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第百八話【テレシー:秘密の話】


 長い旅になると思っていました。


 私たちが、フレンディスの王都を目指して旅に出たのは、ざっくり言うと味方になってくれる神王国を見定めるためです。

 候補としては、スタングさんの出身地であるラスタル神王国かなと思っていました。

 それが思いがけず、そのラスタル神王国の王子様を保護することになったのです。


 もしかしたらこれで旅は終わるんでしょうか?


 ──そんなわけなかろう。まだまだやることはいくらでもある。


 ですよね……。

 わかっていますが、そうだといいなと思っただけです。

 はぁ……理想郷でのんびり暮らせるのはいつになるのでしょうね。


 ──さてな。私とて、早くタケユキを連れてテルセゼウラに帰りたい。



 ここは宿場町の宿の廊下。

 なので、心の中でシュザージと会話しつつ、そろってため息をつきました。


 私たちは、眠ったままの女装王子をなんとか宿まで連れ帰り、スタングさんのお部屋に放り込みました。スタングさんの従兄弟さんなのですから、あとはお任せしましょう。

 そして食堂で簡単な食事をトレイに乗せてもらって、それを持って私たちの借りている部屋へ向かいます。ちなみに、スタングさんの分は部屋へ運んでもらえるよう宿の人に頼んでおきましたよ。

 それと、クレオさんが先に連れ戻った神殿騎士はというと。

 さすがに厩はかわいそうだったので、格安の四人部屋を借りてあげました。

 もちろんタダではありません。大きな貸しだと脅しておいたとクレオさんは言っていました。


 そんな考え事をしながら宿の廊下を歩き、自分たちの部屋の前まで来ました。チラッとだけ隣の部屋の扉を見ます。

 タケユキさんとリドルカさんはどうされたのでしょう。

 食事はされたでしょうか、もう休まれているでしょうね。

 などと思いながら部屋の扉を開けたら、私もシュザージも少し驚いてしまいました。

 部屋にはリドルカさんがいて、先に連れ帰っていたタケユキさんをこの部屋のベッドに寝かせた上で私たちの帰りを待っていたのです。


 こんな時くらい、ご自分たちのお部屋で過ごされてもいいのに……


 二人きりで眠れる機会を捨ててまで、みんなで寝たいというタケユキさんの願いを叶えようとされているんですね。健気です、魔王様。


「ただいま戻りました。タケユキさんの様子はどうですか?」

「よく眠っている。少し熱があるが、朝には引くだろう」


 よかった。

 シュザージも私の隣でホッとひとつ息をつきます。

 部屋のテーブルに食事のトレイを乗せ、ベッドに寄ってタケユキさんの寝顔を見ます。暗い森ではよくわかりませんでしたが、思ったより顔色が良くて安心しました。


「リドルカさん、お食事は?」


 尋ねれば、軽く首を振ってタケユキさんを見ました。


「タケユキさんの分は起きられた時にいただきましょう。これ、シュザージの分もあるのでどうですか?」


 幻影のシュザージでは食べられませんが。宿の人はそんなことを知らないので二人分シチューとパンを用意してくれました。美味しそうですよ。

 そう誘えば、少しだけ考えた後。リドルカさんはベッドを離れてテーブルまで来てくれました。

 私たちは揃って、手早く食事をいただきます。

 その間、シュザージはタケユキさんのベッドの脇に座って、じっとタケユキさんを見ていました。

 そういえば、先ほどシュザージがタケユキさんに触っていたような気がしたのですが……気のせいでしょうか?

 そんなことを考えていたら、シュザージが私たちの方に目を向けます。


『食事は終わったか?』

「はい」


 手をハンカチで拭って、お水を一口飲んで「ふぅ」と一息。


『では、聞こう。あの後、何があった?』


 シュザージの言葉に、リドルカさんはうなずいて答えてくれました。


「殲滅の神術というものが、発動しそうになった。危害を防ぐためにタケユキは、神石の杖ごと王子を連れて、空へ跳んだ」


 簡潔すぎます。

 首を傾げると、リドルカさんはゆっくり補足の言葉を付け足していってくれました。


 少女に扮したラスタルの王子を、そうとは知らず勇者の恋人か何かと思って声をかけた神殿騎士たち。

 勇者と上司への嫌がらせのために、酒に仕込んだ眠り薬で眠らせ連れ去ったそうです。廃庁舎に置いてあった馬でどこかへ逃げ出そうとしていた騎士たち。けれど、そこへ王子を狙った暗殺者が現れ、皆殺しにしようと襲いかかって来たとか。

