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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第八章 君の世界
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第百七十七話


 すっかり日が暮れて空は星空、少し雲あり。


 神降地の山の端に張り出た岩棚に座りひと休み。大きく息をつく。

 少しだけ疲れてきた。

 これだけ飛び回って少しで済んでいるのはリドルカさんの力とシュザージの魔法陣のおかげだ。ぬくぬくマントに包まりペンダントのロケットをギュッと握る。

 早くテレシーのお茶を飲んで、ゆっくりしたいね。


 ちょっとだけロケットの蓋を開ける。そこにはとても小さな魔法陣が描いてあって、リドルカさんとテレシーとシュザージの名前記号が描いてあるそうだ。でも、たぶん真ん中にあるのは俺の名前だ。ごちゃっとサインみたいになっているけど、よく見たらカタカナがちょっと読めた。

 みんなが俺を守ってくれている。

 うれしいな。


 よし。あと一踏ん張り、がんばろう。


 東を見れば、遠くにみんなが見える。

 もちろん遠見で見てるんだけどね。

 一瞬、シュザージが消えてびっくりしたけど、すぐに現れてホッとした。

 空にはひとつ黒い魔法陣が出来上がってるし、化物退治の魔法陣はきっともうすぐ完成だ。

 真っ白な大地に灯りが灯っているせいか、あの辺一体かなり明るい。照り返しで神降地の山も白く浮かんで見えるし、灯りのないこの辺までも大地の白さが目に見える。


 俺はチラリと岩棚から下を見た。向こうと違って綺麗ではない紫色がチカチカしている。

 俺を見失って怒っているんだ。


 紫神石を核にナルディエの神都を飲み込んでできた巨大な化物。

 帝国を襲った化物に比べれば小さいけど、これはあれより厄介で、魔力だけでなく神力まで取り込んでいるので下手に倒すと何が起こるか分からない難物だそうだ。


 だから、シュザージが安全に倒せるよう魔法陣の罠を貼ってそこに誘い込んで倒すことになっている。

 俺の仕事は、魔法陣が完成するまでの足止めと、目を離すとラスタル神王国へ向かおうとする化物の誘導だ。罠のところまで連れて行かなきゃだ。


 化物は右に左にジクザグと蠢いて俺を探しいてる。そろそろ行かなきゃ、またラスタルへ向かい出すからめんどくさいよ。

 それと、時々化物から飛び出して逃げようとする魔物も面倒だ。

 帝国で出た化物より、撒き散らす魔物の数そのものはかなり少ない。それに、一匹二匹なら化物が触手や神術で攻撃して、光の塵にして再度吸い込む。けど、一度に数匹が逃げ出すと撃ち漏らしが出てあっちこっちに逃げてしまう。

 魔物は魔落ちしていない生き物に魔力を移そうとする習性を持つ。

 当然、魔力を撒き散らされて魔物が増えないよう逃げ延びた魔物は俺が浮かせて潰していた。帝国の時と同じように。


 けど、この魔物も厄介なんだ。


 紫の化物の影響で魔物化したものは、似たような紫に光る塵を纏っていた。持ち上げて落として潰せば、黒い魔物部分は溶けて地面に染み込み消えるけど、散った塵が動物を襲ったのを見てびっくりした。

 紫の塵に襲われた小さな動物は、見る見る紫の魔物になったよ。心底ゾッとした。理不尽ジョルアンの作った化物は、どこまでも理不尽で不条理で悪辣だ。

 化物が取り逃した魔物は、一匹づつ確実に仕留めるしかしょうがない。持ち上げて、土にめり込ませて塵が散らないよう埋める。その繰り返し。

 当然、そんなチマチマしたことしていたら取りこぼしも出てきてしまう。けど、全部追いかけて仕留めるなんて労力のいることは、今はできない。


「この後も、俺にはやることがあるみたいだから、ここでくたくたになるわけにはいかないよ」


 シュザージはおいおい説明するって言ってたけど、たぶん、俺がやらなきゃいけないのは常世の泉との対決だ。


 魔法陣で化物を倒したら、きっと紫神石が出てくる。危険な紫神石は早く処分しなきゃだけど、紫神石を割ったら魂が出て来て、死者の常世から泉の水が魂を取りにやって来る。

 あいつは、シュザージを狙っている。

 シュザージの記憶と人格はテレシーと同じ魂の上にある。つまり狙われているのはテレシーもだ。それに、地上に残る死者の記憶を回収する時、近くにいる人の魂も持っていくと、この世界の怪談にあるそうだ。リドルカさんだって危ないんだ。

