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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第六章 素敵な無敵
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第百三十七話


 その後もしばらく話をしていたら、馬車の準備ができたと知らせが来た。

 けど、そろそろ昼食時間ということで、出発はお昼を食べた後ってことになったよ。

 食事はそのまま応接室でいただいた。

 シュザージは食べないから、テレシーの隣にもう一つ椅子を用意してもらってそこに座って俺の食事する姿をニマニマ笑って見てた。ちょっと恥ずかしいね。

 爺やさんは席を外している。

 さっき、魔王の話の後にこの館に入り込んでいる他の神王国の間者についてシュザージが話してくれたんだ。

 わかりやすい官司だけでなく、侍従や侍女、下働きの者に至るまで端々にその手の者が潜んでた。バロウとナルディエだけじゃなくウェルペティもいた。

 シュザージの指示と言う形を装って、俺が調べた内容をテレシーに心で伝えて書き出してもらった。その人たちの特徴、わかれば名前も書いてもらった。

 その一覧を見て、爺やさんもニヤって笑ってた。そして、それを持ってそのまま談話室を出て行ったよ。


『内通者の正体が分かっているなら、逆に利用することもできる。追い出してしまうのはもったいない』


 と、シュザージが言った。

 帝国では内通者をみんな捕まえて何かしてたね。いい感じに利用したりしたのかな? まあ、向こうとこっちでは事情が違うから同じように利用したわけじゃないだろうけど。



 そうして、食休みを終えて俺たちはちょっと年季の入った豪華な馬車に乗ってラスタル神王国へ出発する。


 四人乗りの馬車が二つだったので、俺たちはまとめてひとつの馬車に乗せてもらえた。もうひとつにはウィラくんとスタングさんと爺やさん。クレオさんは自分の馬でついて来る。他にも護衛の騎士が数人ついて来るけど、直前に何人か入れ替えたって。

 頑張って調べたことが役に立ってよかった。


 出立した馬車は、ラスタル神王国の別邸から王城の丘の後ろに続く道を降りていった。王都を通らず、ラスタル神王国へ伸びる王族専用の道があるんだって。


「国へ入れば一般の者も使う街道に出るのだがな」


 と、ウィラくんは言っていた。


 馬車は見通しのいい開けた平原を、速い速度で走っていく。馬は神馬で道もいいから結構早い。

 そんな馬車の中で、俺はテレシーと並んで座っている。

 なぜかまだ女装のままだ。

 ラスタルの別邸に入り込んでいる他国の手下たちには、俺が女の子だって思わせとく方がいいからって、このまま馬車に乗る羽目になったんだ。

 ちぇっ。

 ちなみに、正面の席にはリドルカさんとシュザージが座ってる。

 体格の良い者同士が座ってると狭くないかと思ったけど、シュザージは幻影体でまだ俺しか触れられないそうなので見た目ほど狭苦しくはないみたい。


「はぁ~、やっと私もタケユキさんに甘えられます」

「テレシー、膝に座らなくて本当にいいの?」

「馬車の中ですからね。それに、私はこうしていられるだけでも幸せです」


 甘えると言っても、ちょっと肩がくっつく程度に座っているテレシー。


『あんなにごちゃごちゃ言っていたから、順番になったらもっと過激に甘えるかと思っていたぞ』

「私はそこまでシュザージに毒されてはいません」

「過激ってどんなの?」


 膝抱っこは過激なうちに入るのだろうか。ウィラくんは怒ってたからそうなのかも。


『……まあ、その話は後日でよかろう。それより、これからについて話しておきたいことが多々とある』

「多々?」

「他の神王国の動き、ラスタルの王様の反応、他に何かありますか?」


 テレシーも首を傾げる。

 神王国は三つあるからそれだけでも多いんだけど。

 

『この辺りは地中魔力が弱い。おそらく人為的なものだろう。神術を使って魔力を排除しているのではないだろうか』

「そこまで?」

「フレンディスの王都は神王四国の次代たちが集まる場ですからね」


 テレシーの言葉にシュザージもうなずく。


『属国の王都でこれなら神王国はもっとひどいのではないか? もし、ナルディエが紫の石を使って化物を作り出し、けしかけて来たら手持ちの魔石だけでは対処できるかわからん。魔力の補充も考えねばならん』


