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第百四十八話


『では、時間稼ぎを頼む。スタング』

「お任せください、師匠」


 意気揚々と返事をしてスタングさんは部屋を出て行ったよ。

 シュザージにちょこちょこアドバイスもらってたから、うまく謁見の時間をずらしてくれると思う。

 廊下にはまだ神殿騎士が居座っていて、スタングさんが出てくるのを待ち構えていたけど邪魔だったからすっころばせた。とりあえず一番偉そうなのの足をちょっと引っ掛けたら隣を巻き込んで転び、隣のはその隣にしがみ付いて転び、その隣のは正面のの腕を引っ張り……と連鎖してみんな転んだんだ。おかげで楽に片付いた。

 スタングさんは廊下で転がって痛めた足を抱えた神殿騎士たちを見てびっくりしてたけど、すぐに無視してウィラくんのところへ向かったよ。


「じゃあ、俺たちも行ってきます」

『ああ、できるだけ早く戻ってくれ。だが無理はするな』

「お気をつけて」


 リドルカさんは二人にうなずくと俺を抱き上げたので、俺は二人で空へ転移。

 俺が一緒だから今回は見つからないようにするんだって。

 王城からできるだけ離れた高い空を目指して跳んで、そこからはいつものようにリドルカさんが飛んでくれる。


 ラスタル神都の空にやって来た伝書鳥は羽太郎と羽次郎だった。

 羽太郎は帝国からアスノンさんがこっちへ向かったという知らせを。羽次郎はアスノンさんと合流して一緒に来ているトムさんと、今いる場所を知らせて来た。

 アスノンさんたちはフレンディス国とラスタル神王国の国境に近いところまで来ているそうで、色々と必要なものを持って来てくれているらしい。

 その内容にテレシーはびっくりして、シュザージは悪い顔で笑った。


 ちなみに、羽太郎は皇帝一家に向けた連絡を乗せて帝国に向けて飛ばし、羽次郎に「すぐに行く」と連絡を乗せてトムさんと一緒にいるアスノンさんに宛てて飛ばしたんだって。 

 ので、俺とリドルカさんはアスノンさんに会いに行く。

 ラスタルの神都からだと少し距離があるけど、空を高速で飛べばたいして時間はかからない。

 

 馬車で一日と少しかかった距離を飛んで戻って、とある森に差し掛かった時。何かを感知したリドルカさんが降下を始めた。


「魔術で、位置を発信している」


 つまり、アスノンさんが「ここにいますよ」と知らせてくれているらしい。本来は、伝書鳥を呼ぶ術なんだって。

 周りに人目がないか気をつけつつ、森の中に降りた。

 そこには、二人の人物がひざまづいて待っていた。

 一見すると行商人の親子に見えなくもない、旅装束のおじさんと青年。


 オンタルダ帝国隠密兵団総長兼皇妹パレアーナ姫の侍従長アスノンさん。

 ウェルペン領で会った隠密兵で羽太郎の元の主人トムさん。そして、その肩には羽次郎がいた。羽三郎はお仕事中かな? 


「お久しぶりにございます、リドルカ殿下。御息災でなにより」

「良い時に来た。だが、時間がない」

「承知しております、まずはこちらの荷を」


 アスノンさんは背負っていた荷物をリドルカさんに渡した。大きなリュックだ。


「兄上たちに、礼を」

「ご無事でお帰りくださることが何よりです。もちろん、タケユキ殿も。そして、テレシー女王と賢者シュザージ殿も。オーレリア様も心から歓迎するとおっしゃられておりました」


