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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第六章 素敵な無敵
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第百二十六話


 ウィラくんが俺たちの名を教えてもいいと言う人物で、帝国の皇弟の名を知り疑問を持ち、接触してくる者がいた。

 ウィラネルド王子殿下の侍従長、爺やさん。


 俺は部屋の外の様子を伺った。

 扉の向こうでは追い出された侍従さんと見張りの騎士が首を傾げあっている。さっきの敵国の回し者は玄関近くでうろうろしている。ウィラくんはお部屋でお着替え中。

 この部屋を伺う他の者はいないみたい。


 爺やさんは気がついたことを他には誰にも漏らしていないみたい。

 一人でやって来て、一人で確認しようとしている。


『どうしましょう、リドルカさん』

『試してみよう』


 心の中で話し合い、リドルカさんは一歩前に出る。俺は即座に空間を閉じた。これで外に声は漏れない。


「リドルカ・エルド・オンタルダス」


 爺やさんに向かってそう名乗るリドルカさん。

 それを聞いた爺やさんは目をまん丸にした後、頭を抱えて大きく息をついた。


「……そんな、真っ正直に答えられれば逆に嘘ではないかと思ってしまいますね。そう言えば、神殿の者が魔法陣の勇者は詐欺師に担がれていると騒いでいましたか」


 ああ、誤魔化すならそういう方向もありだったのか。

 いやいや、詐欺師じゃないし。


「ウィラくんには嘘はつかないように心がけていました。なので名前はそのまま名乗ったのですが、聞かれなかったので姓までは名乗りませんでした。爺やさんは名前だけで気がつかれたんですね」


 爺やさんは小声で「ウィラくん?」とつぶやいた後、不満そうに俺に問いかける。


「そう言うあなたは?」

「タケユキと言います。リドルカさんの妻です」


 爺やさんがギッと俺を睨む。


「あなたは男性では?」


 おお、わかる人にはわかるのか。


「はい。でも妻です」


 ちょっと嬉しかったので笑って答えた。爺やさんがリドルカさんを見れば、リドルカさんは俺の肩を抱いて笑った。


「正真正銘、我が妻だ。兄上も祝福してくれている」

「むしろものすごく勧められてましたね」


 肩にあるリドルカさんの手に手を合わせて顔を見合わせていると、爺やさんはさらに頭を抱えて呻いた。動揺がすごい。心の声もすごい。


『確かに殿下は夫婦だと言っておられたが、騙されているものとばかり。いや、やはり嘘ではないのか? 魔法陣の勇者そのものが詐欺師なのでは? この者たちこそが神殿が言っていた魔法陣の勇者と詐欺師か? 帝国が間者を送り込んで来ることは想定していたが、皇帝の弟が妻を伴ってやって来て変装していた面識のない王子を助けて知己を得て乗り込んで来るなどありえん。その妻が男というのもありえん。これが詐欺なら奇抜にすぎる。いや、もしや帝国にも女装文化が? 聞いたことはないが神王国の慣しも外部には秘密なのだから……いやいやいやいや、そのようなことはどうでもいい!』


 物凄い早口で混乱してる。

 この人は間違いなくベテランの上位術士なんだろう。なのに、これまでは隠していた心のタガが動揺しすぎて外れちゃってる。まあ、そんな人の心を読む機会はなかなかなさそうなので、少し踏み込んで心の奥まで探ってみることにする。


 爺やさんの心の奥に見えたもの。

 女の子の格好をした幼い頃のウィラくんと、仲が良かった同じく女装したスタングさんの姿。

 侮られ悔しい思いをするウィラくんの姿。

 好戦的で他の神王国に噛みつこうとした国王の兄と、それを抑えてラスタルの安寧のために王位についたウィラくんのお父さん。

 そして、病床のお父さん。

 え? ラスタルの王様は病気なの?


 と、そこまで読んだ時。ハッとした爺やさんが胸元に下げた神石の飾りに手をやった。


「私の心を……読みましたか」


 おお、気付かれちゃった。


「魔術で人に干渉することは禁忌である。それを気にも留めず行うとは、外道め」


 魔術じゃないよ。

 皇弟の妻だから魔術士だと思われたのかな?

 俺の力は言っちゃダメって言われてるから言わないけど。と言うか、魔力でも心を読む術があるんだ。

 リドルカさんを見たら、教えてくれた。声に出して。


「過剰に魔力を浴びれば魔に落ちる。読心に限らず、治療のためだとしても、魔力だけで人に干渉する事は危険で、禁忌とされている」

「そうなんですか」


 帝国には魔属性の典医さんがいたね。神属性の典医さんと一緒に治療してもらったっけ。じーさん先生は神術も魔術も同じことができるって言ってたし。

 俺がなるほどとリドルカさんの話を聞いていると、爺やさんが眉を寄せた。


『魔術ではない? もしや、魔法陣の術!? 魔法陣の勇者は帝国と手を組んでいたということか!?』


 魔法陣じゃないよ。

 勇者と賢者と魔王と俺はがっつり組んでるけど。

 まだ動揺を抑えられないのか心の声が聞けた。

 ふと、ほんの少しの間を置いて、声は続く。

 

『……なんと言うことだ。だが、今は次代会議で神王四国の王族がこの地に集まっている。この館に出仕して来ている者たちがすでに自国の王族に報告しているはずだ。こやつらは捕らえられて帝国に攻め入る口実にされることだろう』


 あ、これは嘘だ。

 だって帝国の密偵を連れ込んだとか、実は帝国と通じていた、なんて知られたらウィラくんが責められることになるだろうし。だからこそ、爺やさんは誰にも知り得たことを告げずに一人で乗り込んできたんでしょ?

