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第百十話


「ふざけるな!」

「ふざけてなどいません!」


 そんな大声にびっくりして目が覚めた。

 周りを見たら大きめのベッドでリドルカさんとテレシーに囲まれて川の字で寝ていたよ。

 ああ、ここはテレシーの部屋か。

 森で寝ちゃった俺をリドルカさんが運んでくれたんだね。大きなベッドが無駄にならなくて良かった。


「おはようございます、タケユキさん」

「熱は……ないな」

「おはよう、テレシー、リドルカさん」


 ほうっ、と息をついたら起きたのがわかったのかテレシーが声をかけてくれて、リドルカさんが熱の確認がてら頭を撫でてくれた。

 そんなほんわかした目覚めを破るような大声がまた聞こえた。


「ええい、私がその詐欺師の正体を暴いてやる! 其奴の部屋はどこだ!?」

「そのようなことはさせません! 戻りなさい、ウィラ!」


 スタングさんと女装王子だね。

 宿の廊下で言い合っているみたい。

 ちょっと透視で見てみたら女装王子、朝からちゃんと女装してた。


『……まったく。朝っぱらから何をやっておるのか、あやつらは』


 ため息まじりのシュザージの声が聞こえた。

 てっきりまたペンダントからの声だと思ったら、幻影のシュザージがベッド脇に座っていた。テレシーの手が上がっているので、たった今魔法陣を描いたばかりか。素早い。


「おはようシュザージ」

『ああ、おはよう。元気そうで安心した』


 挨拶をしている間も、廊下はずっと騒がしい。


「止めた方がいいでしょうか?」

「大丈夫だよテレシー。クレオさんが来た」


 廊下に静かな足音が進み出てきて、喧嘩する二人の間に入った。


「何をしているんです、宿の人や他の泊まり客に迷惑でしょう」

「す、すまない、クレオ」

「なんだこいつは!?」

「知らないんですか!? あなたが集めた勇者の一人ですよ!」

「えっ!? んんっ?」

「……スルディア王国から来たクレオです。お見知り置きを」


 クレオさんが怒ると、心の中のお姫様もプンスカするんだ。

 気まずくなったせいで大人しくなった女装王子は、ひとまずスタングさんの部屋へ戻ったよ。


『さて、どうしたものか』

「ラスタルの王子様から話を聞くんじゃないの? それで、ラスタル神王国が俺たちにとっていい感じの国なら。しっかりした強国になってもらって悪さする他の神王国を監督してもらうんでしょ?」

『まあ、そうなんだがな……』


 なんだかシュザージが乗り気じゃないみたいだ。

 女装王子、神殿騎士に色々吹き込まれてシュザージのこと詐欺師だと思っているみたいだしね。


「とりあえず、お話をしてみましょうよシュザージ。他の神王国を出し抜きたくて単身やって来た挙句、馬を暴走させてタケユキさんたちを煩わせ、その上、神殿騎士だからと簡単に信用して睡眠薬盛られて攫われて、更に暗殺者にまで狙われていて殺されかけてと、延々とタケユキさんたちに面倒かけて熱まで出させた人ですが。あれでも次期ラスタル神王なんですから」


 あれ? テレシーも怒ってる?

 確かにめんどくさい王子だけどね。


「ナルディエは敵だ。バロウはベルートラスと滅びの都を、狙っている節がある。ウェルペティは遠方すぎて、接触するなら時間がかかる。アレを鍛えてラスタル神王国を強国にする方が……」


 リドルカさん、語尾が小さくなってます。

 そんなにダメな子なの?

 

「ダメならしょうがないね。じゃあどうしようか」


 とりあえず敵とはっきりしているナルディエの王様から脅しに行く方がいいのかな、なんて考えていたらテレシーがチラッとリドルカさんを見た。


「タケユキさんがなんだか過激なこと考えてそうですが……」


 そんな小さな声に、リドルカさんがうなずいている。

 首を傾げているとシュザージがスッと手を上げた。


『やるだけやってみよう、スタングはテルセゼウラへ連れて行く予定だしな。後顧の憂いを無くす意味でもラスタルに決めるか』

「そうですね。せっかくタケユキさんたちが助けたのにもったいないです」

「それが、手っ取り早いなら」


 みんなの意見が一致したようだ。


『では、ひとまずはこのままフレンディスの王都へ向かおう』

「え? ここでチャチャっと話を聞いてラスタルへ行くんじゃないの?」

『この宿にいてはタケユキたちとあの王子がいつ出くわすかとハラハラせねばならんし、逃げた暗殺者に目をつけられ探られるやもしれん。廃庁舎に寝泊まりするはずだった旅人が、勇者と同じ宿にいたと知れれば何かと勘繰られるだろう。そもそも、少し目立ちすぎたからな。長居は良くない』


