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第百四十六話


 シュザージは『コホン』と一度咳払いをして、続けた。


『タケユキが自覚していない能力にまつわる話になる』

「俺が、自覚してない?」


 首を傾げた。

 そんなのあるの?


『タケユキは、御祖母殿の話をそれなりに覚えてはいるが、色々と結びついていない。御祖母殿は、ちゃんと思い出すようにと言っておったぞ』


 うう……ばーちゃん。


『リドルカの奴もテレシーも、タケユキにきちんと認識させて自身で制御できるようになった方がいいと言う。私は、知った上でタケユキが無茶をしないかが心配で言いたくなかった』

「みんな、知ってるの?」

『ああ、話を聞いたら確信した』

「シュザージは、やっぱり話したくない?」

『無茶をしないか?』

「しないよ」

『本当にか? 我らのためにと無理をして、窮地に至ったり死にかけたりしないか?』

「……しない、ようにする」


 それはさすがにわからない。

 もしもの時は全力でリドルカさんもテレシーも、当然シュザージも守るよ。

 それは譲れない。

 と、シュザージの視線に訴えかけたら、シュザージは大仰にため息をついて見せた。


『まったく、タケユキは……わかった。教えよう。だが、その力を使う時は必ず 私とリドルカとテレシーに了承を取れ。できるか?』

「わかった」


 にっこり笑って答えたら、シュザージは困ったように笑った。

 そして、真剣な顔で俺を見つめ直す。


『その力は、其方ら一族の大元から引き継がれている、最大の力とも言えよう。時々それは発現されていたが、先日のあの魔法陣記号はそれを固定化し──』


 ドンドンドンドン!

 と、扉が叩かれ「ひゃっ」ってなった。

 これからっやっとって時に誰!?

 俺はムカつきつつ扉を睨み、その向こうにいる人を睨んだ。

 いい歳した騎士が五人。それに囲まれるようにスタングさんがいた。


「やめなさい! 客人に対し、無礼ですよ」

「あのような者どもを気遣う必要はありませぬ。あなたはまがりなりにもラスタルの神王一族なのですよ」


 まがりなりって。

 神王一族に無礼なこと言っているのは口髭を生やしたおっさん騎士。偉そうに「ふん」と鼻を鳴らし、また扉をドンドンと叩いた。


「ラスタル神王陛下の甥御様であるスタング様が御成だ。速やかに扉を開けよ」


 シュザージが『チッ』と舌打ちした後、俺を膝から下ろして立ち上がった。そして両手を上げて扉に向けて魔法陣を描く。


「な、なんですか!?」

「何事だ?」


 テレシーが寝室から出て来て、リドルカさんが窓から入って来た。リドルカさん、本当に空から部屋の様子見てたみたい。すごいよ、魔力で遠見も透視もできるようになってる。


『テレシー、扉を開けてくれ』

「はいっ」

「えっ!? テレシーが開けるの? 危なくない?」

『大事ない。テレシーの方が奴らは油断してバカを見る』


 バカを見る?

 よくわからないけど、シュザージがものすごく悪い顔してる。まあ、テレシーが大丈夫ならいいかな。

 テレシーは不安な様子も見せず、ベテラン小間使いの顔で扉を開けた。

 扉の外はさっきの騎士たち。テレシーを見てニヤリと笑う。


「なぜさっさと開けぬ。ラスタル神王陛下の甥御様を待たぁっ!?」


 サッと身を引いたテレシーを追うように、勢いよく入ってこようとした騎士だけど、浮かび上がった魔法陣にぶつかってひっくり返った。バン! ドタン! って。思わず吹き出しちゃったよ。