 心で嘘をついて偽情報をつかませるのは、クレオさんがやった神術対策だね。

 手慣れてるね。こうゆうやりとりで嘘の情報を流したり、当たり前にしてるのか。心を隠して、嘘をついて。

 俺は大きくため息をついた。


「ウィラくんが誤解するわけだ……」


 爺やさんの片眉が上がる。


「ウィラくんは、味方が一人もいないと思っているのはご存知ですか?」


 俺がたずねたら、爺やさんが奥歯を噛んだ。


「なんのことですかな?」


 自覚はあるのかな。


「ウィラくんが爺やさんのこと誤解しているって話です。ウィラくんって読心の術が得意なんですよね? 嘘か本当かわからない言葉ばかり聞いて、疑心暗鬼になっているんじゃないかな」

「き、貴様に何がわかる!?」

「想像です。外れていたらごめんなさい」


 思ったことを言ったら叱られたので謝った。

 心を読んだり読まれたり、読ませたり読まれないようにしたり。心が読める人がたくさんいると大変なんだね。

 一方的に心を読むのも疲れるって母さんは言ってたっけ。悪意とか欲望とか知りたくないことまでうっかり聞いてしまうとくたびれるって。俺もばーちゃんも気にしたことはなかったけど。

 ちなみに、じーちゃんと父さんは心で秘密の会話ができることを楽しんでたよ。俺の好きな人たちはだいたいそっちタイプだから嬉しいね。

 そんなやりとり話していたら、扉の向こうから呼びかけられた。


「ウィラネルド殿下の御成です」


 おお、ウィラくん来ちゃった!


「爺やさん! 隠れて!」

「なっ!?」


 俺は爺やさんの腕を引っ掴んで、洗面所のある続きの部屋に放り込む。


「ここで爺やさんが俺たちに色々言ってたって知られたら、ウィラくん怒りませんか? こじれませんか?」

「う、……ぐ」


 畳み掛けてから、俺は爺やさんを置いて主室に戻り返事をする。


「お入りください」


 ウィラくんはちゃんと返事を聞いてから入ってきたよ。俺たちがいちゃついてないのを見てホッとしてるよ。こんなところで流石にできないよ、ウィラくん。


「なんだ、まだ旅装も解いてないのか。もう直ぐ食事が運ばれてくるぞ」

「お部屋を見てたんだよ。すごい部屋だね、あのレリーフは神様?」


 部屋の天井に近いところに山並と後光がかかった女の人の絵があったので、なんとなく聞いてみた。


「ああ、神降地にいる母神ニーレだ」

「……神様って、本当にいるの?」


 首を傾げて聞いてみたらウィラくんは笑った。


「いなくなったという話が流布しているが、実はいる。私は王位を継承する時に会うことになっている。会える日が今から楽しみなのだ」

 

 ほええ、と聞いてたら、洗面所の方から苛立ちの気配がした。爺やさんが怒ってる。ウィラくん、もしかして神王一族の秘密みたいなこと喋ってない?

 興味のある話だけどそれはとりあえず置いておいて、俺たちはマントや荷物を寝室に置きテーブルについた。

 しばらくして食事が運ばれて来たよ。

 コース料理みたいなのは久しぶりだね。

 元の世界ではレストランなんか行ったことないし、マナーも知らなかったけど、じーさん先生のお家や帝国で教えてもらったから綺麗にいただけると思う。


「これはラスタルのお料理? 旅の宿で食べたのとちょっと似てるね」

「ああ、フレンディスには神王国から広まった料理も多いのだ。だが、庶民の食べ物もなかなか良いものがあって驚いたぞ」

「そうだね。俺はホーケンの町の果物の砂糖漬けを使ったデザートが好きだよ」

「うむ、道中の宿でもたまに食事の最後に出ることがあったな。あれはいい!」


 食事中の話題はほとんど旅の思い出話になったね。

 食べ物の話や、馬で移動しながら見た景色。小さな町ののどかな暮らしぶりや、街道を行く人々を見ながらあれやこれや話したこと。


 ウィラくんは楽しそうだ。

 たぶん、爺やさんはそういう話は聞いてないと思ったけど、やっぱり聞いてなかったみたい。

 楽しそうに話すウィラくんの声に、ずっと耳を傾けていたよ。洗面所の部屋の影から。



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