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ぼくらの森  作者: ivi
第二章 ―目覚め―
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第79話 夜明け

 「……っ!」


 窓の外から聞こえてくる鐘の音に、セロは飛び起きた。


 しまった……寝坊した!


 慌てて体を起こした彼は、椅子に背中をぶつけて、痛みに顔をしかめる。


 衝撃が伝ったのか、隣で眠るケリーがわずかにうめき声を漏らした。だが、彼は少し眉をしかめただけで、すぐに穏やかな寝息をたて始める。


 寝ぼけて忘れていたが、痛みのおかげで目が覚めた。


 ここは自室ではない……クウェイの部屋だ。


 目の前のテーブルには燃え尽きたロウソクと、広げられたままの日記。そして、大量の本がところ狭しと置かれていた。


 ヴェルーカの日記を読んでいる間に、ケリーが先に眠ってしまったのは覚えている。それからは一人で読み進めて、本棚から何冊も本を取って来て……いつの間にか、寝てしまったようだ。


 セロは椅子の背もたれに寄りかかって、開かれたままの日記をぼんやりと見つめた。


 色褪せた薄い日記は、半分と少ししかページをめくられていない。


 レースのカーテンから漏れた朝の白い光が、クウェイのベッドを照らしている。


 窓の外を飛んでいく小鳥の影が部屋をパッと横切り、賑やかなさえずりが、あっという間に遠のいて行った。


 何だか……とても懐かしい夢を見た気がする。


 無音の空間で響く耳鳴りに耳を傾けながら、セロは涙で濡れた頬を寝間着の袖で拭う。


 夢のなかでクウェイが握りしめていた右肩には、まだ微かに彼の気配が残っているようだった。


 だが、顔を左に向けても、ケリーが机に突っ伏して眠っているだけだ。


 そろそろ、部屋に戻って着替えなければ。


 これ以上遅くなると、ディノの飛翔訓練だけでなくヴェルーカの騎乗も間に合わなくなってしまう。


 起床の鐘が鳴ったということは、タークも起きて食堂に向かっているはずだ。しかし、まずはクウェイの部屋を片付けなければ。


 それに、今日はクウェイの日記から得たことを一刻も早く試してみたい。遅刻した時間を取り戻すためにも、夢の余韻に浸っている訳にはいかない。


 本を片付けていれば、ケリーも起きるだろう。


 テーブルの上を片付けようと、立ち上がったそのとき。セロは肩を貫く冷たさを感じて、ぴたりと止まった。


 夢でクウェイが手を離したときも同じだった。人の温もりがなくなるだけで、どうしてこんなにも寂しくなってしまうのだろう。


 セロが立ち止まっている間にも、肩の温もりはどんどん薄れ、クウェイの気配さえもすっかり消え去ってしまった。


 「温もりが……消える……?」


 ふいに口から溢れた言葉とともに、ヴェルーカの姿が脳裏に浮かんだ。寝藁にうずくまって、悲しそうな瞳で見つめてくる牛柄の馬は、人間のように涙を流すことはせずとも、泣いているような気がした。


 人が鞍を通して、馬の体温や躍動を感じるように、馬も背に乗せている人間の温もりや重みを感じているとしたら。


 そして、いつも背中に乗っていた人が、何の前触れもなく消えてしまったとしたら。


 馬は、何を思うだろう。


 『馬だってバカじゃない。ずっと背中に乗せてきた人がある日突然、自分の所に来なくなったら……さすがに気がつくよ』


 いつか、ケリーの言っていた言葉が頭に響く。


 そうだ、馬は決して馬鹿な生き物ではない。


 もし、過去にレイ・ホートモンドを失ったヴェルーカが、乗り手を失う意味を理解しているのだとしたら。


 エダナがいなくなったことで、その恐怖がトラウマになるほど強く、ヴェルーカの心に刻まれたのだとしたら。


 「まさか……乗り手を失うことを恐れて、拒み続けているというのか」


 クウェイとエダナの残影が、先の見えない暗闇へ去って行く。


 二人のあとに残された十四歳の自分と、ヴェルーカの姿がぴたりと重なった瞬間。セロは弾かれたように部屋を飛び出していた。

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