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ぼくらの森  作者: ivi
第三章 ―旅立ち―
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第84話 迷い

 目の前で揺らめくロウソクの火を、セロは頬杖をついて眺めていた。


 嗅ぎ慣れたロウの匂いに包まれる自室で、彼はクウェイの部屋の景色を思い浮かべている。


 セロは先ほど、ケリーとクウェイの部屋を片づけて来たばかりだ。


 幸いにも、本棚に残っていた本が一巻、二巻と揃えられていたおかげで、散らばった本を元通りに戻すのは難しくなかった。


 昨日の夕方から、立て続けに起こる出来事を乗り越えた二人は、部屋の片付けが終わる頃には、すっかりくたくたになっていた。


 心地よい疲れと達成感の狭間に浸る。


 無意識に吐き出した吐息が灯火を揺らして、セロはその瞬きに我に返った。


 目の前に広がっているのは、いつもと何一つ変わらない部屋。


 クウェイの部屋でもなければ、半年前まで暮らしていた兄の部屋でもない。


 他のどこでもない。

 宿舎二階。

 僕とタークの部屋だ。


 ……ああ、そうだ。

 タークに聞いておかないといけないことがあったんだ。


 セロは後輩のベッドへ目を向けた。


 「ターク。明日、外へ行かないか?ドラゴンに乗って散歩しに行くんだ」


 ベッドの上で枕を抱えて、うとうとしていたタークは勢いよく顔を上げた。


 「えっ、いいんですか?ぼくが外に出ても」


 セロは静かに微笑んで頷く。


 喜んでくれると思っていたのだが、タークは予想に反して不安そうな顔をしていた。


 「でも、外で訓練するときは、何か紙に書かないといけないって……」


 「飛行計画書のことか?それなら、今日の夕方に提出しておいたよ。タークなら、きっと賛成してくれるんじゃないかと思って」


 「うっわあ!さすが、セロさん!」


 タークは枕をギュッと胸に抱きしめて、ベッドの上で飛び跳ねている。無邪気な姿を露わにする少年に、セロはやれやれと笑って訊ねた。


 「どこか行きたい所はないか?自由に飛べる範囲は限られているが、少しなら寄り道できるはずだ」


 「うーん……。実はぼく、学舎に来てからずっと、外に出てないんですよね。この辺りのことはあまり知らないので、もしよかったら、セロさんのお気に入りの場所に連れて行ってくれませんか?」


 「……わかった、考えておくよ。さて、そろそろ寝ないと寝坊してしまうぞ」


 タークはこくりと頷いて、寝転がる。毛布に包まった彼はにこにこと笑って、おやすみを言った。


 「セロさん、おやすみなさい」


 「お疲れさま。ゆっくり休んでくれ」


 瞼を閉じたタークを見ていると……なんだか、寂しい気持ちになってくる。


 もうすぐ、タークとも、この穏やかな時間ともお別れすることになる。


 もしかすると、今生の別れになってしまうかも知れない。


 無事に帰れたとしても、取り戻せないかも知れない。


 タークの眠りを妨げないよう、セロはふっとロウソクの火を吹き消した。明かりが消え、薄闇に残された白い煙が、細々と揺らめきながら消えていった。


 ベッドに身を横たえたセロの心を蝕む、底なしの孤独感。


 セロはどこからともなく染み出る不安から目をそらすため、夕方の記憶を思い起こした。

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