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ぼくらの森  作者: ivi
第二章 ―目覚め―
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第54話 兄弟

 バドリックは、慌ててセロの話を遮った。


 「ちょ、ちょっと待て!ジアンを連れ戻すったって……居場所すらわからないあいつを、どうやって探すんだ?それに、もし見つけられたとしても、ジアンは今まで学舎に帰って来なかったんだぞ?俺たちの望まない結果になっている可能性だってあるんだ。……それでもおまえは、ジアンを探すって言うのか?」


 セロは黙って頷いた。一度こうだと決めた彼は、兄に負けないくらい頑固だ。


 「噂を信じるのか……?」


 「違う」


 セロは学舎から出て来る学生たちに視線を向けた。昼食を取り終えて戻って来たのだ。


 「兄さんが僕たちを裏切る訳ないって、わかっているから。だから、探し出してあげたいんだ」


 「おまえがジアンを信じる気持ちは、よくわかる。だが……もし、あいつが学舎を捨てて隠れるようにして生きていたら?俺たちを裏切っていたとしたら、おまえはどうするつもりだ?堕ちた兄の姿を目の当たりにしても、ここに連れ戻すことができると思うのか?」


 バドリックはセロを引き止める気でいるようだ。彼の反応は当然だろう。いきなりこんな話をされて、誰が相手にしてくれると言うのか。話し相手がバドリックでなければ、セロは笑い者にされているはずだ。


 「……わからない」


 セロは訓練場へ戻ってきた学生から目を外らした。


 「多分、僕はそんな兄さんを見たら戸惑うと思う。でも……」


 「でも?」


 バドリックが、口をつぐむセロに続きを促す。本当に言いたいことを見失わないように、セロは焦る心を落ち着かせた。


 「兄さんやホートモンドさんを、悪者だって決めつけるのは簡単だ。でも、それなら、二人に希望を抱くこともできるはずだよね。帰って来ないのには、何か理由があるのかも知れないけれど……本人に聞いていない以上、学舎を裏切ったという噂は、誰かの妄想でしかないんだ。このまま何も知らずに過去を片付けるくらいなら、僕は兄さんを探し出して、真実を聞きたい。僕はもう、兄さんとディノに起きたことを無かったことにしたくないんだ」


 バドリックは難しい顔で考え込んでいたが、しばらくすると一つひとつ確認するように訊ねた。


 「……おまえの考えはよくわかった。だから、最後にもう一度だけ聞かせてくれ。おまえはこの先、何があっても、現実を受け入れる覚悟があるんだな?」


 バドリックの鋭い眼差しに、セロは思わず怯みそうになる。今まで感じたことがないような威圧感と、心の底まで見透かされるような瞳。


 この目をしたバドリックの前で、嘘をつける者はいないだろう。


 「はい」


 セロは短く、しかし自身の心に宿る強い決意を返事に詰め込んだ。永遠に続くのではないかと思われた長い沈黙の間、セロは一瞬たりとも目を外らさなかった。


 「おまえは……いつから、そんなジアンそっくりになっちまったんだ?本当に、兄弟そろって頑固なやつらだなあ!」


 バドリックは表情をふっと緩めて、肩をすくめた。


 「だがな、セロ。申し訳ないが、俺の権限ではおまえを学舎の外に出してやることはできない。これから先の話は、学長と会って話すんだ。……いいな?」


 セロがしっかり頷くと、バドリックは満足そうに笑った。彼の顔はさっきよりもずっと穏やかで、瞳には希望に満ちた輝きが宿っている。


 「よし、わかった。学長には俺から話を通しておく。言っておくが……今度は俺ほど甘くないぞ?」


 「ありがとう、バド」


 照れくさそうに笑いながら、バドリックはセロの両肩に手を置いた。


 「俺はこんな人間だが……セロがここにいてくれることを、本当に嬉しく思っているんだ。おまえは俺の誇りだよ」


 何の前触れもなく褒められたセロは、恥ずかしそうにそっぽを向く。そんなセロを見て、バドリックは心の中でほっと安堵のため息を漏らした。


 大丈夫だ。

 セロはまだ、俺の知っている『セロ』を失っちゃいない。


 心の声は少しも表に出さず、バドリックはずっと気になっていたことを訊ねた。


 「そんで?おまえはどうして、ディノの矛盾に気づいたんだ?」


 セロは昨夜のことを思い返した。


 頭上に広がる空には、真っ白に輝く巨大な雲がそびえ立っている。


 「後輩がドラゴンの継承の話をしていたときに、疑問に思ったんだ。どうして、ディノは兄さんを亡くしたのに生還できたんだろうって」


 「そうだったのか。……なあ、セロ」


 名を呼ばれてふり返るセロに、バドリックはにっこりと笑った。


 「おまえ、いい後輩を持ったな」


 「うん。自慢の後輩なんだ」


 そのとき、セロは複数の視線を感じてはっとした。


 二人の周りでは、ドラゴン乗りたちが待機している。バドリックの指導を受けるためにやって来たのだ。


 しまった……バドリックの休憩時間を奪ってしまった!


 焦りを顕にしたセロを見て、バドリックは大げさに笑った。


 「ハッハッハッ!まったく、話し込んでいたら昼飯を食いそびれちまった!今夜の夕飯は、いつもの二倍食うことになりそうだ!」


 ドラゴン乗りたちは、クスクスと笑っている。


 「そんじゃあ、セロ。また今度な」


 「貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」


 セロは深々と頭を下げると、急いで竜舎へ向かった。


 自慢の後輩を待たせる訳にはいかない。セロはタークが来る前に集合場所に着くよう、訓練場を駆け抜けた。

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