 テレシーが自分の左手の手袋に嵌っている魔石を見た。


「フレンディスで神石の補充はできましたし、この先に行くのが神王国ですから神石に困ることはないでしょうが……魔石の心配はしてませんでしたね」


 テレシーたちは、旅の合間合間に地中や空中の魔力を集めたりしてたまに魔力を補給していたそうだ。この先はそれができなくなりそうだと心配している。


「魔力なら、あるが?」


 リドルカさんが手を上げた。

 魔王石の力だね。


『其方の力はあまりあてにしたくはないのだが……まあ、もしものために試してみよう』


 そう言うと、シュザージは左手で空中に何か書いた。魔法陣じゃなくて、記号の一つかな? 芸能人のサインみたいな、文字をくしゃくしゃっとしたみたいな何か。


『リドルカを表す記号だ。これに少し魔力を込めて見てくれ』


 言われたように、リドルカさんはその記号に指を近付け魔力を込める。青い光が流れて、記号に吸収されると、記号は黒い文字の周りに青い光を帯びた。


『……腹立たしいほど質の良い魔力だ』

「褒めるときは素直に褒めたらどうですか、シュザージ」


 テレシーのツッコミは的確だね。


「シュザージ、それって俺の記号もあるの?」

『おお、あるぞ』


 わあい。

 あるとかっこいいなと思って聞いたらあるんだって。わくわくして見てたら、シュザージは俺の記号も描いてくれた。

 たぶん俺の名前をこっちの文字でサインみたいにしてるんだろうね。教えてもらったこっちの文字での名前に、形に似てる気がする。


「これって、名前?」

『ああ。もとより、名はその者を表す記号だ。魔法陣に組み込みやすいように小さくまとめてこのような形にしているのだ』

「へえ……」


 そういえば、じーさん先生の家の結界に入れてもらうのにリドルカさんの名前を銀の板に書いてたっけ。じーさん先生はそのまま名前を書いてたけど、あの銀盤の魔法陣の中には俺の名前も入ってたのかな。

 面白いな、魔法陣って。


「ねえ、シュザージ。俺の力はこれに込められないのかな」


 できたら面白いな、なんて思って聞いてみたら、シュザージが目を見開いて固まった。けど、すぐに楽しげな笑みを浮かべた。


『試してみてくれ』


 楽しそうな、それでいて真剣な顔で言われたので、やってみる。

 リドルカさんの魔力みたいに目に見えるわけじゃないし、感覚的なものだから適当にだけど、やってみた。

 反応なし。

 なんかがっかりした。

 シュザージもがっかりしてる。


「タケユキの力は、もともとこの世界の力とは違う力だ。仕方ない」

「そうですよ。シュザージも、そんなにタケユキさんのお力で魔法陣を描きたかったのですか?」

『未知の力に興味を惹かれるのは当然ではないか。ましてや、愛しいタケユキの力だぞ? まあ、魔法陣に合わないなら仕方がない……』


 残念そうにため息をつくシュザージ。

 シュザージは前に、俺の力を研究したいって言ってたね。じーさん先生もそうだけど、術研究してる人はみんな興味持つんだね。

 でも、やっぱり魔法陣には取り込めないのか。残念だけど諦めるしかないのかな。

 俺もシュザージの魔法陣の手伝いがしたかったけど……

 あ!


