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賢者の魔法陣~繋ぐ繋がる異なる縁~  作者: いわな
第六章 素敵な無敵
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第百十九話


 フレンディス国の王都ウィレムを目指す旅は順調に続いた。


 馬に乗るのは初めてだったのでちょっとおっかなびっくりしたけど、リドルカさんが一緒に乗ってくれたのですぐになれた。馬もかわいいしね。

 もらっていい馬ならまた名前を考えよう。

 馬太郎。いや、太郎ばかりだとなんだから馬座右衛門とか馬之進とか?

 馬之進かな。

 茶色にこげ茶の尻尾とたてがみの、よくいる感じの馬っぽい馬之進は、白い神馬と並んで早足で進む。

 神馬に乗っているのは女装したラスタル神王国の王子ウィラネルドくん。

 まだ王子とははっきり言われてないけどね。


 一緒に旅に出ると決まった時、俺たちはもちろん自己紹介をしたよ。

 

「俺の名前は竹雪。こちらはリドルカさん。それとこの子は羽太郎」


 肩に乗った羽太郎もちゃんと紹介したよ。

 羽太郎はわかっているのか「ぴっ」と鳴く。

 リドルカさんの名前を神王国の人に言うのは迷ったけど、今後のことを考えても下手な嘘はつかない方がいいかなと思って言った。

 テレシーとシュザージと俺たちの関係はいつか話すことになるだろうから、その時は裏切り者とか騙したなとかいろいろ言われるかもしれない。だから嘘はできるだけ無い方がいいかなと。

 ちょっと冷や冷やしながら名乗ったけど、ウィラくんが気になったのは名前そのものではなかった。


「リドルカ……さん? 其方らは兄弟ではないのか?」


 そういえば兄弟だと思われていたんだっけ。

 認識歪曲の魔法陣のおかげで、帝国の皇帝一族の特徴である青みのある黒髪が俺と似たようなただの真っ黒に見えるそうだ。顔立ちも体格もさっぱり似てないと思うけどね。

 まあ、そこも正直に答えたよ。


「うん。俺たちは夫婦だよ」

「ふっ!?」


 しばらくの沈黙。

 その間にウィラくんの頭の中ではゆかいな物語が展開してたね。男同士の結婚を親族に反対された俺たちは泣く泣く駆け落ちをして旅をしているそうな。

 俺の実家はどうかわからないけど、リドルカさんのご家族はすごく応援してくれてるけどね。そこまでは言わないけど。

 しばらくそんなことを考えていたウィラくんは、咳払いをして名乗ったよ。


「私の名は、ウィラネルド・カール・ラスタルだ」


 フルネームだね。

 その名を聞いてラスルタの王子と気がついてくれれば、勧誘の話を再開しようとしていたみたい。ドキドキしながら返事を待たれてたけど、勧誘されても困るからしらばっくれた。


「よろしく、ウィラネルドさん」

「……いや、ウィラと呼んで欲しい」


 ちょっとがっかりした上に、その名をあちこちで呼ばれるのは憚られるので愛称で呼んで欲しいようだ。


「わかったよ、ウィラちゃん」

「うっ」


 ちゃん付も嫌らしい。女の子みたいだしね。でも格好は女の子だし、実は男ですと言われていないので、しばらくはそう呼ぶことにしたよ。心の中ではウィラくんだけど。

 おかげで、その日の夜は違和感なく宿で別の部屋を取ることができた。女の子と同室はまずかろうと。

 宿はもちろん昼の間に俺たちが部屋を取っていたところ。俺がウィラくんの部屋を追加で取る形でこっそり取れたので、先に俺たちが部屋を取っていることはバレなかった。よかった。


 そして、夜にはテレシーたちの宿に転移して会うことができた。


 事前に俺たちが取った宿の名前と位置を教えておいたので、遠すぎず近すぎずの場所にテレシーたちも宿を取ったよ。

 到着後、リドルカさんの上着にある通信の魔法陣に連絡が来て、俺が遠見と透視で宿を確認。テレパシーでやりとりをした後、テレシーたちの部屋に転移した。

 すっかり日が暮れた真夜中のこと。

 ああ、羽太郎は深夜なので部屋に置いて来たよ。今夜も椅子の背を止まり木に先に休んでる。


「タケユキさ~んっ」


 いつものようにトテトテと抱きついて来たテレシーの頭を撫でて、手をワキワキさせて『いや、どうせならもっと劇的な場面で……』と呟くシュザージを見て首を傾げ、とりあえず無事に再会できたことを喜んだ。


