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第百十七話


 雑木林に響く剣劇。


 敵が動くと同時に俺もリドルカさんも動いた。リドルカさんが敵の剣を自身の剣で弾き返す。

 見た目だけなら俺は女装王子を庇って前に出ただけに見えるだろうけど、いまだ木の影に隠れている神術士の腕を念動力で捻り上げて神石の杖を落とせさたよ。

 神術で目潰ししようとしてたからね。

 そうするだろうと神術士っぽい人には初めから警戒していたから、先手を打った。

 一瞬でリドルカさんに斬り伏せられた黒装束は六人。みんな驚いた顔してる。相手が目潰しくらってる間に斬りかかるのが常套戦法だったんだろうけど、光らなかったからね。


「グァァアッ、腕が、腕がぁっ」

「何をやっておるか! ええい、天より舞い降りし神よ、我が手にその力をぎゃあっ!」


 次の神術士はリドルカさんが斬って捨てた。

 間を詰める時間は十分あったから簡単だったみたい。

 どうしてこの辺の神術士はいちいち呪文を唱えるんだろう。トルグさんも帝国姉妹も唱えてなかったから神術だって呪文なしでもできるんじゃないのかな?

 そりゃ呪文はなんかかっこいいけどさ。

 まあいいや。

 逃げようとした残る四人を転ばせて、リドルカさんに仕留めてもらったら終了だ。ああ、一人は石をぶつけて倒したよ。せっかく拾ったんだしぶつけておこうと思って。


「これで全部かな、えっと、十二人? 多いね」

「気配はない。全部だろう」


 リドルカさんが剣を鞘に戻し、ふっと息をつく。


「……すごい」


 呆けたような顔をして、女装王子が呟いた。

 俺は向き直って尋ねてみる。


「ひとり起こして事情を聞いてみる?」

「し、死んでないのか?」

「気を失ってるだけだよ。死なせたくないから殺さないようにしてる」


 もしもの時、魔王様の悪名になりそうなことはしないよ。

 起こさないならそれでもいいや。

 黒装束の持ち物を調べたら治療用の薬などを少し持っていたので、傷の度合いのひどい人だけ手当てをしておくことにした。ほっといたら死んじゃうし。止血はしておく。

 それでも死んじゃったら……それはそれで仕方ない。

 そんな俺の姿を、またもやぽかんと見ている王子。


「其奴らは其方らの顔を覚えたぞ。手当てなどして、もし後日襲って来たらどうする気だ?」

「うーん、その時はその時かな」


 そう答えたら、女装王子の頭にある言葉がよぎったよ。


 “むしろ滅ぼすだけなら私たちには簡単なんです”


 おお、テレシーってばそんなこと言ったのか。その通りだけどね。

 俺たちとテレシーたちとのつながりに気がついたわけじゃなさそうだ。単純に俺の言葉で連想しちゃったみたい。

 その前後の言葉も少し聞こえた。そうか、励ましの言葉が重荷になっちゃってるのか。王子は自国を立て直したいし、テレシーもシュザージもそうして欲しいから手伝うって言ってるだけなのにね。

 女装王子は思い出したことを振り切るように頭を振って、息を吐いた。

 俺は気がつかないフリで話を続ける。


「どうせ俺たちは行きずりだからね。もう出会うこともないだろうし、この人たちを殺したいほどの何かがあるわけでもないしね」


 そう補足したら、ちょっとだけ納得がいったのか王子の顔が綻んだ。


「でも君が殺したいなら止めないよ。どうする?」

「いや、必要ない」

「事情も聞かなくていい?」

「……だいたい、わかっている」


 そう言うと、女装王子はふっと笑ってぬいぐるみを抱きしめた。

 どうやらこの子もこいつらの心を読んでいたようだ。


『バロウ神王国の神使で間違いなさそうだ。私を魔法陣の勇者と間違えていたようだが何故だ? まあいい、おかげで読心の神術に対して何の策も弄していなかったようだ。少しだが事情が知れたぞ』


 そんなことを考えながらうなずいている女装王子。

 そういえばこの子は上位の神術士で読心の術が得意だっけ。それでも神殿騎士に攫われたのは能力ではなく性格の問題かな。

 知らない人について行っちゃダメだよ、なんて今言うのはおかしいよね。

 俺たちも、今のところこの子にとっては知らない人だし。


 それじゃあこれからどうしようか、とリドルカさんと顔を見合わせていたら原っぱの方から声が聞こえた。


「ウィラー! どこにいるんですか!?  出てきなさーいっ!」


 スタングさんが探しに来たね。

 身を竦めた女装王子をよそに、俺はテレシーにそっと連絡をつける。


『テレシー、シュザージ、暗殺者はやっつけて女装王子は保護したよ』

『よかった、お二人は無事ですね!?』

『お前たちなら大事ないと思ってはいたが、ずいぶん早く片付いたな』


 結構心配かけちゃってたね。

 て、言うか……あれ?

 テレシーたちの様子を遠見で見たら、なぜか盗賊たちがかしずいてる。


『そっちはそっちでどうしたの?』

『うう、ちょっと頼まれごとをされまして』

『王都に向かうことには変更無い。詳しくは会った時に話そう』

『わかった。スタングさんがこっちまで探しに来ている件はどうする?』

『タケユキさんの良いようにお願いします』

『それによって、スタングにはこちらで話す』


「──おい」


 ん?

 気がついたら女装王子が俺の後ろに隠れて、袖を引っ張ってた。

 

「あいつには見つかりたくないんだ。その、よければこのまま其方たちと一緒に連れて行って欲しい」

 

 済まなさそうにそう言われた。


「いいよ。俺たち、フレンディスの王都に向かう予定だけど、いい?」

「王都!?  う、うむ。そうだな、うん、連れて行ってくれ」


 少し逡巡して一緒に来る方にうなずいた女装王子。

 リドルカさんを見れば、リドルカさんもうなずいてくれた。


 そろそろ日が暮れるね。

 宿をとった街まで歩いてだと戻れないや。けど、さすがにこの子を連れて飛ぶわけにも行かず。さりとて、暗殺者が転がってる雑木林で野宿もきつい。


『タケユキに、野宿などさせられん』

『当たり前です!』

『よし、神馬と馬をもう一頭放つから、拾って使え』


 シュザージがそういうと、御者さんに指示して女装王子の神馬を馬車からはずし、盗賊たちの乗ってた馬をもらって馬車に付けた。もう一頭もらった馬と一緒にその場に置いていくようだ。

 クレオさん以外は首を傾げてるね。そりゃそうだ。


 そうして、スタングさんを呼び戻したテレシーたちは馬車に乗って待ち合わせの街に向かったよ。今回は同じ宿には泊まれなさそう。

 夜に会えるかな。


「おいで、羽太郎」


 呼べば、木の上に避難していた羽太郎が俺の肩に戻ってきた。

 雑木林から馬車を見送った俺たちは原っぱに出たよ。

 女装王子に気がついたのか、神馬が自分から寄って来た。おかげで神馬が王子を慕って逃げ出してきたと思ってくれたらしい。もう一頭は暗殺者の馬が逸れてたようだ、ということで片付いた。


 ……それで片付くのもどうかと思うけどね。

 もうちょっと疑おうね、ウィラネルドくん。


 そうして俺たちはなんとか宿をとった街へ戻ることができたよ。

 昼間しっかり休んでたおかげで熱は出さなかったけど、ちょっとくたびれた一日になってしまった。



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