官司たちがまだぼうっとして動かないので、神術の資質差か何かか? 年季の差か? ちょっと悔しい。


 そんな騎士たちも、徐々に意識を取り戻し始めた時。一筋の軌道を描きながらリドルカ殿がタケユキ殿を抱えテレシー殿を背負い飛んで来た。

 着地と同時にテレシー殿が飛び降りてこっちに向かった。

 

「リドルカさんはタケユキさんが倒れられたので急いで神都に戻ります。誰か同行お願いします。私とシュザージも魔傷治療の魔法陣を描いたら急いで戻りますので馬車の準備を!」


 急な頼みに驚いていると、モーリスが答えた。


「行け、ウィラネルド。ラスタル神都での采配は其方でなければできん。女王陛下の馬車の準備はアデレイに頼む。皆、しっかりしろ! 魔傷治療を手伝え!」


 即座に理解し指示するモーリス。アデレイは「わかったわ」と答え、怒声にハッとした騎士たちが慌てて事態の確認を始める。

 ああ、これも年季の差か。


 私は気がついたらリドルカ殿に首根っこを掴まれて、空を飛んでいた。


 

 城に戻って慌ただしく休息の手配をした。

 医者は必要かと問えば必要ないとリドルカ殿が答えたので、客間に通してタケユキ殿を休ませた。リドルカ殿は手慣れたものだ。

 リドルカ殿もあちこち怪我をされていたけど、そちらも医者は不要とのこと。おそらく食事も後回しにされそうなので、テレシー殿と賢者殿が戻られた時にすぐにお出しできるよう手配する。

 それと同時に、負傷者を運ぶ馬車を荒地に向かわせ、戻って来る負傷者の為の休憩場所やあれやこれやの準備も命じた。じいをはじめ、ラスタルの城の者たちは官司も侍従も医者も下働きもおおわらわだ。少しした頃、スタングが戻って来たので手伝わせた。奴は賢者殿の魔法陣を見に行きたがったが、帰ってきたら存分に聞けと叱り付けて手伝わせた。まったくこいつは。


 それからしばらくして荒野から早駆けの馬車が到着し、賢者殿とテレシー殿が帰って来て、そのまま客間に戻られた。

 一緒に帰って来たアデレイに尋ねれば、酷くくたびれた顔でため息をついた。


「魔傷治療の魔法陣はすごいわね。極端な侵食がなくなって体が落ち着いた人から、こちらへ連れて来る予定よ。完治するまであんな寒いところにいたら魔落ちが治っても凍死しかねないもの」

「そうか、準備は進めている。いつ運び入れられてもいいようにな」

「……人数が増えたのだけど、大丈夫?」

「は?」


 あそこからまた怪我人が出たのだろうか?

 はぐれ魔物に襲われたとか? 

 私の疑問を悟ったのか、アデレイはゆるりと首を振った。


「常世の泉が出たの」

「なっ!?」


 また戦いが!?

 と、思ったらアデレイはもう一度首を振る。


「光の塵まみれの魂をね、返しに来たのよ」


 あんぐり口が開く。

 アデレイが言うには、こうだ。

 

 賢者殿が荒地に魔傷治療の魔法陣を描いて、後は騎士たちに任せて帰ろうとした時。貧弱な水の手が、申し訳なさそうに現れたそうだ。

 皆が一瞬身構えたが、水の手は水たまりの中から光の塵まみれの塊を幾つも取り出し、差し出したそうだ。


「賢者様が言うには、大量に放たれた魂を浮かれて取りまくって泉に引き込んだものの、まだ魂と肉体の離れていないものまで取り込んでしまったらしいの。普通なら、そのまま肉体が朽ちるまで放置して魂の洗浄と記憶の収集をするのだけど、ついさっき無茶苦茶に伸されて怖い思いをしたから、お詫びのつもりで返しに来たと……」


 そんなバカな。

 開いた口が塞がらない。


「常世の泉が身振り手振りで、いえ、手振りだけでそれらしいことを言っていたと、テレシー陛下が言っていたわ」


 私は頭を抱えたが、その場で賢者殿も頭を抱えたらしい。

 テレシー殿とこんな会話をしていたそうだ。



「魔落ち治療なら幾種も魔法陣があるが、塵人間の治療魔法陣などない! いちから組み立てろというのか!? 私は早くタケユキのもとに帰りたいのに!」

「私もですが、王子の暴走に巻き込まれて不幸にあった民を見捨てれば、後悔するのはシュザージですよ」

「うっ! だ、だが、もう魔力がないのだ。予備の魔石も使い果たした……」

「あらあら、じゃあ取りに行ってきて正解だったわ。はい、魔石よ」


 そこへ現れたのは、化物退治のおりに神力注入に協力してくれたご婦人だったと。


「えっと、ありがとうございます。……おばさま」


 テレシー殿がそう言えば、ご婦人は嬉しそうに笑っていたという。


「おばちゃんも嬉しかったけど、おばさまも素敵ね」


 なんて言っていたそうだ。

 


「そのご婦人は何者なのだ? 姿から、どこかの神王一族だろうと思ったが」

「さあね。神王一族には表に出ないで存在を秘匿している者もいるから、その誰かじゃない? 魔石を持っていたのだから複合術でも研究してて、神王一族の恥だと隠居させられたとか。フレンディスの王妃もそうでしょ?」


 そういえば、そんな話も聞いたな。

 なんだか不思議な感じの人だったが……なんだろう。何か大事なことを忘れているような?

 まあ、神王一族ならそのうちまた会うかも知れんから、そちらはいずれでいいだろう。


「それで、塵人間の方はどうなった?」

「賢者様が頑張って、なんとか魔法陣を組み立ててくれたわ。とりあえず仮の人形にして魂を固定し、ちゃんとするのは後日にすると」

 

 とりあえずで対応できるところがさすがというか。

 私のすぐ後ろでスタングが目を輝かせているが、今は無視だ。


「では、休息所を増やさねば」

「私は少し休ませてもらうわ。もう、眠くて……」

「ああ、ありがとうアデレイ。……また、頼ってもいいか?」


 この混乱だけでもラスタル神王国だけでは手に余る。

 アデレイはあくびをしながら片手を振って去っていくが、断られはしなかった。


「ウィラネルド殿下もおやすみください」


 あちこち手配に走り回って、いつの間にか戻ってきていたじいだ。


「いや、モーリスがまだ荒地の監督をしてくれている時に、私が先に休むわけには……」

「モーリス殿下が戻られ、おやすみになられた時には起きてもらいます。誰か次代神王が起きていて、何かあった時に対処できなければ困りますので」


 確かにそうだ。

 そう言われた途端、あくびが出た。慌てて手で隠すが、じいには見られた。その横でスタングもあくびをしている。


「お二人とも、おやすみください。この先まだまだ大変には、違いないのですから」


 そうだな。

 休みなく動き回れるわけでなし。こう眠くては頭も鈍る。


「では……休むか」


 休むと決めたらものすごく眠くなった。

 私はフラフラしながらも、なんとか自分の城の自分の部屋までたどり着き、寝た。


 この先も大変だとは言うけれど、今日ほどのことはないと信じたい。



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