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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第六章 素敵な無敵
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第百二十五話

 フレンディス王国のラスタル神王国王族専用別邸は、中もものすごく綺麗だった。

 高さは二階か三階ほどで真っ白な分シンプルに見えたけど、中に入るとびっくり。真っ白な壁のそこかしこに山や森や花々などの繊細なレリーフが施されていて、天井から吊るされた照明は神石みたいな白い石を透彫してその中にランプの火が揺れていた。一緒に吊るされている六角柱の、やっぱり神石っぽい飾り石がその光を反射して広げているみたい。

 帝国は魔石に術を施した術道具で灯りを灯していたけど、神王国は神石に神術なのかな?

 何にせよ、色は全て白なのに賑やかだ。


 俺たちが今いる待合室もすごいよ。

 この待合室は扉がなくて、玄関ホールや奥に向かう廊下に向けて開け放たれている。そしてここの壁もあちらこちらに花や鳥や植物の透かし彫りがされた窓が嵌っていて、通路から中の様子を伺えるようになっている。

 何気ない風を装ってチラチラチラチラ覗いてくる人が結構いるから、それは鬱陶しいけどね。

 そんな部屋に置かれた長椅子に、俺とリドルカさんは並んで座っている。


 ウィラくんは「じい」と呼んでいたおじさんに連れられて奥の部屋に行ってしまった。

 ウィラネルド王子専属の侍従長みたい。詰まるところ爺やさんか。

 爺やさんは俺たちを追い出したいし、ウィラくんは俺たちをこの屋敷に泊めたい。故に、今すごい言い争いになっている。

 もちろん普通に声が聞こえるわけじゃないけどね。

 俺はいつものように遠見と透視とテレパシーを使って盗み聞き。


「そもそもどうしてじいがいるんだ!? ラスタルの城で留守をしているはずだろう!」

「殿下が出奔されたと聞き、急ぎ駆け付けたところです。明日にも迎えに出なければと心配しておりました。それが、あのような者を連れ帰って来るなどと、嘆かわしい」

「彼らは私の恩人で友人だ! 丁重に扱え‼」

「何をおっしゃるか、次代神王たるお方があのような異国の平民を友になどありえません。そもそも一人で勝手に飛び出すなど何を考えておられるか──」


 ウィラくんはイライラしている。

 爺やさんは平静な顔のまま、強い言葉でお説教。

 おそらく爺やさんは上位神術士だね。心が読めない。胸に勲章のような飾りをつけていてそこに宝石のように加工された神石が嵌っている。

 ちなみにウィラくんの神石は腰につけた巾着の中にある。服に飾りの神石もついてるけど、メインで使うのはそっちみたい。

 あの巾着は女装してた時に抱いていたぬいぐるみをひっくり返したものだ。リバーシブル神石入れらしい。おもしろいもの持ってるね。

 この館には、他にもちらほら心が読めない人がいる。やっぱり神王国の王族に仕えているだけあって神術士が多い。そうでなくても大なり小なり読心の神術を警戒しているね。

 とりあえず、簡単に読めそうな人の心だけ読んでみた。


『あれはもしや、例の勇者か? 本当に連れてくるとは思わなかった』

『まさかあのバカが連れ帰るとは! 情報を流した功であっちで取り立ててもらう約束だったのに!』

『まあ、平民にしてはかわいい娘ね。兄同伴で連れてくるとは結婚を見越しているのかしら。あの王子にはお似合いだこと』

『なんと浅はかな。侍従長の苦労も考えろバカ王子め。かわいくても、平民の血を神王家に入れられるわけがなかろうが』


 俺のこと魔法陣の勇者と思っている人と、ウィラくんの彼女だと思ってる人が半々だね。勇者と思っている人の大半は敵と通じていて、彼女だと思っている人は無害だけど忠誠心は薄いね。

 あと、どうでもいいと言えばどうでもいいんだけど。俺とリドルカさんを兄弟とか兄妹とか思っちゃうのって、もしかして認識歪曲の魔法陣がそう見せてるのかな? 

 まあいいや。

 リドルカさんの正体がバレなければいいんだし。


『でも、もしバレちゃったらどうしましょう』


 心の中で聞いてみると、リドルカさんは俺を見てフッと笑った。


『気がついた者がどう動くかによる。騒ぎ立てず、秘密裏に接触してくる者がいれば、良いのだが』

『騒がない人ならいいんですか?』

『ウィラが、俺たちの名を教えてもいいと思う人物で、帝国の皇弟の名を知り疑問を持ち、接触してくる者なら、取り込む』

『取り込むんですか?』

『ラスタル神王国を強国にするのは、王一人ではできん。その意を汲み従える忠臣が必要だ』


 忠臣。

 帝国には新皇帝派の人がいっぱいいたね。

 隠密兵団のアスノンさんみたいな人がラスタルにもいたらいいなってことかな。……いるかな。


『それらしい人がいないか探ってみますね』

『無理はしなくていい。疲れているだろう?』

『ここのところ力はあまり使ってませんし、大丈夫ですよ』

『馬での旅は疲れる。休む時間も少なくなっている』


 そうですが。

 うーん、ちょっと疲れているけど熱が出そうなほどじゃないし。味方の振り分けは早い方がいいと思う。

 そんなわけで、俺はリドルカさんにコテンともたれかかった。

 チラチラ覗いている廊下の人が「きゃっ」と高い声をあげた。若い女官さんだね。いーでしょう?


