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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第八章 君の世界
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第百七十五話【テレシー:化物退治と魔法陣】


「どうして幻影体を消すのですか!?」


 私はシュザージに問いかけます。

 シュザージが消えたことで、ウィラネルドさんをはじめ周囲の人々が驚いています。リドルカさんもです。

 心の中で、シュザージのため息が聞こえました。


 ──仕方がなかろう。魔力が足りん。魔属性魔法陣ならともかく、神属性魔法陣を描くには魔石の魔力がやや不安だ。その後の魔法陣操作にも力を残さねばならんのだから、幻影体を出しておく余裕がない。


 そういえば、魔力はギリギリしか残ってなかったのでした。

 クレオさんが偵察ついでで拾ってきてくれた低位の魔石から、少しだけ力を寄せ集めていましたが、それだけではこれだけの魔法陣を描き維持するのは難しいのでしょう。

 

 私は上を見ます。

 あの上空魔力を取れませんか?


 ──地中魔力ならともかく、空中魔力は不安定で難しい。そもそも銀盤がなければ危険だ。


 でも、今の魔力残量で化物と戦えるのですか? それに、この後の皆さんへの指示とか……


 ──だから魔法陣を描くだけで魔力神力は他の者に入れてもらう。操作だけなら残る魔力で問題ない。指示はいつものようにテレシーの体を借りるつもりだが?


「……どうした?」


 私が黙り込んでいたら、リドルカさんが心配そうに顔を覗き込んできました。

 タケユキさんがいらっしゃらなければ、リドルカさんとは心で会話はできません。


「すみません。魔力不足のため幻影体を消したそうです。私の手で魔法陣を描いたり操作したりはできるそうですが……」

「タケユキが戻った時、心配するだろう」


 そうなのです、タケユキさんはもうすぐ化物を誘導してここへきます。その時、シュザージが見当たらなければ心配されます。


 ──近くに来たら心で語りかけてくるだろう。その時説明すればいい。


 化物の解体をしながらできますか?

 色々と心配なのですが。


 私がまた押し黙っていると、リドルカさんが無言で左手を差し出してきました。これは、ご自分の魔力を使えということでしょうか?


「タケユキのためなら、使っていいのだろう?」


 そうです。タケユキさんのためです。お力をいただきましょう。


 ──前にも言ったが、彼奴の魔力と神石の力との兼ね合いが……


 嘘ですね。

 ペンダントに魔法陣を描き込んだ時も、マントに描き込んだ時も、リドルカさんの魔力単独でスラスラと描いていました。自分の幻影体を作るのも、リドルカさんの魔力だけでできるのでは?


 ──………………


 できるのですね?

 だったらやってください。

 時間がない時に、何を駄々をこねているんですか?


 ──くっ、タケユキと運命で繋がり、テレシーとは魂で繋がっている。この上、奴と魔力で繋がりができるなどっ


「家族なんですから、いいじゃないですか」


 私たちはもう、タケユキさんという縁で繋がる家族なのです。それをあえて声で告げれば、リドルカさんは驚き、そして嬉しそうにうなずきました。

 私は両手の石付き手袋を外し、その左手を掴みます。


 ──ああもうっ! 時間がないから、仕方がなくだ!


 シュザージの右手が素早く、これまで見たことないほど素早く、幻影体の魔法陣を描きます。出来上がった魔法陣は青く光って形を歪め、そのままシュザージの幻影体になりました。

 これまでと随分違います。


「これで満足か?」

「あれ? シュザージ、声が普通です」


 出てきた途端、ふんぞり帰ったシュザージの一声は、中身はともかく音が違いました。いつもの魔法陣での幻影体では、少し反響音が混じったのですが。姿も、なんだかいつもよりはっきりしてます。