「ねえ、俺を表す記号ならこっちの文字より俺の国の文字で書いてみるのはどうかな?」


 なんとなく思いついたので言ってみた。

 馴染みのないこっちの文字より、生まれてからずっと使ってた文字で書いた名前の方がしっくりくるような気がする。


『ほう……』

「タケユキの、故郷の文字か」

「見てみたいです!」


 みんなが関心を持ってくれたよ。

 テレシーは返事と共にリュックの中から紙とペンを取り出してた。素早い。さすがベテラン小間使い。

 俺は受け取った紙を超能力でピンと張って、揺れる馬車の中で少しだけ椅子の上に浮いて安定した態勢をとってペンを手にする。

 久々に書く日本語だ。


 松山竹雪


 ついでにカタカナと平仮名も書いてみる。


 マツヤマタケユキ

 まつやまたけゆき


「どうして三種類もあるんですか?」


 テレシーも、じっと見てたリドルカさんも不思議そうにしてる。


「俺の国の言葉は漢字と平仮名と、たまにカタカナを組み合わせて文章にするんだよ。なんでかはよく知らないけど」

『うむ、おもしろいな』


 そう言いながら、シュザージは指で動かして文字を覚えようとしているよ。


「普段使うのはこっちの漢字。上の二文字が名字、家名かな? 下の二つが俺自身の名前。竹は緑色の背の高い植物で、木みたいだけど木じゃなくて……」


 俺は紙の端に竹の絵を描いた。

 

「だいたい群生して生えてるね。竹林とか、俺が言うのはなんだけど綺麗で俺は好きだ」


 家のそばに、わさっと生えてた竹林を思い出す。


「竹に雪、か……」

「風情がありますね」


 リドルカさんもテレシーも想像ができたみたい。雪の説明いらなかったね。こっちにもあるし。クオスト山脈の頂上で見たしね。


「雪をかぶっても竹は強いんだよ。折れないし、冬でも枯れない緑色」

『……なるほど』


 シュザージはひとつうなずくと、両手を上げて指先をゆっくりと動かした。

 左右の手で俺の名前を書いて神力と魔力の文字が浮かび上がる。器用だ。

 その文字を重ねてひとつにしたところにカタカナと平仮名を重ねて、最後にこちらの文字で俺の名前を書いて重ねた。

 もう文字とは言えないようなものなのに、俺を示すものだとわかる。これだけでも、小さな魔法陣みたいだ。

 シュザージすごい。

 それに……


 これになら、俺の力が込められそう。

 なんとなくだけど、そう思った。


 そっと手を伸ばして、俺を示す記号に触れる。

 力を流すように押し出してみれば……


「できた」


 俺を示す記号はうっすら若竹色に光ったよ。

 嬉しくてシュザージを見たら、目を見開いて見入ってた。

 その目は嬉しそうだ。

 よかった。

 と、思ったのは束の間。

 くらりと目眩がした。


「止めろ!」


 リドルカさんが声をあげたと同時にシュザージも手を振り払うようにして魔法陣を消していた。


「タケユキさん! 大丈夫ですか!?」


 隣のテレシーが抱きしめるようにして背中をさすってくれる。体が冷えてる。一瞬でものすごく力を引っ張り出されちゃったよ。

 正面から伸びてきたリドルカさんの手が俺のひたいに触れた。


「大丈夫だよ。思いがけず力が引っ張り出されてびっくりしただけ……」

『大丈夫なものか! 私もうかつだった。タケユキの力は全く未知のもの、神石や魔石とは違い加減もわからん。しかもタケユキの体力と連動しているのだ。他者の力で無理に引き出していいものではない。タケユキの魔法陣は封印する。二度と使わん』

「ええっ!?」


 せっかくかっこいい記号を作ってもらったのにもったいない。

 それに、俺の力が使えればもしもの時に役に立てるかもしれないのに。

 それに、それに……


「シュザージ、俺の力を研究したかったんでしょ? 今は無理でもさ、理想郷ができてゆっくりできるようになったら実験すればいいんじゃない?」

『タケユキ……』

「必要な時は使ってね。ね?」


 シュザージが嬉しいような困ったような顔をした。

 なんだか、温泉を掘って倒れた時に見たばーちゃんを思い出す。

 小さくため息をついたシュザージは、俺の手を取り握りしめる。


『私のためを思うなら、もっと体を厭うて欲しい。だが……その気持ちが、とても嬉しい、タケユキ』


 俺の手を自分の頬へ持って行き、そっと当てた。俺は体温のないシュザージの頬を撫でた。



 そんなことをしている内に、いつの間にか馬車の窓から見える景色が変わって来た。

 道の先に国境の壁と門が見える。素材が全部白いので汚れたら大変そうだ。

 門のところで馬車は一度止まり、窓越しにクレオさんが声をかけて来た。


「この先が、ラスタル神王国です」


 とうとうやって来た。

 神の子の国。

 神王四国のひとつ、ラスタル神王国。




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