『ふふっ。こうしていると楽なので、やります』

『……そうか』


 リドルカさんが俺の肩を寄せてくれる。俺はリドルカさんの肩に頭を乗せるようにしてもたれかかり目を閉じる。

 そうして、少しの間館にいる人間の心を読み進めていると、ウィラくんの方に動きがあった。意識をそっちに向けてみる。

 

「いいから客室を用意しろ!」

「なりません。よそ者をこの館に泊めるなど前例がありません。街の宿にでも泊めておけば良いでしょう」 


 別室ではまだウィラくんと爺やさんが言い合っている。そこに近寄っていく人物がいた。


「ならば、ナルディエの別邸にお伺いを立てるのはどうでしょう。あちらならどのような者であっても受け入れてくださるでしょう。ジョルアン王子は寛容で臣下は皆、王子のなさりように無意な意義などはさみません」


 官司のようだけど、王子たちの話し合いに勝手に割って入ったあげく他国よいしょしてる。心を読んでみたら読めた。こいつはナルディエから押しつけられた官司らしい。俺のことを王子が連れ帰った魔法陣の勇者だと思ったようだ。

 

「いえ、それならばバロウの別邸に問い合わせる方が良いのではないですか? モーリス王子殿下はウィラネルド殿下が出奔したと聞いてひどくご心配されていた様子。きっと喜んでご友人方を預かって下さいます」


 さらに別の人物も口を挟む。

 こいつも同じく、バロウから来た官司で勇者横取りを企んでいる。

 ウィラくんは嫌悪むき出しで睨みつけるし、爺やさんも渋い顔をする。なのにその二人は意に介さずでお互いだけを牽制してる。

 ウィラくんの言った通り、早速ラスタルを牛耳ってるナルディエとバロウの手の者が出て来たね。狙い通り俺をテレシーと勘違いしてくれたみたいだ。これでテレシーたちの方に関心が薄くなればいいな。

 ウィラくんもそれを狙っているから俺たちのことは名前も呼ばないでいる。あの官司たちは神術士ではあるようだけど中位かそこらでウィラくんたちの心を読めていない。読む必要もないし読まれたところでどうってことないのかな。

 そんな官司たちを見て、爺やさんがため息をつく。

 

「我が国の王子がわがままで連れ帰った者の事で、他の神王国の手を煩わせるわけには参りません。仕方ありません、例外としてあの者たちを滞在させましょう」


 と、意見を翻し泊めてくれる気になったみたいだ。

 でもウィラくんはその言いようにカチンと来てる。


「使用人部屋の空き部屋を──」

「客室だと言っておろうが! 私の部屋の近くの部屋だ!」

「……かしこまりました」


 俺たち、この館にお泊まり決定みたいだね。

 ウィラくんが部屋を出て、俺たちを迎えにやって来る。官司たちも舌打ちをした後、部屋を出たね。それで、近くにいた使用人に目配せするとその人たちはそれぞれの主人に知らせるためにラスタルの館を出て行ったよ。

 確かにこれは敵だらけだ。


「待たせたな、部屋へ案内する」


 満面の笑みで、ウィラくんが待合室に入って来た。

 味方の寄り分けは中断。

 俺は立ち上がり、リドルカさんと一緒にウィラくんに案内されてついて行く。その後ろには、不機嫌な顔の爺やさんと数人の騎士、侍従さんや侍女さんたちがついて来る。なんだかみんなの視線が痛いや。

 そうして、ぞろぞろと並んで廊下を歩き、屋敷の奥までやって来た。

 

「この部屋を使ってくれ。私の部屋はその扉の向こうにある通路の先だ。一休みしたらこちらへ来るから、共に食事にしよう」

「殿下……」


 爺やさんが嗜めようとしたらウィラくんはまた睨む。


「そのように手配しろ!」

「……かしこまりました」


 そう言って礼をすると、爺やさんは侍女の一人に食事の手配を命じた。ウィラくんは他の侍従たちと爺やさんを連れて奥の扉の向こうへ行く。閉じた扉の前には騎士が二人立つ。

 俺たちの元には、侍従が一人と残る騎士が二人。


「どうぞ、こちらへ」


 侍従の人が扉を開けてくれたので俺たちは部屋に入る。扉の前には騎士が立ったよ。見張りだね。俺たちの。

 その客室も、とても広くてキレイだった。

 もしかして、貴賓室とかじゃない?

