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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第六章 素敵な無敵
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第百四十話


 ラスタル神王国。


 王都にあたる神都の名前もラスタルと言うんだって。

 やっぱり白い石造りの街だった。

 ただ、フレンディスに比べれば薄汚れたところはなくて本当に真っ白。所々に淡い色合いの街路樹や、花が植えられていてなんともファンシー。二頭身の動物キャラとかがひょっこり出てきそうな色合いだね。女の子が喜びそう。と思ったら、テレシーが「ふわぁ」と言って喜んでた。

 ただし、活気はあまりない。

 ついでに言うと、大きな都市は今はここだけだとか。

 本当なら、両隣の神王国に近いところに都市があったらしいけど、ずいぶん前に取られちゃったってさ。後は昨夜泊まった別邸がある町と同規模の小さな町と村がいくつかあるだけらしい。


 そんな神都は随分標高の高い位置にあるんじゃないかと思う。

 国境を越えて以来ずっと緩やかに登っていたし、王都に向かうにつれて坂が多くなって来た。

 遠くにクオスト山脈みたいな山並みが見える。クオスト山脈は黒々とした山に雪がかぶってそこだけが白い感じだったけど、今見えている山は全部が真っ白だ。なんか寒そう。


「空の上から見てみたいね」

「壮観でしょうねぇ」


 テレシーと二人、そんなことを言いながら馬車の外を見ていた。

 今日の並びは、俺の隣にリドルカさん。テレシーは向かいの席にいてその隣にシュザージがいる。


 そして……なぜか空気がぎこちない。


 まさか、俺が女装をやめたせいじゃないよね?

 今朝、もう女装やめたいって言ったら、みんなガッカリしてたけどいいって言ってくれたよね? 神王国は他より寒いらしいから、元の男物の服を着て帝国でもらったぬくぬくマントを羽織ってる方がいいだろうって、言ってくれたよね? 一応、昨日泊まった別邸にも内通者はいたけど、できるだけ目に止まらないように馬車に乗って出てきたから、大丈夫だよね?

 心の中で問いかけるみたいに焦っていたら、リドルカさんが頭を撫でてくれた。シュザージもテレシーも笑ってる。

 服装が原因じゃないんだ。だったらアレかな?

 起き抜けにテレシーに「夢を覚えてますか?」と問われて「覚えてない」と答えたアレ?

 と、考えた途端。リドルカさんの手が止まった。テレシーもシュザージも目を逸らす。

 空気がギクシャクしちゃったよ。


「え? あれ? 俺、何か寝言でも言っちゃった? 変なこと口走ってた?」

「えっ、えっと……」

『う、うむ、あー……勇者なんとかいざーとかなんとかだーの腕押とか?』


 あわわわわわわわわわっ

 これは、恥ずかしい!


「子供の頃好きだったアニメと特撮だよ! 子供の頃のことで今は、嫌いじゃないけどハマってるわけじゃないよ!」

「あにめ? とくさつ?」


 テレシーが小首を傾げたよ。

 ここはテレビとかパソコンとかないし、なんて説明したらいいんだろう。


「う、うーん、子供向けの物語かな。それに出てくるかっこいい悪役キャラが大好きでね、敵の最強剣士なのに影で主人公を支えて最後に仲間になってくれるダークヒーローとか、悪の組織の天才科学者なのにボスと対立して組織を中から瓦解させて主人公に助けられたマッドサイエンティストとか。あ、マスコットも可愛くてぬいぐるみも持ってたよ。ずっと抱っこして寝てて──ああっ! ごめんなさいっ、こんな話、変だよね!?」


 小学生の時に、うっかりそんな話をして同級生にからかわれたことがあったっけ。どうしようっ、笑われたらどうしようっ、いや、もう笑ってる!?


「タケユキさん、かわいいです」

『なるほど。それなら私もタケユキの好みに近いのかな?』

「………………」


 みんな揃ってニヤニヤしてる! リドルカさんまで口元押さえてるよ!


