第十六話
「は? 私ですか?」
思わずという感じでテレシーが玄関から顔を出した。
それを見て先頭の騎士がうなずき、背後の二人に指示を出した。
「連れて来い」
「「はっ」」
「ちょっ、おやめ下さい‼ 突然やって来てなんなんですか!?」
ミリネラさんが立ちはだかるが、無視をして騎士は進もうとする。更に前に出ようとしたミリネラさんを、今度は騎士が払い除ける。ミリネラさんが体制を崩した。──転ぶ?
「ミリネラ様! ミリネラ様に乱暴しないで下さい!」
テレシーが玄関を飛び出したと同時に、俺は瞬間移動していた。倒れかかったミリネラさんを支えて起こす。
「え……」
「何っ!?」
「なっ」
「はぁっ!?」
上った声はバラバラだけど、全員の心の声は一致した。「いつの間に!?」と。
「そこの、木の影から見てました」
しれっとついた嘘。騎士たちの死角にあった庭木を指せば、騎士たちは納得まではいかないが、ありえそうな答えの方にうなずいた。頭の固いやつはありえない現実よりあり得そうな嘘に納得する。と言ったのはじーちゃんだったか。
「ほほう、素早いな。鍛えればいい騎士になるだろう」
ならないよ。何勝手なことを言ってんのこいつ。
この騎士集団のリーダーらしい奴が嬉しそうに俺を見る目が気持ち悪い。ものすごく気持ち悪い。
「今、この国は魔王の出現に備え強者を求めている。十五人もの盗賊を討伐した少女がいるなら、それは騎士団に属するべきだ」
……へ?
「そして、瞬時に主人を助けに入る素晴らしい瞬発力を持つ少年もだ。ただの下働きなどもったいないではないか。騎士団で訓練を積み、国を守る剣となることこそが正しい生き方だ!」
変質者視線の騎士が勝手なことを言っているのはどうでもいい。けど、こいつらにテレシーが目をつけられたのは……俺のせいだ。
「あれは思春期の娘がごく稀に起こす暴発だと、兵士団には報告したはずです! そのような力は何度も使えるものでもありませんし、テレシーには術の資質はもともとほとんどないのです。ただの小間使いの少女が、騎士になどなれようはずがありません!」
「それを見極めるのは我々の仕事だ! 鍛えることで真の力が解放されるやも知れんのだぞ!」
術の専門家の意見を聞けよ脳筋変質者騎士!
「騎士様! そこの小僧は盗賊の仲間です! トーセル島国からの流れ者のふりをして我が家をのっとるために入り込んだ曲者です‼」
ああ、ダメ息子。
ややこしい奴が他にもいたんだ。
ダメ息子が睨みつけるように貧相漁師を見た。
すぐさま貧相漁師の心を読む。
『えっ!? オレに話振られる!? えっと「◻︎◻︎◼︎◻︎☆」は「こんにちは」で「わたしはベルートラスの漁師です」は「◻︎◼︎◼︎☆ベルートラス◼︎◻︎☆★……』
「いい加減にしなさい! 勝手な憶測で父親の行いを貶めるつもりですか!?」
「黙れ! ああ騎士様、今この者が証明します。ほら、話しかけろ!」
「ええっ!? えっと、◻︎◼︎◼︎☆ベルートラス◼︎◻︎☆★◻︎」
うん、これなら返せる。
「◻︎◻︎◼︎◻︎☆。俺はトーセル島国から来ました」
トーセル島国の挨拶と、奴らにはわからない日本語で返事をしてみた。
「あれ? 旦那、こいつトーセルの民で間違い無いですぜ。あっさりあっちの言葉で挨拶して来た」
「何っ!?」
驚くダメ息子。貧相漁師は『これで帰れるよ』とほっとしている。面倒ごとはごめんだと。俺たちだってそうなんだけどね。
「チッ、神に恩寵を与えられなかった下国の民か」
ひどい言いようだな脳筋変態騎士。
「まあいい。この国にいる以上、この国の法に従え! 強兵収集は国王陛下の命ぞ! 逆らうならお前たちの主人にも罰が降ると思え!」
「そんなっ」
「ふんっ、その娘と小僧を連れて行け!」
蒼白になるミリネラさん。この家のみんなもそうだ。
自由兵士の二人も黙ったまま直立してるし。
行くしかないのか?
