第百五話
ウェルペンの神殿騎士は四人。
そういえば、最初にテレシーたちの馬車を追って街を出た騎士がいたけど彼らがそれっぽい。
なんだか上司にも勇者にも文句を言いながら、眠りこけた女装王子を抱え走っていく。
「はははっ、こんなに簡単に引っかかるとは思わなかったぜ」
「眠り薬にまったく気づかないなんてな」
「どうするよこの女。神殿長補佐には知らせるか?」
「はっ! 俺たちに面倒ごとばかり押し付けて、花街で遊んでる色ボケじじいに手柄なんか立てさせてやるかよ」
「ならもう、いっそ売っぱらうか?」
「それもいいけどあの勇者どもに一泡吹かせてやりてえな。さあて、どうしてやるのが一番効くか」
「どいつもこいつも絶望しやがれ!」
なんかひどいこと言ってるね。
ウェルペン神殿の面目も昇進もどうでも良くなってない?
色々あるんだろうけど、その不満を第三者にぶつけちゃダメだよ。
俺はリドルカさんを連れて、店や街灯の明かりから死角になった屋根の上をテレポートしながら神殿騎士を追う。
「タケユキ……」
「大丈夫です」
俺のひたいに手をやるリドルカさんに、笑って答える。
ちょっと疲れてきてるけど、いつぞやの化物戦の救助活動に比べたらまだまだイケる。
神殿騎士たちは賑わう町をすり抜け、南の端にある古めかしい建物までやって来た。
なんとなくホーケンの庁舎に似てる気がする。ここの町役場かな。その割には寂れていて庭は草ぼうぼうだし窓ガラスは割れているところもある。
……あいつら、ここに泊まるつもりだったのかな? え? 宿も取ってもらえなかったの? ケチられたの? それじゃあ上司に恨みが積もるよ。
玄関から入った埃まみれのホールに隠すように馬が入れられていた。
騎士たちは手に神石を持ち、神術で灯りを灯しつつ馬の準備を始めたよ。このまま帰るつもりなのかな。
「おい、こいつ連れてウェルペンに戻るのか?」
「そんなわけないだろ、けどここの花街に売ったら勇者どもや神殿にバレたとき足がついちまう。ウェルペン領は出なきゃな」
「じゃあいっそ、隣の領地の神殿に連れてくか? 勇者どもがそのうち通る道だし、こいつがいると知れば勇者は神殿に立ち寄らなきゃならなくなるだろ? 勇者の後援役やりたがってる神殿は多いって聞いたぜ。ついでに俺たちもそっちで雇ってもらえるんじゃねえの?」
「そういや神王国からなんか神術通信入ったんだっけ? 知らんけど」
「なるほど」
なるほどじゃないよ。
神術通信って何? 神殿独自の通信方法があるの?
まあ今はいいや。
わきあいあいと馬に荷を乗せ女装王子を乗せ、準備をする騎士たち。
今ならあの子を助けられるかな。
油断しまくっている神殿騎士、四人だけなら転ばせて後ろから叩いて気を失わすくらいでなんとかなると思う。
と、考えていたら何か嫌な予感がよぎった。
……他に、誰もいないよね?
そこは宿場町の外れにある廃庁舎。
俺たちは町の端よりの少し背の高い建物の屋根からそれを見ている。
二階建てのこじんまりした建物で、大人の身長ほどの塀に囲まれてはいるもののボロボロで門は壊れて無いも同然。入ろうと思えばどこからでも入れるけど、賑やかな繁華街や裏町からは離れていて見る限り誰もいない。
けど、俺は改めて目を凝らす。
そしたら……いたよ。
黒っぽい旅装束の男が八人、腰に剣を帯びていたり手に神石の杖を持っている。
旅の人が武装してるのは普通のことだけどね。
でも、俺がよくよく見なければ気がつかなかったことを思えば……
「リドルカさん、幻影の神術を使える怪しい人たちが廃庁舎を囲んでいます。分かるのは八人。心が読めないので、心を読む神術を妨害する何かをしているとも思えます。カトリーネさんとやり方が似てるかな?」
俺がそう言うと、リドルカさんも目を凝らして廃庁舎を見た。青い目が少しだけ青い光を放った気がした。もしかして、魔力を込めて見たのかな。
「……上位神術士。ラスタルの王子を追って来た神王国の密偵、もしくは暗殺者か」
「あ、暗殺者!?」
「ないとは言えん」
リドルカさんが苦い顔になる。
俺もびっくりした。
でも出し抜いたり利用されたりの関係らしいから、そんなこともあるのかな。
黒装束の動きも怪しいし。
割れた窓から廃庁舎を覗いている。
指差しだけで指示をしている人がリーダーかな。神石の杖を持った男。
外に見張りを二人残して六人が乗り込むようだ。
……多いよ。
廃庁舎の中に誘拐犯の神殿騎士が四人、手だれの上位神術士付きの推定暗殺者が八人。しかも人質がいる上、俺たちの正体はバレちゃダメ。
盗賊退治の時みたいに後でアレはなんだったのか、なんて追求されるとまた色々な方面で面倒になりそうだし。
うーん、どうやってやっつけよう。
「……タケユキ」
「はい?」
考え込んでいたら、リドルカさんがじっと俺を見ていた。
「報告は、しておけ」
「え? テレシーとシュザージに?」
聞けばリドルカさんはうなずいた。
確かに、心配してるかもしれない。とっさに飛び出してきたけど追って来てるはずだし、連絡は必要だね。
今いるのは……あ、こっちに向かってる。ギリギリテレパシーが届くかな?
俺は声が届くよう念じて心で話しかけた。
『テレシー、シュザージ、女装王子を見つけたよ。町外れの廃庁舎にいる。でも謎の暗殺集団に囲まれちゃってて危ないからゆっくり来てね。俺たちは大丈夫』
『なっ、謎の暗殺集団!?』
『何をする気だ!? 待っておれ! すぐに行く!』
……怒られた。
「待ってろって言われました」
そう、リドルカさんに報告した時。廃庁舎から叫び声が上がった。
「なんだお前たちは!?」
同時に剣戟が響く。
問答無用で殺しにかかってる!?
やっぱり暗殺者なの!?
「タケユキ、あの二階に跳べるか?」
「え? あ、はい!」
廃庁舎の外には見張りがいるからね。
二階から降りて行けば、初めからそこにいたと思われるから助けに降りても不自然じゃない。なるほど!
俺はリドルカさんを連れてテレポート。
廃庁舎の二階の部屋に降り立った俺は、すぐさま下の階を探る。
三人の騎士が暗殺者に果敢に立ち向かって応戦しているけど、敵は手練れが六人。馬に乗せた女装王子を支えていたもう一人もこうしちゃおれんと女装王子を放り出して剣を構えたよ。放り出された女装王子は馬から落ちて「いたっ!?」と声を上げる。
そりゃ起きるよね。起きなきゃおかしい。
そんなことを確認していたら、リドルカさんが駆け出していた。
「リドルカさん!?」
「名を呼ぶな」
思わず自分の口を手で塞ぐ。
「普通に助ければ良いのだろ」
そう言って、リドルカさんはニッと笑って腰に下げた剣に手をやる。
暴れ馬を止める時と同じだ。
そうだ、リドルカさんは魔力を使わなくても戦える。
うう、かっこいいよリドルカさん。




