第百三十三話【アデレイ:ルーシラ】
バロウ神王国とナルディエ神王国にいいように利用されて、弱体化していたラスタル神王国。それが、あんな大胆なことをしでかすなんてね。
フレンディス王もあちらに与しているので間違いないかしら。ずいぶん楽しそうに事態を見ているようでしたし。
これは、大変なことになりそうね。
ウェルペティの別邸に帰ってきた私は、自室でゆったりお茶をいただきながら今日あったことを思い返してため息をつく。
帝国と密かに盟約を結び、ナルディエやバロウを出し抜いて魔法陣の継承者を確保する。なんて、あのお坊ちゃんにできるわけがないわ。
見た感じ、黒幕はあの金髪の方かしら。
ほう……と、ひとつため息。
素敵だったわ。
金髪長身の美形で、気位が高いけどそれに見合う実力の持ち主。まさに理想的。皇帝の弟も素敵だったけど、やはり金髪の美形の方が好みだわ。
妻帯者なのが実に残念。
無駄な波風を立てるわけにもいかないし、せっかくだけどアレは諦めるわ。
そもそも、女装をさせた少年を妻と称して人前でベタベタする男って、どうなの? あの子、男の子よね?
ウェルペティでも男子は幼児期に女装するし、中ではいい年になってもする者がいるわ。それを見慣れているならわかるでしょ?
モーリスが見惚れてポケっとしている姿は見ものだったけど。
体格のいい皇帝の弟と並んでいたら、少女に見えても仕方がないと思うわ。不思議な異国の魅力を備えた美少女ね。
けれど、年の近い本物の女の子と並んだら一目瞭然じゃない。体格が違うもの。ああいう男の子は変に女装するより、男子に見合った色気を引き出す衣装の方がいいと思うわ。
兄や甥っ子の衣装選びに定評があったのよ、私。
残念ながら、あの子の衣装に私が口出すのは無理だけどね。素材がいいだけに変態な金髪男より惜しいわね。
いけない。
趣味に思考が飛んでしまっていたわ。
私はウェルペティ神王国の王女にして次代神王アデレイ。
……ではないのだから。
私はルーシラ。
姪の身代わりに次代会議に来ただけの叔母様なのよ。歳は同じなんだけれどね。見た目がよく似ているから、この別邸の者すら私を本物のアデレイだと思っているわ。
趣味に走って、本物の品位や評判を落とすわけにはいかない。
まあ、本物のあの子は大人しくて引っ込み思案で泣き虫だから、すでに別物ではあるけど。
次代会議に出席できるのは、次代と定められた時。あるいは十歳を越えた時から参加できるわ。国によっても、その時々の事情によっても変わるから一概には言えないのだけど。
アデレイが最初にあれに参加したのはまさに十歳の時。
兄は頭のいいあの子を次代にと、もっと小さい頃から英才教育していたから、参加する分には十分役目をこなせたはずなの。だけど、同時期にいたのがあの喧しいジョルアンと屁理屈屋のモーリスだもの。大声でいろいろ言われてすっかり怯えてしまったわ。帰ってきてすぐ、バロウととナルディエの次代を交代させる計画を立て始めてしまったもの。
さすがに兄が止めたけど。
そして、あの子が他国へ干渉するのを避けるために、代わりに私がここへ来るようになったのよ。
私もなかなか利発だったし、あの子よりは物怖じしなかったからね。
それにしても、今回のことは大事すぎるわ。
とりあえず、まずは本国に知らせなければね。私が軽々に判断できることじゃないし、責任は取りたくないわ。
帰ってしまうとウェルペティはラスタルから遠すぎて、何かの時に情報を見逃してしまうかもしれない。神殿から報せるしかないわね。面倒だけれど仕方がない。
さて、この事態を聞いてウェルペティ神王国のお兄様はなんと言うかしら。
お兄様もだけど、アデレイもね。
二人ともあまり他国のことには関心がないから困ってしまうわ。私としては、そろそろ引退して結婚したいのに。
あの子の代わりに次代会議にやって来るのは、何も兄や姪、国のためだけというわけじゃないの。国外で婿探しをするためよ。
国内にいても出会いなんて知れているじゃない?
そう思って出てきてはいるけれど……なかなかいないものね。
困ったものだわ。
そう言えば。神降地で神殿長をされているお姉さまにも、引退後の婿探しを頼まれていたわね……。それはそのうちでいいわ。まだ引退には早いでしょうし。
ラスタル神王国がこれからどうなるか。
私の婿候補は現れるか。
そうそう、お姉さまから聞いた、異世界から来た理を歪める存在について調べなければいけなかったのよね。
そういえば、あの黒髪の子は大陸では見ない顔立ちに思えたけど……
異世界……異国の少年……
まさかね。
面倒ごとがそこまでまとまってやって来るなんてあるはずないでしょう。
難題だらけで困ってしまうわ。




