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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第六章 素敵な無敵
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第百三十五話


 招かざる客を追い返した後、俺たちは改めて合流を喜んだ。


「タケユキさ~んっ」


 俺はいつものようにテレシーを抱きしめて頭をよしよし。

 女装したままだから、女の子同士の夫婦に見えるのかな?

 辺りを見れば、廊下にはまだ人がいっぱいいて悲喜交交。こっちを気にする人もいるけど、気にしている場合じゃないみたい。

 朝っぱらから傲慢不遜に乗り込んできた他の神王国の連中を追い返し、ラスタル神王国の人たちは大体すっきりした顔をしてる。けど、他の神王国についてた人や派遣されて来てた人は動揺してるね。怪我してる人もいる。怪我をさせたのは君達が付こうとした人のせいだからね。俺は知らない。

 なんて思ってたら背中からシュザージが抱きついて来た。


『私もまだ触りたりん!』


 背中だからよしよしできないよ。仕方ないから抱きしめてくれているその手を撫でた。

 冷たくはないけど、体温はなくて手触りの良い風船みたいな感触。


「面白い感触だね、シュザージ」

『嫌か?』

「ううん、気持ちいいよ。もっと触って欲しい」

「タケユキさん、それは危険な言葉だと思います」

「テレシーを抱きしめてよしよしするのも気持ちいいよ?」

「ふえっ!?」

『テレシー…… 』


 よくわからないけどテレシーは頬を染めて嬉しそうだ。どう危険なのかわからないけど、本当に危険だったことはないしいいかな? テレシーが心配してくれるのは嬉しいけどね。


 そうやって俺たちが触れ合っている間に、ウィラくんはスタングさんに向かい合っていた。


「よく帰った、スタング。これはお前の功績だ」

「……功績?」

「魔法陣の勇者を連れて来てくれただろう。お前があの賢者殿の弟子となり信頼を得てくれたこその成果だ。これは魔王退治よりも大きな功績と言っていい。父上に進言し、お前を神王一族に戻してもらおう」

「え、え?」


 嬉しそうにそんなことを言うウィラくんにスタングさんが戸惑ってるよ。

 そりゃね。

 喧嘩して、飛び出した従兄弟がなんでここまで変わったか知らないしね。

 俺たちををここまで連れて来れたのはスタングさんがシュザージの弟子になったことが大きいから、功績には違いないよ。ウィラくんも落ち着いたら当初の目的に立ち戻って動けるようになったみたい。ウィラくんって、本質的には前向きで心が広いんじゃないかと思う。勘違いは多いみたいだけどね。

 ちなみに魔王様は今、俺の頭を撫でてるよ。


「ああ、そうだ其方ら……」


 スタングさんからこっちに視線を向けた途端、ウィラくんが変な顔になって固まった。


「シュザージ、テレシー、ウィラくんがお話したいって」


 テレシーの肩とシュザージの手をポンポンと叩いて抱擁は終了。俺もちょっと物足りないけどしょうがない。リドルカさんも俺の頭から手を引いた。

 ウィラくんも気を取り直した。


「……あー、一度は引き下がったが、ナルディエもバロウもこのまま黙っているわけがない。だがラスタルに帰ってしまえばおいそれとは手を出してこない、はずだ。故にすぐにラスタル神王国へ帰ろうと思うが、其方らの都合はどうだ?」


 どうだろう。

 俺はシュザージを見た。テレシーもリドルカさんも見てる。


『かまわん。むしろ早く向かえるならそれに越したことはない』

 

 シュザージの答えに、ウィラくんはうなずいて爺やさんに馬車の手配を頼んだ。爺やさんはこの屋敷の執事さんに指示を出す。

 あ、そうだ。

 俺はシュザージに頼んで昨日のうちに選別したこの館にいる敵勢力について心の中でこっそり伝えた。

 俺の力が知られちゃダメなら、魔法陣で探ったことにしてシュザージに伝えてもらえないかな、と思ってそうしたんだけど。どうだろう。

 シュザージは少し考えて、ニッと笑ってウィラくんを見た。


『ウィラネルド王子、どこか人払いの利く部屋で話をしよう。神王にお会いする前に詰めておかねばならん話もある』


 なんだか悪いことを企んでそうな顔で笑ってるよ。

 俺はそんな顔も好きだけど、ウィラくんは青くなってるね。

 そんなウィラくんの隣にサッと立った爺やさんが一礼をした。


「では、こちらの部屋でお話ください」


 そう言って指し示したのは、さっき神王国の連中がいた待合室。の、奥にある応接室。

 周りがざわめく中、シュザージが先頭を歩きテレシーがそれに続いた。俺もリドルカさんと一緒にそっちに向かう。その後ろをクレオさんがやって来て、スタングさんはウィラくんの背を押してついて来る。爺やさんは侍女にお茶の準備を頼んでから部屋に来たよ。


 談話室もやっぱりレリーフとかシャンデリアとかですごい作りだった。テレシーが「ほわぁ」とか言いながら見渡している。ここにも山と母神のレリーフがあったけど客室にあったものより大きくて、母神の足元に四人の子供の絵がある。


