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第百五十話


『……まさか、嘘でしょ? どうして? どうやって!?』


 偽アデレイさんが混乱した。

 それでも心の声は表層には出てこない。すごいね。


「アデレイ?」


 ウィラくんに呼ばれてハッとした偽アデレイさん。

 ちゃんと不敵な笑みを崩さないまま、ウィラくんに視線を戻す。


「そうね……バロウ神王国にはウェルペティから、ラスタルに対する行動を改めてもらうよう注意させてもらうつもりよ」


 その言葉に歓喜のざわめきが起こる。

 なんでだろうね。

 それは神殿経由で前もって聞いてた話のはずなのに。そもそも、ここへ来る口実にしてた事柄だよ。しかも注意するだけって。

 無難な返答で濁しつつ、偽アデレイはぐるりと周囲を見ながら反応を見ている。他の誰もシュザージの言葉を気に留めていないことを確認してホッとした。もしかして、ウェルペティの従者や騎士も偽アデレイさんの正体知らないの? と、思ってそばにいる人たちを調べたら……知らないらしい。

 今、偽アデレイさんが連れてきているウェルペティの人たちは、みんなフレンディスの別邸勤めでほとんど本国へ帰ってない人なんだって。

 そっと心でテレシーが聞いてきた。


『何のために入れ替わっているんですか?』

『そこまではまだ読んでない。調べようか?』

『ここまでわかれば十分だ』


 偽アデレイはシュザージを睨みつけてる。

 表情はさっきと変わらないままなのにね。器用に笑いながら首を傾げて口を開く。


「ねえ、先ほどおっしゃったラスタルの問題点について、私にも教えてくださらない?」


 あれ?

 他国の王女様が自分の国の弱みを聞き出そうとしてるのに、さっきまで騒いでた人たちは何も言わないよ? でも、家臣団の後ろの方の人とか末席の人は悔しそうな顔をしている。

 シュザージは、もう何度目になるかわからないあきれ顔で神王さんを見た。

 

『神王陛下、ウェルペティ神王国の王女様が其方の国の問題点を聞きたいそうだが、答えてもよろしいか?』


 シュザージに聞かれてラスタル神王さんはキョトンとしているよ。


「姫君が聞きたいというなら構わない」


 ああ、爺やさんの手が泳いでる。台座の下からは止められなくて困ってるよ。止め損ねたウィラくんも頭を抱えて、スタングさんは苦笑い。


『ウィラネルド王子は?』


 ウィラくんに返事を振ったら、ウィラくんはため息をついて答えた。


「教えるべきではないのだろうが、ここはあえて……教えてやって欲しいと思う」


 父王と、その他の老害に目をやるウィラくんは泣きそうだ。

 その心によぎるのは昨夜の事。

 問題について話し合っていた時、神王さんはウィラくんが出した問題の答えに納得してくれていたようだ。けれど、朝には家臣団に説得されて揺らいでいたらしい。流されやすいと言うか、ずっとそうやって流されることで生きてきた人なんだって、悲しくなる。

 その場その場の強者に従う癖でもついているのかな。

 ウィラくんの心がモヤモヤしてる。きっとウェルペティの王女が納得したら、みんなもそれに従うんだろうと。

 そんなウィラくんの心情を、シュザージにも伝えた。

 シュザージは肩を竦めて、偽アデレイに向き直る。


『では、二番目に大きな問題から話そう。ナルディエ神王国が報復を行う場合、帝国で暴れさせた化物を使う可能性がある。その化物について、アデレイ姫はご存知か?』


 知ってるみたい。

 心の奥がちょっと動揺したけど隠したね。首を傾げて知らないフリ。


『ルーシラなら知って──』

「聞いたことあるわ。ジョルアンが作った化物でしょ? 以前の次代会議で自慢していたもの。けど、化物はそこにいる帝国の皇帝陛下の弟君が、魔王石を用いて倒したとも聞いたわ」