 というわけで、旅は続行。

 俺とリドルカさんはまた別行動で、ラスタルの女装王子については馬車での移動中に、シュザージたちが色々と話を聞いておいてくれるって。


『でだ、タケユキたちは先に次の宿泊先に行って待機しておいてくれ』

「どうして? 心の声も聞いたほうが良くない? 馬車を追いかけながら空中で心の声を聞こうかと思っていたけど」

『それは次の街で落ち着いてからでいい。タケユキはそれまでゆっくり休め』

「熱は下がったよ?」

『そう言って、何度無理をして振り返した?』

「そうですよ。タケユキさんはまだまだ病み上がりなんですからね」


 うう、それを言われたら反論できない。


「心を読むのは、疲れるはずだ。俺が飛ぶからタケユキはしっかり休め」


 リドルカさんにも言われた。

 そういえば、昨日も休むように言われたのに休めなかったんだ。色々あって……


「あのさ、また昨日の夜みたいに突発的に何かあった時は頑張ってもいい?」


 そう聞くと、みんなが一瞬息をのんだ。


「また別の国の王子が女装してやって来るとかですか?」

『神王国の王子がそんなバカばかりだとむしろ助かるが。いや、そうでもないか?』

「その時は……その時だ」

「そうですね」


 リドルカさんはため息をつき、テレシーは苦笑い。


 それから、今後の予定を話し合って俺とリドルカさんは一度自分たちで取っていた部屋へ戻る。廊下で女装王子にバッタリの可能性もあるからここだけは転移で移動した。

 テレシーたちは出かける準備をし、朝食を食堂で取ったら先に出発だ。

 流れはほとんど昨日と変わらない。



 馬車を見送った後、俺たちも宿を出た。

 どうせならと、街道を目的と反対の方向に歩いて、つけてきている者がいないことを確認し人目のない森の奥から高速で空へ上がる。もちろんリドルカさんに飛んでもらってね。


 高い高い空の上から街道を見れば、町を二つほど過ぎた先に大きな街が見えた。今日の宿泊予定の街だ。

 実はその街は、昨日泊まった宿場町の次の次に泊まる予定だった街だ。

 シュザージ曰く


『思いがけず神馬が手に入ったのだ。そいつに馬車を引かせれば倍は速く走れるぞ。神馬の持ち主も馬車に乗せるんだから問題なかろう』


 とのこと。

 ウェルペン神殿の人たちがついて来れるか難しいところだけど、ついて来たいなら頑張るだろうって。

 勇者を招集した一番の責任者であるラスタルの王子様が同行しているんだし、ウェルペン神殿の付き添いはもういらない。けど、神殿は神殿で手柄争いしてるからね。どうなることやら。

 女装王子が暗殺者に狙われているなら護衛はいて欲しい気もするけど、敵は殲滅の神術なんか使って来る連中だからね。シュザージにしたら自分たちくらいなら魔法陣で守れるけど、他は難しいって言っていたから離脱してもらっても構わないそうだ。

 神殿騎士たちは気まずそうだったから、積極的に距離を取るかもしれないよ。昨日の出来事も怖かっただろうしね。

 自分の馬で移動すると言うならクレオさんも大変になるんじゃないかと思ったけど、クレオさんもクレオさんの馬も走るの大好きっ子らしく、構わないのだと。

 ああ、そうそう。

 ホーケンの御者さんがクレオさんに愚痴ってた。

 酒場での待ち合わせをすっぽかしちゃった件でね。

 ごめんなさい。

 悪いのは女装王子と神殿騎士です。

 

 空から爆走するテレシーたちの馬車と、それを追いかける神殿騎士と神殿の派手な馬車を見たよ。

 それらを飛び越え、俺たちは待ち合わせの街までやって来た。



 ここはウェルペンの隣にある領地の領都だって。

 今日は極力、超能力は使わないよう言われていたけど宿選びだけはさせてもらったよ。宿の人が悪党だったり変な人が泊まっていたら困るから。

 ウェルペンの領都と同じくここも領都だから広いし、宿も多かったからちょっと大変だったけどね。それに、まともな宿を探せば自ずと上等な宿になってしまう。

 そんな宿のほどほどの部屋を借りて、俺は早速ベッドに入れられた。

 寝る必要はないんだけど、リドルカさんたちを安心させるためにも今日はゴロゴロして過ごすことにした。


 ここで俺たちは、クレオさんが来る時間まで休んでお昼過ぎに門の辺りに迎えに行く。それからクレオさんがテレシーたちの部屋を予約して、また門まで迎えに行く予定だ。

 まだまだ時間があるね。


 今は、開けた窓の縁に腰掛けて外を見ているリドルカさんを、横になったベッドの中から見ている。

 俺が部屋にいればリドルカさんもそばにいるので、一緒にダラダラするしか無くなってしまう。本当は帝国と理想郷のためにやらなきゃならないこともやりたいこともいっぱいあるはずなのにね。