「ウィラくん、これも神降地と神様? 足元の子供はもしかして……」

「あ? ああ。母神ニーレと四人の子供、ディエ、ラス、バーウ、ペティだ。神王四国の四人の神王の始祖にあたる」


 そっか。

 四人の子供の名前をもじって神王国の国名にしてるのか。


「どうぞ、こちらの席へ」


 爺やさんが示してくれたテーブルは六人掛けの豪奢な楕円テーブルだ。けど全員分の席がない。

 侍女さんがポットやカップの乗ったワゴンを押して部屋に入ってきたら、テレシーがそわっとした。


『茶はテレシーが淹れる。侍女を下げて扉を閉めてくれ』


 ウィラくんがムッとする。


「ラスタルの侍女が信用できないとでも言う気か?」


 うん。あの侍女さんラスタル出身だけどバロウ派だね。手の甲のところちょっと火傷してる。思い切り探りに来てる。


『うちのテレシーは勇者ではあるが元は小間使いで、茶を挿れるのが得意なのだ。テレシーにも見せ場をやらねばと思ってな』

「ありがとうございます、シュザージ!」


 テレシーの目がキランと光る。

 そんなに給仕がしたかったのか。かわいいね。

 テレシーが丁寧に侍女さんにお願いして、ワゴンごとお茶セットをもらうと意気揚々とテーブル横まで持って来た。もちろん侍女さんは出て行ってもらう。


『行ったな。……では』


 シュザージは両手を上げて魔法陣を描きはじめた。

 見慣れないウィラくんと爺やさんは驚いているけど、スタングさんとクレオさんは楽しげに見てるね。

 ただ、てっきりいつもの遮音の魔法陣かと思ったら、ずっと大きな魔法陣を描いているよ。


「遮音と覗き防止の魔法陣ですよ。宿で神殿関係者がうっとおしい時に描いてました」


 と、お茶の用意をしながらテレシーが説明してくれた。

 そういえば、そんな話も聞いたね。


 描き上がった魔法陣は、シュザージがクイッと指で跳ね上げるようにすると浮かび上がって天井に張り付いた。張り付いた途端、白と黒に数度点滅して、そこから線が伸びて行き壁を這う。


「宿屋の木目の壁ではなく、白い壁なのでとても美しいですね」


 ほう、と息をついて感想を述べたのはスタングさん。


「あ、あれはなんなのだ? スタング」


 恐る恐る聞くウィラくん。指差した先では魔法陣から伸びた線がレリーフの一部で円を描いて小さな魔法陣を作っている。花みたい。


「あれは、覗き穴を見つけて防いでいるんですよ。完全に塞げば遮音も発動してこの部屋を外から伺うことはできなくなるのです」


 ちょっと自慢げなスタングさん。

 魔法陣の線は天井と四方の壁、床も這い回りにいくつかの小さな魔法陣を形成した。


『……穴だらけではないか? この部屋は』


 シュザージに指摘されて、頭を抱える爺やさん。

 あ、中にはもしものためにラスタル神王国の騎士が様子を見る穴もあったみたい。爺やさん、動揺すると心が緩むね。


『さて、これで誰はばかる事もない』


 そう言うと、シュザージは俺を横抱きに抱き上げて、そのままテーブル片面の真ん中の席に着く。俺は風船座布団みたいな膝の上に横向きに座らされた。座り心地が最高にいい。


「あーっ! シュザージ、ずるいです!」

『早い者勝ちだ。さっさと茶を淹れろ、勇者兼女王兼小間使い』

「テレシーは俺が膝だっこしようか? 後になっちゃうけど」

「お願いします!」

「いい加減にしろ‼ リドルカ殿はあれでいいのか!? なぜ止めない!」


 ウィラくん、急に大声出したよ。


「タケユキが良いのなら、かまわん」


 リドルカさんはダメな時は取り上げるよ。

 膝抱っこはいいってことかな。

 と、思ってたらシュザージがため息まじりにリドルカさんを睨んだよ。


『お前は、もう少し嫉妬をしても良いのだぞ』

「なぜだ?」

『私に言わせるな』

「シュザージは自分ばかり焼きもち焼いているのが悔しいんですよ」

『テレシー!』


 テレシーが言っちゃった。


「私はシュザージに焼いてますから」

『リドルカはいいのか!? こいつはこれまで四六時中タケユキを触ってたんだぞ!』

「それは少しはありますよ。でも、リドルカさんは安心感がありますからね」

『恋愛幼児と比較するな!』


 恋愛幼児ってなんだろう。

 なんとなく、子供っぽいって言われてる?

 膝抱っこの方が子供っぽくないかな。よくわからないや。

 リドルカさんも首を傾げている。


『それより皆、早く席に着け。話が始められんではないか』

「誰のせいだ!」


 プンプンしなが正面の真ん中の席についたウィラくん。右隣にスタングさんが座り、左隣を爺やさんに譲ろうとしたクレオさんが、爺やさんに辞退されたのでそこに座った。爺やさんはウィラくんの後ろに立つ。

 リドルカさんは俺の左隣に座り、テレシーはみんなにお茶を出した後、右隣に座った。

 一口いただく。

 

「とっても美味しいよ。やっぱりテレシーの淹れてくれるお茶は安らぐね」


 ほうっ、と息をついて言うと、テレシーは誇らしそうに笑った。


『では、ラスタル神王国を強国にするための話をしようか』



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