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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第六章 素敵な無敵
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第百三十八話


 ラスタル神王国に入ってしばらくすると、王族専用の道から街道に出た。


「木が白っぽいね」

「白っぽいですね」


 テレシーと二人、馬車の窓から外を見てびっくり。

 フレンディスの木々も色が薄い気がしてたけど、神王国はもっと薄い。地面も草花も全体的にパステルカラーでメルヘンな感じだった。

 シュザージもリドルカさんも眉を寄せて渋い顔になってる。


『こいつは……ちょっとおかしいくらいに魔力が少ないんじゃないのか? こんなところでよく生きていけるな』


 そんなに?

 魔力は生き物にとって危険なものと思ってたけど、それだけじゃないのかな。と、思っていたらシュザージが教えてくれた。


『確かに、過剰な魔力は身を崩す。けれど、生き物の体を作るのは水と空気と魔力だ。食べ物や環境も必要だが、その中で良いように魔力が釣り合っていて命を成すのだ。ありすぎてもなさすぎても困る』


 それにうなずいて、リドルカさんも教えてくれる。


「真逆ではあるが、帝国の南方にある魔境と呼ばれる場所に近い。広く、天然の魔力だまりがあって、その場に適した動植物がいるが、人は住めない」

「もしかして、伝書鳥の出身地?」

「原種がいる。伝書鳥はある程度、飼いならして改良されている」

『ああ……二番目の兄が行ってみたいと言っていた場所か』

「確か、冒険家志望の王子様でしたね」


 すごいところへ行きたがってたんだ、お兄さん。

 気になったのでシュザージのお兄さんについて聞いたら、テレシーも聞いたというテルセゼウラ兄弟が王位を押し付け合っていた話をしてくれた。

 少し昔話をして、シュザージの顔が曇った。


『テルセゼウラもあの魔法陣が発動して以来、国中に張り巡らせていた魔法陣が異常を起こして人の住めない土地となった』

「草原が広がっていて、多少の木々や生き物はいましたけどね」

『帰って、都が落ち着いたら徐々に改善するつもりだ』

「それは大変なお仕事になりそうですね……」


 テレシーとシュザージが揃ってため息をついた。


「俺の世界には魔力ってなかったから、ちょっと感覚がわからないけど、大事なものなんだね」


 どこかにあったり、似たものが存在してたかもだけど、俺は知らない。


「タケユキさんの不思議なお力はどこから来ているのですか?」

「よくわからない。ばーちゃんが子供の頃、童話っぽい変な話をしてくれた気がするけど……」

『変な童話?』


 なんだっけ。

 寝る前とかにしてくれた一般的な昔話の延長で聞いた気がする。桃太郎とかかぐや姫とか。確か──


「昔々、山の神様にお供えされた娘がひょっこり子供を連れて戻ってどうの、って話。それがご先祖だとかなんとか?」

「……やはり、タケユキは神族ではないのか?」

「違うよ。ちょっと変な力を持ってるだけの人間」


 だって、俺が使える力って、昔母さんが読んでたっていう家にあった超能力ものの漫画とほとんど同じなんだから。神様とか、そんな大層なものじゃない。

 子供の頃に聞いたことあるけど、母さんは超能力だって言ってたし。ばーちゃんも否定しなかったからそうじゃないかな。

 違うなら、そう教えてくれたはずだ。

 たぶん。


「神様だってこの世界の神様とは全く違うと思うよ。俺の世界はものすごい数の神様がいるし、神石は作ってない」

『それほどか!?』

「俺のいた国だけで八百万。俺は会った事ないし、会ったことのある人の話も聞いたことないけどね」


 みんな驚いてる。多いもんね。


「そんなにたくさんの神様が、神石を作るでもなく何をしていらっしゃるんですか?」

「うーん……山とか川とか自分のいる場所を守ってたり、物とか場所とか司ってたり。ああ、お願い事を聞いてくれるっていうのもあった」

『願いを、聞く?』


 シュザージが片眉上げて半睨みになった。

 なんで?


「聞くだけだよ。神社、えっとこっちじゃ神殿かな? に行ってこんな風になりたいですがんばりますって決意表明すれば、がんばれーって応援してくれるらしいよ。気に入った人にはちょっとだけ手助けしてくれるらしい」


 なんてことを、秋祭りにだけ村の神社に来る宮司さんが言ってた。ばーちゃんじゃなくて。気に入ってもらうためにお賽銭をいっぱい入れなさいとも言ってたね。お酒飲みながら。

 なんとなくこっちの神殿関係者のことを思い出す。あっちでもこっちでも、全部があんなじゃないとは思うけどね、さすがに。

 そんな余分なことまで考えていたら、なぜかみんなも考え込んでた。


 ……こういう時は心を読んだりしちゃダメなんだよね。


 仕方なく、大人しく馬車の外の白っぽい景色を見ながらみんなの返事を待っていたら、いつの間にか今夜の宿泊場所に着いたみたいだ。

 馬車はフレンディスの別邸に似た建物の前で止まったよ。外はずいぶん暗くなってきたね。

 お屋敷の人が馬車の扉を開けてくれたので、俺たちは外へ出た。


「ウィラネルドさんが言っていた、ラスタル神王国内の別邸ですね。ここもきれいです」


 テレシーが「ほわぁ」と言いながら、白いお屋敷を見上げている。

 フレンディスを出たのがお昼過ぎだから、神馬の足でもその日のうちには王都につくのは無理なので、途中にある館で一泊するって聞いていた。

 ああ、神王国の王様がいる都は神都って言うんだっけ。

 ウィラくんが言ってた気がする。

 前に止まった馬車からウィラくんたちも出てきてた。爺やさんが屋敷の人たちに色々と指示をしているのが見える。

 ウィラくんはこっちを見て苦笑い。


「其方らは皆、同じ部屋が良いのであろう? 四人で休めるように手配しておいたが……夫婦が久々に揃ったからといって、無茶はしてくれるな。程々にな」


 なにが?


