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ぼくらの森  作者: ivi
第三章 ―旅立ち―
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第90話 外の世界

 セロの号令で、二頭のドラゴンは翼を広げた。


 ドラゴンが羽ばたくと、薄い飛膜の張る音が訓練場に響き渡り、空に向かってグンッグンッと力強く引き上げられるのを感じた。


 「ターク、大丈夫か!」


 「はいーっ!大丈夫ですっ!」


 セロは片手を離し、大きく円を描いた。


 「一周するぞ!」


 セロが合図を出すより早く、ディノは上昇を止めると、ゆっくりと前に飛び始めた。セロが指示に集中できるよう、気遣ってくれているのだ。


 「助かるよ、ディノ」


 首をなでると、ディノはこくりと頷いて答える。


 安心して背後をふり返ると、タークとチャチャは適度な距離を保って、しっかりと着いて来ていた。


 宿舎の赤い屋根を過ぎると、ドラゴンの体は竜舎に向かってなだらかに傾き始めた。


 曲線を描くディノの背中からは、真下に広がる訓練場がよく見える。自分の膝の向こう側を流れる景色を見ていると、すうーっと吸い込まれそうになった。


 壁に沿ってまっすぐに飛び、竜舎の青い屋根を目印に曲がる。先にある物見塔を曲がり終えたら、いよいよ外の世界へ飛び出すことになるのだ。


 さて、タークの様子を確認しておこう。


 「ターク!」


 名前を呼ぶと、タークは片手を上げて答えた。


 少し前までは、あんなに自信がなさそうにだったのに。


 今日のタークはとても活き活きとしていて、飛翔訓練を楽しんでいるように見えた。


 セロは大きな半円を描いて、訓練場の中央へディノを導く。


 正門を越えたら、まずは山脈を目指して飛び続けよう。


 物見塔から、見張りの学生たちが手を振っているのが見えた。


 ディノが学舎の壁を越えると、セロは彼方にそびえる山脈を見据えた。


 ここから先は目印になるものもなければ、降りられる場所も多くない。学舎を出れば、自由である代わりに様々な危険が付いてくるのだ。


 時折、タークとチャチャをふり返りながら、眼下を流れていく巨大な森に目を落とした。空から見下ろすと、自分の足で歩いていたときには見えなかった、森の姿が見えてくる。


 群れをなす鹿たち、飛ぶように走るウサギ、ディノが落とす影に驚いて飛び立つ鳥。


 セロは動物を見つけるたびに指をさして、タークに伝えた。


 タークはそおっと身を乗り出すと、動物たちが見えなくなるまで目で追い続けている。


 もしかすると、タークは動物が好きなのかも知れない。


 そんなことを思いながら後輩を見守っていると、ディノが鼻を鳴らした。


 セロを呼んでいるのだ。


 進行方向に向きなおると、山脈が着々と迫っていた。牙のように尖った峰は、空を貫かんとばかりに高くそびえている。


 山を越えれば、首都へ続く広大な高原へ行くことができる。だが、そこまで足を伸ばすと、午前中に学舎へ戻れなくなってしまう。


 さて、そろそろ野外訓練を始めてもいい頃だろう。


 セロは森を指さして、寝かした手のひらを下げた。


 「木に当たらない程度まで、高度を下げるぞ!」


 セロが手綱を緩めると、ディノはなだらかに降下を始めた。


 木々が凄いスピードで、翼の下を流れて行く。


 チャチャはディノより少し上を飛んでいる。タークたちは、自分たちにできる範囲を考えて、無理のない挑戦をしているのだ。


 木々の上をかすめるように飛ぶのは、普通に飛んでいるときよりも、気を遣う要素が増える。


 ドラゴンの羽ばたきがどのくらいの幅を必要とするのか。そして、いつ、どのタイミングで羽ばたけば、木に翼が当たらずに済むか。


 高度を下げれば下げるほど調整は難しく、ドラゴンとの会話も、より頻繁に交わす必要がある。


 木が途切れる瞬間や、高い木を越える直前。羽ばたけるタイミングは、いつも都合よくやって来る訳ではない。


 ドラゴンとの呼吸が乱れれば、飛膜を梢に引っ掛けて、傷つけてしまうかも知れない。翼が木に引っかかれば、そのまま落ちてしまうかも知れない。


 学舎の外では、訓練場ではできない練習をすることができる。木々の上すれすれを飛ぶこと、川に沿って飛ぶこと、障害物を回避して飛ぶこと。野外訓練で身に着けた新しい感覚は、タークにとって良い経験になるはずだ。


 「よし、いいぞ!上昇!」


 セロの掛け声を合図に、ドラゴンは力強く羽ばたいた。


 人もドラゴンも、緊張を強いられる状況を好まないのは同じだ。タークの場合は、特にそうだろう。せっかくチャチャに乗って外に出たのだから、難しい訓練よりも、楽しい訓練がしたいはずだ。


 「さて……」


 セロは頭の中で広げた地図を辿る。手綱を操ると、ディノは体を右に傾けて山脈と平行に並んだ。


 ゴツゴツとした灰色の岩肌が、視界の左端をかすめていく。手を伸ばしても届きそうにない山の頂は、小さな彼らを見下しているようだ。


 このまま山に沿って飛べば、大きな川に突き当たる。

 そこが次の訓練の場になる。


 タークとチャチャの訓練は、まだまだ始まったばかりだ。

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