 弟さんと甥っ子くんの件、ちゃんと伝わってるんだね。

 リドルカさんはうなずいて、リュックを背負って俺を抱え直す。


「お前たちも、無事で帰れ」

「アスノンさん、トムさん、羽次郎、今度ゆっくり合いましょうね」


 俺が手を振っているうちに、リドルカさんが空に上昇。

 アスノンさんたちはあっという間に見えなくなった。名残惜しいけど仕方がない。俺たちはそのままラスタル神王国の神都に戻って来た。

 そして、空から客間にテレポート。


「お帰りなさい、タケユキさん、リドルカさん」

『思ったより早かったな』

「急いだ」

「ただいま、テレシー、シュザージ」


 帰った途端、テレシーがてとてと走って来て抱きついたので頭を撫でた。


「テレシー、どうしたの? 疲れてる?」

「シュザージが無茶なことを言うんです……」

「無茶? シュザージ」

『神王との謁見に、女王として面会しろと言ったのだ』


 おお、テルセゼウラの女王様。


『衣装が整うならその方が良い。王族としての振る舞いの実地訓練だ』

「突発的な訓練が神王国からなんてひどいです。せめてベルートラスならなんとか……」


 ベルートラスの王様は一度ヘコませたから気が楽なんだって。


「帝国の皇帝さんなら優しいから失敗しても文句言ったりしないけど、神王国はどうだろう」

「ふえっ!?」

「あはは、テレシーなら大丈夫だよ。女王様もちゃんとやれる。それに、俺たちがそばにいるからね」

「は、はい! 頑張りますっ」


 ちょっとやる気が出たみたい。

 よかった。


『それで、それがその荷物か? 正装衣装が三人分入ってるにしては小さいが』

「魔力で圧縮している」


 リドルカさんがテーブルに下ろしたリュックを指差しシュザージが言うと、リドルカさんがリュックを開けた。

 布団圧縮袋みたいなのあるのか。くちゃくちゃになってないといいけど。


 羽太郎が持ってきた伝言に、アスノンさんが正装衣装を持ってやって来ているとあったんだ。

 前に帝国に送った知らせで、フレンディスで王様に会うって伝えたら「それならきちんと正装して会わなければ帝国の名折れ(オーレリアさん談)」となって、急いで用意してアスノンさんが持ってくることになったらしい。お疲れ様です。