『この中で一番若い者が、一端な口を聞く』

「おませさんですねぇ」


 シュザージとテレシーは何を言っているんだろう。

 これも聞いたり心読んだりしちゃダメなやつかな。まあいいや。


 食事をして、お風呂いただいて、揃ってベッドに転がって、馬車の中で話したようなたわいのない話をしてその日は眠ったよ。

 これまでの旅では、会う度に今後の計画とか情報交換とかしてて、こんな風にのんびり過ごしたのは初めてかもしれない。一緒に旅ができるっていいね。

 ちなみに、ベッドはふたつくっつけてあって四人で寝ても広々してた。テレシーが寝ちゃうとシュザージの幻影体は消えちゃうけど、眠るまでは一緒だよ。


 おやすみなさい。






 その夜。

 

 俺は夢を見た。


 ばーちゃんの夢だ。

 山間の村はずれにある、古い木造の実家の縁側。小さい俺はばーちゃんにくっついてうとうとしていた。

 ああ、そうだ。ばーちゃんはいつもこんな風に頭を撫でてくれて、色々お話ししてくれたんだっけ。

 桃太郎や一寸法師、かぐや姫に……ずーっと昔のばーちゃんのばーちゃんのそのまたばーちゃんの話とか。

 あんまり好きじゃなかったからちゃんと聞いてなくてうろ覚えだ。

 そんな話より「勇者エクセレントカイザー」とか「ノレンライダー腕押」とかの方が好きだった。

 なんて考えてたら、頭をペチリと叩かれた。

 なんで?


「ほんとに、この子は。なんでばーちゃんの話、聞かんのかねぇ」


 ペチペチぺチ

 痛くないけど、叩かないで。

 俺、ばーちゃんのいいつけはちゃんと守ってたでしょ?

 ここではよく力を使うけど、目立たないようにしてるし。みんなも隠すように言うからそうしてるよ。

 でも、この世界にはもともと不思議な力があるんだから、俺がちょっと何かやっても平気だと思う。


「まったく、あんたは……。けどまあ、確かにここは世界が違うからマシなのかねぇ。あんたにも良い人ができたことだし」


 良い人? 旦那さんとかお嫁さんのことだよね?

 リドルカさんとテレシーとシュザージのことだよね?

 すごいでしょ、みんな強いし優しいし賢いんだよ。俺のこと大事にしてくれるし、ずっと一緒にいる約束をしてくれた。それに、それができるだけの力を自分で持ってるんだよ。俺はすっごい果報者だよ。


「ははは、よかったねぇ。そんな伴侶を得られるなんて、運命辿ったって難しいんだよ。あたしもあんたの母さんも会えんかった」


 え? じーちゃんは? 父さんは?


「あんたがやったのと同じだよ。この人ならと選んで結んだ運命さね」


 そうだったの!?

 びっくりだ!


 驚いてたら、ばーちゃんはまた頭を撫でてくれた。


「……あんたはあたしらより大変だと思ったよ。男の子だからね。この力を授けたのが男神だったから。力が大きく出てしまって、人の体では隠しきれない。本当のことを言えば、あんたの方がばーちゃんより力が上なんだよ。ばーちゃんがあんたを抑えられたのは年の功で色々とこの力の扱いを知っていたからにすぎんのよ」


 俺……そんなにすごいの?


「ああ。そのせいで只人の弟妹とは暮らせなかったし、力が少ない母親とも、その運命である父親とも、暮らすのは難しかった」


 ばーちゃんとじーちゃんがいたから寂しくはなかったよ?


「あんたは、気丈な子だったからね。でも、学校もろくに行けなかった」


 勉強は嫌いだから別にいい。


「これ、あんたはもう!」


 またおでこをペチリ。

 むう。


「はあ……心配で心配で、あんたを見守ってきたけど、ばーちゃんはそろそろあっちに戻ろうかね」


 え? 戻るってどこに?

 ばーちゃんも一緒に居ようよ。一緒にいてよ……


「泣くんじゃないよ。ほんにあんたは寂しがり屋だ。でも、甘えさせてくれる人はできたんだろ? ばーちゃんもそろそろじーちゃんとこに戻って甘えたいんだよ」


 ばーちゃん……


「甘えたり守ってくれたり、守りたいと思う人ができたんだ。もう安心だ。竹雪は存分に生きればいいよ」


 ばーちゃんが、顔を上げて家のそばにある竹林を見た。

 その向こうに人影が見える。

 村の人? じゃない。

 あれは──


「この子のことをお願いするよ。ちょっと考えの足らない子だけど、孫をよろしくね」


 三人の人影がゆらゆらした。

 うなずいたみたい。


「さあ、竹雪はおやすみ。あんたはいっぱい眠って体を休めなきゃならんよ。もう一踏ん張りあるんだろ?」


 うん。


「寝たらほとんど忘れてしまうんだろうけどねえ。ちゃんとばーちゃんの話を思い出すんだよ。体に気をつけてね。幸せにおなり」


 ばーちゃんは俺の頭を撫でて、その後その手で俺の目を閉じさせた。

 頭の中がふわっとして……


 そこで俺の夢は途切れたよ。



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