 捲し立てるように被せてきた。

 周りがまたざわめく。


「魔王石だと? しかしそれを使えば今頃は……」

「そう言えば、誰かが空を飛ぶのを見たと言っていなかったか?」

「倒せるものなら心配などいらないのでは?」


 ちょっと、初めからリドルカさんを頼らないで。

 リドルカさん、ものすごく嫌そうな顔になってる。


「ウィラ、魔王石の話は、していないのか?」

「もちろんした。父上の病気を診てくれた時に話してくれたであろう? 昨夜の話し合いでもしたし、そこにいる者も何人かは聞いていたはずだ……嘘だと思って聞き流されたか」


 ウィラくんは聞いてたはずの何人かに視線を巡らせた。

 リドルカさんも辺りを見回して、シュザージに問う。


「倒しても良いなら、倒してやるが?」

『ラスタル神王の要請で魔王石の力を奮ったと明言されることが条件だ。化物は生き物を魔に落とし、寄り集めることで形を成したもの。ナルディエがラスタルの報復に化物を使うなら、生贄はかつてナルディエに奪われたラスタルの民が使われる可能性が高いのでな』

「なっ!?」


 悲鳴のような声をあげたのはラスタル神王さん。


『報復が目的ならそうするだろう。国境のこちら側の村には見張りと避難誘導の兵士を送ったが、ナルディエに取られた街や村にそれらは送れない。今のままでは守ることも救うこともできん。そして、それらで出来た化物を帝国の皇子の手で滅ぼせば、要らぬ誤解を生む。故に、化物を倒す折は全責任をラスタル神王国で負ってもらう』


 それが今すぐウィラくんを王位につけない理由だね。

 今の神王様には、守れなかった民に対する責任を負って退位してもらう。そして、新しい神王は綺麗なままその地位について生き残る民の新しい希望になってもらうんだって。

 恨みの対象が別にいないと、ウィラくんは帝国の皇帝さんみたいな苦労をすることになっちゃうよ。兄弟も信用できる臣下もいないのに。

 神王さんもやっと気がついたのか震え出した。ウィラくんも爺やさんもそこまでは考えてなかったのか、青くなってる。


『帝国では、一領地の住民とそこに住う生物の全てが魔に落とされ化物を形成する贄とされた。人も獣も草木も全て真っ黒な汚泥のようになり、積み重なって山の頂に届くほどの化物となる。それは蠢きながら目的の地まで移動する。道々の生き物も巻き込まれ、魔物と化して、それでもそこから逃れようと飛び出して散らばって広範囲で他の生き物を魔に落として走り回る。無数の魔物に襲われた町の惨状は言うまでもなかろう』


 謁見の間が静かになった。

 シュザージ、やっぱり説明うまいね。皆さん一度で理解したよ。

 テレシーとシュザージには前に俺とリドルカさんで説明したんだけど、何度も聞き返されたっけ。


「そ、そのようなモノに、ラスタルの民が……」

「陛下、信じてはなりませんぞ。ナルディエは我が国と同じく神の子の国、そこまでの非道を行うはずがありません」


 動揺する神王さんに、神殿長が首を振る。


『タケユキ、アレを』

「はい」


 俺は腰の後ろに括り連れていた皮袋を取り出した。中には魔法陣の描かれた布に包まれた、気持ち悪い紫の石がある。それを取り出し掲げ持ち、みんなに見せた。

 さすが、上位神術士だらけ。

 この石の異様さに誰もが呻いた。

 気持ち悪いもんね。おどろおどろしい紫色。俺は色以外特に何も感じないけど、リドルカさんもシュザージもテレシーだって近寄るのも嫌だって言ってたし。術士ならわかるよね。


「……紫神石」


 偽アデレイさんが唾を飲み込んでコレの名を呼んだ。神石ベースの石なのかな?