「本当はみんなで寝たいけど、ウィラくんを一人で宿に置いておくのも心配だからね……」


 夜中や朝に起き出して部屋に来る可能性もあるし、暗殺者の件もある。

 仕方がないからその日の夜は宿に帰ってリドルカさんと二人で寝ることにしたよ。

 そんな感じだったからあまりたくさんの話は聞けなかったけど、盗賊の正体だけは聞いておいた。

 盗賊は実はこのフレンディス国の秘密工作員だって。

 これは神王国には絶対秘密で、バレたら王様の首がすげ替えられて彼らは殲滅させられるだろうとのこと。つまり、神王国に対する反抗勢力らしい。

 反抗勢力の頭目が、実は王様ってのもすごいね。

 そんな王様に頼まれて、神王国の目を掠めて魔法陣術士を攫って帰るのが彼らの役目だったらしい。

 襲撃ポイントが黒の使徒とかぶってしまって大変だったらしいけど。


『奴らの隠れ家に来て王に会って欲しいと頼まれた。まあ、敵対する神王国の力を削ぐという意味でも、フレンディスを味方につけられるのは良いことだからな』


 と、シュザージは言っていた。

 ただ、そこにウィラくんを連れて行くわけにはいかないし、黒の神使に見つかってもいけない。

 こっそりその隠れ家に向かう方法を考えるとも言っていた。隠れ家は王都に入る手前にあるそうで、時間はまだあるからじっくり考えるって。

 俺が転移で連れて行くのが一番こっそりになるんだけど、それは最終手段にしたいそうだ。俺の力はこれ以上は誰にも知られない方がいいってさ。

 今のところここにいる以外で知ってるのは、クレオさんとじーさん先生たちと皇帝一家だね。


 そんなわけでその日は宿に帰って就寝。

 朝、そこそこの時間に起きて、ウィラくんも一緒に宿の食堂で朝食を取り出発。

 遠見で見てたら、テレシーたちはまた神殿関係者に絡まれてた。

 あいつらもついて来るなら、隠れ家とやらに行くのはなかなか大変だと思う。


 俺たちは、テレシーたちが出立するより早くに街を出て次に泊まる町まで進む。神馬の足がなくなった分、馬車は元の予定の速度で進むことになった。

 俺たちも、馬之進が普通の馬だから神馬の速度で走らないでとウィラくんに言って並んで街道を走ったよ。

 ウィラくんとは、たわいのない雑談をしながら道を行く。

 好きな食べ物や馬の話、濁しつつも家庭の事情なんかも聞くことができた。


「私は一人っ子でな、家の跡を継がねばならん。民……いや、使用人もたくさんいる大変な家だ。だから従兄弟に協力を求めたかったのだが、そいつが本当にダメな奴で──」


 と、スタングさんの愚痴もよく上がったよ。


「大変なんだね。俺は長男だけど跡継ぎとかの話は出たことないな。父が医者だけど俺にも弟にも妹にも好きにしていいって言ってた」

「俺は……兄や姉の役に立ちたいと、思っている」

「そう、なのか?」


 俺とリドルカさんがそんな話をしたら、親族に反対されて駆け落ち説が揺らいでたね。色々想像を膨らませてるみたい。ウィラくんはなかなかおもしろい子だ。

 あと、どこかで正体を話したいと思ってるみたい。

 フレンディスの王都にあるラスタル王家の別邸に着く前に、女装を解きたいらしい。


 そんな感じで旅は続いて、王都を目前にした最後の町にやって来た。



「明日は王様に会いに行くんでしょ? 今のところ、黒の神使が付けて来ている気配はないよ。どうする? 俺が転移で送ろうか?」


 今夜もテレシーたちの部屋に来て、話をしている。

 この部屋にはシュザージが厳重に遮音や覗き見防止の魔法陣を貼っている。

 実は、ウェルペンからここまで来る間に二つの領地を跨いで来たんだけど、その度について来る神殿関係者が増えたのだ。実に煩くて鬱陶しい。今も扉の向こうや窓の外からこの部屋の様子を伺っていて気持ち悪いよ。

