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第百九話【テレシー:秘密にする】


「森の中で触れているように見えたのは、勘違いじゃなかったんですね」


 問うようにに呟けば、シュザージはチラリとこちらを見た後、嬉しそうにもうひと撫でタケユキさんの頬に触れてからこちらに戻って来ました。

 席に座り直すシュザージ。

 正確には、幻影体のシュザージは椅子に触れられませんから座る格好をしているだけです。その、はずです。


『そうだ。私が触れられるようになったのはタケユキだけだ。まだ、触れられるだけで、その柔らかそうな感触も暖かそうな体温も、わからんがな』


 自分の手を見てそう言うと、グッと拳を握りました。


『これは、タケユキが授けてくれた力だ』


 タケユキさんが?

 意味がわかりません。


『昨日の日暮れ前、皆で合流して話し合いに入った時だ。私はタケユキに触れようとしたが触れられず。タケユキもまた私に触れようとして触れられなかった。その時、おそらくタケユキは“触れたい”と願ってくれたのだろう。……その瞬間、幻影魔法陣がわずかに変化した』


 やっぱりちょっと、わかりません。


「えっと、タケユキさんが魔法陣を書き換えたとか? ですか?」

『いいや。見たかぎり魔法陣は書き換えられたわけではない。魔石や神石に何かあるようにも思えん。だが、次に描いた魔法陣の幻影体はなぜかタケユキに触れられるようになっていた』


 手を開いては閉じ、開いては閉じ、シュザージは言いました。


『タケユキは神力や魔力が通じないのではなく、危害がないように意図せず無効化しているのではないかと思う』


 そして、目を細めてリドルカさんを見ます。


『其方には、何か心当たりがあるのではないか?』

「……ある」

「あるんですか!?」


 思わずリドルカさんを見返すと。リドルカさんはスッと右手を上げ、手のひらを上に向けました。

 その手の上に、ポッと青い炎が灯ります。


『それは、魔力か?』

「え!?」


 シュザージの言葉にびっくりしました。


「でも、魔力って可視化した場合真っ黒なモヤっぽくなるはずですよね?」


 ミリネラ様が魔力制御の訓練されている時に見たことがあります。すぐにトルグ様が抑えて中和されてましたが、ミリネラ様が使う魔力だったとしても少し怖い感じがしました。

 でも、リドルカさんの青い炎は怖くありません。


「もともとはそんな感じだ。もっと黒い。術を使えば多少、青が混じるがそれはオンタルダ皇帝一族の特徴のようなものだ」


 そこで一度言葉を止めたリドルカさん。

 ゆっくり視線をタケユキさんに向けます。


「タケユキは、俺が魔王と呼ばれ恐れられ、嫌悪されることを厭うている」


 えっと、つまり、どういうことでしょうか?


『つまり、魔落ちしない無害な魔力に変化したのか?』

「……しつつ、ある。と思う」


 ええっ!? 無害な魔力ですか!?


「そ、それってすごいことじゃないですか?」

「試したわけではないから、まだ絶対とは言えん。が、おそらく」

『テレシー、あの火に触れてみろ』

「えっ!?」

「おい」

『もしもの心配はいらん。害があれば衣服に書いた魔法陣が弾く』

「……熱くないですか?」

「火ではない」


 リドルカさんが少し戸惑いながら、ゆっくりと手をこちらに向けました。

 私も気にはなるので、シュザージの言葉を信じてそっと手を伸ばし、炎のように揺らめく青い魔力に触ります。

 服の下の魔法陣は反応しません。

 

「中位の魔石を触っている感覚です。もちろん石とは感触は違うのですが、この力でポットでお湯を沸かせるな、とは思います」

『ポットのお湯処ではない。最上質の魔王石の魔力が無害になったのだ。神石の補助もほとんどいらんだろう。敵を害するだけでなく、治療や精神干渉もできるはずだ。魔力での治療などは魔落ちの危険があり、なかなかできるものではなかったがその心配がなくなるのだ、できることの幅が恐ろしく広がる』


 それはすごい!

 と、私は思うのですが、シュザージは深くため息をつき、リドルカさんは手のひらの炎を消してしまいました。

 二人とも、また空気が重くなっています。


『この変化をもたらしたのは、タケユキだ。タケユキには魔力や神力、魔法陣に至るまで術に関わる力を変質させることができるようだ』

「それは……すごいことじゃないですか?」

『すごいどころではない。魔力を抑えるのではなく無害化して使えるようにするなど、神ですらできなかったことだ。おそらく、神力も突然死しないものに変えられるかもしれん』

 

 すごい、すごいです、タケユキさん!

 神様よりすごいなんて!

 もしかして、タケユキさんは異世界の神様では?


『だが、これを欲深い者が知ればどうなると思う?』


 シュザージに言われ、昂っていた心に冷や水を浴びせられたような感覚になりました。ゾッとします。

 当然、欲しがると思います。どんなことをしてでも。


『なぜ、タケユキにこんなことができるかはわからない。今のところ極端な変化が現れているのは私とリドルカだけのようだが、そもそも天運の縁ではなく運命を自身でつなぎ合わせている時点でおかしかったのだ。タケユキを操り運命を結ばせれば、自由自在に扱える力を得られる。などという話は絶対に漏らしてはならん』

「タケユキは、薬の類には弱い。典医の薬はよく効くし、はじめに魔草を浸した水をかければ眠りに落ちた」


 そうですね。

 一度は攫われているんですから。二度はないとは言えません。いいえ、絶対にもう攫われるわけにはいきません!


