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第百十二話【テレシー:従兄弟も神の子】


 街道のとある町。

 待ち合わせの街にはまだまだですが、お昼休憩のために立ち寄りました。

 馬たちも休ませてあげなければいけませんしね。


 馬車を降りて伸びをしているとクレオさんに笑われました。


「神馬の引く馬車の乗り心地はどうでしたか?」

「あはは、馬車は快適でしたよ」


 チラリと、後から降りて来たスタングさんとウィラネルドさんを見やります。それだけで何かを察したようにクレオさんは苦笑いになりました。


「あちらに旅人向きの食堂があるそうです。馬も食事を取れるようですよ」


 ほんの少し先に町に来ただけなのに、クレオさんはもう良い食事処を見つけていました。町の人に聞いたそうです。すごいです。


 食事処は建物の横が開けていて馬車置き場になっていました。

 大きな丸太をくり抜いた水受けがあり、組み上げられた井戸の水がなみなみと入っています。馬はそこで自由にお水を飲めるらしいですが、飼葉は別料金。

 クレオさんは御者さんと一緒に馬を連れてそちらへ向かいました。

 私たちは一足先に食堂へ向かいます。


 食堂に一歩入った瞬間。周囲がざわめきました。

 ……目立ちますものね。

 私の隣に立っているシュザージはずっと豪華な衣装のままですし、本人がもともと目立つ容貌をしてますから。それに、女装をしたウィラネルドさんもそれはもう美少女で、髪はカツラらしいですが背中まである淡い亜麻色で目は桃色ががった紫。白を基調としたドレススカートは瞳に合わせた紫の装飾とレースの飾りがついていてまるでお姫様です。

 旅に出るのになんて格好で出てきてるんですかね。

 その上、神石入りのぬいぐるみを抱いているのがなんとも可愛らしくてちょっと羨ましくなります。

 さらにさらに、神王国の王族の特徴である白い髪と美しい顔立ちで神官の衣装を着たスタングさんがいるのです。目立たないわけがないでしょう。


「ど、どうぞ、こちらの席へ」


 店長自ら飛び出してきて、窓際の一番広い綺麗なテーブルに案内されました。

 うーん、私は久しぶりに小間使いの仕事をしましょうか。皆さんの給仕をして、私の食事はクレオさんたちといただきたいです。


 ──何を面倒なことを考えている。さっさと席につけ。


 心の中でシュザージに注意されました。

 仕方なく席について、店長さんに食事の内容を聞いたりスタングさんとウィラネルドさんに食べたいものを尋ねて注文しました。それぐらいはいいですよね? シュザージは食べられませんから何もありませんが、私も同じものを頼みましたので味わうことはできるでしょう。

 そのうち、クレオさんと御者さんもやって来てテーブルの末席につきました。

 運ばれて来た食事はなかなかのものです。

 店長さん、張り切りましたね。


 そう言えば、少し気になったのですが、ウィラネルドさんは食事中ずっとぬいぐるみを離しませんでしたし、なんだか気を張っているようでしたね。


 ──神術で毒検知でもしていたのだろう。一度眠り薬を盛られて懲りただろうし、暗殺者がいることを自覚したなら気を付けて当然だ。


 なるほど。

 私もちょっと気になって袖口の魔法陣に目をやりました。毒検知の魔法陣です。何の反応もないので大丈夫なのでしょう。


 そんな感じでゆっくりと食事をしてひと心地着いた頃、外から入ってきたばかりの別の客が声高に店の者に聞こえるように言いました。


「おいおい、そこで神殿の奴らが喧嘩してるぜ!」


 私たちは揃って頬を引きつらせてしまいましたが、お店にいた何人かは「なんだそりゃ」「そいつはおもしろそうだ」だなどと言いながら野次馬に出ていきます。

 

 どうします?

 タケユキさんならこんな時、何が起こっているかすぐに分かったでしょうに。


 ──こんなくだらない、想像のつく話にタケユキの力を使うまでもなかろう。


『行くぞ』


 シュザージの号令に私とクレオさんスタングさん御者さんはすぐに立ち上がり、少し遅れてウィラネルドさんも立ち上がりました。ウィラネルドさんだけ首を傾げています。クレオさんと御者さんは馬車の準備に駆け出し、私は食事の精算をしてそれを追います。

 外にはちょっとした人集りができていました。

 そして、飛び交う怒号。


「勇者を送り届ける役目は我がウェルペン神殿が承った任務だ! 貴様ら他領が出しゃばるな‼」

「ほほう。ではお尋ねしますが、勇者様方はどこにいらっしゃる? 観念なさい。勇者様方があなたたちウェルペン神殿の対応に不服を漏らし随伴を拒絶されたことはすでにフレンディス中の神殿が知っています」

「なっ!?」


 ああ……案の定、追ってきたウェルペンの神殿関係者たちと、おそらく迎えに来ていたこの領地の神殿関係者が鉢合わせ勇者の取り合いを始めています。

 こっそり馬車に向かいながら、隣を行くシュザージを見れば眉を寄せて険しい表情をしています。

 どうしたのですか?