 まあ、どんな部屋でもいいんだけどね。ただ、見張りなのかこの侍従さんは部屋から出ようとしない。


「ご用がありましたら、なんなりとお申し付けください」

「あの、二人だけでゆっくりしたいのですけど……」

「じきに食事も運ばれてきます。私のことはお気になさらず、おくつろぎください」


 なんてにっこり笑った。

 もちろん心が読めないよ。ベテランさんだね。

 堂々と他国の内通者が闊歩している館だもんね。心を隠す術に長けているのか。


『どうしましょう、リドルカさん』

『かまわん。俺たちは心で話せる。神術士には読めん能力で』


 俺は超能力だしリドルカさんは魔力だからね。

 心でお話しできてよかった。


 せっかくだから、俺はこの客室を見て回ることにした。

 元の世界では旅行なんか行ったことないし、向こうでは旅館にもホテルにも泊まったことはない。こっちに来てからはいろんなところに泊まったけれど、ここはこれまでになくすごい客室で、なんだかワクワクしてしまう。

 おのぼりさんってやつだね。

 この部屋もそこかしこにレリーフがあって、色は白。

 主室は広々としていて、大きな天井までの窓がある。外はもう夜だ。

 部屋の真ん中には大きめのテーブルと椅子。壁際にはきれいな白い飾り棚や置物がある。左右に扉のない出入り口があって、右手側は入ってすぐが洗面所で左右にお風呂とお手洗の扉があった。左手は奥まったところにでっかくて豪華なベッドがどどんと二つ。すごいね。俺たちはひとつあったらいいんだけど。

 この世界で見たすごいお家を思い出して、比べて見るのも楽しいね。

 リドルカさんのお部屋はここよりは少し小さめだったけど、五階建てのお城全体がリドルカさんのお家だったから比べようもない。皇城は黒も多用してたけど生活空間はリドルカさん家と同じ白と青が基調だった。あの落ち着いた雰囲気はかなり好きだ。テルセゼウラのお城にはあまり入らなかったけどシュザージのお部屋もあったんだよね。どんなかな。次に行った時、見せてもらえるかな。

 

『神王国の建物はどこもかしこも白なんですね。照明は神石で灯しているのかな? 帝国では魔石で灯していたんですよね』


 何気なく聞いてみたら、リドルカさんは答えてくれる。


『そうだろうが、火も使っているようだ。照明の真ん中に火が灯されていて、周りに吊るされているのが、神術を込めた術道具のようだ』


 やっぱりそうか。

 天井の照明は待合室で見たのより大きくてシャンデリアみたいだけど造りは同じか。火は油かな? 蝋燭かな?


『帝国の照明器具はもっと小さかったですし、壁に埋め込まれてましたよね。それでも十分明るかったけど、あれは魔力だけで照らしてたんですか?』

『そうだ。だが、帝国の術道具はほとんどが複合術で用いるものだ。魔力だけを使う物も、神術士が立ち会って術の調整をする。神術士しかいないここでは難しいのだろうが……』


 魔力を排除しちゃってるもんね。

 魔法陣もそうだけど、片側だけの力じゃ扱いにくいはずなのに。


『なんだかんだ言って帝国の魔術がすごいのは、ちゃんと神術も使いこなしてるからなんですよね』

『神王国と神殿はだいたい敵だが、神力は敵ではない』


 その神王国を敵でなくすためにここまで来たけど、ここまで魔力を敵視してる人たちにどっちも必要なんだって、わかってもらえるのかな。

 ちょっと心配になって来た。

 なんて考えていたら、扉の向こうから声が聞こえた。


「私です、開けてください」


 私って。

 いや、爺やさんだとわかるけどね。

 俺は扉の向こうが見えるし。

 部屋の中の侍従さんは声だけでわかったのか、俺たちに何の確認もせず扉を開けたよ。そして入って来た爺やさん。

 さっきより厳しい顔をしているね。

 俺たちを睨むように見た後、爺やさんは侍従さんを見た。


「あなたは部屋の外へ出てください」

「え!? しかし侍従長……」


 チラッとこっちを見た侍従さん。驚いたせいか油断したのか心の声が漏れて聞こえた。『不審な平民と何の話を?』と。

 そういう認識なんだね。よかった。正体がバレて見張られてたわけじゃないみたい。


「いいから下がりなさい」


 再度言われた侍従さんは、一礼して部屋を出た。

 爺やさんは扉が閉まるのを待って、ゆっくり俺たちの方へやって来た。


「先ほど、ウィラネルド殿下からあなた方のことを伺いました。何度も助けていただいたと。そして、王子の要請でここまで来ていただいたと。我が国の王子を助けて頂き、この地へ送ってくださったことには感謝いたします」


 してないね。

 感謝してる人の顔つきじゃない。


「ただ、殿下はあなた方の出自も目的も知らないとおっしゃいました。聞いたのはお名前だけと……」


 爺やさんの視線は、リドルカさんを睨んでいる。


「改めて、お名前を伺ってもよろしいか?」


 あ、バレちゃった?



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