第百四十一話
俺が探った情報を、心の中でリドルカさんとシュザージとテレシーに伝えたら、三人が共に頬を引きつらせた。
『ラスタル神王のそばにいる医師はバロウの手先らしいよ。神王の部屋や周りを取り巻いているのは、不審な来訪者への警戒と称して、ナルディエの息のかかった騎士がいっぱいなんだって……』
横目でウィラくんを見たら、ウィラくんも爺やさんも青ざめている。バロウやナルディエの手の者が王様を人質にしていることを察したんだ。
心の中に、忌々しげなシュザージの声が響く。
『いくらなんでもそこまでか!? 自国の王が自分の城で人質に取られるなどありえん! ラスタルの騎士は!? 他の臣下は何をしている!?』
『みんな怯えて引っ込んでるみたい』
『なんだそれは!』
シュザージだけじゃなく俺もびっくりだ。
『病身の神王が人質、か』
『病気のお父様を人質に、ウィラネルドさんに友人を売り渡せと要求しているのですか!? タチが悪すぎます!」
リドルカさんもテレシーも怒ってる。もちろん俺も怒っている。
「さあ、ラスタルの王子よ。おわかり頂けたなら、客人にこちらへ来るよう御命じください。もちろん、一人も隠さずですよ」
含みのある言い方をしたバロウの官司。
さらに何かあるのかと探ったら、官司の心の中に『黒髪の美少女の確保』とあった。
黒髪の美少女?
パレアーナさんの嫁入り話は密室でしかしてないし、バレてないと思ったけど、なんでこいつが知ってるの? そもそもパレアーナさんは来てないよ?
よくわからないので、俺はこれも心の中で三人に伝えた。
とたん、周りの温度がヒュッと下がった気がした。
バロウの官司がビクッとして目を見開いて半歩身を引く。
俺が左右を確認したら、リドルカさんもシュザージもテレシーもすごい目つきで官司を睨んでたよ。
「ええい! それは我らの獲物だ! 者共、ひっ捕らえよ! バロウなどに渡すな!」
空気を読まないナルディエの官司が叫んだ。と、同時に動いたのはクレオさん。ウィラくんと爺やさんを俺たちの方へ突き飛ばし自身もこちらへ駆け寄った。スタングさんも構えていたのか同時に駆ける。
それを見ていたのはテレシーの目。声を上げたのはシュザージ。
『複合魔法陣、結界!』
俺たちを囲い込むように足元に魔法陣が浮かび、武器を手に突っ込んで来たナルディエの騎士や黒の神使を吹き飛ばした。
「のあっ!?」
「ぎゃあっ!」
「こ、これは──」
敵はみんな驚いてるよ。
ウィラくんも爺やさんも驚いてるけど。
でも、この場は守れても神王が人質のままじゃどうしようもない。
よし、助けてこよう。
『タケユキ!?』
「タケユキさん!?」
シュザージとテレシーはびっくりして俺を見返したけど、リドルカさんは無言のまま片手で俺を抱え上げた。
「俺が、行く」
そう口に出したのは、徹底して俺の力を隠したいからだと分かった。この状態で転移したらリドルカさんが魔術を使ったように見える。
『くそうっ、それしかないか。場所はわかるか!?』
わかんない。えっと……
「ウィラネルドさん、神王様のいらっしゃる場所はどの方向ですか?」
おお、テレシーが知りたかったことを聞いてくれた。
ウィラくんは「えっ!?」と声を上げ、思わずと言った反応で自分の居城の向こうを指差した。
方向がわかれば遠見と透視。ウィラくんに似た気配を急いで探す。
いた!
王城の奥、広い豪華な部屋の一室。医者っぽい人が数人、騎士が二人、ベッドにウィラくんに似たおじさん。跳べるだけの空間も確認。
「よしっ」
リドルカさんの掛け声で転移。
俺はリドルカさんに抱えられたまま、広い部屋のベッドの真上に出た。天蓋がなくてよかった。着地はせず空間に浮いたまま下を見れば、横になって上を見ていた神王さんと目があった。咄嗟に指で「しー」と合図。王様は口に手を当て声を飲み込む。
よかった。騒がれたら気絶させなきゃいけなかったよ。
そんな神王さんの腕をリドルカさんが掴みあげ、俺もその腕に手で触れる。
「なっ!? なに奴!?」
さすがに騎士の一人が気がついた。けど、敵が動くより早く、俺は転移した。
そして、戻って来たのはシュザージの魔法陣の中。
ちゃんと降り立つ場所を開けててくれたので、そこに着地。いや、俺はリドルカさんに抱えられたままだから着地したのはリドルカさん。ちなみに、リドルカさんは反対の肩に神王さんを担いでる。
「な? な!?」
「父上!」
「叔父上!」
「陛下!」
担がれたままの神王さんがキョロキョロし出したのを見て、ウィラくんスタングさん爺やさんが一斉に神王さんを呼んで駆け寄って来た。リドルカさんは担いでいた神王さんを降ろす。神王さんは少しよろめきながらなんとか立って、爺やさんとウィラくんがそれを支えた。
「ラ、ラスタル神王?」
「ななななっ何をした!? 貴様らっ、何を!?」
大したこと叫べないなら黙ってほしいね。うるさいよ。
バロウとナルディエの官司だけでなく、魔法陣の外の人たちが一斉に喚いた。
『これで憂いはなくなったな』
シュザージが悪い顔で笑ったよ。かっこいいね、その笑顔。
そんな笑顔のまま振り向いたシュザージは、ウィラくんを見た。
『指揮は其方が取れ、ウィラネルド王子』
「わっ、私が!?」
『其方の国だ。其方が治めよ』
「どうして欲しいか、言えばいい」
リドルカさんが、一緒に旅してた時と同じようにつけ加えて言えば、ウィラくんは軽く息を飲んだ後、すぐに顔を引き締めお父さんをスタングさんと爺やさんに任せて前へ出た。
「敵対者を一掃する! リドルカ殿、シュザージ殿、御助力を願う!」
『承知した』
二人がうなずくと戦闘開始。
シュザージはテレシーから離れられないから、結界魔法陣の中から攻撃魔法陣を大量に描いて敵を威圧する。逃げ出す者はリドルカさんが走り出て捕まえていった。
やっぱりすごいね。
俺の夫はどっちも強いよ。
と、感心しながら見てたら、テレシーの手が俺の手を掴んだ。
心にそっと声が届く。
『どうしてタケユキさんには自覚がないのでしょうね』
なにが?
と首を傾げたらテレシーは笑った。
『最強無敵は他の誰でもないのですが』
クスクス笑うテレシー。
よくわからないけど、連続して大きな力を使ったのでちょっとくたびれた俺は、しばらくそのまま休憩してた。
こんなところで倒れちゃったら申し訳ない。
その後、遠巻きに怯えていた侍従たちや、バロウやナルディエに押さえ込まれて動けなくなってたラスタルの家臣や騎士たちが合流して、敵対者の一掃に協力してくれたよ。日和見でこっちに着いた人もいたけどね。
とりあえず、神王さんはウィラくんの居城の一室で休んでもらって、ウィラくんはリドルカさんとクレオさんと一緒に宮殿中を駆け回って敵を抑えて行ったよ。とりあえず、わかる範囲で。
聞かん坊で短絡的と思われていたラスタルの王子様は、一気に評判を上げた出来事になったよ。
第六章はここまでです。
あと二章。
この後もよろしくお願いします。




