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ぼくらの森  作者: ivi
第二章 ―目覚め―
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第65話 待ち合わせ

 セロは並木通りを急ぎながら、訓練場をふり返った。彼と入れ替わるようにして、ドラゴン乗りたちが学舎へ駆け込んで行く。


 あと少し遅れていれば、混雑した食堂で昼食を取ることになっていただろう。タークが早起きしてくれたおかげで、事は予定通りに進んでいる。


 人のいない橋を足早に渡り終えて、セロは階段の上からケリーを探した。


 騎士団の訓練場を歩いて探すと、きりがない。セロは馬が行ったり来たりしている馬場ではなく、ケリーがいそうな厩舎や繋ぎ場に目を通したが、どこにも見当たらなかった。


 正午の鐘が鳴ってから、時間はそれほど経っていない。もしかすると、ケリーはまだ昼食を食べているのかも知れない。


 階段の下で待っていれば、お互いに見つけやすいはずだ。


 ケリーが来るまで、一息つこう。


 そう思っていた矢先、階段の影から赤毛の青年が姿を現した。彼は松葉杖片手にこちらを見上げて、楽しそうに笑っている。


 「セロ、遅いぞーっ!何やってんだよー!」


 セロは残りの階段を駆け降りて、ケリーの隣に並んだ。


 「随分と早いな。お昼はちゃんと食べたのか?」


 「もちろん!食べなきゃ動けないからな」


 「騎士の食堂も混雑していただろう?もし不都合があれば、集合時間を遅くしようと思うんだが、どうかな?」


 「誰がどこに行ったって?オレは食堂になんか行ってないぜ?」


 「……どういうことだ?」


 食堂は正午の鐘が鳴ってからでなければ開かない。それはドラゴン乗りも騎士も同じだ。だが、そもそも食堂に行っていないと言うケリーは、どこで昼食を食べたのだろうか。


 セロが首を傾げると、ケリーは説明を始めた。


 「昨日さ、グレイに乗ってくれる人がいるって言っただろ?別の班に所属してる二年の後輩なんだけど、いつも手伝ってくれるんだよ。今日も、昼休みに親友に会うって話したら、サンドイッチを持って来てくれたんだ。『食堂に行く時間がないと思って持って来ました!』ってさ」


 ズボンのポケットからクシャクシャになった包み紙を取り出して、ケリーはセロに見せつける。


 「オレはセロと違って、三食ちゃんと食べてるから心配無用だ。その証拠に……ほら!ここで、おまえを待ってる間に全部食べちゃったぜ」


 「僕だって、時間があるときは食べるようにしているよ。……ああ、そう言えば。聞きたいことがあるんだ」


 食堂にいた学生を見る限り、騎士団の手伝いに参加するドラゴン乗りは少なくないようだった。だが、セロ以外のドラゴン乗りたちは、どうやって手伝いを必要としている騎士を見つけるのだろうか。


 騎士一人ひとりに確認して回る訳にもいかないだろう。セロの問いに、立案者は答えた。


 「班決めの木札って覚えてるか?セロも後輩君が入学して来たときに配られたと思うんだけど、あれと同じことをしたんだ。学長にお願いして、手伝いを希望する騎士と、手伝いに来てくれるドラゴン乗りに、対になった番号札を配ってもらった。それで今日、お互いに札を見せて、同じ数字だった人がパートナーになるんだよ。木札の儀式なら、みんな知ってるし簡単だろ?」


 「なるほど。」と感心するセロを見て、ケリーは得意げに胸を張った。


 「ええと……それで、僕は何から始めればいい?まずは、ヴェルーカを迎えに行くのかな?」


 会話が落ち着いたところで、セロは本題に入った。馬房掃除か、手入れか、騎乗……それとも、また別の作業か。セロは頭の中で様々な選択肢を並べたが、答えはどれでもなかった。


 「その必要はないぜ?ヴェルーカなら、すぐそこにいるからな」


 ケリーが訓練場を指さしたそのとき。セロの背後でバタバタと凄まじい足音が鳴り渡り、同時に重いものが落ちる嫌な音が腹の底に響いた。


 慌てて見ると、階段に最も近い丸馬場で一人の騎士が膝をついていた。少し離れた場所では、一頭の小さな馬が他の騎士に捕らえられている。


 馬場でうずくまっている騎士を見る限り、どうやら落馬したらしい。だが、次の瞬間。セロはもう一つの事実に目を見開いた。


 なぜ、今まで気がつかなかったのだろう。丸馬場で暴れていた馬は、ヴェルーカだった。


 「……って、あれ?もしかして、気づいてなかったのか?」


 今さら気づいたのかと驚くケリーに、セロは言い訳をする。


 「ケリーは裏で作業をしていると思っていたから、馬場の方はよく見ていなかったんだ」


 落馬した騎士は何事もなかったかのように立ち上がって、ヴェルーカへ歩み寄る。


 セロの心は、嫌な予感にざわついていた。


 まさか、あの暴れ馬に自分が乗るのか?


 「……冗談だろう?」


 セロの口をついて出た言葉に、今度はケリーが首を傾げた。


 「ケリー、君は昨日『ヴェルーカは人を傷つけたりしない。』と言ったな?あの様子を見る限り、とてもそうとは思えないんだが」


 セロが確認している間も、ヴェルーカは動き回って、騎士に跳び乗る隙を与えない。その光景はどう見ても、捕まえて来た野生馬の調教にしか見えなかった。


 慌ただしく動く騎士たちを見つめながら、ケリーは短く呟いた。


 「うん、言ったな」


 呆気に取られたセロは何も言い返すことができず、潔く認めたケリーは、もう何も言うことがなかった。

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