第百二十七話
食事が終わり、食器類が引き上げられ、ウィラくんが自分の部屋へ帰っていった。
扉が閉められ、振り返れば爺やさんが洗面所の小部屋から出てきて俺たちを睨んでいたよ。
入って来た時と同じように背筋を伸ばし厳しい顔をしている。けど、さっきよりは落ち着いているようにも見える。
「……あなた方は、何を企んでおいでか」
ラスタル神王国に他の神王国を牛耳って、悪さする奴をシメて欲しい。なんて企みをぶっちゃけてもいいのかな。
どうしましょうか、と隣に立つリドルカさんを見た。
「詳しい話は明日、別の者がする」
「何?」
「うまく話せる、自信がない」
「なっ!?」
「俺も。うっかり過激なことを言って驚かせそうなので。あ、ナルディエ神王国ははっきり敵なのでお伝えしておきます。帝国を襲ったり、ウィラくんを殺そうとしてました」
「なっっ!?」
あ、だめだ。やっぱり驚かせることしか言えない。
爺やさん「な」しか声が出なくなってる。
でも、ウィラくんの事だけはちゃんと話しておかないと。
「二度目にウィラくんを助けた時の話です。ナルディエの黒の神使はウィラくんを殺すつもりで追いかけて来てました。三度目助けた時は、バロウの黒の神使が女装したウィラくんを魔法陣の勇者と勘違いして誘拐しようとしていました」
「……一度目は?」
「一度目は、人通りの多い街道を暴れ馬で走って来たから止めてもらっただけです。リドルカさんに」
思い出したらあの時のかっこいいリドルカさんまで頭に浮かんで、ちょっとほっぺがニヨってしてしまった。爺やさんが片眉を上げたよ。
「今、笑ったのはその時のかっこいい夫を思い出したからです。他意はないです」
「タケユキ……」
リドルカさんの手が頭をポンと叩いた。ごめんなさい。
そろって照れてしまった俺たちを見て、逆に爺やさんが落ち着いちゃったみたい。スンとした顔になった。それはそれでいいんだけどね。
「暴れ馬を止めた時は、ウィラくんがラスタルの王子様だなんて知りませんでした。その後、スタングさんと話をしようとうろうろしているところを見て、心を読んで初めて知ったんです。二度目はそれがあって助けに行ったんですが、その後スタングさんと喧嘩しちゃって飛び出したところに三度目の事件があって、あとはもう放っておけなくて一緒にここまで来たんです」
「殿下を利用するために、ですかな」
「いいえ、反抗期の弟みたいで危なっかしかったからです」
「………………」
爺やさんが黙り込んじゃった。
「一応、はじめに事情も知らないままに俺たちを雇って連れて帰ろうとしたのはウィラくんですよ? ラスタル神王国で就職するわけにはいかなかったので断ったのですが」
爺やさんが疲れた目で俺たちを見てる。
「すみません、話すのが下手なんです。明日会う俺の夫は話すのが上手なので、ちゃんとして説明をしてくれると思います」
「……夫? リドルカ殿下では?」
「もう一人いるんです。あと、妻も一人います。一緒に来るはずなんで話を聞いてください。そうそう、スタングさんも来ますから」
どうしよう、爺やさんが頭を振ってる。
やっぱり俺の話はわかりにくいのか……はっ!