「タケユキにも、注意させる方が、いいだろう。おそらくタケユキは、無自覚でこの変化を起こしている」

『ダメだ』


 なぜかシュザージが止めました。


「どうしてですか? タケユキさんは自覚があればきっと自分で制御したり、敵の考えを読んでささっと逃げられますよ」

『いいや、自覚すれば我らのために疲弊も厭わずその力を惜しみなく使おうとするだろう。それに、タケユキほど逃げるのが下手な者など見たことがない。誰かのためにと力を控えて捕まってはボロボロになっているではないか』


 言われてみればその通りです。

 ベルートラスで神属騎士に連れて行かれた時も、パレアーナさんたちに追われた時も、タケユキさん一人なら逃げられたはずです。お力を隠さなければ、なんとでもできたはずです。

 リドルカさんも心当たりがあるのか、頭を抱えられてしまいました。

 シュザージも大きく息をつきます。


『タケユキが捨てたという夢は、存外大きいものだったようだ。守れる者はたった一人。他者に干渉されない場所でのみ自由に生きられる、と』


 リドルカさんは顔を上げてシュザージを見ました。その表情はひどく切なげです。


『……案ずるな。私とて、タケユキが望んだものをもう一度捨てさせる気はない。其方がタケユキの意識を変えたからこそ、タケユキはテレシーも私も受け入れた。帝国もテルセゼウラも救うと、いささか大きすぎる夢も共に目指すことにしてくれた』


 そう言いつつ、シュザージが心の中でそっとこぼした愚痴は聞かなかったことにします。


「いささかなんてものじゃないですがね、悪者にされてる帝国を立て直して滅びてしまった国を作り直すんですから」


 努めて明るくそう言えば、シュザージが苦笑いをしました。


『タケユキが自由に、愛する者と暮らせる理想郷を作る。それができるまでは、タケユキには自覚していない力を知らせない方が良い』


 私はシュザージの言葉にうなずきます。

 リドルカさんも、少し思案して、タケユキさんを見て、小さくうなずきました。


『まずはあの王子がタケユキの力に気付いたかを確認せねばな。黒の神使とやらはあそこで死んでいたもので全部か? いや、服を捨てて逃げ出した線があるとすれば厄介だな』

「それは別の意味でも厄介ですよ」


 素っ裸の男が何人も逃げ回っているなんて、嫌です。


「暗殺者は全部で八人いた」

『人型に脱ぎ捨てられていた服は六人分。最低でも二人は逃げたか』

「たまたまそこに、寝泊りするつもりの、旅の兄弟と思われていたはずだ。あの王子が勘違いして、口走っていたのを聞いていたなら」

『ラスタルの王子は?』

「タケユキを通して聞いた限り、あの王子は転移した事にも、俺の魔力にも気がついていない。眠り薬が抜け切っていなかったことと、神術の解除に集中していたことで、意識が向いていなかった、ようだ」

『……通して?』


 何を疑問に思っているのでしょう。

 タケユキさんがあの王子様の心を読んで、リドルカさんに伝えたってことですよね?

 なぜかリドルカさんを睨むシュザージから、リドルカさんは視線を逸らせました。


「タケユキは……俺とは心で会話ができない、と思っている」


 よくわかりません。

 困った顔をしたリドルカさん。

 さっきとは全く違う様子で動揺されてます。なんですか? 何があるんですか?


『はっきり言え。タケユキのことで誤魔化すな』


 シュザージに強く言われ、リドルカさんは観念したように視線を戻しました。


「はじめは、神属関係者だと思っていた、ので心を読まれないようにしていた。呼びかけられていたり、無意識の声が届いたりしても、返事をしなかった」


 無意識の声とは、以前触れている時に聞こえたあんな感じの声でしょうか?


『まさか、今でも返事のひとつもしていないというのか? なぜだ、タケユキに話しかけられて嫌なわけではあるまい』

「当然だ。だが……答えづらい言葉も流れてくる」


 なんですか? それは。


『其方が何を考えているのかはともかく、タケユキの読心の術はかなり高度だ。答えずとも考えるだけでタケユキには読み取れるし、神術対策などあまり意味がない。全く心が読まれないなど、できるものか?』

「俺は……あまりものを考えていない」


 おおう。リドルカさん。

 それは無我と言うやつでしょうか。

 普段からあまりお喋りしない方ですが、心の中までそうなんて……

 シュザージもまた、呆れています。


『それでは心を通じて意思のやりとりもできていないのではないか? できなければ今後困るぞ。他者に内密の話をするならタケユキの読心の術は極めて有用だ。タケユキに知られてはならないことは隠しつつ心を読ませて、なおかつタケユキに負担をかけぬようやりとりするのだ』

「シュザージ、それはそれで難しすぎませんか?」

『主人の秘密を守るベテラン小間使いの心得上級編、だと思って精進しろ』


 はうっ。

 そんなふうに言われたら、頑張るしかないじゃないですか。

 リドルカさんも神妙にうなずいて「努力する」と言われました。



 そんなことを話し合っているうちにすっかり夜が更けてしまいました。

 ので、明日の予定を少し話して私たちも眠ることにしました。

 もちろんタケユキさんを挟んでカワノジというやつです。

 シュザージは、流石に狭くなるので消えてもらいました。どのみち、私が寝入ってしまえば幻影体は消えるのですが。


 テルセゼウラの寝室では、四人で眠れるようになれたらいいですね。大きなベッドが必要になりそうです。


 私たちの理想郷。

 タケユキさんがのびのび暮らせる理想郷。

 少しでも早く、つくりたいですね。



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