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第百十五話


 空の高いところから下を見る。

 今日も今日とて、リドルカさんに抱っこされて空を飛ぶ。うれしいからいいんだけどね。ついでに言えば、羽太郎は俺の肩の上に止まってる。


 俺たちは人目につかないほどの高さから、細く見える街道を少しずつ戻る感じでクレオさんかテレシーたちの馬車を探している。


 予定の時間に待ち合わせの街に現れなかったクレオさん。

 何か嫌な予感がして、テレシーたちを迎えに出て来たんだけどどこまで行っても見当たらない。

 シュザージもいるし、クレオさんも腕が立つ。

 もともと、暗殺者に狙われている王子様を抱えているんだ。ものすごく用心していたから、ちょっとやそっとのことじゃ悪いことになるとは思わないけど……

  

「いないですね、クレオさんもテレシーたちの馬車も……」


 見落としたかな?

 もう一度、さっきの街から見直す方がいいかなと考えていたら、リドルカさんも目を凝らすようにして下を見た。


「……見えるな」

「えっ!? いました!? どこですか!?」

「いや、この距離でも街道の人の見分けがつけられた、というだけだ」


 おお、昨日の夜と同じだ。目が少し青く光ってる。


「タケユキができることができないかと、魔力を駆使してやってみた。転移はまだ難しいが、透視はもう少しかもしれん」


 リドルカさん、すごい!

 帝国にいた頃は大雑把にしか使えないとか言ってたけど、魔力で色々できるようになったんだ。かっこいい!


「……それと、心の会話も、できる」

「え?」


 それもできるようになったの!?

 試しに俺は口を閉じて、リドルカさんに呼びかけた。


『リドルカさんリドルカさん、聞こえますか?』

『……聞こえる』


 心の中にリドルカさんの声が響いた。

 わあ、わあ、うれしい!

 やっぱり考えていることまではわからないけど、心で会話ができるようになったのはうれしい。

 えへへ、って笑ったら、リドルカさんはちょっと照れたような困ったような顔になった。

 なんでかな。


「それより、探そう」

「あっ、はい!」


 改めて、二人で街道や街道沿いを探してみた。

 普通の旅人、荷馬車、あれは商隊かな? たまに立派な馬車も通るけどテレシーたちの乗ってるやつじゃない。

 そんなふうに街道を行き来する人たちを見ていたら、見覚えのある派手な馬車と騎馬が北に向かって駆けて行った。なんだか増えてない?


「今の、ウェルペン神殿の一団ですよね? テレシーたちを追い越してるはずないし、やっぱり見落としたのかな」


 あいつらは勇者を自分たちが送り届けると言う実績が欲しいんだから、追い抜いて先を急ぐはずがない。

 けど、これだけ見てて見逃したなんてあるかな。

 テレシーたちの馬車は神馬が引いてて早くて目立つと思うし……


「……ん?」


 俺を抱き抱えたリドルカさんが、ふいに声を上げて振り向いた。

 後ろは空だし、空でうっかりぶつかるなんてこの世界では俺くらいだよね。


「どうしました?」

「呼ばれた気がした」


 呼ばれた?

 あっ!


「リドルカさん、シュザージが描いてくれた通信の魔法陣じゃないですか!?」

「っ!」


 よく見たらリドルカさんの上着の左肩辺りにうっすら魔法陣が浮かんでいる。耳を済ませると、テレシーの小さな声が聞こえた。


『聞こえ……か? …撃……法陣を描きなが…こっそり通信の魔法陣を描きまし……他の人がいるので手短に伝え…す』


 げき? こっそり?

 その声は途切れ途切れで聞き取りづらい。

 魔力だけの単独魔法陣は使い勝手が悪いって言ってたっけ。

 俺はよくよく耳を澄ます。


『黒装…と盗賊風の暗殺…が二組、同時にかちあって勝手に争っ……たの…その隙に逃げ出…………再襲撃に備……街道を外れた場所にいます』


 うえ? 暗殺者がかち合って喧嘩?


