表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/192

第百五十三話


 テレシーが寒い部屋での会談を拒んだ時、周囲はザワっとした。


 神殿関係者はぜひ神殿の談話室でと勧めてきたよ。

 特に術道具管理の神官は興奮気味に声を上げてた。聞きたいことがいっぱいあるらしい。

 でも、使われる予定じゃなかった談話室はきっと寒かろうと却下。


 ではウェルペティの宿舎用の館へと、ウェルペティの官司たちが誘う。

 特に通信の術道具を起動させた官司が熱く乞うてきた。話したいことがいっぱいあるらしい。

 けど、ルーシラさんが却下。

 ルーシラさんはウェルペティの人たちに自身の正体を知られたくないようで、なんとか完全な密室で話がしたかったようだ。


 そんな中、呆れたようにウィラくんが手を上げた。


「そろそろ夕食の時間だ。もともと其方らを招待するつもりだったのだが、機会が掴めずに今になってしまった。私の城で夕食後に話をするのはどうだ?」


 ウィラくんの提案は、俺とテレシーにはありがたかった。

 心の中でテレシーが喜んでる。


『お腹が空いていたのでその方が嬉しいです。こんな衣装着ている時にお腹が鳴ると困りますから』

『俺も、その方が落ち着くかな。でも話の内容、ウィラくんたちにも知られちゃうよ?』


 ウィラくん家で話し合いするのに、ウィラくんにどっか行っててはできないと思う。ルーシラさん不服そうな顔を隠してない。


『……そうだな』


 思案した結果、シュザージはウィラくんの申し出を受けた。

 シュザージがそう判断したなら大丈夫なんだろう。

 ルーシラさんも、俺たちが受け入れてしまった以上、他の提案もできないのか諦めて了承したよ。

 テレシーもお腹空かせてるし、ウィラくん家なら話し合いが終わったらすぐ客間に戻って休めるし。よかったのかな?



 そうして、ウィラくんのお城に戻って俺たちは晩ご飯。

 もちろん神殿関係者は神殿で解散。

 ウェルペティの官司さんは官舎へ帰され代わりにルーシラさん、というかアデレイさんの侍女さん侍従さんが給仕やなんかのためにやって来た。 

 術道具管理の神官さん、通信係の官司さん。またの機会があればその時ね。


 食事はとても美味しかった。

 今回は長テーブルの片面の真ん中に俺とテレシーが並び、テレシーの横にシュザージ、俺の横にリドルカさんが座っている。正面には、ルーシラさんウィラくんスタングさん。

 俺が好きなのを知ってか、今夜もおコメのお粥があって嬉しかった。

 ちょっと食べきれなかったのが残念だ。

 食事中は難しい話とかはしないのがマナーとか、だっけ?

 だから、俺たちは夕食の食材や神王国の味付けなんかの話をした。ウィラくんがはりきって話してくれたよ。


 そうして、食後の一服。

 お茶はウィラくん家の侍女さんが淹れてくれたよ。

 テレシーじゃないのが残念だけど、女王様ドレスのテレシーが給仕するのは無理みたいだし。仕方ない。

 神王国で好まれているというあっさりめのお茶を一口いただいて味わっていると、ウィラくんが口を開いた。


「其方らも話したいことがあるようだが、すまないが先に私の話を聞いてもらえないだろうか」


 俺は別に構わない。

 リドルカさんもテレシーも、シュザージも構わないようでうなずいて先を促した。ルーシラさんだけは不満そうだけど、仕方なさそうに「いいわよ」と了承した。


「すまない。その、モーリスが本当にラスタルに来るか心配でな。それに、やはりモーリスのことだから連名でナルディエに苦言を送る提案を受けてくれるかどうか……」


 うーん、ウィラくんの記憶の中のモーリスも欲張りで人の話を聞かないタイプみたい。ウィラくん的には理不尽ジョルアンと同じくらい面倒な人という認識らしい。


「心配しなくてもモーリスは感情より実を取るわ。ウェルペティがラスタルと帝国の同盟に加担すると知れば、間に挟まれているバロウはこれまでのラスタルの立場になるやもと慌てて対策を考えるはずよ。こちらから差し出した手を取らないはずないわ」

「だが……」

『バロウの敵は三方だ。ここで手を取らねば今のラスタル以上の災難を被る』


 ウィラくんもルーシラさんもギョッとしてシュザージを見た。シュザージは視線をリドルカさんに向ける。帝国の情報だからリドルカさんに話せってことかな。ちょっと渋い顔をした後、リドルカさんがアスノンさんが持ってきてくれた情報を口にした。


「スルディアが帝国と協力して、テルセゼウラの復興に、手を貸すと表明した。ベルートラスも近いうちに同調するだろう」


 二人はまだ首を傾げている。ベルートラスもスルディアも神王国からは遠いからね。ピンと来ないみたい。けど、ルーシラさんの後ろにいる年配の侍従は目を厳しくした。次の言葉を待っているけどリドルカさんはくたびれたようにシュザージに視線を送る。

 話の上手い人に話は任せたい意思を感じるよ。わかる。


『まったく……。まあいい。ベルートラス王国とスルディア国には旧テルセゼウラの民が多くいて、魔術神術複合術全て取り込み発展してきた国だ。昨今、バロウ神王国の威光で、常に険悪だったウィロック国とルーノルグ国が同盟を結ぶ運びとなっていたそうだが、ルーノルグはもともと近接するベルートラス同様、術に多様性を求める国。そしてルーノルグの姫君はパロウ神王国のごり押しで決められた婚姻を疎んでいて、ベルートラスの王子に嫁ぎたいそうだ』


