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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第一章 運命の人
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第十四話【トルグ:弟弟子について】


 ガラガラと響く馬車の音。

 室内で向かい合うオーリー先生に問いかける。


「彼を家に置いて来てよかったのですか?」

「あの子が悪さするようなことはないよ、トルグ」


 まったく。

 思わずため息が出た。

 先生はなぜ、あの少年をそこまで信じ込んでしまったのか。……いや、ミリネラがテレシーに聞いた話では二十二歳だったか。青年だな。驚きだか。


「お前さんも、タケユキを弟弟子と受け入れてくれたのではなかったのかのう」

「とりあえずは、です。完全に信用するにはまだ時間をかけて見てみなければなんとも」


 と言えば、先生は笑う。

 長い目で見ると言ってしまえば、受け入れた上でのこととなるわけで……まあ、ミリネラもテレシーの気持ちを汲んで応援したいと言ってるし。弟弟子がいるというのも確かに悪くない。うん。


 テレシーと言えば。

 どうやら本当にタケユキに想いを寄せているようだ。

 あの娘は働き者で見目もいい。よく恋文をもらったり交際を申し込まれていたはずだ。だが、ミリネラが言うにはあの娘は賢い割には色恋沙汰には多大な夢を見ているそうだ。

 詰まるところ『運命の恋人』に憧れていると。

 その辺の男との並の出会いではピンとくるものがなかったのだろう。

 故に、窮地を助けてくれた異国の青年というのにときめいてしまったのだと言う。


 私は穏やかな環境で見知った相手と、緩やかに心を通わせる方が良いと思うのだがな。


 術学者オーリー・グルトルー先生が神属性持ちの助手を探しておられると聞いて、貴族学院を出たばかりの私は興味を持ってその門を叩いた。そこで出会ったのがミリネラだ。

 私が望まれたのはミリネラが魔術を用いる時、魔に引かれすぎないよう補助することだった。

 先生の助手をするのかと思っていたのに、弟子の補助役をせよと言われて最初は不満だった。だが、真剣に魔術研究に取り組む彼女の姿に心惹かれるようになり、次第に私が支えてやらねばという思いが募り、今に至るのだ。


 ……タケユキか。

 あいつは軟弱すぎないか?

 投石だけは凄いようだが、すぐに風邪をひくし、部屋に慣れないくらいで寝付けなくなるし。

 まあ、テレシーの方が豪胆で健康で働き者だから釣り合いはいいのか。

 いや、いやいやいや……


 新しい弟弟子と妻の妹分のことでモヤモヤ考えているうちに城についてしまった。盗賊に扮した襲撃者について話すつもりだったのに。しまった。

 家を出るまでに基本的な話し合いはできているのでわざわざ馬車で話すまでもないかもしれないが。たるんでるな。しっかりせねば。


 貴族用の門を馬車で抜け、王城の会議棟に着ける。

 議場の係りに案内され、控えの間に入った。

 すでに十数人の学者や貴族がいる。

 その中に、嫌な奴がいた。


「これはこれはグルトルー先生。随分と長旅に出られていたようですがご無事で何より」


 ご無事で、なんて心にもないことを言う男。

 神術学者のベリンス。

 キンキラの派手な衣装を身につけ、背後には弟子を何人も連れ、ふんぞり帰った中年の男。

 彼らは、神に与えられた神術こそがこの世で唯一の力で、魔術排斥を訴えている神降教の教徒だ。それゆえに神術と魔術を同時に研究しているオーリー先生を目の敵にしている。

 ベルートラス王国は、特に魔術と神術どちらにも傾いていない、使えるならどっちも使う国だ。こいつが無駄に大きな顔をするいわれはない。


「滅びの都はいかがでした? よもや滅びをもたらす危険な魔法陣を持ち帰ったりしてはおられますまいな。まあ、もしもの時は我らを頼ってくださっても結構ですぞ。神にもたらされた神術で始末してやりましょう」


 なぜわざわざ挑発するような言い方をするんだろう。

 まあ、うちの先生はそんなものには乗らないがな。


「ご心配なく。危険などありませんでした。詳しい話は会議が始まってから話ましょうぞ」


 にっこり笑って軽く返すと、すぐに踵を返して距離を取る。私もそれに倣い、軽く会釈をして立ち去ろうとした。


「ああ、トルグ・マリータくん。君は優秀な神術士だ。いつでもわしのところに来てくれて構わんのだよ」


 なぜこんなところで勧誘する? 行くわけが無い。

 以前から誘われてはいるがな。先生の研究を持ってうちへ来いと。

 奴は一応、学者と名乗っているが家の力でそれらしい研究をしているふりをしているだけだ。神術関連で何かの功績をあげたわけじゃない。

 オーリー先生は魔術と神術の複合術をいくつか発表してるがな。


 不愉快な奴らだった。


 気を取り直して先生と、部屋の端にある椅子に向かって踏み出した時。出入り口でざわめきが起こった。

 神術関連の奴らが一斉に睨みつけたその先には、魔術学者である壮年の男が歩いてきていた。後ろに、二人の人物を連れている。弟子ではないだろう。

 一人は美女であった。白地に青の刺繍を施したドレスを纏い肩には濃い青のショール、長い黒髪は美しく結い上げられ、瞳の色と同じ青い宝石の飾りが輝いている。

 その背後にいる美丈夫も、同じく黒髪で背の中ほどまで長く伸ばしており首の下辺りで緩く結っている。青い瞳で青の刺繍の白い衣装。そして濃い青のマントを靡かせていた。

 年の頃はどちらも二十代後半くらいか。タケユキと同じような黒髪に見えたが、よく見れば青みがかっているように見える。

 周りから「誰だ?」と訝しむ声と「あれは!?」と知っているらしい声が聞こえる。

 

 密かに聞こえた声は「オンタルダ帝国の皇妹と皇弟だ」と言った。


 とんでもない人物を連れて来たものだ。

 オンタルダ帝国とは彼のテルセゼウラ王国を滅びに追いやった……いや、自業自得の自滅に追いやった国で、あの皇妹と皇弟はその時の皇帝の子孫だ。

 そして、魔王出現疑惑の最も高い国だ。

 なんと言ってもあの国は、世界有数の魔石鉱山をいくつも持っているのだからな。


「なぜ、この場にあんな方々が……?」


 疑問を隣にいる先生にかけてみたが、先生からの答えはない。そっと見てみれば、なぜか先生は真っ青になっていた。


 そして、数歩前に出た魔術学者が高らかに彼らを紹介した。


 皇妹の名は カトリーネ・エルザ・オンタルダス

 皇弟の名は リドルカ・エルド・オンタルダス


 親善と魔王調査に協力するためにこの地に来られたと説明されたが、真意の程はわからない。



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