「どうして、あなた方がそれを?」


 偽アデレイさんに答えたのはスタングさん。


「ウィラネルドがナルディエの刺客に狙われた時、返り討ちにされた黒の神使が残して行ったものです。それを師匠が保管されていただけです」


 ウィラくんもうなずく。


「奴らは町のすぐそばで殲滅の神術を使おうとしたのだ。リドルカ殿の助力を受け私が解除したが、難儀したぞ」

「でしょうね。私ならこんなもの触りたくもないけど。ジョルアンは最悪だわ」


 偽アデレイさんが納得しているので、ギャラリーも納得したよ。自国の王子様より信用が高いんだね。情けない話だけど、いてくれると確かに便利だ。

 俺は気持ち悪い石をまた魔法陣の布で包み直して皮袋に入れた。


「帝国を襲った化物の核には、大人の背丈ほどの、コレがあった」

『それが帝国を落とす切り札だったのなら、同等のものが残っているかはわからんがな』


 リドルカさんとシュザージの会話を聞いて、偽アデレイさんは「ふふっ」と笑う。


「ジョルアンは欲張りよ。ひとつ使うなら同等の物をもうひとつ確保していてもおかしくないわ」

「あるいは、意地になってもっと巨大で凶悪な物を作っているかもしれないな」

「それもあり得るわね。あいつ、やたら魔王石を欲しがっていたもの。自国の貴重な神王石にまで手を出しているかもしれないわ」

「くそう、最悪ではないか! どう対処すればいいんだ!?」


 ウィラくんと偽アデレイさんが砕けた口調で会話をしてるよ。これが共通の話題で盛り上がるってやつかな?


『タケユキさん、違うと思います』


 心の中にテレシーのツッコミが入った。

 違うのか。

 

「それにしても、それだけの化物に狙われているというのがラスタル神王国の二番目の問題なの? 一番目は私に聞かれたくない話なのかしら?」


 偽アデレイさん、ちょっと調子が戻ってきたね。

 試すような目つきでシュザージを見てる。


『もうわかっておるのだろう?』

「……わかりやすいものね」


 ふふふと笑う偽アデレイさん。

 頬が引きつるウィラくんとスタングさん。それと、俯いてしまった神王さん。周りのほとんどは首を傾げているけどね。


「そうそう、ウェルペティ神王国として提案があるのだけど。バロウのモーリスを呼んで次代神王の連名でナルディエの神王と次代ジョルアンにお手紙を送りましょう。争いを避けて本来の神の子の兄弟国に立ち返りましょうと」


 おおっ、と今回一番の歓声が上がった。


『バロウが連名に名を連ねるか? それに、そんなことでナルディエが矛を収めると思うか?』

「少なくともナルディエ神王は無視できないと思うわ。神王国で次代というのはその辺の国の王子や王女とは訳が違うの」


 それを謀ってるウェルペティはいいのかな?


「やってみて損はないわ、ナルディエ神王が息子の暴走を止めてくれればあなた方もひとつ懸念がなくなるでしょう?」

『それで、其方は何を見返りに求む?』

「あら嫌だ。神王四国の平穏はウェルペティの願いでもあるのよ」


 そう言った後、口を閉じた偽アデレイさんは視線を俺に向けた。


『あなた、異世界からの来訪者でしょう?』


 心の奥に浮かんだその言葉にびっくりした。

 俺が心を読むことを前提に、言葉を発して読み取らせている。

 シュザージは偽アデレイさんを睨み据え、リドルカさんは俺の前に立ち、テレシーは俺と手をつなぐ。


『見返りに、あなたとお話しさせてほしいわ』


 唇を閉じたまま、ニッと笑う偽アデレイさん。

 心を読んでた事だけじゃなく、異世界人ってことまでバレちゃってる。

 なんで?

 俺たちが答えられずにいると、偽アデレイさんは嬉しそうに微笑んだ。


「決まりね」

 

 ごめんなさい。

 四連続お断りは、できなかったよ……



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