 と、心の中で問うた途端。銀ピカ神官が目敏く私たちを見つけてしまいました。


「おおお! 勇者様方! 我らが追いつくのを待っていてくださったのですな!? 馬の足が遅く、遅れてしまったことをお詫びします!」


 待ってなんかいませんよ。

 お昼休憩をしていただけです。


「勇者様方、ここからは我らが領地。ならば我らがその役目を引き継ぐ方が良いでしょう。我らなら勇者様方に不満など抱かせず完璧に王都に送り届けますとも」

「チッ、勇者様方がここまで来られたのは我らウェルペンの支援があってこそ! それをお忘れでないでしょうな!?」


 違います。

 支援してくださったのは……


「浅ましいですよ、ウェルペン神殿神殿長補佐官アンゾル。馬車も旅の資金もホーケンの町が魔物討伐の謝礼にと準備してくださったものです。功を横取りしようとしているのは其方らではないか」

「なっ!?」


 私の横にずいっと出てきたのは、なんとスタングさんでした。

 背筋を伸ばして威厳のある声を上げ、杖で地面をガツっと叩きながら神殿関係者を見下すような目で睨み据えています。


「このようなことで師匠の手を煩わせるわけにはいきません。さあ、参りましょう。ああ、あなた方もついてこれるなら来ればいい」


 スタングさんがスッと手で馬車を刺し、私たちに乗るように促します。

 シュザージはなんだか機嫌よく『うむ』とうなずいて馬車に向かうので、私もそちらについて行きます。

 

「ほら、あなたも」

「わかっておる!」


 スタングさんに背を叩かれ、ウィラネルドさんも馬車に向かいます。

 御者さんはすでに準備万端だったようで、私たちが乗り込むと同時にクレオさんが「出立!」と叫んで馬車は走り出します。

 走り出した神馬は一休みして元気いっぱい。軽快に走り出します。

 早いです。

 慌てて後を追おうと馬車や馬に乗った神殿関係者は追いつけるわけもなく、ぐんぐん小さくなっていきます。

 こんな神馬の手綱を握れる御者さんはさすがホーケンの町長さんが選んだ方ですね。張り合って走れるクレオさんの馬もすごいですけど。

 そんなこんなで休憩の町を出て一路タケユキさんたちのいる街へ向かいます。

 馬車の中で、シュザージはスタングさんを褒めました。


『なかなかの迫力だったぞスタング。銀ピカ神官の悔しそうな顔は痛快だった』


 褒められたスタングさんは照れています。


「いえ、その、もっと早くこうすべきだったと反省しています。私は彼らより上位の神王国神殿に長らく務めていましたし、出自を考えれば初めから彼らより立場は遥かに上だったのです。なのに、境遇に悲嘆するばかりで彼らのやりようを嗜めることもしなかった。これではウィラネルドを叱れませんからね」


 おお、スタングさんはここ数日で色々と成長してますね。


「今度から、神殿関係で何かあれば私が対処します」

『うむ、任せる』


 シュザージにそう言われ、スタングさんはそれはもう嬉しそうに顔を綻ばせました。逆にウィラネルドさんは唇を噛んで悔しそうです。

 それとホーケンの町長さんにも感謝ですね。慧眼というか、こんなこともあろうかと言う心配が的中してます。


 馬車の中でそんなやりとりをしながら窓の外を見れば、クレオさんがご自分の愛馬で走ってらっしゃいます。本当ならクレオさんはお昼休憩の後、先に出発してタケユキさんたちと合流する予定だったのに一緒に行くことになってしまいましたね。さすがに神馬の足を追い越して先行するのは無理でしょうし。


 タケユキさんたちに予定が狂ってしまったこと、報告できませんか? 確か、リドルカさんの上着に通信の魔法陣を描きましたよね?

 心の中でシュザージに尋ねると、ちょっと困った感じで返答されました。


 ──この場で魔法陣を描いてリドルカに呼びかけるわけには行くまい。タケユキの名も出したくないしな。


 狭い馬車の中。

 スタングさんだけならともかくウィラネルドさんもいらっしゃいますからね。

 どうしたものかと考えているうちに、馬車はどんどん進みます。

 そして、街道が森に囲まれたところへ差し掛かった時。


 私たちの馬車は襲撃されました。


 ……またですか。



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