「タケユキ、あれだ」


 リドルカさんが指差したのは街道から伸びた細道を少し行った先。街道からは丘の影になって見えない少しだけ開けた草地に、見慣れた馬車が泊まっていた。

 テレシーとシュザージ、それとスタングさんが馬車の前に立っていた。開いたままの扉の中には女装王子。クレオさんは丘の上に潜んで街道を見てるのかな? 御者さんは御者台で、いつでも走り出せるよう手綱を握っている。

 よかった。みんな無事だね。


 あっ!

 

「テレシー、聞こえる? 街道からそっちへ行く道のあたりに盗賊っぽい集団がいるよ」


 リドルカさんの肩口の魔法陣に呼びかけたけど返事がない。

 下にいるテレシーたちは反応してない。

 魔力を込めて呼びかけないといけないのかな?

 と思っていたら、今度はリドルカさんが呼びかけてくれた。


「街道に、盗賊複数。そちらに向かう」


 その声は届いたのか、テレシーとシュザージが顔を見合わせた後、上を見た。見えない高さにいるけどシュザージは俺たちが来ていることに気がついたみたいだ。


「助力はいるか?」

『いらん、お前たち…見つか……いよう、そこにいろ』

『ちょっ……シュザージ! ──あっ!』


 テレシーの嗜めるような声の後、丘を迂回する道で何かが光った。

 魔法陣が発動したんだ。

 見れば、馬で駆けて来た盗賊の一人が魔法陣を踏んで転けてた。後続の馬が止まると、魔法陣から赤く燃えるフナくらいの魚がたくさん飛び出して、盗賊に襲いかかったよ。

 ……なんで魚?

 盗賊は慌てふためいて馬を降り、馬番を付けて馬を下がらせる。そして腰のベルトに刺していたナイフを振り回した。

 火の魚から逃げ回る盗賊と別の方向でも光が上がったよ。今度は丘を登って来た盗賊が魔法陣を踏んだみたい。


 なんであんなところにいるのかと思ったら、やり過ごした盗賊を罠を貼って待ち構えていたのか。


 丘を登ってくる盗賊をクレオさんが剣を構え警戒し、迂回して道から来る奴らはシュザージとテレシーが見張っている。


 ちなみに、迂回側の魔法陣からはバチバチ電撃を放つ蝶々が出てきたよ。他にもかまいたちみたいな風を起こすカエルとか石礫を投げつけてくるザリガニ。

 ファンシーなの?

 盗賊たちはそれらに追い回されてヒーヒー言ってる。

 それを見てほくそ笑むシュザージと苦笑いのテレシー。


「シュザージ、余裕そうですね」


 リドルカさんもうなずいてくれたよ。

 とにかく、盗賊風の襲撃者はみんなシュザージ達の馬車に近づくことすらできないでいる。前に見た暗殺者みたいに無茶苦茶な神術を使ってくる気配はない。というか、誰一人神術を使わないね。

 これなら本当に楽勝だね。

 よかった、とほっとした途端……嫌な感じがした。

 廃庁舎の時と同じだ。

 もしかして、とよーく目を凝らし周囲を確認してみたら、いたよ。黒装束。

 少し離れた雑木林から、シュザージたちの戦いを盗み見てた。


 あれって、もう一組の襲撃者?


 連発する魔法陣に驚いているようだ。このまま逃げてくれるならまあいいや。なんて思っていたら、そちらに向かって走っている人物まで見つけてしまった。


 ……は? 女装王子?


 いつの間にか馬車からいなくなっている。

 みんなの視線が襲撃して来た盗賊たちに向いている隙に馬車を出たみたい。ああ、スタングさんてば魔法陣を見るのに夢中になってて気がついてないや。

 もしかして、姿を隠す神術かなにか使ってる? 


「リドルカさん、あそこに女装王子が走っているの見えますか?」


 その方向を指させば、リドルカさんは目をすがめた。


「……見えた。おい、ラスタルの王子が馬車を出ているぞ」


 リドルカさんはすぐに肩口の魔法陣に呼びかけたけど、シュザージたちは気がつかない。

 そう言えば、この通信の魔法陣は向こうからの呼びかけで発動するんだった。一度切れたらこっちからは発動させられないのか。

 さすがにこの高さからテレパシー送るのは難しいよ。


「リドルカさん、下に降りましょう。雑木林の人気のないところに転移します」


 リドルカさんは一つため息をついて、うなずいてくれた。



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