 あいつが狙わないのは、この世界の人間じゃない俺だけだ。


 俺は、あいつからみんなを隠すための力と、もしもの時は戦えるだけの力を温存しなきゃいけない。


 ああ、また化物から飛び出す魔物が数匹。何匹かは化物が仕留め、一匹は俺が仕留めて、たぶん一匹逃してしまった。


「大丈夫かな、この辺りの村や町の人は避難しているはずだけど……」


 逃してしまった魔物がどこまで行ってしまうかわからない。

 心配だけど、仕方ない。


「下手に無茶して、リドルカさんの負担になるといけないしね」


 リドルカさんが癒してくれるようになったけど、あまり頼ってばかりいるとリドルカさんにも負担がかかるとシュザージが言っていた。

 だからほどほどで割り切るしかない。


 悪いのは理不尽ジョルアンとナルディエ神王国だ。


 化物はまたイライラと落ち着かない動きをしている。触手がラスタル神王国を向いたのでまた足止めに向かうことにする。

 ヒーローのセリフで挑発するのはもうやめた。あれはあれで疲れるし、言いたい台詞は言い尽くした。

 周りを飛ぶだけで挑発できるみたいだからそれで十分。化物の周りを飛び回るだけの俺は羽虫みたいだけどね。


 そうしていると、ふと強い光を感じて東を見た。ほっとして頬が緩む。


 魔法陣ができてる。

 それにこっちに向かってくる青い光は──


「リドルカさん!」


 俺は高く飛び上がり、リドルカさんに手を伸ばす。


「タケユキ」


 少し勢いを落としつつ、俺の手を取りゆっくり抱きしめてくれるリドルカさん。俺はその胸に顔をうずめて息をつく。

 下で紫の化物が怒ってるけど、今は無視。

 リドルカさんは俺を抱きしめつつ、ひたいに手をやり熱を確かめ頭を撫でてくれる。


「無事だな」

「はい、そっちの準備は……わぁぁっ!」


 リドルカさんの肩や髪に紫の塵が付いていて、思わず風を吹き上げた。散り散りに吹き飛ぶ塵。


「どうした?」

「ち、塵がっ、紫の塵が! リドルカさん、紫の魔物、倒しました!?」

「倒したが?」


 まだ距離があると思っていたのに、もうあっちに魔物が行ってた!


「あの魔物を倒すと塵が飛んで危険なんです!」


 俺がなんとか説明すると、リドルカさんの顔が険しくなる。


「タケユキ、シュザージに伝えろ。ここからできるか?」

「もう少し近づけば」


 まだちょっと遠い。

 俺は下の化物を見る。怒りながら触手を上に伸ばしてる。


「塵か……」


 リドルカさんは上を見てる。なんで?


「雨を降らす。魔法陣はできている。行こう、近づけばシュザージに知らせろ。騎士が魔物と戦っている」

「えっ!?」


 それはまずい。と、いうか、雨?

 

 リドルカさんが見つめる先に雲が集まり出した。ああ、帝国でやったように雨を降らせて塵が散らないようにするのか!

 俺はリドルカさんに抱きついたまま自分で飛んで移動する。リドルカさんには雨を降らせることに集中してもらいたいから。リドルカさんには俺の意図がわかったみたい。大人しく身を預けてくれている。

 化物はどうかな? と、もう一度様子を見たら、怒りながらついてくる。

 よし。

 少し移動してテレパシーを送れるくらいの距離になって来た。雨雲も集まり稲光が光る。


「テレシー! テレシー! 聞こえる!? シュザージも聞こえる!?」

『タケユキさん!』

『どうした!? 何かあったか!?』


 通じた。


「魔物の塵が危険だから雨を降らすよ!」

『はい?』

『タケユキ、ひとつづつ、話してくれ!』


 ああ、わかりにくかった!

 ひとつづつ。うん。

 俺は、シュザージたちに見たことと行うことを伝える。

 紫の魔物は倒せば半分溶けて半分塵になること。

 その塵にまとわりつかれると、紫魔物になること。

 そうならないように、リドルカさんが雨を降らせて塵が舞い散らないようにしようとしていること。

 なんて、伝えている間にも、魔法陣に近いところまでやって来ていた。

 魔法陣の向こうにテレシーとシュザージがいる。

 ん? なんだかシュザージがいつもよりくっきり見える気がするけどなんだろう。まあ、今はいいや。

 シュザージの隣にはウィラくんとモーリス王子がいた。少し離れた魔法陣の中にルーシラさんがいて、騎士と神術士が数人。魔法陣の手前にも十数人。魔物と戦ってた。服や頭に紫の塵がついてるよ。でも、シュザージに指示されて慌てて塵を払っている。

 

 その時、ポツリポツリと雨が降り出した。

 それはすぐに激しい雨になり、ほんの少しして小降りの雨になる。

 シャワーみたいに調節してるの? すごいよリドルカさん。

 しがみついたままのリドルカさんを見ると、頭を撫でられた。

 ちなみに、俺たちは濡れてないよ。

 ポツリと来た時に俺たちの上に防壁を貼ったから。

 テレシーも大丈夫みたい。ウィラくんとモーリス王子が慌ててマントをテントみたいにしてくれた。テレシーは二人に挟まれる形になってる……あんまり近づかないで欲しいかな。

 シュザージは幻影体だから濡れてない。

 濡れたのは騎士たちとルーシラさん。ルーシラさんは怒ってる。けど、小降りになったところで何か神術を使ったみたい。服を乾かしてマントのフードをかぶったね。そしてまた、目の前にある大きな神石に手を添える。

 

「あれは、魔法陣に神力を込めているところだ。もう少しか?」


 リドルカさんが説明してくれた。

 思ったより時間がかかっているみたい。


 下を見れば紫の化物。

 雨に濡れて塵が中の魔物部分に張り付いたのか、ひと回りほど小さくなって綺麗じゃない紫色の光がドス黒い紫色になっていた。

 しかも、動きが止まっている。震えているようにも見える。


 あれ? なんで? 濡れたから?


「まずい、敵意がウィラネルドたちに定められた」


 リドルカさんがそう言うやいなや、紫の化物はブワッと膨れ上がった。


 ヴオアァァァァァァァァァァァ!!!!!


 と、空気を震わせ音を鳴らす。

 吠えているようにも怒鳴っているようにも聞こえる。


 敵意を向けている相手はウィラくんとモーリス王子とルーシラさん。いや、アデレイさんにか。


 こいつ、やっぱりジョルアンだ。



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