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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第一章 運命の人
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第十五話

 じーさん先生とトルグさんが出かけて三日目。

 今日の夕食前に、二人は帰ってくる予定だ。


「これ、本当に俺が着てていいんですか?」

「もちろんよ。普段着用に買ったんだけど、トルグはあまり気に入っていなくてほとんど袖を通していなかったの。それに、もう手直しをしてしまってるでしょ?」


 ふふっと笑うミリネラさん。


「お似合いですよ、タケユキさん」


 テレシーもニコニコだ。

 ちょっと照れくさいけど「ありがとう」と言っておく。

 俺は今、トルグさんのお下がりの服を着ている。

 服は濃い深緑のシンプルなシャツで、ズボンは濃い灰色。薄手の上着は……これって老竹色っていうんだっけ。灰色がかった竹の色。

 俺の名前が竹雪だから、なんとなく竹の色の名前は覚えていたんだ。

 なんか全身緑になったな。

 もともと着ていた服は、色あせた灰色の部屋着の上下。それと厚手の化繊のカーデガン。色は若竹色だった。服は母さんが年に何度か買って送ってくれていたのでそれを着ていた。

 元の服は、とりあえず部屋に置いてある収納箱に入れてある。唯一、自分のものと言って間違いない物なので、もしものためにも取っておく。


「トルグさんの許可をもらってないですが……」

「心配しなくても、そんなことで怒ったりしないわ。トルグは」


 そこまで言ってくれるなら安心して着ていよう。くれたのはミリネラさんだし。


 この日も午前中は勉強だった。

 言葉だけではなく、じーさん先生の研究についても交えながら色々と教えてもらった。

 じーさん先生は資質が足りなくても使える術や、本来は個別にしか発動できない魔術と神術の複合術を研究をしているそうだ。


「神術も魔術も突き詰めていけば、力の根源はほぼ同じものじゃないかとオーリー先生は考えているの」

「そうなんですか?」

「例えば水を呼ぶ術なんだけどね。神術で呼べば暖かめの水、魔術で呼べば冷たい水が集められるの」

「……そうなんですか?」

「冷めにくいとか温まりにくいとかの違いはあるけど水は水なのよね」

「なんか、面白いですね」

「ただ、どちらも呼べる量は似たものよ。低位の石でコップ一杯、中位の石で水差し一杯、上位なら水瓶一杯ってところかしら」

「へえ……」


 水脈見つけて掘る方が大量の水が得られるな。あ、でも所構わず掘るわけにはいかないか。そう言う意味では、ここの術の方が使い勝手がいいかな。


「でもね、魔術と神術同時に術を使うと低位の石でも水瓶二杯の水が出せるのよ。しかもほんのり暖かくて薬効成分も少しあったわ」


 温泉ですか?


「じゃあ、上位術者が力を合わせて水を呼んだら、お風呂いっぱいの薬効のある暖かい水が得られますね」


 いいな、温泉。

 一度、山奥の人が来ないところで掘り当てたっけ。じーちゃんとばーちゃんとたまーに出かけて入ってた。

 また温泉入りたいな。


「ふふ、そうね。でも魔術士と神術士はあまり仲が良くないのよ。術の研究のためだとしても協力して術を起こすなんてまずしないわ」

「そうなんですか?」

「うちは特別なのよ」


 そうなのか。

 ミリネラさんは魔術士でトルグさんは神術士だけど結婚するほど仲がいいんだもんな。


 そんな感じで勉強していると、お茶の用意をするため台所へ行っていたテレシーが大慌てで研究室の扉を開けた。


「たっ、大変ですミリネラ様! プルトヌー様がいらっしゃいました!」


 プルトヌーってじーさん先生の息子だよな。問題アリの。


「今日はオーリー先生がいらっしゃらないから帰ってもらうしかないわ。お伝えしたの?」

「門番に立っていたスルフさんも、執事のシュードさんもそう言ってお帰りを願ったんですが聞き入れてくれず、その……タケユキさんに会わせろと言って強引にお屋敷の前まで入ってきてしまって──」


 俺? なんで?