こんな時、どうしたらいいんだばーちゃん。
能力全開でぶっ飛ばしてやりたいけど、それをやったら俺だけでなくこの家の人全部に迷惑をかける。俺みたいなのを、隠してたって。
俺は、やっぱり人の世では生きられないのか。
利用しようとしたり見せ物にしようとする悪意より、親切にしてくれた人に迷惑をかけることの方がよっぽど苦しい。こんなの、じーちゃんにもばーちゃんにも教わらなかった。
でも、その教えだけは本当なんだな。
俺は、たったひとりの運命の人と、隠れて生きるしかできないんだ。
今はまだ、その人にすら会えないというのに──……
「行くのは私だけです。他国の民であるタケユキさんまで巻き込まないでください」
「テレシー!?」
ギョッとしたのは俺だけじゃなかった。すぐさま立ち上がったミリネラさんはテレシーに駆け寄る。
「何を言っているの!? こんな理不尽に従う理由はないわ。先生が戻られたらきっとなんとかして下さるから」
止めようとするミリネラさんに、テレシーは力強く笑う。
「大丈夫です。訓練したって私がすごい力なんか出せませんし、それが解れば騎士団には不向きだってポイしてくれますよ。帰ってきたら、またミリネラ様に仕えさせてくださいますか?」
「もちろん……いえ、行く必要がないと言っているのよ!」
「盗賊の件は私がやったことです。そのことでミリネラ様やオーリー先生に迷惑をかけるわけにはいきません」
キリッと脳筋変態騎士を睨みつけたテレシーは、俺の方にも視線を向けて笑った。
『タケユキさんの望む平穏は、私が守ります!』
それは、テレシーの心が叫んだ声だ。
俺のテレパシー能力に気がついていてそれを言ったのかどうかはわからないけど、本気でそう思っていることだけははっきり伝わる。
テレシー、かっこいい……
俺も唇を噛んで、そして脳筋変態騎士を睨んだ。
「俺も、行きます。騎士なんか、全く、全然、向いてないと、証明します」
覚えたてのこっちの言葉ではっきりそう言ってやったのに、騎士どもはおろかミリネラさんやテレシー、レノンたちやその他まで心の中で吹き出したのがわかった。
なんでだよ。
言ってることはテレシーと同じはずなのに。
「では行くぞ! 安心しろ、どちらも立派な騎士にしてやるぞ!」
やっぱり人の話聞いてないな。
「お待ちなさい! 女の子を連れて行くのに何の準備もなしで行くつもり!?」
「案ずるな。女性兵士用の装備なら騎士団にある。そのまま来れば良い!」
「……バカじゃないの?」
『すぐにトルグと先生に知らせなければ』
小さく呟いたミリネラさん。心の中ではやるべきことを決めていた。
そして、ポケットから小さな黒い石を取り出し、テレシーの手に握らせた。
「もしもの時のために持って行って。自分のためにも、暴走していいのよ」
黒い石は低位の魔石。
魔術士のミリネラさんが常に持っていたもののようだ。
テレシーは握った手を胸に当ててうなづいた。
それを見た脳筋変態騎士が鼻で笑ったのがわかった。
「目的は果たした! 騎士団に帰還する!」
そいつは高々と右手を上げる。
その手甲に、白い石が嵌っているのが見えた。中位くらいの神石か? 神術の使い手だとアピールしてるのか?
魔術士と神術士は仲が悪いんだったっけ。
なんだかものすごく、嫌な予感がする。