 まるで、普通の人間です。


「詳しい話は後だ。テレシー、神属性魔法陣を描くぞ!」

「は、はい!」


 私はまた手袋をはめて、仮魔法陣のそばに立ちます。

 リドルカさんは、少し離れ西の方に目をやりました。遠くから、紫色の光がチラチラと光って見えます。


「化物だ」


 リドルカさんの言葉に、私たちの周りにいた方々もびくりとして西を見ました。


「神属性魔法陣! 神力制御、神力識別、調整、分離、拡散、……魔属性魔法陣同調」


 目の前にはまた、複雑な魔法陣が描き上がっていきます。上空の魔属性魔法陣と同じものです。同じく、描き上がった魔法陣は水平にして軸になっている槍の上に飛ばします。


「下降、拡大」


 その声とともに、仮魔法陣の十の方向に設置した神石が光り、魔法陣がそこに向けて引っ張られるように拡大しました。真っ白に光る魔法陣に歓声が上がります。


「賢者殿! 次の馬車が来たぞ!」


 ウィラネルドさんの声にチラリと振り向けば、到着したばかりの馬車が見えました。私の手はまた、魔法陣を描きます。


「神属性魔法陣、魔法陣連結。遠隔調整、神力供給。……過剰神力抑制、補助」


 ホーケンでの魔傷治療の魔法陣につけたように、いえ、あの時よりも幾分距離を取ったところに神力供給の魔法陣を描きました。

 ここまでは予定内の魔法陣です。


「神王石をそこに置き、残りの神石は先ほどと同じ仮魔法陣の印のところに置け」


 指示を聞いて、神術士たちは動きます。


「あら? 何だかいつもと違いますわね、賢者様」


 追加の馬車で来たのは神石だけでなく、ルーシラさんもでした。少し赤く染まった頬に手をやり笑っています。シュザージはタケユキさんのですからね。


「ウィラネルド、上位神術士にその位置から神力を込めさせろ。上限が来たら自動で供給が止まるようにしてある。止まれば次の者に交代して、込め終わった者は神都に戻れ」


 シュザージは無視です。

 指示を出し、ウィラネルドさんは上位神術士たちを集めて設置された神王石に並ばせます。神術士が神力を込め始めると神属性魔法陣の輝きが強くなっていきます。


「リドルカ──」

「込めた」


 そう言って、上を見上げるリドルカさん。空に浮かんだ魔属性魔法陣が若干青く光ってます。ちょっと混じってますね。もともとリドルカさんの操る魔力は青く光ったので、これくらいなら問題ないでしょう。

 それにしても、いつの間に。仕事が早いリドルカさん。

 そんなリドルカさんのこめかみがぴくりとして、西に目をやり言いました。


「魔物が来る。騎士は神術士と魔法陣を守れ」


 同行していた騎士たちが、息を飲んで剣に手をかけます。

 リドルカさんも、腰に下げていた普通の剣を抜きました。


「迎えに行く、良いな?」

「ああ、行って来い」


 シュザージが返答した時にはもうリドルカさんは駆け出していました。

 魔法陣の周りは神石と神属性魔法陣が光を発していて明るいですが、周りはすでに真っ暗です。走って行くリドルカさんはすぐに見えなくなりましたが、遠くで紫に光る何かの動物……いえ、魔物が何頭か斬られたのがわかりました。騎士達がざわめいてます。


「動物も救いたいな」

「気持ちはわかりますが、できますか?」

「化物から落ち伸び、こちらに襲って来ないものは……いや、それは後で考えよう」


 シュザージ……


 私も、頭を切り替えます。

 神王石の周りでは、神術士が順に魔法陣に力を込めています。けれど、上位神術士といえど、ほとんどが僅かばかり神力を込めたところで強制停止させられて後ろへ引かされます。自分の力がこんなものかとガックリする人や、もっとやれると踏ん張る人もいますが、役目を終えたら離れてほしいです。

 タケユキさんの負担になります。 


 タケユキさんはご無事でしょうか。

 無事だとは感じていますが、お顔を見なければ不安です。きっとリドルカさんも、もちろんシュザージも。


「まっ、魔物だ!」


 騎士の一人が叫びます。

 指揮を取っているのは、ラスタルの騎士じゃないですね。バロウかウィルペティでしょう。


「数人でかかれ! 魔物に触れるな!」

「目潰しの神術で気を晒せ攻撃だ!」

「うおおおおっ!」


 騎士たちが魔物に向かっていく中、神王石の周りでは上位神術士たちが恐々と神力を込めては馬車に戻り、いっぱいになれば王都に戻っていく。

 馬車が二台去ったところで、遠目に見えていた紫の光がどんどん大きくなってきていました。


「あ、あれが!?」

「ばけもの……?」


 真っ暗な中に浮かび上がる紫の物体。地上から見たらなんと大きいものなのでしょうか。知っていても怖くなります。


「賢者殿、テレシー殿」


 背後から、ウィラネルドさんが小さな声で呼びました。振り向けば、私の手にサッと紙を一枚渡します。


「この後は、アデレイ、モーリスの順で神力を込める。最後は私だ。二人は神力を込め終わった後も、全てを見届けるために残りたいそうだが」

「ああ、いいだろう。タケユキとリドルカが来たら騎士もできる限り下がらせろ。お前たちの護衛が二、三人残るくらいは大丈夫だろう」

「ありがとう、化物を……よろしくお願いします」


 ウィラネルドさんは、チラリと私の手の紙を見た後、モーリス王子たちの元へ戻ります。

 なんでしょうね、この紙は。

 見ると、そこにはびっくりすることが書かれていました。


“ 混乱に乗じてタケユキ殿、もしくはテレシー女王を狙う者がいる。すまない”


 は? こんな時に?



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