『スタング、入れ』

「はいっ!」


 呼ばれたスタングさんは、なんの警戒もなく魔法陣を抜けて部屋に入った。それを見た別の騎士が二人、後に続こうとしてバンドタンバンドタン。

 わあ、バカを見てる。


「なんだこれは!?」

「さては魔術だな!? 神王のお膝元で禁忌とされる呪われた術を使うとは、万死に値する!」

「出合え出合え! 神王陛下の甥御様が拐かされた! 此奴らを捕らえよ!」


 ええ……


「なんですか、この絵に描いたような神属性騎士は」

『大方、ラスタル神殿の神殿騎士か』

「す、すみません、師匠。その通りです」


 テレシーとシュザージに言われて恐縮しまくるスタングさん。悔しげに恥ずかしげに、戸口でガーガー言ってる騎士たちを振り返り怒鳴る。


「お前たち! バカなことを口にするのはやめなさい! お前たちが騒げば騒ぐほど、ラスタル神王国の品位を下げているのですよ!」

「なっ、なんということを!?」

「そのような者どもと馴れ合う方が、神王一族の恥と心得られよ!」

「神殿に育てられ守られた恩をお忘──」


 パタン。

 テレシーが扉を閉めてくれたよ。

 まだ廊下で騒いでいるけどそれは無視。


『何があった? いや、想像はつくがな。派閥抗争でも始まったか』


 ギョッとしたスタングさん。

 シュザージが怖い顔してるから震えだしちゃったよ。


「申し訳ございません、師匠。問題を提起してもらった途端、こんな事態になるとは……」


 スタングさんが言うには、昨日あの後ウィラくんと一緒にシュザージの宿題について王様や爺やさんを交えて話し合ったそうだ。

 ただ、そこに神王さんの側近が数人いたのが不味かった。

 

「彼らは古くからラスタル神王にお仕えしていて信用も厚い方々でした。もちろんバロウともナルディエとも繋がりはなく、真にラスタルを思いつつも押さえ込まれままならない日々を過ごしていた者たちです。良い知恵でも出してくれるなら、話を聞いていてもいいと私もウィラも思っていました。ですが……」


 ウィラくんの王位継承の先延ばしを提案したことで、俺たちがスタングさんを担いでラスタル神王国を乗っとる算段をしていると邪推されたらしい。それに乗っかる形でラスタル神殿が、自分たちが預かって育てたスタングさんを王位につけようと猛プッシュしはじめて、古参の家臣と神殿で激しい啀み合いが勃発したらしい。


『バカバカしい』

「おっしゃる通りです、師匠」


 俯いて泣きそうになるスタングさんの肩を、テレシーがポンと叩いた。


「スタングさん、そんなに落ち込まないでください。今、シュザージの機嫌が悪いのは、タケユキさんとの二人きりの語らいを邪魔をされたからであって、想定していた事態になったからではありません」


 テレシーがにっこり笑ってそう言えば、スタングさんは「へ?」とちょっと間抜けな顔で視線を上げた。


『まったくだ。私がタケユキと二人きりになれる機会など滅多にないことなのだぞ? それを無粋にも邪魔しおって』

「何を言っているんですか。長々と本題を先延ばしにして話を長引かせてしまったせいでしょう。他所様のお家で、今後の予定もあるというのに」

「え? そうだったの?」


 なんだか変な話ばかりすると思った。


『違うぞタケユキ、あれは必要な話で、と言うよりテレシー。其方、話を聞かないようにすると言わなかったか?』

「なるべく、とも言いました」


 全部聞いてたんだね、テレシー。たぶんリドルカさんも。

 チラリとリドルカさんを見たら、ふっ、て笑った。


「まだ、完全ではない」


 スタングさんがいるからふわっと隠して言ったけど、透視と遠見だけじゃなく声も聞けるようになってるんだ。すごいよ。


『くそう、せっかくだから用件の後、とっておきの話もしてやろうと思っていたのに』

「とっておき?」


 なにそれ、気になる。

 シュザージはふふんと笑って、俺を見た後リドルカさんに目を向けた。


『昔々、テルセゼウラ全盛期の頃。とある魔法陣研究者の夫婦がいてな。その夫婦は子沢山だったが、いつも自分ばかり研究の手を止められると怒った妻が、夫の腹にとある魔法陣を書き込んだ。その数ヶ月後、夫は──』

