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ぼくらの森  作者: ivi
第三章 ―旅立ち―
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第95話 衝突

 一人の騎士が、セロに問いかけた。


 「なあ、おまえ。本気でケリーに勝てると思ってんの?」


 セロは声の主をふり返る。


 「ええ、もちろん」


 「ふーん、そうかい。……なあ、ドラゴン乗りさんよお。そんなに自信があるんなら、俺とも勝負しねえか?」


 青年は白い埒にだらりと腕を掛けて、唇を歪めている。どうやら、彼はセロのことを相当気に入ってくれているようだ……もちろん、悪い意味で。


 「ことわ――」


 「まあ、そう固いこと言うなって」


 青年はセロの答えを遮った。


 「勘違いされちゃ困るから言っとくけど、勝負っていうのは、俺と騎馬戦しろって意味じゃねえから。おまえの勝敗を賭けて、俺らとちょっとしたゲームをしようって言ってるんだ」


 「学舎での賭け事は禁止されている」


 「ゲームって言ったろ?……ああ、そうか、怖いのか。だから、学舎の規則を言い訳にして、逃げるんだな?」


 青年の顔から気味の悪い微笑みが消え、尖った目がセロを睨みつけた。


 ドラゴン乗りを相手に、その程度の威嚇で怯むと思っているのか。生き餌を前にしたディノの方が、よほど怖い目をしている。


 「ゲームって何だよ?」


 ケリーが苛つきを顕にしてたずねると、青年は再び意地悪に笑った。まるで、仮面を被るかのように。


 どこに行っても、セロの周りには同じような人間が集まるようだ。器用に表情を変える青年は、ドラゴン乗りの、あの男と似ている気がする。


 「もし、おまえがケリーに勝ったら、何でも一つ言うことを聞いてやる。反対に負けたら、二度とこっちの訓練場に来ないでくれよ。何だったら、学舎から出て行ってくれてもいいぜ?」


 ケラケラと声を上げて笑う三人の騎士に、ケリーが馬上から食いかかった。


 「ふざけるな!」


 「ふざけてるのは、そっちだろ!おまえらは知らないだろうけど、こっちは毎日毎日、迷惑してるんだぜ?ドラゴン乗りは、我が物顔で訓練場を歩き回るし、あいつらのせいで馬場も蹄洗場も満杯だし。こいつに関しては、ニックの邪魔をしやがる!」


 「そうそう。俺たちは別に、ドラゴン乗りの助けなんかいらなかったんだよ。人手は足りてるし、今までと変わらず、作業もこなせてたんだからさ」


 ケリーが反論しようとした瞬間、小さな騎士が前に進み出た。


 「ボクたちの班からは、誰も遠征に行かなかったけれど、他の班は違います。……忘れたんですか?セロさんたちが来てくれるまでは、皆さん毎日遅くまで作業に追われていたじゃないですか!人手なんて、ちっとも足りてなかった!」


 「黙れ、ニック!」


 ニックは悔しそうに唇を噛んだ。拳をぎゅっと握りしめて、震えるほどの恐怖と怒りを必死に堪えている。


 遠征失敗による人手不足を何とかしようと、ニックは一人で奮闘していたのだろう。


 先輩から反対されることは、予想できたはずなのに。それでも、ニックはケリーの手伝いを進んで引き受けた。どんなに怒られても、彼はケリーに差し出した手を引かなかった。


 それは、今も同じだ。


 このまま言い争いをしていても、何も変わらないだろう。時間の無駄になる前に、無意味な喧嘩を終わらせなければ。


 「……わかった。僕たちドラゴン乗りの行動が、君たちを不快にしていたなら、償わせてもらう。君たちのゲームに僕が参加すれば、満足してもらえるかな」


 セロが静かに言うと、あの青年がほくそ笑んだ。


 「……へえ。おまえって案外、物わかりがいいんだな。てっきり逃げ出すかと思ってたんだけどなあ?」


 「セロ、何言ってるんだ!こいつらの誘いになんか乗るな!」


 ケリーが慌ててセロの腕をつかむ。


 背の高いグレイスターの上から腕を取られると、体を持ち上げられてしまいそうだ。


 「ケリー、友達ならそいつの意思を尊重してやれよ。本人が償いたいって言ってるんだぜ?止めたら駄目だろ」


 「セロの意思……?それ、本気で言ってるのか?おまえらがこうなるように、仕向けたんじゃないか!」


 また、言い争いが始まってしまう。


 セロはケリーを見上げた。


 「ケリー、大丈夫だ。君が最初に言っていたように、僕が勝てばいい話なんだ。勝負の内容は変わっていないよ」


 「セロ、こんなの間違ってるだろ!あいつらの言いなりになるなんて、オレは絶対に嫌だぜ?」


 そのとき、ケリーはあっと目を見開いた。


 「そうか、セロが勝てるようにすればいいのか。とりあえず、オレが負けたふりをすれば――」


 「おおっと!そいつはなしだぜ、ケリー?そんなことしたら、公平な勝負にならねえからな。おまえが手を抜いてるってわかった瞬間、そいつの負けは確定だ!真剣勝負がしたかったんだろ?文句はないよなあ?」


 ケリーは嫌悪に満ちた表情で、三人を見下ろしている。


 放っておけば、すぐにでも殴り合いの喧嘩に発展しそうだ。


 「ケリー、君はさっき言っていたな?僕が負けたら、ヴェルーカを渡さないと。厄介なことになってしまったが……観客が三人増えただけだよ」


 ケリーは納得できないといった顔をしている。


 「不本意ではあるが、彼らが審判してくれるなら、僕たちは真剣に勝負できるんじゃないかな。彼らの遊びに乗るのは嫌かも知れないが、この状況を上手く活用すれば、君は僕の実力を十分に確かめられるはずだ」


 ケリーは観客を睨みつけてから、改めてセロに向き直った。


 「……わかった。でも、絶対に勝ってくれよ!」


 セロは黙って頷くと、ニックから受け取った木剣を手に踵を返した。


 外野から冷たい野次が飛ぶ。


 まるで、丸馬場の両端へ向かう二人を引き裂くように。

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