 フレンディスでは間に合わなかったけど、神王国で間に合ったからいいか。神王さんにはもう二回ほど会ってるけどね。


『正式な謁見なら、衣装があるかないかで印象が大きく変わる。あるに越したことはない。帝国は意外に優秀だな』

「意外とか言わないでください。自分の分がないから拗ねているんですか?」

『……あっても着られないから無駄だ。なくて良い』


 シュザージ、ちょっと拗ねてるね。


「テレシーの分は、パレアーナが見立てて用意した。シュザージは、幻影体と伝えていたから、どうすればよいかわからなかったそうだ」


 リドルカさんが、リュックに入っていた小さな魔石を手にそう言った。あれは伝書鳥が運ぶ伝言用の魔石だね。


「そうですか……嬉しいです。パレアーナさんにはお礼を言わなければ」

「いつぞやの、詫びだ」

「それでもお礼は必要です」


 リュックの中から、たぶん圧縮袋だろう布袋をいくつも取り出しながら嬉しそうにそんなことを言うテレシー。

 布袋には加工されたビー玉みたいな魔石がついていた。魔石を外せばふわっと袋が大きく膨らんだよ。すごいね。


「……うわあ、これ、こんなすごい服が入ってましたよ」


 開けてもびっくり。

 テレシー用のドレスは白地に赤い花の刺繍が施されたとってもきれいな服だった。それと赤いマントと装飾品。


「急いでいたので、城にあったものを見繕ったそうだ。おそらく、パレアーナのものだろう」

「本物のお姫様ドレスですか!?」

『本物の女王の衣装としては物足りないが、今は十分だろう』


 シュザージってば。

 リドルカさんの衣装は帝国で見たことのある白と青の衣装で、俺のは皇帝さんと会う時に着せてもらった衣装が入っていた。

 服は全然シワがついてなかったよ。

 びっくりしてたら、リドルカさんは帝国ではよく使われる収納方法だって言ってて更にびっくり。


『この衣類収納方、メイリンク商国やルニエルの商人に売れば良い金になるだろうに』

「そうなのか? ある程度の魔術士でなければ、難しいが」

『なんのための魔法陣だ。うむ、これを応用すれば商人どもを釣る餌が増やせるな』

「シュザージ、今はそんな話をしている場合じゃないでしょう?」

『そうだった』


 そうでした。

 おもしろそうな話だったけど後だね。


「衣装以外にも、俺が正式な皇帝の代理人だと示す委任状。伝言用魔石がいくつか。スルディアとやりとりした情報と、フレンディスとウィロックの国境の領地で起こった事件についての報告もある」

『ほう、それは私でも聞けるものか?』

「訓練がいる。俺が話すが?」

『……一言一句、端折らず語れるならまかそう』


 ちょっとだけ間を開けて、リドルカさんはうなずいた。

 情報は多いようだ。


『テレシー、まずは寝室で着替えてこい。タケユキは手伝ってやれ』

「へっ!?」


 テレシーが真っ赤になったよ。


「手伝いって何をするの?」

「だっ、大丈夫です! 一人で着替えられます!」

『儀式用のドレスが一人で着られるわけがなかろう。背中のボタンや帯のリボンは整えられんだろう』

「ああ、そういうのなら手伝えるね」


 妹や母さんの着物の帯とか手伝ったことある。

 ちょっと違うかな?


「タケユキさんんんんん……はう、お願いします」


 そんなわけで、寝室でテレシーの着付けを手伝ったよ。

 テレシーがあんまり見て欲しくないと言ったので、呼ばれるまで後ろを向いていて、呼ばれたら手伝った。少し時間がかかったけど、ドレス姿のテレシーはとっても綺麗だった。


「テレシー、すごく綺麗だ。まるで花嫁衣装みたい」

「はっ、花嫁衣装ですか!? 白すぎませんか!?」

「そうなの? 俺の故郷では花嫁さんは白いドレスとか着物を着ることが多いんだよ。テレシーは白無垢も似合いそう」

「えっと、よくわかりませんが、ありがとうございます」


 テレシーが照れてる。かわいい。

 と、見惚れていたら主室の方からシュザージの声が響いた。


『こら、テレシー。着替えたらタケユキの着付けを手伝え。その後はドレスで歩く練習と女王の立ち居振る舞いの稽古を出来る限りやっておけ』

「ううっ、わかりました」


 そうして、今度は俺も着替えたよ。

 リドルカさんは? と思ったけど、リドルカさんは自分だけで着替えられたんだった。帝国のお城でもそうだったし、衣装もその時のだしね。

 主室に戻ったら案の定、リドルカさんは着替え終わっていた。シュザージも最初に見た衣装に変わってる。

 うん、二人ともかっこいい。


『おお、タケユキ。そうやって見ると其方もなかなかかっこいいぞ』

「えっ!? 俺、かっこいい!?」


 シュザージにはかわいいかわいい言われてたから、かっこいいと言われたらすごく嬉しい。チラリとリドルカさんを見たら、リドルカさんも笑ってうなずいてくれたよ。


「そうですね、タケユキさんも王子様みたいですよ。よく似合っています」


 テレシーも褒めてくれた。

 嬉しいね。

 写真撮りたい。でもカメラはない。

 ……念写じゃ無理だよね、ここじゃ。


 こうして、一通り打ち合わせをしたり振る舞いの練習したりしている内に、ラスタルの侍従さんが呼びに来たよ。

 思った以上に時間が稼げたみたいだね。

 扉を開けて部屋から出たら、侍従さんは大口開けて驚いてた。壁際に寄って蹲ってた神殿騎士も間抜けな顔してる。

 びっくり成功。


 この後も、見る人見る人驚かすことになる。

 ちょっと楽しみだ。



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