「そこまでです!」


 怒ったテレシーが割って入った。

 何の話かよくわからない。

 リドルカさんも首を傾げてる。


「テレシー、俺はもうちょっと聞きいたよ」

「その話は、あー……アレです、王家の秘術を知ってからシュザージに聞き直してください」

「そうなの?」

「兄上も知っているのか?」

『知るはずがない。が、順番はある。確かに、それを知ってからの方が良いな』

「…………ごめんなさい、お兄さん」

『くくっ、実のところ、其方らがどんな初めてを迎えるか興味がないわけでもない』

「シュザージっっっ!」


 何の話だったんだろう。テレシーが真っ赤だ。


「あの、師匠……」


 スタングさんも毒気の抜けた顔をしている。

 なんでか知らないけどちょっと和んだみたい。


『話がそれた。それで、ウィラネルド王子はどうした?』

「ウィラは神王陛下の説得をしています。陛下は、その、家臣たちに流されかけていまして……」


 神王さん……


「家臣たちも神殿も、師匠たちの取り込みを画策しています。全力を出さないと言ったことや、ことと次第で中途でも手を引くといった意味を、報酬次第と思っているようで」

『ほほう』


 わあ。

 シュザージは心底バカにしたように笑ってるし、テレシーも苦笑い。リドルカさんも呆れてる。俺はおコメは欲しいけど、そんなことのためにここに来たわけじゃないし。


『其方とウィラネルド王子はわかったのか?』

「当然です。師匠の最大の目的はテルセゼウラ復興です。強大な帝国の支援を受けるために動くのはわかりますが、なんの支援も約束できない脆弱なラスタル神王国のために力を尽くす意味などありません」


 キッパリ言ったスタングさん。

 状況を理解してない大人たちに怒ってるのがよくわかる。


「それに、帝国にはまだ多くの問題があるはずだとウィラも言っていました。帝国にもしものことがあれば、リドルカ殿下は即座に帝国に戻られる。そんなことは当たり前のことです」


 スタングさんはリドルカさんに向き直った。


「もしもなどない方がいいに決まっていますが、その時はどうぞ、この国のことはお気になさらずお帰りください。助けてもらうばかりで、何もお返しできないままになるのが心苦しいのですが……」

「良い。帝国は今は安定している」


 あ、伝書鳥の知らせが良かったのかな?

 リドルカさんの声が嬉しそうだ。

 スタングさんは少し驚いた顔をしたけど、ホッとして息をついた。

 

「私はそれをお伝えするために王城を抜け出して来たのですが、ここに来る途中であの騎士たちに見つかって、勝手について来て難儀しました」


 勝手について来たのか。

 神殿騎士ってそんなのばっかり。


「それと、少し早いですがウェルペティのアデレイ様が到着されたそうです。今はウェルペティ官司の宿舎で休憩されていますが、この後ラスタル神王に謁見を申し込まれています。何の準備もしていないところへの急な謁見ですが、陛下も家臣団も神殿も、それを受け入れました。おそらくその時に師匠たちも呼んでラスタル神王国のための助力を乞う……いえ、命じるつもりです」

「えっと、つまりアデレイさんが来たらウェルペティ神王国の威を借りて脅すぞってこと?」


 なんとなく声に出してシュザージに正解か聞いてみた。

 

『そうだろうな』

「おバカさんですねぇ……」

「ラスタルは、軛が欲しいのか?」


 せっかく長年ラスタルに集っていたパロウとナルディエを追い出す算段を始めたところに、なんで別の集りを呼び込むの? 頑張ってるウィラくんがかわいそうでしょ。


「お恥ずかしい話ですが、私もウィラネルドもウェルペティに協力を求めるつもりはありません」

『……いや、協力はある方が便利は便利だ』


 便利と来た。ってことは──


「脅すの?」

「タケユキさん」


 テレシーに肩を叩かれた。


『いや、脅そう。ウェルペティの王女の弱みを掴んでこちらの意を汲んだ協力体制をとってもらえれば良いのだ』

「シュザージ!?」

「師匠!?」


 おお、シュザージが賛同してくれた。

 弱みを掴むなら俺の出番かな。

 リドルカさんも腕を組んでうなずいてるよ。


「ならば、ちょうど良い。アスノンが来ている」

「へ? アスノンさん?」

「良いものを持って来てくれた」

『ふむ、ならば少し策を練るか』


 シュザージがそう言ったら、スタングさんが目をキラキラさせて喜んでた。

 悪い笑顔を浮かべてるシュザージってかっこいいもんね。


 あげないよ。


 結局、一番大事な話とやらは聞けなかったけど、次の機会でいいってことかな? 他の話はいっぱい聞けたし。

 俺は俺でできることをするよ。

 なんだってね。



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