「笑わないでーーっ!」

 

 その後。馬車の中で俺の好きだったヒーロー物の話を散々聞かれた。聞かれたら話すしかないじゃないか。好きなものの話は聞かれると嬉しいし、みんなちゃんと聞いてくれたし。ただし、ずっとニマニマしてたのがちょっとムカついたけどねっ。




「……どうした? タケユキ殿」


 馬車を降りた時、変な空気をかもしてたのは俺だった。

 ちょっと唇を尖らせて顔が熱くなってたから、ウィラくんに心配されちゃったよ。


『気にするでない。我らのタケユキの愛らしさを存分に味わえただけだ』

「可愛いだけではないですよ。タケユキさんが時々、過激で危険な発想をする原因もわかりましたし、それに伴う正義感も知りました。素敵です」

「…………タケユキには、敵わん」

「もう! 馬車の外ではその話しないでって、言ったでしょう!」


 俺がプンプン怒ってたら、シュザージに抱きしめられてリドルカさんに頭を撫でられてテレシーに手を握られた。


 ウィラくんも爺やさんも呆れてる。

 スタングさんは困ってる。

 クレオさんは心のお姫様と一緒に微笑んでるよ。

 ウィラくんを出迎えに出てきていたお城の人たちも困惑顔だ。

 そんな中で、一番に我に帰ったのはやっぱり爺やさんだった。

 ひとつ咳払いして、目の前のお城を手で指して言う。


「こちらはウィラネルド王子の居城です。皆様はこちらでしばしお休みください」


 その言葉にハッとしたウィラくんは、それに付け足した。


「父上には早馬で知らせてある。謁見の準備が整えばすぐに面会できるはずだ」


 ちょっと嬉しそうにそう言ったウィラくん。

 けどその時、リドルカさんの眉がぴくりと動いた。何かを警戒してる?

 俺もちょっと警戒しておく。


「やっぱりここのお城も白いんですね」

「そうだね。白いね」


 テレシーの言葉にうなずきながら、お城を見た。

 ラスタルのお城はこれまで見たお城と違ってそれほど背は高くなく、奥行きの広い宮殿みたいな感じだった。背の高い塔がいくつか立っているけど、住むところはだいたい三階くらいじゃないかな。

 上から見てみたいけど今は無理だね。

 ウィラくんがお城の入り口に向かって歩き出したので、俺たちもそれに続いた。

 歩きながらなんとなく思ったことをシュザージに聞いてみる。


「リドルカさんもそうだったけど、王子様って別棟に住むものな? テルセゼウラはどうだった?」

『テルセゼウラでは結婚するまでは王子も王女も同じ棟に住んでいたぞ。まあ、私は研究塔で寝泊りしていることの方が多かったがな』

「あのごちゃごちゃした塔ですか? 今度行ったらちゃんとお掃除したいです」

「テレシーも行ったんだっけ」

「はい、シュザージの部屋にも行きました。あんなに綺麗な部屋でしたのに、ほったらかしていたなんてもったいない」


 そんな話をしながら、城の扉に続く階段に差し掛かった時。急に足を止めたリドルカさんが振り返って、俺たちを庇うように前に出た。

 

「お戻りをお待ちしていました。ウィラネルド王子」


 笑いを含んだ声が聞こえ東側の通路を見たら、偉そうな壮年の官司と数人の騎士がやって来た。出迎えに出ていた侍従侍女たちが端により道を開けている。

 ウィラくんの表情が台所の虫を見た人のようになる。

 そんな顔をされたのに、嬉しそうに笑いながら官司は言った。


「謁見は叶いません。ラスタル神王は体調が思わしくないようで、お客様方は別の場所に案内します」

「なに!?」


 ウィラくんも爺やさんも険しい顔になって官司を睨んだ。けど、そいつは意にも介さず今度は鼻で笑う。


「病床のラスタル神王を慮って、帝国及び勇者殿との対応はバロウ神王国が肩代わりしてくださると、神殿を通して申し出がありました。お客様方、もう一度馬車にお戻りください。用件はバロウ神王がお伺いくださるとのこと。感謝してバロウ神王国へお向かいください」


 バロウ神王国の手先か。

 どこにでもいて嫌になる。本当に嫌なあの虫みたいだ。ってことは、別の虫もいるんだよね。と思ったら案の定、別の声も響き渡った。


「待たれよ! その者らは我がナルディエ神王国へ連行する!」


 連行って。

 悪者呼ばわり?

 西側の通路から、細長いカカシみたいな官司が出て来て甲高い声でそんなことを叫んだ。

 迎えではなく捕らえに来たからか、引き連れているのは騎士の方が多いな。


 ……いや、よく見たら囲まれている? 