「スタングさんは夫の弟子で、俺たちとは婚姻関係ではないですよ!?」
ああ、爺やさん、また頭を抱えちゃったよ。
どうしよう、リドルカさん。
「俺も、説明がうまくない。が、ひとつだけ頼みを聞いてもらいたい」
「なんでしょうか」
目線がリドルカさんに固定した。爺やさん、俺のこと意識外に置いたみたい。
「明日の来訪者に、俺たちはウィラと一緒に会うことになっている。が、おそらく俺たちに騙されたか裏切られた気になるはずだ」
一応、ちゃんと話を聞いてねって言質は取ったけどね。
「その時、あいつの味方として、話を聞くよう支えてくれ。全てを聞いて、考えた上での答えなら、答えが否でもかまわん」
リドルカさんがちゃんと話を締めてくれた。よかった。
俺たちはそれ以上、話すことがないので黙っていたら、爺やさんは「ふう」とため息をついた。
「あなた方は、このままここに泊まるおつもりで?」
「明日の約束をしてますし、そのつもりです。……使用人さんの部屋でもいいですよ?」
爺やさんは「そうではない」と首を振る。
「私が敵対し、あなた方を捕らえるとは考えないのですか?」
「その気があれば、一人で来るまい」
「それに、そうなったら残念ですが俺たちは逃げます。その時も、ウィラくんは荒れるかもしれないけどちゃんと支えてあげてくださいね」
爺やさんは落ち着いた表情で、今度は俺もちゃんと見た。
「この部屋は館の奥にあります。周りには騎士を配置しておりますが、簡単に逃げられるとお思いで?」
「逃げられますよ?」
転移でパッと。
リドルカさんとシュザージ以外に俺の力を阻める者がいるとは思えない。あ、テレシーにやめてくださいって言われてもやめるかな。
そんなことを考えていたら、爺やさんはもう一度息をついて、スッと姿勢を正した。
「ならば、明日を待ちましょう。今宵はごゆるりとお休みください」
そう言って礼をすると、スタスタと扉へ向かってまた一礼して出て行った。
透視で外の様子を見ると、部屋の前にいた騎士がびっくりしていてた。始めに部屋に入って来てた侍従さんも慌てて廊下を駆けて来る。爺やさんが部屋に入った後、食事やなんやで人が出入りしたのでその時に出て行ったと思っていたらしい。まだいたことに驚いてるよ。ちゃんと確認しなきゃダメだと思うよ、見張りなんだから。
爺やさんは、騎士たちを増員してこの部屋の見張りを徹底したよ。部屋に侍従さんを入れるのはやめてくれたのは良かった。
その後、爺やさんはウィラくんの部屋に向かったよ。
「爺やさんとウィラくん、ちゃんと話ができるかな」
と、呟いたらリドルカさんが顔をしかめた。
「タケユキはそろそろ休め。明日は、何が起こるかわからん。他の神王国が乗り込んでくるかもしれん」
それはそうだけど……
「できれば今夜のうちに、ウィラくんの味方になりそうな人がこの館にどれだけいるか探りたいです」
帝国では、それでかなり助かったとお姉さんたちが言っていた。もしかしたら明日にはお別れかもだけど、できることはやっておいてあげたいと思う。
「タケユキ……」
「お風呂に入って、ベッドに入って、疲れたらすぐに寝られるようにしてしますから。させて下さい」
困った顔のリドルカさん。
お風呂も疲れるのでは? と思ってるみたい。
ここのお風呂は大きくてキレイだから是非とも入ってみたいんだ。俺もお風呂大好き日本人だし。
「テレシーたちと連絡も取りたいし。明日はここに来ると思うけど、予定が狂うと困るでしょ?」
「そろそろ何か言ってくるだろう。そっちは任せて、タケユキは、風呂に入って休めるようにしておけ」
「はい」
そんなわけで、俺はやっと女装を解いてお風呂に入った。
やっぱり白くてレリーフとかいっぱいあって、お湯が花の置物の花弁から流れ出る掛け流しですごく気持ちよかった。
お風呂から上がったら、リドルカさんは上着をテーブルに置いて座っていた。上着の魔法陣で、テレシーとシュザージから連絡があったらしい。
テレシーたちは今、フレンディスの王城にいるんだって。
王様の懐柔に成功して、一緒にお城に来たそうだ。クレオさんとも合流したみたい。
会いたがってくれてたけど、俺が疲れすぎないよう遠慮してくれたんだって。その代わり、明日も女装確定になっちゃった。
ものすごく、ものすごく見たいと言う念を感じたとリドルカさんが上着の魔法陣を見ながら言ったよ。
まあ、いっか。ちょっと慣れたし。
今夜はテレシーをなでなでできなかったし、シュザージとお話もできなかったから寂しいけど、明日には会えるんだしね。
その後は、いつものように二人でベッドに並んで寝転がった。
しばらくは館の人たちを観察してたけど、いつの間にか眠ってしまってたよ。
やっぱり、疲れてたみたいだ。




