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ぼくらの森  作者: ivi
第二章 ―目覚め―
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第60話 松葉杖の指導者

 学長室へ続く階段を登り終えると、さっきの少年が扉の前で待っていた。


 「少々、お待ち下さい」


 少年がドアをノックすると、間をおいて返事があった。


 「……どうぞ」


 「失礼いたします」


 セロは入室して深々と頭を下げる。


 扉が閉まると、椅子に座る学長が口を開いた。


 「話はわかっていると思うが、君を指導する騎士が見つかった。彼ならきっと、一週間で馬に乗れるようにしてくれるだろう」


 学長は丸い眼鏡を外して机に置いた。


 「詳しい話は彼に聞くことだ。今後の一切を任せてある」


 学長が言い終えると同時に、扉をノックする音が響いた。


 学長の返事で扉が開き、杖で床を突くコツコツという音が部屋に入ってくる。


 「失礼します」


 セロは学長に向き合ったまま、後ろから近づいてくるブーツの音に耳を澄ませた。足を引きずっているのか、不規則な足音が特徴的だった。


 しばらくして、騎士がセロの左隣に並んだ。ひしひしと感じる気配に緊張が高まる。


 「紹介しよう。君を担当する騎士、ケリー・トナーズ君だ」


 「え……っ!」


 驚いたセロは、弾かれたように左を向いた。


 一本の松葉杖を支えに立っているのは、見間違えるはずもない。あの、ケリーだった。


 「ケリー君。以前にも話したように、彼を一週間で馬に乗れるようにしてほしい。改めて確認するが、できるかね?」


 「任せて下さい。必ず乗れるようにしてみせますよ」


 ケリーが自信満々に答えると、学長はセロに視線を移した。


 「それから、君には一つ話しておくことがある。今朝の張り紙を見たかね?」


 恐らく、タークが竜舎で見つけた紙のことだろう。


 「はい」


 「そうか。実は、あの募集の案を出したのはトナーズ君なのだよ」


 ケリーは誇らしげな顔をしているが、なぜかセロとは目を合わせようとしなかった。


 「君が騎士の訓練場で騎乗していても、違和感がないよう配慮してくれたのだ。こんなに仲間思いな人間はそういない。……友人に感謝することだな」


 どうやら、学長はセロとケリーが友達であることを知っているようだ。生前のクウェイから聞いていたのか。それとも、ケリーが学長に話したのか。


 「彼は非常に優秀な騎士だと聞いている。指導については、何も心配いらないだろう。私からの話は以上だ。明日から頑張るように」


 未だに状況を飲み込めず、セロはただ頭を下げるしかなかった。隣では、ケリーも松葉杖を片手にお辞儀をしている。


 垂れ下がる赤髪に隠れた彼の顔には、どんな表情が浮かんでいるのだろうか。


 セロが頭の中に疑問符を浮かべている間に、ケリーは松葉杖を持ち直して扉へ向かった。


 ケリーの後を追って、セロが退室しようとしたそのとき。


 「ああ……すっかり忘れていた。オルティス君、少し待ってくれ」


 部屋を出て行ったケリーと、机の引き出しを探る学長とを交互に見つめて、セロはその場で回れ右をする。


 彼が再び机の前に戻って来ると、学長は小さな古い袋を差し出した。


 「いずれ必要になる物だ。詳しい事は中の紙に書いてある。内容を熟読して、大切に保管しておくように」


 受け取った袋をズボンの右ポケットに押し込むと、薄い布越しに箱のような物が指にあたった。


 部屋を出たセロの気分は、曇っていた。


 なぜ、ケリーがここにいるんだ……?

 ほんの数日前まで、ホールにいたじゃないか。


 ケリーはセロを置いて、先に行ってしまったらしい。階段を駆け下りると、二階の踊り場でようやくケリーの背中に追いついた。


 ケリーは松葉杖に体を預けながら、階段を一段一段、慎重に降りている。セロは手を差し伸べたが、彼は短く「お、ありがと。」と答えただけで、手を取ることはなかった。


 すっかり様子の変わってしまったケリーに、声を掛けることもできない。


 気がつくと、学舎の外に出ていた。


 気まずい沈黙に包まれて、ケリーは無言で橋の上を指さす。感情を隠しているのか、彼はずっと無表情だった。


 ケリーの小さな歩幅に合わせて歩きながら、セロは黙って橋へ向かった。

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