 スタングさんとクレオさん、御者さんの部屋にも遮音と覗き見防止の魔法陣を描いてあげたそうだ。じゃないと安眠できないって。


「スタングさんが色々頑張って追い払おうとしてくれたんですが、しつこくて……」


 テレシーもちょっと参ってる。

 全員、転移でクオスト山脈の山頂にでも投げ捨てたいね。なんて考えていたら、シュザージが『コホン』と咳払いした。


『タケユキの手を煩わせるまでもない。明日は御者に頼んで幻影の魔法陣で作った偽物を運んでもらって、王都で一晩宿をとったらそのままホーケンに帰ってもらうことにした』

「空の馬車を追いかけさせるってこと?」

『ああ。テレシーとスタングだけ残して立ってもらう。クレオは常に付き従っていたから今回だけ馬車から離れては目立つので、先に王都へ行ってもらう』


 シュザージが言うには、実はこの宿は秘密工作員が指定して泊まった宿だそうだ。神殿関係者を追い払うまではできないけど、宿の人を装ってシュザージたちに接触して来たんだって。

 明日、馬車と神殿関係者が去った後。彼らが隠れ家に案内するらしい。


「……シュザージがいるにしても、テレシーとスタングさんだけで行くのは心配だよ。俺もこっそりついて行きたい」

「ありがとうございます。でも、タケユキさんにはウィラネルドさんの方こそ頼みたいのです。ウィラネルドさん、びっくりするほどタケユキさんとリドルカさんに懐いておられますものね」


 テレシーがクスッと笑った。

 確かに、日を追うごとに懐いてきてる気がする。


『お前たちはどちらも兄だから、弟に接するようにしているせいかもな。それに何度も助けられている。これは大きい』


 シュザージは息をつきながらそんなことを言った。

 俺はリドルカさんと顔を見合わせる。

 確かに、弟に重ねているところはあるね。


「何かあれば、必ず呼べ。通信の魔法陣には、常に魔力を通しておく」


 リドルカさんも心配なんだよ。

 シュザージも『そうだな』と言って、声をかけられなくてもできるだけ通信の魔法陣は起動させておくと言ってくれた。

 もしものことなんかなければいいけど、もしもの時はすっ飛んでいくからね!

 そして敵は吹っ飛ばす。


「何事もないよう、気をつけます」


 テレシーがにっこり笑ってそう言い、シュザージも何度かうなずいた。

 そうして、その夜もまた俺たちは別の宿で休むことになった。

 


 そして朝。

 テレシーたちの様子を遠見で探り探り朝食を取った後、部屋に戻って出立の準備をしている時にウィラくんがやって来た。改まった顔で大事な話があると言う。

 いよいよ王都だし、正体を明かすのかな? と思ったらそうだった。


「今まで隠していたが、実は私はラスタル神王国の王子で次代神王となる者だ」


 女装姿のまま、キリッとそう告げられた。

 女の子の服を着て片手にぬいぐるみを持っているのに、その顔がちゃんと男の子に見えてちょっと驚いていたら、ウィラくんは正体を知って驚いていると思われたみたい。

 そして、話を続ける。


「実は私は、ある少女を連れ戻るつもりで旅に出たのだが、諸々の事情でそれが叶わなかった。だけどそれを知る者たちは少女を連れ戻らなかったことで、私を嘲笑うか意味のない文句を言うだろう」


 意味のない文句って何?

 テレシーはあげないよ?

 と、言いたいけど、とりあえず話は全部聞こう。

 ウィラくんはひどく言いにくそうにキョロキョロし始めている。せっかくなので心の声は聞かずに話を待っていると……


「タケユキ殿、どうか少女のふりをして私の家に来てくれないか!?」


 とんでもないこと言われた。



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