 タケユキさんとリドルカさんは放っておくことはできないと、廃庁舎の二階に転移し、偶然を装って助太刀に入ってその場にいた暗殺者を倒したのだと言われました。もちろん普通に剣で戦って。


 リドルカさんは帯剣されてますもんね。

 お強いのですね。

 ちょっと見てみたかったです。


 シュザージに睨まれたので、軽く咳払いをして続きを聞きました。


「その時、倒した神術士の杖の石が紫に変わって、その術が発動した。ラスタルの王子が抑えようとしたが、込められた神力が大きすぎて、手間取っていた」

「紫……」


 そう言うと、足元に転がして放置していた杖を手に取りテーブルに乗せて見せてくれました。おどろおどろしい紫の石がついています。

 ちょっと息を飲んでしまいます。


「術は解除されている」


 リドルカさんの言葉に、ホッとしました。


『一応封印しておこう』

 

 シュザージに指示され、杖から神石を取り外し封印の魔法陣を描いた布に包みます。

 その時、私は自分の両手の手袋の甲にはまっている石を見ました。神石にも魔石にもほんの少し紫が混じっています。


『神王国にも石の力を統合する技術があるというのは聞いたことがあったがな。それだけ強く紫の色が出ているということはもしや、魔石と神石の力を混ぜ合わせて圧縮しているのか?』


 滅びの都でシュザージが、石の力を統合していた時のことを思い出します。

 統合の魔法陣で石の力を一つの石に寄せていましたが、圧縮時にそれぞれの力が暴走しないよう、神石は魔石、魔石は神石を使って抑えていました。その時に少しだけ圧縮した石にそれぞれの力が混ざって紫色を帯びるのです。

 それだけはっきりした紫色になるのは、ちょっと混ざった程度ではないのでしょう。しかも、なんだか気持ち悪い色です。


『打ち消し合う二つの力を綺麗に混ぜるのは至難の技だ。それに、それだけの力を込めるには魔石も大量に必要だろうな』 

「ナルディエ神王国はローレンド領を通じて、上位の魔石を手に入れていたはずだ。帝国を襲った化物の中心には、大人三人分ほどの紫の石があった」


 その石が、たくさんの生き物を魔物に変え、寄せ集め化物の姿を作っていたようだとリドルカさんは言います。ホーケンの山でリドルカさんが作って見せた幻の化物はそれを模したもので、本物はあれより何十倍も大きかったとのこと。

 とんでもないですね。

 リドルカさんがそれと戦い魔物を全て蹴散らした後、現れたその石はリドルカさんを狙って攻撃を放ち、タケユキさんは身を挺してそれを防いだとか。


「タケユキさん……なんて無茶な」

「その攻撃は、タケユキには効かなかった。疲労で倒れ、死にかけたが、魔力や神力を受けた傷はなかった」


 その時の紫の石は、怒りに駆られたリドルカさんが粉々にしたそうです。


『待て。傷は負わなかったが、タケユキはそなたを庇って紫の石の攻撃を止めた、ということか?』


 リドルカさんは少し首を傾げた後、うなずきました。

 やっぱりこの世界の力はタケユキさんに効かないようで、良かった。という雰囲気ではありません。

 シュザージが、顔に困惑と焦りのような表情を浮かべています。


『あの王子は……消すか』

「急に何を言っているんですか!?」

「テレシー」


 はわっ、声が大きかったです。

 私は自分の口を両手で覆って、眠るタケユキさんを見ました。大丈夫、起きていません。


『粗忽者』

「誰のせいですか。というか、どうしてそんな物騒な話になるんですか? タケユキさんたちが助けた王子様を、どうしてけ、消す、なんて──」

『タケユキの力を知られたなら、消すしかない。神王国に知られたなら神王国も消す他なくなる』


 その言葉にギョッとしました。

 シュザージは時々怖いことを口にしますが、ほとんどの場合例え話の一つとして語ります。でも、今の発言は……本気です。


「何が、言いたい」


 リドルカさんの声までピリッとしたものになりました。

 シュザージは、口の端で小さく笑うと席を立ち、タケユキさんの眠るベッドへ向かい手を伸ばし、その頬に触れました。


 はっきりと、その手で触れました。


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