 シュザージってば情報だけをざっくり言ったよ。

 ウィラくんは頑張って考え中。ルーシラさんは少し考えただけでニンマリ笑った。


「……そんな情報、どうやって集めたの?」

『神殿は各国にあるが情報収集能力も伝達能力も乏しいだけだ』


 えっと、リドルカさんに言わせようとしたところから考えると、帝国の情報収集能力も伝達能力も神王国より上だよ、って言いたいのかな? 扱いの難しい術道具より伝書鳥の方がすごいんだね。羽太郎たち偉い。


「それで、バロウ神王国は子飼いの属国に手を噛まれそうになってるの?」

『吠えかけられる程度の威嚇はされているかもな。ウィロック国ではすでにラスタル神王国が帝国と手を組んだこともウェルペティがそれに乗じるだろうことも噂として出回っているらしい』

「あら、噂が回るのが早すぎなくて? ルーノルグや遠方のベルートラスからの噂など、神殿勢力の強いウィロックでそう易々と……」


 ふと、そこでルーシラさんは言葉を止めた。

 目を見開いて、小さく息を飲む。


「まさか、フレンディスから流れた噂なのかしら?」


 シュザージが正解とばかりに悪そうないい笑顔。

 けど、ウィラくんはシュザージとルーシラさんの顔を交互に見つつよくわかってない感じ。隣のスタングさんに助けを求めるもスタングさんも眉間にシワを寄せている。……俺もそれほどしっかり事態を飲み込めてはいないんだけどね。


「す、すまない、もう少し詳しく教えてもらえないか?」

「ご自分でお考えなさい。あなたは傀儡ではないラスタル神王になるのでしょう? それともウェルペティの答えに乗って決断するおつもり?」


 ウィラくんがグッと息を飲む。


『結論だけ言えば、バロウ神王国はラスタルとウェルペティの申し出を断れない状態にある。交渉次第で取られた領地の返還も難しいことではない。よくよく考えて答えを出せ。その件には我々は手出しせぬ。ラスタル神王国で解決せねばならん問題だ』


 シュザージの言葉に、迷っていたウィラくんは強くうなずいた。


「わかった」


 その隣でスタングさんもうなずく。


「じゃあ、そろそろ私もお話がしたいのだけど。ウィラネルドはラスタル神王陛下や家臣の方々と早く相談したいんじゃなくて? 行ってらしても構わないわよ」

「いや、ウェルペティと帝国、テルセゼウラとの今後の関係について話すのだろう? できれば私も聞いておきたい」

「さっきは……そう言ったけど、実は個人的にテレシー女王とお話ししてみたかっただけなの」

「へっ!?」


 突然話を向けられて、テレシーがびっくり。


「いいでしょう? テレシー陛下。わたくし、年の近いお友達がいなくて。同じように王位継承の荷を負う女の子同士、お話がしたかったのよ」


 わあ。普通の女の子顔で照れたフリまでしてる。

 すごいね、ルーシラさん。

 ウィラくんてば共感しちゃってる。俺たちと知り合うまでウィラくんも友達いなかったからね。


「どうかしら? ねえ、テレシー陛下。いえ、テレシーさんって呼んでもいいかしら?」

「えっ!? それはまあ、いいですけど……」

『テレシー!』

「まあ、お友達になってくださるのね? ありがとう」


 あ、言質取られた。

 呼び方の問題だったはずなのに友達になることを了承しちゃったみたいになってる。テレシーも「しまった!」って顔になったよ。

 ますます笑みを深めるルーシラさん。


「そういうわけで、しばらくこの部屋を貸してくださらない? あなたに話すべきことがあれば、後で報告するわ」

「そうか、では私たちは退席しよう」


 なんて、ウィラくんとスタングさんが立ち上がった。

 何を考えてるんだろう、ルーシラさん。

 ちょっと面倒だけど、心を探って──あ……


「タケユキ!?」


 力を使おうとしたら目眩がした。すぐにリドルカさんが抱きとめてくれたので倒れずに済んだけど。大きな手が額に触れる。


「熱が、ある」

「あまり食欲がないみたいで心配だったんですが、やっぱり」

『すまないが私たちも部屋へ戻らせてもらう』

「あ、ああ、それなら仕方がない。話は明日で良いだろう。な? アデレイ」

「え……ええ」


 ウィラくんは心底俺のこと心配して言ってくれてるけど、ルーシラさんは釈然としない顔をしている。


「医者を呼ぶか? 部屋に向かわせるが」

「薬はある」

「ちょっと疲れが出たところで寒い場所に行ったのが不味かったみたい。寝たらおなるよ。ありがとう、ウィラくん」

 

 ウィラくんが積極的に休むよう促してくれたので、ルーシラさんは口を挟めなかった。

 俺はリドルカさんに抱えられて、テレシーとシュザージに囲まれつつウィラくん家の客間に戻ることになった。

 ウィラくん家に来といて良かった。


 聞きたい大事な話をほとんど聞けない一日になっちゃったよ。

 なんだか失敗もしちゃったみたいだし。

 また、夢でばーちゃんに叱られるかな?


 それはそれでいいな。

 今度こそ、ちゃんと話を聞いて夢も覚えていられるようにしよう。


 と、思ったけど。

 その日の夜にばーちゃんの夢は見なかった。

 ちぇっ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