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第百二話


 この町は、どうやら治安が悪いらしい。


 女の子を連れて保安所に行ったら、町の治安を担っている兵士の何人かが女の子を如何わしい宿に連れて行こうと考えたのでさっさと出て来た。裏通りは連れ込み宿や娼館が多く、花街になっているらしい。

 そっちには行かないようにしよう。

 仕方がないので表通りにある良心的な宿を見つけて、事情を話して泊めてもらったよ。

 俺、心を読む能力があって本当に良かった。

 この町、宿場町なのにあまりいい宿がない。ぼったくりだったり、安普請が過ぎたり、ならず者の店だったり。

 なんだか疲れたので、俺たちも宿を取って一休み。

 もちろん別の宿だよ。

 面倒だから、あまりあの子に関わりたくない。

 自分から首を突っ込んじゃったから、安全な場所に預けるまではしたけどこれ以上は無理だ。シュザージやテレシーに怒られちゃう。


 

 その後。

 日暮れ前に町の入り口まで行ってクレオさんを待った。

 あまり間をおかず、クレオさんがやって来たよ。


 呼び止めるためにテレパシーで話しかけた。

 大声で呼ぼうか迷ったけど、ここの通りは人が多いのでそっちにした。

 クレオさんはなかなか慣れないのか、テレパシーで話すとちょっとぎこちなくなる。俺はもう、お姫様の顔が出てきても驚かなくなったよ。


 そうして俺たちの泊まっている宿に案内して、クレオさんはテレシーたちの分の予約を入れる。テレシーとシュザージの部屋は大きなベッドのある上等な部屋を頼んでいたよ。わーい、今夜はまた三人で寝られるかな。

 クレオさんは気が効くね。

 それともシュザージあたりに何か言われたかな?

 まあいいや。


 それから、ちょっと遅いけど俺たちの部屋で一緒に昼食を取りながら、町で見聞きしたことと神殿関係者が追って来ていることを話した。もちろん盗み聞き防止のために超能力で空間は閉じてある。


「それにしても、やはりついて来ましたか。あの神官はやる気なさそうでしたが、神殿の手柄争いは大変ですね」


 クレオさんが気になったのは、暴れ馬の少女より神殿関係者の件だった。

 俺もどっちかというとそっちだけどね。

 気になる点がないわけじゃないけど、もう手を離れた話だし。

 クレオさんの話を聞こう。


「えっと、手柄争い?」

「上の神殿に気に入られたら昇進できるんです」


 神殿の一番上位は神降地の神殿で、その下が神王国の神殿。次が各国の王都にある神殿。その下が領都の神殿でその下が町神殿。町神殿はあったりなかったりで、神降教の勢力が強い国では末端の町まで神殿があるらしい。


「フレンディス国は神属性中心の国なんですよね。ホーケンにもあったんですか? 神殿」

「あの町は庁舎が神殿を兼ねていますし、町長が町神殿長も兼任してますね」


 ああ、だから町長さんが神術士だったのか。でも、それならあの町は大丈夫だね。


「神殿も変な人ばかりじゃないんですね」

「野心家も変質者も野蛮人も、どんな場所にもいるものです」


 いい人もそうだしね。

 チラッと隣の席のリドルカさんを見る。

 帝国は散々な言われようしてたし、先代までは絵に描いたような悪者が牛耳っていたらしいけど、今の皇帝兄弟はその中で育って今に至るわけだし。


「しかし、領都神殿の使いが出張って来たなら、次の街からは荒れるかもしれませんね」

「え? 荒れるんですか?」


 なんだか怖いことをクレオさんが言い出した。

 クレオさんてば笑ってる。


「勇者の取り合いが始まるんじゃないですかね。勇者たちが王命で王都に召喚されているのが知れれば、道中にある別領地が手柄の横取りに来るかもしれません。なにせシュザージ殿下は目立ちますし贔屓目を差し引いても高位の術者か王族に見えます。ウェルペンの領都神殿はそのお方に不興を買って無下に扱われているように見えますから」