「あまりいい気がしないわね。私が出るから、タケユキはここにいて頂戴」

「……はい」


 そう言って、ミリネラさんはテレシーを連れて部屋を出て行った。

 とりあえずここにいるけど……気になるな。

 屋敷の前って言ってたけど、玄関前ってことかな。


 ひとつ深呼吸して、気を沈める。

 そして、目を閉じて──遠見。うん、このくらいの距離ならテレパシーも届くね。


 玄関の隙間から外を伺うミリネラさんとテレシーが見えた。

 執事さんに怒鳴りつけていた趣味の悪い服のおっさんも見える。

 ここの執事のシュードさんは姿勢のいい工場長って見た目だから、偉そうに怒鳴るじーさん先生の息子が、難癖ばかりつけるタチの悪い取引先みたいに見える。うちの田舎の工場でもそんなことがあったって、おばちゃんたちがばーちゃんとこに来て話してたっけ。あーやだやだって。

 まあ、故郷のことは置いといて。


 扉を開けて外へ出たミリネラさんが執事さんの前に出る。


「こんにちは、プルトヌーさん。そのように大声を出されては近隣にも先生にもご迷惑になりますよ」

「ふん、父の弟子でしかない者が偉そうに」

「本日はオーリー先生はお出かけです。日を改めてお越しください」

「今日は父に用があってきたわけじゃないっ。先日父が拾ったというトーセル島民を出せ! あれがこの家を乗っ取りに来ただけの偽物の可能性がある! この私が本物の島の蛮人かただの盗っ人か見定めてやる!」


 蛮人? 盗っ人? 誰のこと?

 と、よく見ればダメ息子さんの後ろに見覚えのある兵士がいた。レノンとローグさんだ。そしてもう一人、困った顔をしている貧相な男。誰?


「訳のわからな言いがかりはおやめください」

「はっ、お前たちもあのガキを利用してこの家を乗っ取るつもりなのだろう? ついでにお前たちの魂胆も暴いてやる。さあ、さっさとあのガキを連れてこい!」

「お帰りください、プルトヌーさん。今なら聞かなかったことにしてあげます」

「黙れ! おい、おまえら! 屋敷に入る許可を出す。あのガキを引っ立ててこい!」

「いや、俺たちは証言のために連れてこられただけであなたに雇われてるわけじゃないので」


 面倒そうに断ったローグさん。

 よく聞けば、隣のレノンが心の中で愚痴ってる。


『あいつの正体がわかるかもってんでついて来たけどさ。子供の小遣いみたいな依頼料でそれ以上の何させようってんだよ』


 そう言って後ろの貧相な男を見る。貧相な男の声も聞く。


『やれやれ、そりゃオレはちょっとはトーセル島国の言葉はわかるよ? 遠海に漁に出たら出くわすこともあるし、挨拶とか敵対しませんよーくらいの言葉はさ。それで本当にトーセル島国の人間か見極めろったってなぁ』


 なんだかサーっと血の気が失せた気がした。

 トーセル島国の言葉なんか知らないよ!? 会話して証明しろなんてことになったらボロが出る。ダメ息子だけじゃなく、兵士たちにもミリネラさんにもテレシーにも、俺がトーセル島国の人間じゃないってバレてしまう。


 嘘をついてたってバレたら……どうなるんだろう


 ミリネラさんにもテレシーにも不審がられる。じーさん先生が知ってて隠してたってなったら先生の信用にもかかわる。

 どうしよう、どうしたらいい?

 ダメ息子が諦めて帰ってくれればいいけど、あの勢いで諦めるなんてするかな?


『ふふん、あの頑固親父の鼻を明かしてやる。ちょっとギャンブルで失敗しただけで息子を突き放すような親だ。遠慮なんかせんぞ! 学者などという儲からない仕事は引退させて、この家と財産は私が引継ぎ管理してやろう』


 ダダ漏れの欲望が聞こえてしまった。

 諦めそうにないな、このダメ息子。

 俺はここに居て会わないのが無難だろう。

 ……いや、待てよ?

 あの貧相な漁師の人は、挨拶くらいしか知らないんだよな? 定形の言葉だけ読み取れれば、日本語まじりで話しても誤魔化せないか?


 行くべきか行かざるべきか、迷っていたら門の方からスルフさんが走って来た。


「ミリネラさん! シュードさん! また来客が、あの、騎士団の方々が‼」


 騎士団!?


 その場のみんなが門の方を向く。俺も視野を広げてそちらを見れば、銀灰色の鎧を着た屈強な男が六人、足並みを揃えて近づいて来た。

 先頭の騎士が足を止めると、後ろの騎士もザッとかかとを鳴らして立ち止まる。


「こちらにいる、テレシーという者に騎士団への出頭を命じる」


 テレシー?



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