 申し訳ない。


 ぼんやりとリドルカさんを見ながら考え事をしていると、帝国でリドルカさんのお家に捕まっていた時のことを思い出す。

 あの時も、何をするでなくぽやーっとリドルカさんのこと見てたっけ。

 いや、あの時はお家の人たちの様子を探って気晴らし……じゃなくて、情報収集もしてたんだ。本当はリドルカさんの心の声が聞こえなくって、仕方がないから周りに聞き耳立ててたってとこもあったかな。

 

 どうしてリドルカさんだけ、心の声が聞こえないんだろう。

 聞いてみたいけど、もし何か聞いてはいけない理由があったらと思うと聞きにくい。

 魔力のせいだとか、何かどうしようもない理由があるとすれば俺のわがままで無理は言えないもんな。


 リドルカさんとも心でお話ししたいな、なんて……

 

 なんて考えていたら、いつの間にかリドルカさんの視線が俺に向いていた。

 どうしたんだろう、首を傾げていたらリドルカさんはハッとしたように何かに気がついてまた窓の外を見た。

 そして立ち上がると数歩部屋の中に戻ってから空に手をかざす。

 空に黒い点が現れ、こっちに向かって来た。


「羽太郎!」


 帝国の皇城に行っていた伝書鳥、羽太郎が戻って来たよ。

 リドルカさんが窓際にいたのは羽太郎を待ってたからかな。

 スッと部屋に飛び込んで来た羽太郎は、リドルカさんが差し出した指に止まった。リドルカさんは羽太郎の背にある小さなリュックから極小の魔石を取り出して手に握ると、羽太郎を俺に差し出す。

 

「おかえり、羽太郎。お疲れ様」


 ちょっと大きめのツバメのような羽太郎は、俺の指に止まって「ピピピッ」と鳴いた。皇都まで行って帰って来たんだ。お仕事お疲れ様、と反対の指で頭を撫でてやる。

 そんな俺を、リドルカさんは少し笑って見た後、魔石に込められた言葉を魔術を使って読み取りはじめた。 


「向こうは……問題なく、尋ねた件はほぼ了解を得た。いくつかは保留。帰ってから話を聞きたいと──」


 リドルカさんがざっと説明してくれた。

 具体的に聞いたら、帝国では内通者の取り調べとローレンド領の調査で手いっぱいになっているそうで、こちらの支援はなかなか出来そうにないけど隠密兵は使っていいって。それで、リドルカさんのテルセゼウラ行きは保留。直接話を聞きたいらしい。

 それはそうだよね。

 嫁取りの予定が婿入りになっちゃうって話だし。


「皇族の秘術に関しても帰ってからだそうだ。兄上が直接話してくれると」

「そっか、残念」


 皇帝陛下自ら話さなきゃならないなら、よほどのことなんだね。男同士の婚姻にまつわる秘術って。

 シュザージも元は王族だから知ってるみたいだったけど教えてくれなかったし……あれ? そういえばテレシーも知ってそうな感じだったような気がするよ? シュザージの記憶を共有しているだけかな?


「そうだ、お返事にシュザージの言っていた弟さんたちの件、伝えるの?」

「ああ。魔法陣の有用性とテルセゼウラと友好関係を築く利点も含めてな」


 弟さんたちが自由に動けるようになって、リドルカさんが安心して婿入りできるようになればいいね。


「だが、それは明日でいい。ハネタローも休息せねば」

「そうだね」


 俺は昼用に買っておいたパンを出して、小さくちぎって羽太郎にあげたよ。羽太郎は嬉しそうに食べてた。


 そんな感じで午前中はまったり過ごし、お昼ご飯の後はまた少し眠って過ごしたよ。

 リドルカさんがずっと何か言いたげに俺のこと見てたけど、無理に聞き出すより話してくれるのを待った方がいいかな? 


 そうしているうちにクレオさんを迎えに出る時間になって、俺たちは宿を出た。門前まで来てしばらく待つ。

 が、クレオさんがやって来ない。


「何か、ちょっと嫌な予感がするんですけど」

「……そうだな」


 胸騒ぎに急き立てられるように、俺たちはそのまま門を抜けて街道に出た。しばらく歩いてもクレオさんが来る気配もない。そのまま街道を進み、また人気のないところから空へ上がった。


 こんな旅の道中に、のんびり過ごすなんて方がどだい無理だったってことだね。




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