 全然贔屓目が差し引かれてない気もする。本当に高位の術者で王子様だし、神官が嫌われているのも全部そのままだ。


「それに、スタングさんもいますからね。事情を知らない人は単純に神王国の王族だと思うでしょう」


 スタングさんもまた、見た目が神王一族の特徴まんまだっけ。白い髪に綺麗な顔立ち。品もいいしね。


「高位の血筋を窺える勇者と、それに不興を買ったウェルペン神殿か。奴らに代わって、王都の神殿に随行する役目を奪えれば、その神殿の神殿長は次の王都神殿長の推薦を、得られるかもしれんと?」


 リドルカさんがそう言えば、クレオさんがにっこり笑った。

 うわぁ。権力争いってやつか。


「噂が噂を呼んであちこちの神殿関係者が出張ってくれれば、それだけ情報が集まるってものです」


 にっこり笑ったままクレオさんが俺の方を見たよ。

 なるほど、そういう奴らの心を読めば情報が集まるってことかな? 大変そうだけど、知ってることが多いほど助かるんだもんね。交渉するにも脅すにも。

 頑張ろう! と元気にうなずいたらまた頭にぽんっと大きな手が乗った。


「無理はするな」

「……はい」


 倒れないように頑張ろう。


 その後、俺は今後に備えて無理をするなと言われたので超能力は全部切って宿にいた。テレシーたちの出迎えにはクレオさんが行ってくれたよ。


 

 少し日が傾きだした頃。

 宿屋の前に馬車が止まった。朝見送ったテレシーたちの乗った馬車だ。

 その馬車の後ろにホーケンでも見た趣味の悪い派手な馬車が止まる。先に止まった馬車からシュザージが出てくると、後ろの馬車から白い神官服に銀細工の宝石や飾りをギラギラさせた銀ピカ神官が飛び出て来た。

 そして、シュザージに文句を言い始める。

 なぜ言うことを聞かないとか、先に行ったとか、神殿の権威とか振りかざす言いようがまた微妙に滑稽だ。

 町を行き交う人たちがみんな見てるよ。

 シュザージの衣装も赤が基調で一見派手だけど、品はいいし金髪で赤っぽい目をしているシュザージにはよく似合っている。そもそもシュザージは見るからに賢そうな美青年だし。後ろに控えるようにしているテレシーはとても可愛い。それと、神王の親戚の勇者さんはやっぱり綺麗顔だから、みんな揃っていいかんじに注目されるね。

 それにガミガミ文句を言っている品のない太ったおっさん神官。しかも軽くあしらわれてその後は無視だ。クレオさんが扉を開いてシュザージたちは堂々とした立ち居振る舞いで宿に入って来る。

 そして扉が閉められた。

 真っ赤な顔して憤慨する神官を町の人たちが忍ぶように笑ってる。 

 みんなが何を言っているか聞いてみたいけどウェルペンと大差ないかな? あの神官じゃ心読む意味ないし。休めって言われてるしまあいいか、と思った時。ふと、ひとりの少女が目についた。

 昼間見た、暴れ馬の少女だ。

 目が覚めたんだね、よかった。と様子を見ていたらニヤリと笑うのが見えた。

 なんで?

 思わず心の声に耳をすませた。


『ふふっ、こんなところで会えるとは。手間が省けたぞ』


 ……誰と会うって?


 その視線の先にいた人物と心の声でわかったけど、あの子……びっくりだ。

 こっそり窓からそれらを見ていた俺は、そっとリドルカさんの腕を取る。


「リドルカさん、ごめんなさい」

「なんだ?」

「休めって言われたけど、気になることがあったので心を読んでしまいました」


 そう言って窓からあの子を指差した。


「昼間の暴れ馬のあの子、なんとなくそうかなって思ってたけどやっぱり女装した男の子でした。しかも、ラスタル神王国の王子様みたいです」


 神殿関係者が出張って来るって聞いてたけど、神殿どころか神の末裔が来ちゃったよ。どうしよう。



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