 ウィラくんの出迎えと思っていた侍従や侍女まで少し気配が変わった気がする。ウィラくんのお城の中からも武器や杖を持った人が出てきた。もしかして、黒の神使も混じってる?

 俺の隣にいたリドルカさんが俺の背後を守るように少し下がり、シュザージはテレシーを俺の方に寄せて自分は前に出る。


『まさか道中ではなく、王城で敵に待ち伏せられるとは思わなかった。ラスタルはここまで他国に牛耳られていたのか……』


 シュザージはウィラくんと爺やさんを睨んだ。

 敵に手出しされないよう神都まで来たのに、万全の態勢で待ち伏せされるほど神都が敵の手の中だったなんてあり得ない。というか、神都の敵の手勢がここまで大きいなら言っておいて欲しかった。

 と、シュザージは思ってる。俺もリドルカさんも流石にちょっと呆れちゃう。


「す、すまぬ。私もまさかこんなことになっているとは──」


 青ざめたウィラくんが爺やさんを見てる。爺やさんも唇を噛んでいる。

 どうやら、爺やさんがお城を開けた隙に色々と好き勝手されちゃったみたいだ。爺やさん、ただの王子付き爺やじゃない?


「どうした!? さっさとこちらへ来い!」

「お黙りなさい。彼らはバロウへお連れします」


 こっちの意思なんて無視してナルディエとバロウの官司が互いに牽制し出した。囲まれてるのは変わらないけど。そんな奴らに向かって、シュザージが前に出て声を上げた。


『ふん、其奴は何を勘違いしておるのだ? ラスタルを選んで参ったのは我らの意思だ。小賢しいだけで実の無い国など用はない』


 周囲の視線がシュザージに向かった。

 わざと挑発しているみたいだ。その隙に後ろに隠したテレシーの指先が、下に向けて動き出した。目立たないようにしながら魔法陣を描いてるんだ。そんなテレシーの手の動きに気がついたのはクレオさんだけで、そのクレオさんはさりげなくウィラくんと爺やさんの背後にまわり、スタングさんの袖をチョイと引いた。スタングさんもテレシーの手に気がついた。

 俺も少しだけ動いてテレシーを隠しつつ、周囲の心を読むことにする。


「黙れ罪人め! 下賤の身で我が国の王子に危害を加えるという大罪を犯したと聞いておるぞ! 神にあだなしたことを詫び、神の使いである我らにこうべを下げて許しを乞え!」


 うるさい、こいつ。

 まったくもって理不尽ジョルアンの手下だよ。お前こそ下っ端だよ。

 と、思ってたらシュザージも『ふっ』と笑い声を上げた。


『言葉の意味をわかって言っておるのか? 我らの中でお前よりも地位の低い者などいない。言いがかりと下位の身分をかざす滑稽な痴れ者よ、去れ。ラスタルの対面を憚って見逃してやろう』

「なっ!?」


 シュザージはテルセゼウラの王子様でテレシーは次期女王様。リドルカさんは皇帝の弟で俺は……ただの異世界の平民だけど、三人の伴侶だ。スタングさんは神王の甥だしクレオさんはスルディアの王女様の婚約者。

 身分をどうこう言うなら、派遣されて来ただけの木っ端役人がいばれる相手じゃないよ。

 ふふん。

 なんて考えている場合じゃない。

 俺は、まずは浅く周囲全体の心を読んだ。

 案の定、周囲はバロウとナルディエの手の者に囲まれている。ラスタルの人は怯えて遠巻きに見ているよ。

 敵はやっぱり神術士が多くて心読みにくい。官司はもちろん上位術士だ。

 でも、ここは頑張って深掘りしてやろう。

 

「なんと言う侮辱! 我らは神の子たるナルディエ神王国に使える神使なるぞ! それをそのように見下すなど万死に値する!」

「落ち着かれよ、ナルディエの神使殿。無知な者どもはともかく、ラスタル神王は恩に報いることを知っている。病の身で存えていられるのは、誰のおかげか……と、な」


 捲し立てようとしたナルディエの官司をバロウの官司が抑えて、意味ありげにウィラくんを見た。

 その心の深層には、とんでもない言葉があった。


 ……ラスタル神王が人質にとられてる。



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