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第百十三話【待ち伏せ犯:鉢合わせ】

分けて入れるには短すぎた二つをまとめて1ページに入れました。


【某神の使い:獲物】



 街道を挟み込むように広がる森の中。

 黒衣に身を包み木々の間に紛れ込む。


 我らは神使。

 神の一族に仕え、その意を世界に示す者。

 先日、神殿を通して我らにその指令が下った。

 

 魔法陣知識を持つ勇者の少女を確保せよと。


 魔法陣とは、昔滅びたある国の技術で、魔力と神術を混ぜて操る邪法の術だ。そのような神の意に背く術は滅ぼすべきと、長年にわたり魔法陣の噂が出るたびに我が国の神使が中心となり潰して来た。だが、次代神王たる王子が真逆の方向に舵を切った。

 魔法陣の使い手の確保だ。

 潰しても潰してもそれを求める者が後を立たないことから、それならばいっそ我が神王国の管理のもと、正しく使うべきだと判断されたそうだ。

 なんと寛容な王子か。


 そうして、勇者たちの集うウェルペン領に最も近い場所に配置されていた我等に指令が下り、急遽こちらへやって来たのだ。


 魔法陣の少女はもともとフレンディス王と神殿に呼び出され、王都ウィレムに向かう事になっていた。まっすぐ来れば、そのまま我が神王国へ連れ帰る予定だったが、それを横から掠め取ろうとラスタルの王子が一人神馬を駆ってウェルペンへ向かったそうな。

 なんと浅はかな。

 ラスタルのような神王国とは名ばかりの矮小な国がそれを手に入れてどうしようというのだ。

 ラスタルの造反に気がついたナルディエ神王国は、即座に捕縛もしくは暗殺のために近隣にいた自国の神使に命令を出したとのこと。

 ナルディエは飼い犬が逃げ出したことにひどく立腹のようだ。そのついでに魔法陣の少女も確保し、自国へ連れ帰るつもりらしい。

 あのような短慮で我欲ばかりの王子には、魔法陣など扱い切れまい。

 聡明な、我が国の王子でなければな。


 しかし、少しばかり出遅れた感は否めない。


 どこかで鉢合うことを願い、街道をウェルペンに向かって急ぎやって来たのだが、ちょうど良いことについ先ほど領境近くの町に休息に寄ったのを見かけたのだ。

 これも神のお導きか。

 旅人に尋ね幾分の情報も得られた。

 勇者たちは神殿の保護を厭い、かなり身勝手に振る舞っているようだ。先の宿場町でも何やら揉めたようで、妙な詐欺師にたぶらかされているとも聞く。


 我々ももちろん、確認したとも。

 派手な格好をした男で侍女をともなっていたな。

 魔法陣の勇者は非常に美しい亜麻色の髪の少女だった。そばにいたのはラスタルの王子だろう。神官に変装していたが神王一族の白い髪がそれを示している。

 同行者も確認したが、御者や護衛らしい騎馬の者。

 随行しているはずのウェルペンの神殿関係者がいないのは、今は都合が良いのかもしれん。


 標的以外は殺すことになっているからな。


 ナルディエの神使はいないようだが、我らが魔法陣の少女を手に入れたと知ればどんな手で邪魔しに来るかわかったものじゃない。ウェルペティが動いているかもわからんし、ひっそりと攫って我が国の奥に封じてしまってから魔法陣を得たことを公表する段取りだ。余計な騒ぎや面倒ごとを避けるためにも目撃者や随行者は消すことになっている。

 邪魔をするならラスタルの犬も然り。


 そのような経緯で我らは街道の森に潜み、通りかかるであろう標的の乗った馬車を待っているのだ。

 さて、準備はととのったようだ。

 我が手勢は十二人。指定の場所に配置した。


 うむ、遠くから馬車が来るのが目視できるようになったな。

 まずは馬の足を止めて──……


 ん? なんだ?

 あいつらは。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【某国秘密工作員:勧誘】


 この国でもっとも整備された王都とつながる街道。

 その道は本来なら盗賊など出ない安全な道だ。

 森なら、多少獣はいるが人を襲った話も聞かない。 


 だが、我々はここに潜みやって来る勇者たちの馬車を襲わねばならない。

 秘密裏に、ある少女を王の元へお連れするために。


 王は、神の子たちがそこまで勇者に関心を持つとは思っていなかった。

 伝説の魔法陣を自由自在に使うという少女。

 できることなら神王国に興味を持たれる前に王都に招き、神王国の方針に従い魔術排除の名目で始末したことにして保護するつもりでいた。一緒に呼び寄せたラスタルの勇者を証人に仕立て上げ、亡くなった者として確保し、こっそりその技を伝授してもらうつもりだったのだ。


 我ら、フレンディス国の民に。


 だが、神王国の王子たちが突然フレンディスの神殿にやって来て、忖度した神殿長が勇者を呼びつけた件をバラしてしまったのだ。

 しかも神の子たちのうち、たちの悪い方から一番目と二番目が勇者確保に動き出してしまった。


 彼らに我らの反逆を知られるわけにもいかず、仕方がなく我々は強硬手段に出るためにここへやって来た。


 乱暴に招きはするが、その後はできるだけ穏便に不自由なく生活できるようにするつもりだ。どうせそのまま勇者を続けても捨て駒として使われるだけだし、ベルートラスへ帰ったところで神殿から狙われることになるだろう。


 少女を確保し、その師であるベルートラスの学者をも勧誘する。

 フレンディスに来て良かったと思ってもらえるよう出来る限り心を尽くすつもりだ。

 いろいろと申し訳ないとは思うけれど。


 そうして、力を手に入れてこの国は古き神代から解き放たれる。

 神の血を引くだけが取り柄の無能どもの前で長年、愚王を演じ続けていたあの方の悲願も叶うことだろう。そのためにも、失敗はあってはならない。


 そう、これは我が国の未来がかかった計画なのだ。


 神属性だけが尊ばれるこの国で、強い魔属性を持って生まれた我らはこんな後ろ暗い職にしかつけなかった。だが、次代からはもっと幅広い選択肢を持って生きられるのかもしれないな。

 まだ幼い我が子を思い出し、決意を新たに仲間たちを見やる。 

 盗賊に見えるよう、あえて強面の連中を集めた。

 我らはこれから人攫いをするのだ。

 人攫いなら、商品として少女を狙ったところで不自然はない。


 ……良い気分にはなれないがな。


 この森に近い町で見張りを立てて待っていたら、先ほど食事と休憩のために勇者たちがやって来たと知らせが来た。それを聞いて我らはすぐさま準備を始めた。

 狙う勇者はとても美しい少女だそうだ。

 愛らしいことにいつもぬいぐるみを抱きしめているとのこと。

 間違えないようにしなくてはな。

 

 できるだけ無関係な者は傷つけないようにしたいが、護衛とラスタル神王国の勇者あたりとは戦闘になるかも知れんな。詐欺師が少女をたぶらかそうとしているという噂も聞いた。そのような不徳漢は退治してもいいかもな。


 ああ、遠くから馬車が来た。

 あれだ。

 ……随分足の速い馬車だな。


 まずは道を塞いで足を止めるぞ。


 ん?

 な、なんだ!? こいつらは!

 


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